法定福利費の内訳明示見積書の作り方:建設業の見積もりで損しない書き方
法定福利費とは、健康保険・介護保険・厚生年金保険・子ども・子育て拠出金・雇用保険(2026年4月分からは子ども・子育て支援金も)の事業主負担分です。国土交通省の作成手順では「労務費総額×法定保険料率(事業主負担分)」で計算し、見積書では材料費・労務費・経費の小計とは別枠で保険ごとに明示し、消費税の対象に含めます。大阪府・協会けんぽの2026年度の料率で、介護保険の対象者を5割と仮定して試算すると、労務費のおよそ16%が目安です(※2026年9月時点)。
→ 自社の場合はどうなる? Zoom30分・無料相談で個別に整理できます従業員6人の設備工事会社。夕方、元請けの担当者から電話が入りました。「次の見積りから、法定福利費を内訳明示した形でお願いします」。これまでは「工事一式」で出してきました。社長は電話を切ってから考えます——書けと言われれば書く。ただ、いくらと書けばいいのか。多く書けば高いと言われそうで、少なく書けば自分の首が絞まる。この記事では、法定福利費とは何で、いくらをどこに書くのかを、見積書の作り方として整理します。

法定福利費とは、そもそも何ですか?
法定福利費とは、事業主が法令に基づいて負担する社会保険料の会社負担分のことです。具体的には次の5つを指します。
- 健康保険料(事業主負担分)
- 介護保険料(事業主負担分・40歳以上65歳未満の従業員分)
- 厚生年金保険料(事業主負担分)
- 子ども・子育て拠出金(全額が事業主負担)
- 雇用保険料(事業主負担分)
さらに2026年4月分(5月納付分)の保険料からは、健康保険料と一緒に子ども・子育て支援金が集められるようになりました。こども家庭庁の説明では、会社員の場合は基本的に半分を会社が負担します(※2026年9月時点)。見積りでも、この会社負担分を法定福利費に含めて計算しておきます。
ここでよく質問されるのが労災保険です。労災保険料は全額が事業主負担ですが、建設業では原則として元請けが現場単位で一括して加入するため、下請けが提出する見積書の法定福利費には含めないのが一般的な扱いです。
また、作業服の支給や慰安旅行などの「福利厚生費」とは別物です。法定福利費は会社の裁量ではなく、法律で負担が決まっている費用を指します。
なぜ元請けは内訳明示を求めるのですか?
社会保険の加入を進めるには、加入するための原資が要るからです。
一式の見積りでは、法定福利費が工事価格の中に溶けています。溶けていると、値引き交渉のたびに真っ先に削られます。原資が消えれば、下請けは加入したくても加入できません。この構造を断つために、国土交通省は下請指導ガイドラインで法定福利費の適正な確保を元請けの役割として掲げ、下請けには標準見積書の活用などによる内訳明示を求めてきました。各専門工事業団体は、業種ごとの取引実態に合わせた標準見積書と作成手順書を用意しています。
このガイドラインは2025年12月の改正建設業法の全面施行に合わせて改訂されており、労務費の適正化という流れとひと続きになっています。労務費そのものの考え方は標準労務費とは?で解説しています。
つまり内訳明示は、元請けが下請けをいじめる話ではなく、保険料の原資を工事価格の中で守るための仕組みです。求められたときは、こちらにとって有利な作法だと考えて差し支えありません。
法定福利費は、どう計算しますか?
