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一人親方を従業員として雇い直す|移行の手順・タイミングと会社側の準備

テーマ: 建設業の社会保険
30秒で結論

一人親方の社員化は、実態が雇用に近い人から、棚卸し→労働条件の設計→本人説明→雇用契約→社会保険→就業規則の順で進めます。2026年10月から免税事業者の親方への支払いで差し引ける消費税は80%から70%に下がり、2027年1月からは、親方が労働者と同じ現場で業務上のケガや病気により死亡または4日以上休んだとき、同じ現場で自らも作業する一番近い注文者の会社が労基署へ報告します(罰則なし)。

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従業員5人、そこに一人親方が4人。躯体工事を手がける会社の朝礼は、9人が同じ時間に集まり、同じ社長の指示で動いています。ある日、元請の担当者から言われます。「常用で入ってはる方、社会保険どうなってます?」。その夜、親方の一人からも電話が入ります。「インボイスの消費税の分、10月からどうなるんですか」。

社長の頭にはうっすら答えが出ています。「雇い直すしかないんやろな」。ただ、そこから先が分かりません。いつ、誰から、どういう手順で、どう説明するのか。この記事では、一人親方を従業員として雇い直すときの移行手順とタイミング、そして会社側に必要な準備を整理します。2026年10月からのインボイスの経過措置の縮小と、2027年1月から始まるケガの報告が、社長の判断にどう効くかもあわせてお伝えします。

一人親方の社員化を語り合う休憩時間のイメージ写真

なぜ今、一人親方の社員化が増えているのですか?

2026年10月にインボイスの経過措置が縮み(差し引ける消費税が80%から70%へ)、2027年1月には同じ現場で働く親方のケガを注文者の会社が労働基準監督署(労基署)へ報告する制度が始まるなど、外注のまま続けるときのお金と手続きの前提が変わるからです。

インボイス登録をしていない(免税事業者の)親方への支払いで差し引ける消費税は、その後も段階的に下がり、2031年10月1日からはゼロになります(国税庁・令和8年度税制改正。※2026年9月時点)。外注のままのコストと、雇用に移したコストの差は、これからも縮まり続けます。いくら変わるかは、次の見出しで計算します。

ケガの報告は2027年1月1日に始まります。親方が労働者と同じ現場で、仕事が原因のケガや病気により死亡または4日以上休んだとき、親方に仕事を出し、同じ現場で自らも作業している会社(法令上の「特定注文者」。注文が何段も重なるときは親方にいちばん近い会社)が、労基署へ報告します。罰則のない義務で、補償が出る制度でもありませんが、「外注だから、現場のケガは会社と関係ない」とは言えなくなります。どの会社が報告するかの見分け方は一人親方のケガは誰が労基署へ報告するのかで整理しています。

ほかにも、いくつかの流れが同時に来ています。

  • 実態への目が厳しくなった:契約書が請負でも、時間を拘束し、道具を貸し、作業の進め方を指示していれば、実態は雇用と判断されます。判断軸は偽装請負にならないためのチェックリストにまとめています。
  • 元請からの確認が定着した:社会保険の加入状況やCCUSの登録を求められる場面が増え、そろわない会社は現場に入りにくくなっています(建設業で社会保険が未加入だとどうなるか)。
  • 標準労務費の考え方が示された:改正建設業法で標準労務費の考え方が示され、労務費を見積に正面から積む流れが強まっています。

つまり「バレたら困るから」ではなく、「そのほうが受注と原価の計算が通るから」移行する会社が増えている、というのが実務の肌感です。

インボイスの経過措置が縮むと、親方への外注の負担はいくら増えますか?

