「調査が入ったら会社が持たない」建設業の労務調査で見られる点と整える順番
建設業に来る労務の調査は、年金事務所(社会保険の加入漏れ・報酬額のズレ)と労働基準監督署(労働時間・割増賃金・36協定・就業規則)の2系統です。人件費と法定福利費は社会保険料の会社負担分と過去分の遡及で増えますが、増える額は対象人数と報酬と料率から先に試算できます。実態の棚卸し→線引き→原資→時期→書類の順で自分から整えるほうが、指摘を受けてから動くより負担は軽く済みます。
→ 自社の場合はどうなる? Zoom30分・無料相談で個別に整理できます従業員7人の内装工事会社。17時に現場から戻り、事務所で見積書と請求書をさばいていると、元請の担当者からメールが届きます。「社会保険の加入状況を一覧で出してください」。手が止まります。常用で入ってもらっている職人のうち3人は一人親方のまま。社会保険に入れているのは社長と、事務を手伝う奥さんだけ——。
こういう会社の社長から、相談の入口でいちばん多く出てくるのがこの言葉です。
「今の状態で調査が入ったら、人件費や法定福利費が膨らみすぎて会社が持たない」
正直な感覚だと思います。ただ、よく聞いていくと、怖いのは調査そのものではなく「いくら増えるのか分からないこと」であることがほとんどです。金額が見えないから動けない。動かないから、こちらの都合と関係ないタイミングで一度に来る。この記事では、建設業の調査で実際に何を見られるのか、人件費と法定福利費はどういう筋道で増えるのか、そして「持たない」を避けるための整える順番を整理します。

そもそも「調査」は、どこから来るのですか?
建設会社に来る労務まわりの調査には、大きく2つの系統があります。
- 年金事務所の調査(社会保険):健康保険・厚生年金の加入漏れがないか、届け出た報酬額と実際に払っている賃金がずれていないかを確認します。定期的に行われるほか、加入状況の照会をきっかけに来ることもあります。
- 労働基準監督署の調査(臨検監督):労働時間・割増賃金・就業規則・安全衛生が労働基準法どおりかを確認します。計画的な定期監督のほか、働く人からの申告や労働災害の発生をきっかけにしたものもあります。
そして建設業には、もう一つ早く効いてくる目があります。元請からの確認です。法律上の調査ではありませんが、加入状況を出せなければ現場に入れない、という形で実害が先に届きます。この影響は建設業で社会保険が未加入だとどうなるかで整理しています。
年金事務所の調査では、何を見られますか?
提出するのは書類ですが、確認されているのは「人の実態」です。
- 賃金台帳・出勤簿に載っている顔ぶれと、社会保険の加入者の顔ぶれが一致しているか
- 「外注」として支払っている一人親方が、実態としては常用で働いていないか
- 算定基礎届の報酬額と、実際に払っている賃金・手当が合っているか
- 賞与を払っているのに、賞与支払届が出ていないことはないか
建設業でとくに焦点になるのが2つ目です。契約書が請負になっていても、集合時刻を決め、道具を貸し、作業の進め方を指示していれば、実態は雇用と判断されることがあります。判断の軸は一人親方の社会保険はどうなる?外注と雇用の線引きと偽装請負にならないためのチェックリストにまとめています。
労働基準監督署の調査では、何を見られますか?
こちらで見られるのは、時間とお金の記録です。
- 36協定を締結し、届け出ているか(毎年の更新を含めて)
- 労働時間の記録が残っているか。とくに移動時間と手待ち時間を数えているか
- 割増賃金の単価が正しく計算されているか
- 常時10人以上の事業場で、就業規則を作成・届出しているか
- 定期健康診断を実施し、記録が残っているか
建設業で最も多い指摘の一つが、移動時間・手待ち時間を労働時間に入れていないことによる割増賃金の不足です。場面ごとの線引きは現場への移動時間は労働時間?で整理しています。調査の流れと是正報告書の出し方は労基署の是正勧告とはをご覧ください。
人件費と法定福利費は、どういう筋道で増えるのですか?
