一人親方を従業員として雇い直す|移行の手順・タイミングと会社側の準備
一人親方の社員化は、実態の棚卸し→移行後の労働条件の設計→本人への説明→雇用契約の締結→社会保険・労働保険の手続き→就業規則の整備、の順で進めます。全員を社員にする必要はなく、実態が雇用に近い人から移すのが基本です。最大の壁は本人の「手取りが減って見える」という反応なので、労災の本体適用や厚生年金・傷病手当金といった本人側の得を並べて説明し、増える会社負担は単価と見積に織り込みます。
→ 自社の場合はどうなる? Zoom30分・無料相談で個別に整理できます従業員5人、そこに一人親方が4人。躯体工事を手がける会社の朝礼は、9人が同じ時間に集まり、同じ社長の指示で動いています。ある日、元請の担当者から言われます。「常用で入ってはる方、社会保険どうなってます?」。その夜、親方の一人からも電話が入ります。「インボイスの消費税の分、来年からどうなるんですか」。
社長の頭にはうっすら答えが出ています。「雇い直すしかないんやろな」。ただ、そこから先が分かりません。いつ、誰から、どういう手順で、どう説明するのか。この記事では、一人親方を従業員として雇い直すときの移行手順とタイミング、そして会社側に必要な準備を整理します。

なぜ今、一人親方の社員化が増えているのですか?
理由は一つではなく、いくつかの流れが同時に来ています。
- 実態への目が厳しくなった:契約書が請負でも、時間を拘束し、道具を貸し、作業の進め方を指示していれば、実態は雇用と判断されます。判断軸は偽装請負にならないためのチェックリストにまとめています。
- 元請からの確認が定着した:社会保険の加入状況やCCUSの登録を求められる場面が増え、そろわない会社は現場に入りにくくなっています(建設業で社会保険が未加入だとどうなるか)。
- インボイス以降のコスト構造が変わった:免税事業者である親方への支払いについて、仕入税額控除の経過措置は段階的に縮小されます(※2026年7月時点・詳細は国税庁で確認)。外注のままのコストと、雇用に移したコストの差が縮まってきました。
- 標準労務費の考え方が示された:改正建設業法で標準労務費の考え方が示され、労務費を見積に正面から積む流れが強まっています。
つまり「バレたら困るから」ではなく、「そのほうが受注と原価の計算が通るから」移行する会社が増えている、というのが実務の肌感です。
全員を社員にしないといけないのですか?
いいえ。ここを最初に押さえてください。移行の対象は「実態が雇用に近い人」だけです。
- 集合時刻と作業時間を会社が決めている
- 作業の進め方を細かく指示している
- 道具や材料を会社が用意している
- その会社の仕事が収入の大半を占めている(専属性)
- 報酬が、完成した成果ではなく働いた日数で決まっている
これらが当てはまるほど、雇用と判断される可能性が高くなります。逆に、自分の裁量で工程を組み、自前の道具で、複数社から請けている親方は、請負として続けられます。混在している会社が何を見直すべきかは一人親方と常用従業員が混在する会社が見直すべき契約実態で整理しています。
移行は、どの順番で進めますか?
実務では、次の6ステップで進めます。
- 実態の棚卸し:一人親方を名前で並べ、上の5項目を一人ずつ確認します。「全員なんとなく常用」ではなく、誰が雇用相当かをはっきりさせます。
- 移行後の労働条件を設計する:日給をそのまま日給月給にするのか、月給に組み替えるのか。手当・休日・欠勤控除まで含めて、移行後の給与明細を先に1枚作ります。ここが曖昧なまま説明に入ると、必ずもめます。
- 本人へ説明する:後述しますが、ここが最大の山場です。会社の都合ではなく、本人にとって何が変わるかを軸に話します。
- 請負契約を終了し、雇用契約を結ぶ:労働条件通知書を交付し、開始日を明確にします。同じ人に同じ月内で外注費と給与の両方を払う形は、後から説明が難しくなります。
- 社会保険・労働保険の手続き:健康保険・厚生年金の資格取得届、雇用保険の資格取得届などを提出します。労災は、特別加入から本体の適用へ切り替わります。
- 就業規則・賃金規程・36協定を整える:従業員が増えれば、労働時間と割増賃金のルールが必要になります(36協定の書き方/日給月給の賃金規定)。10人未満でも整える意味は10人未満でも就業規則を作るべき3つの理由のとおりです。
いつ移行するのが、いちばん負担が軽いですか?