免税事業者の親方に月44万円(日当2万円×22日)を払っている会社なら、2026年10月1日からは差し引ける消費税が月3万2,000円から2万8,000円に減り、親方1人につき月4,000円(年4万8,000円)ほど、納める消費税が増えます(外注費などに実際にかかった消費税を差し引いて計算する、原則の方式=本則課税の会社の概算)。

インボイス制度では、インボイス(適格請求書)を出せない免税事業者などへの支払いは、本来、仕入税額控除(売上にかかった消費税から、仕入れや外注費にかかった消費税を差し引く仕組み)の対象になりません。ただし制度が始まった2023年10月から8年間は、一定の割合だけ差し引ける経過措置があり、その割合が令和8年度の税制改正で次のように見直されました。

外注の時期(課税仕入れを行った日)差し引ける割合月44万円の支払いで差し引ける消費税の目安
2023年10月1日〜2026年9月30日80%3万2,000円
2026年10月1日〜2028年9月30日70%2万8,000円
2028年10月1日〜2030年9月30日50%2万円
2030年10月1日〜2031年9月30日30%1万2,000円
2031年10月1日〜0%(差し引けない)0円

割合と期間は、国税庁の「令和8年度税制改正特集」とインボイスQ&A(問113)によるものです。表の「課税仕入れ」は、外注や材料の購入など消費税のかかる仕入れのことです。目安の金額は「44万円×10/110×割合」で出した概算で、端数処理や計算方法で少し変わります(※2026年9月時点)。冒頭の会社の4人の親方が全員インボイス登録をしていない免税事業者で、同じ額を払っていれば、差し引けなくなる分は10月から年19万2,000円、2031年10月以降は80%の頃と比べて年153万6,000円になります。冒頭の電話の「10月からどうなるんですか」は、この差し引けなくなる分を、単価の上で誰が持つのかという話です。

親方の側にも変化があります。もともと免税事業者で、インボイスのために登録した個人の親方は、納める消費税を売上の消費税の2割に抑えられる「2割特例」が2026年分の申告で終わります。2027年分と2028年分は、登録したことで課税事業者になっている年に限り、売上の消費税の3割に抑える「3割特例」を選べます(2年前の売上が1,000万円を超えて、もともと課税事業者になる年などは使えません)。国税庁の例では、年間の売上げ700万円(消費税70万円)なら、納める消費税は14万円から21万円に増えます。登録した親方から「来年から、消費税の分を単価に乗せてもらえませんか」と相談が来たら、外注のまま続けるか、雇用に移すかを考え直すきっかけです。

ここで押さえておきたいのは、雇用に移しても消費税の控除は戻らないことです。給与は課税仕入れに当たらないため、仕入税額控除の対象外です(消費税法2条1項12号)。変わるのは「外注のほうが安い」という前提のほうで、外注の控除が細るぶん、社会保険料の会社負担(給与のおよそ16%)を払って雇う形との差が縮まっていきます。なお、簡易課税(売上から納める消費税を計算する方式。基準期間=原則として2年前の事業年度の、消費税のかかる売上高が5,000万円以下の会社が届け出て選べます)で計算している会社は、仕入先がインボイスを出せるかどうかで納める消費税が変わらないため、この経過措置の影響を受けません。自社がどちらの方式で、実際にいくら変わるかは、顧問税理士に確かめてください。税務の判断は税理士の領域です。

全員を社員にしないといけないのですか?

いいえ。ここを最初に押さえてください。移行の対象は「実態が雇用に近い人」だけです。

  • 集合時刻と作業時間を会社が決めている
  • 作業の進め方を細かく指示している
  • 道具や材料を会社が用意している
  • その会社の仕事が収入の大半を占めている(専属性)
  • 報酬が、完成した成果ではなく働いた日数で決まっている

これらが当てはまるほど、雇用と判断される可能性が高くなります。逆に、自分の裁量で工程を組み、自前の道具で、複数社から請けている親方は、請負として続けられます。混在している会社が何を見直すべきかは常用と請負の違い(一人親方を日当で頼む前に確かめる4つの点)で整理しています。

移行は、どの順番で進めますか?