「会社が持たない」という不安の中身は、たいてい次のように分解できます。
- 制度としては:社会保険料は会社と本人が折半で負担します。加入者が増えれば、その会社負担分がそのまま固定費として乗ります。健康保険料率は都道府県ごとに異なり、料率は改定されます(※2026年7月時点・最新は公式で確認)。さらに実態が雇用と判断された場合、保険料は原則2年を限度にさかのぼって求められることがあります。
- この会社はどう有利になるか:増える額は、対象になる人数×報酬×料率で先に計算できます。試算を持てば、誰から・いつ・どの順番で加入させるかを、会社の側が選べる立場になります。
- 社長の毎日はどう変わるか:「調査が来たら終わり」という漠然とした重さが、「あと3人、来期の頭に、この原資で」という段取りに変わります。夜中に最悪の想像をしながら電卓を叩く時間が要らなくなります。
順序が逆になると苦しくなります。指摘を受けてから動くと、過去分の遡及と、これから先の固定費増と、書類の作り直しが同じ月に重なります。自分の意思で動けば、この3つを別々の時期に分けられます。
「会社が持たない」を避ける、整える順番は?
実務では、次の順番で進めると資金繰りが崩れません。
- 人の棚卸し:常用で入っている人、日数の少ない人、本当に請負として成立している人を、名前と実態で仕分けします。ここがすべての土台です。
- 線引きを決める:どこまでを従業員とし、どこからを請負として残すのかを、会社の方針として決めます。あいまいなまま残した部分が、調査でいちばん突かれます。判断材料は一人親方と常用従業員が混在する会社が見直すべき契約実態にまとめています。
- 原資を決める:増える法定福利費は、単価と見積に織り込まなければ利益を削るだけで終わります。改正建設業法で示された標準労務費の考え方は、この交渉の後ろ盾になります。
- 時期を決める:全員を同時にではなく、期の変わり目や現場の切れ目に分けて進めます。移行の具体的な段取りは一人親方を従業員として雇い直す手順で解説しています。
- 書類を整える:36協定と就業規則を、いまの現場に合った内容にそろえます。10人未満でも作る意味は10人未満でも就業規則を作るべき3つの理由のとおりです。
整えた会社と、放置した会社は1年後どう違いますか?
放置した会社は、元請から加入状況を求められるたびに返事が遅れます。「あそこは書類が出てこない」という評価は、次の指名から静かに効いてきます。そこへ調査が入れば、遡及分と是正の宿題が同じ月に届きます。
整えた会社は、加入状況の一覧を1営業日で出せます。社会保険の整備は経審のW点にも効くため、公共工事の入札で不利になりません。そして何より、職人に「うちは社保に入れる会社や」と言えるようになります。同じ人件費を払うなら、採用にも効く形で払ったほうが得です。
何から相談すればいいですか?
まずは「いま何人が対象になり、いくら増えるのか」を数字にするところからです。当事務所は建設業に特化し、一人親方から従業員への移行対応を毎月のように扱っています。加入対象者の洗い出し、法定福利費の試算、就業規則・36協定の整備までを顧問の基本料金内で進められます(料金の考え方は料金ページをご覧ください)。「調べたら会社が持たないのが怖くて動けない」という段階からで構いません。Zoom30分の無料相談で、御社の数字を一緒に置いてみるところから始められます。制度や料率は変わりますので、最新の情報は必ず公式サイトでご確認ください。
参考(一次情報)
- 労働基準法(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049
- 厚生年金保険(日本年金機構): https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/index.html
- 都道府県毎の保険料額表(全国健康保険協会): https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g7/cat330/sb3150/
- 時間外労働の上限について(36協定・厚生労働省 スタートアップ労働条件): https://www.startup-roudou.mhlw.go.jp/36_pact.html
よくあるご質問
「今の状態で調査が入ったら、うちは持つのか?」
未加入・一部加入のまま人を増やしてきた会社ほど、指摘されてからでは負担が一度に来ます。保険料と人件費の見通しを立てて、無理のない順番で整えます。Zoom30分・無料です。
ご相談で最も多いのは、社長が現場に出ている従業員5〜10人の建設会社さまです。
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