タイミングの選び方で、事務の重さと本人の納得度が変わります。
- 期の変わり目:決算期のはじまりに合わせると、増える法定福利費を年間予算に最初から織り込めます。
- 現場の切れ目:長期現場の途中で契約形態を変えると、単価の話と工程の話が混ざります。区切りで移すほうが説明が通ります。
- 求められる前:元請から加入状況を求められてから慌てると、選べるのは「間に合わせる」しかありません。自分の意思で動けば、対象者を分けて段階的に進められます。社会保険の整備は経審のW点にも効きます。
避けたいのは、調査で指摘を受けてからの移行です。過去分の遡及と、これから先の固定費増と、書類の整備が同じ月に重なります。何を見られるかは建設業の労務調査で見られる点と整える順番にまとめています。
最大の壁は「手取りが減る」問題。どう乗り越えますか?
説明の席で、親方はまずこう言います。「社員になったら手取り減るんやろ。ほな他行くわ」。ここで社長が黙ると、話は終わります。
- 制度としては:従業員になると、健康保険・厚生年金の保険料が給与から控除され、代わりに会社も同額を負担します。労災は特別加入ではなく本体で適用され、雇用保険にも入ります。
- この会社はどう有利になるか:会社が説明すべき材料が増えます。ケガをしたときの補償、病気で働けない期間の傷病手当金、将来の年金額、有給休暇、失業時の給付。単月の手取りではなく、年単位・生涯単位で比べられる話になります。
- 社長の毎日はどう変わるか:「うちは社保に入れる会社や」と求人票に書けます。若い応募者にとって、これは待遇の一部です。人が入らない悩みと、社員化の悩みが、同じ手当てで解ける状態になります。
そのうえで、増える会社負担は必ず単価と見積に織り込みます。利益から出し続けると、移行そのものが続きません。有期契約から正社員への登用では助成金が使える場面もあります(※要件は変わるため公式で確認)。
移行した会社の1年後は、どうなっていますか?
移行前の朝礼は、9人が同じ場所に立っているのに、身分が2種類ありました。ケガをしたときの補償も、給料日の締めも、書類の出どころも違う。社長は元請から加入状況を聞かれるたびに、どう答えるかを考えていました。
移行後の朝礼は、同じ9人です。ただし全員が同じ就業規則で動き、加入状況の一覧は1営業日で出せます。遠方現場の労務費は見積に積めるようになり、求人票の条件欄が埋まります。増えた法定福利費は確かに固定費ですが、受注できる現場が増えれば回収できる性質のものです。
当事務所は建設業に特化し、一人親方から従業員への移行対応を毎月のように扱っています。実態の仕分け、移行後の給与設計、本人説明の材料づくり、社会保険・労働保険の届出、就業規則の整備までを顧問の基本料金内で進められます(料金の考え方は料金ページをご覧ください)。「誰から移すべきか分からない」という段階からで構いません。Zoom30分の無料相談で、御社の名簿を前にした仕分けから始められます。制度や税務の取扱いは変わりますので、最新の内容は必ず公式サイトや顧問税理士にご確認ください。
参考(一次情報)
- 労働基準法(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049
- 厚生年金保険(日本年金機構): https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/index.html
- 都道府県毎の保険料額表(全国健康保険協会): https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g7/cat330/sb3150/
- インボイス制度特設サイト(国税庁): https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice.htm
- 労務費に関する基準(国土交通省): https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/tochi_fudousan_kensetsugyo_const_tk1_000001_00044.html
よくあるご質問
「今の状態で調査が入ったら、うちは持つのか?」
未加入・一部加入のまま人を増やしてきた会社ほど、指摘されてからでは負担が一度に来ます。保険料と人件費の見通しを立てて、無理のない順番で整えます。Zoom30分・無料です。
ご相談で最も多いのは、社長が現場に出ている従業員5〜10人の建設会社さまです。
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