実態の棚卸し→移行後の労働条件の設計→本人への説明→雇用契約への切り替え→社会保険・労働保険の手続き→就業規則の整備、の6ステップで進めます。

  1. 実態の棚卸し:一人親方を名前で並べ、上の5項目を一人ずつ確認します。「全員なんとなく常用」ではなく、誰が雇用相当かをはっきりさせます。
  2. 移行後の労働条件を設計する:日給をそのまま日給月給にするのか、月給に組み替えるのか。手当・休日・欠勤控除まで含めて、移行後の給与明細を先に1枚作ります。ここが曖昧なまま説明に入ると、必ずもめます。
  3. 本人へ説明する:後述しますが、ここが最大の山場です。会社の都合ではなく、本人にとって何が変わるかを軸に話します。
  4. 請負契約を終了し、雇用契約を結ぶ:労働条件通知書を交付し、開始日を明確にします。同じ人に同じ月内で外注費と給与の両方を払う形は、後から説明が難しくなります。
  5. 社会保険・労働保険の手続き:健康保険・厚生年金の資格取得届、雇用保険の資格取得届などを提出します。労災は、特別加入から本体の適用へ切り替わります。建設国保に入っている親方は、雇った日から14日以内に適用除外の承認を申請すれば、健康保険だけ建設国保に残せる場合があります(組合の理事長が認めた場合に限る。厚生年金には加入します)。雇う前に、今どの保険に入っているかを聞いておきます。
  6. 就業規則・賃金規程・36協定を整える:従業員が増えれば、労働時間と割増賃金のルールが必要になります(36協定の書き方/日給月給の賃金規定)。10人未満でも整える意味は10人未満でも就業規則を作るべき3つの理由のとおりです。

いつ移行するのが、いちばん負担が軽いですか?

決算期のはじまりか長期現場の切れ目に、元請や調査から求められる前に自分から移すのが、いちばん負担の軽い時期です。タイミングの選び方で、事務の重さと本人の納得度が変わります。

  • 期の変わり目:決算期のはじまりに合わせると、増える法定福利費を年間予算に最初から織り込めます。
  • 現場の切れ目:長期現場の途中で契約形態を変えると、単価の話と工程の話が混ざります。区切りで移すほうが説明が通ります。
  • 求められる前:元請から加入状況を求められてから慌てると、選べるのは「間に合わせる」しかありません。自分の意思で動けば、対象者を分けて段階的に進められます。元請は、加入を確認できない作業員を原則として現場に入れない取扱いなので、大きな現場に入る前に済ませておくと安心です。

避けたいのは、調査で指摘を受けてからの移行です。過去分の遡及と、これから先の固定費増と、書類の整備が同じ月に重なります。何を見られるかは建設業の労務調査で見られる点と整える順番にまとめています。

最大の壁は「手取りが減る」問題。どう乗り越えますか?

単月の手取りではなく、ケガ・病気・老後・休みまで入れた「年単位の手取り」で比べて見せると、話が前に進みます。説明の席で、親方はまずこう言います。「社員になったら手取り減るんやろ。ほな他行くわ」。ここで社長が黙ると、話は終わります。

従業員になると、健康保険・厚生年金の保険料が給与から控除され、代わりに会社も同額を負担します。労災は特別加入ではなく本体で適用され、雇用保険にも入ります。

そのぶん、本人に説明すべき材料が増えます。ケガをしたときの補償、病気で働けない期間の傷病手当金、将来の年金額、有給休暇、失業時の給付。単月の手取りではなく、年単位・生涯単位で比べられる話になります。

求人票にも「うちは社保に入れる会社や」と書けます。若い応募者にとって、これは待遇の一部です。人が入らない悩みと、社員化の悩みが、同じ手当てで解ける状態になります。

建設国保や国民健康保険・国民年金のままの場合と並べた見せ方は、職人に「社会保険に入りたくない」と言われたらにまとめています。

そのうえで、増える会社負担は必ず単価と見積に織り込みます。会社負担は給与のおよそ16%(大阪府・協会けんぽの令和8年度の率での目安)で、元請への見積書では法定福利費として別枠で示せます(法定福利費の内訳明示見積書の作り方)。利益から出し続けると、移行そのものが続きません。

移行の費用を助成金で埋める計画も、立てないほうが安全です。キャリアアップ助成金(正社員化コース)は、正社員に転換する日の前日から過去3年以内に、その会社と請負の関係にあった人を対象から外しています(令和8年度版)。自社の外注だった親方は、有期雇用を6か月挟んでも、請負が終わってから、正社員にする日まで3年以上あいていなければ対象になりません(※2026年9月時点・要件は年度で変わります)。

移行した会社の1年後は、どうなっていますか?

同じ9人のまま、ケガの補償も給料の締めも書類の出どころも1つにそろい、元請に加入状況を聞かれても1営業日で一覧を出せる会社になっています。

移行前の朝礼は、9人が同じ場所に立っているのに、身分が2種類ありました。ケガをしたときの補償も、給料日の締めも、書類の出どころも違う。社長は元請から加入状況を聞かれるたびに、どう答えるかを考えていました。

移行後の朝礼は、同じ9人です。ただし全員が同じ就業規則で動き、加入状況の一覧はすぐに出せます。遠方現場の労務費は見積に積めるようになり、求人票の条件欄が埋まります。増えた法定福利費は確かに固定費ですが、受注できる現場が増えれば回収できる性質のものです。

当事務所は建設業に特化し、一人親方から従業員への移行対応を毎月のように扱っています。実態の仕分け、移行後の給与設計、本人説明の材料づくり、社会保険・労働保険の届出、就業規則の整備まで一緒に進められます。就業規則の作成・改定は顧問の基本料金内(建設業の就業規則作成)、届出は手続き業務として対応します(社会保険の整え方は建設業の社会保険、料金の考え方は料金ページをご覧ください)。「誰から移すべきか分からない」という段階からで構いません。Zoom30分の無料相談で、御社の名簿を前にした仕分けから始められます。消費税の計算は顧問税理士に、最新の制度や金額は必ず公式サイトでご確認ください。

参考(一次情報)

よくあるご質問

いいえ。本当に請負として成立している親方は、そのまま外注として続けられます。移行の対象になるのは、時間を拘束され、作業の進め方を指示され、その会社の仕事が中心になっている人です。まず実態で仕分けることが先決です。
健康保険・厚生年金・雇用保険などの会社負担は、給与のおよそ16%です(労災保険を除く。大阪府・協会けんぽの令和8年度の率で、40〜64歳の人を半分と仮定した目安。※2026年9月時点)。月40万円の職人なら月6万5千円前後になります。都道府県や年齢で変わるため、対象者を並べて試算し、単価や見積に織り込める額かを先に確かめてください。
多くは手取りが減って見えることへの反応です。労災保険が本体で適用される、厚生年金や傷病手当金が使える、有給が発生するといった本人側の得を、金額と場面で具体的に伝えてください。それでも請負を望む場合は、実態も請負として成立させられるかを検証する必要があります。
免税事業者の親方への支払いで差し引ける消費税の割合は、2026年10月1日に80%から70%へ下がり、その後50%・30%と縮んで2031年10月1日以降はゼロになります(※2026年9月時点・国税庁「令和8年度税制改正」)。免税事業者からインボイス登録をした個人の親方は、2割特例が2026年分で終わり、2027年分・2028年分は、登録したことで課税事業者になっている年に限って3割特例を選べます(2年前の売上が1,000万円を超える年などは使えません)。自社の税額は顧問税理士にご確認ください。
実態の仕分け、移行後の労働条件の設計、本人説明用の資料づくり、社会保険・労働保険の届出、就業規則や賃金規程の整備まで一括して進められます。当事務所では一人親方から従業員への移行対応を毎月のように扱っています。
社会保険労務士 中峯崇文

この記事の執筆・監修:中峯 崇文(社会保険労務士)

中峯社労士事務所 代表|社会保険労務士 登録番号 第27110112号

建設業に特化した社会保険労務士として、残業対応や一人親方の移行など、現場の労務を毎月扱っています。外国人雇用では自ら監理団体を立ち上げて運営し、採用と定着の設計まで踏み込みます。

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