元請けから渡された様式を開くと、「法定福利費」の欄だけが空いている。そこに入れる数字は、次の式1本で出せます。
法定福利費 = 労務費総額 × 法定保険料率(事業主負担分の合計)
国土交通省の作成手順では、工事ごとに作業員1人ひとりの年間賃金をつかむことはできないため、見積りに計上した労務費を賃金とみなして、保険料率を掛ける方法が一般的だとしています。手順は次の4つです。
- 工事の労務費総額を出す。実務では次のいずれかで出します。
- 工事数量 × 単位あたりの労務単価:数量が明確な工種で使いやすい方法です
- 必要な人工数 × 平均日額(または平均月額):人工で見積もる工種に向きます
- 請負金額 × 労務費比率:過去の実績から自社の比率を持っておく方法です
- 保険ごとに、事業主負担分の料率を集める。健康保険と介護保険は協会けんぽ(健康保険組合に入っていれば組合)、厚生年金保険と子ども・子育て拠出金は保険料額表、雇用保険は厚生労働省が示す「建設の事業」の率を使います。
- 労務費総額に料率を掛けて、保険ごとの金額を出す。介護保険は40歳から64歳までの人だけが対象です。工事ごとにその人数はつかめないため、国の手順では「介護保険料率 × 1/2(事業主負担) × 40〜64歳の被保険者の割合」で率を置く方法が示されています。
- 合計して、見積書の法定福利費の欄に入れる。保険ごとの内訳も並べておくと、元請けが根拠を追えます。
見積りの段階で「この職人は加入対象外」と一人ずつ見分けるのは難しいため、国の手順では全員が健康保険・厚生年金保険に加入する前提で計上し、最終的な金額は元請けと協議して決めるという考え方が取られています。
手順1の労務費は、改正建設業法で「著しく低い労務費による見積り」が規制されたことで、際限なく下げてよい数字ではなくなりました。法定福利費は労務費に掛けて出すため、労務費を削れば法定福利費も一緒に痩せます。労務費の目安の考え方は標準労務費と改正建設業法をご覧ください。
2026年度の料率はいくらですか?(大阪府・協会けんぽの例)
| 保険 | 料率(全体) | 事業主負担分 | いつから |
|---|---|---|---|
| 健康保険(大阪府) | 10.13% | 5.065% | 2026年3月分から |
| 介護保険(40〜64歳の人) | 1.62% | 0.81% | 2026年3月分から |
| 子ども・子育て支援金 | 0.23% | 0.115% | 2026年4月分(5月納付分)から |
| 厚生年金保険 | 18.3% | 9.15% | 2017年9月分から固定 |
| 子ども・子育て拠出金 | 0.36% | 0.36%(全額が事業主) | 2020年4月分から |
| 雇用保険(建設の事業) | 16.5/1,000 | 10.5/1,000(雇用保険二事業の4.5/1,000を含む) | 2026年4月1日〜2027年3月31日 |
出典は、全国健康保険協会(協会けんぽ)大阪支部の令和8年度保険料額表と、厚生労働省「令和8年度の雇用保険料率について」です(※2026年9月時点)。健康保険料率は都道府県ごとに違います。大阪府以外の会社は、協会けんぽの都道府県毎の保険料率(令和8年度)で自社の支部の率に置き換えてください。健康保険組合に加入している会社は、組合の率を使います。
なお、国の作成手順は子ども・子育て支援金ができる前に作られたもので、支援金の行はありません。健康保険料の行に含めるか、別の行に立てるかは、元請けの様式に合わせてください。
料率は毎年度見直されます。見積書のたびに調べ直すのではなく、料率を1か所にまとめて年に一度更新する運用にしておくと、書き間違いが起きません。
労務費100万円なら、ざっくりいくらですか?(概算例)
上の料率を使い、次の前提で出した架空の計算例です。前提は「大阪府の協会けんぽに加入」「全員が健康保険・厚生年金保険の対象」「介護保険の対象(40〜64歳)の割合を仮に50%とする」の3つです。
| 項目 | 事業主負担の率 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 健康保険料 | 5.065% | 100万円 × 5.065% | 50,650円 |
| 介護保険料 | 0.405% | 100万円 × (1.62% × 1/2 × 50%) | 4,050円 |
| 子ども・子育て支援金 | 0.115% | 100万円 × 0.115% | 1,150円 |
| 厚生年金保険料 | 9.15% | 100万円 × 9.15% | 91,500円 |
| 子ども・子育て拠出金 | 0.36% | 100万円 × 0.36% | 3,600円 |
| 雇用保険料 | 1.05% | 100万円 × 10.5/1,000 | 10,500円 |
| 合計 | 16.145% | 161,450円 |
ざっくり言えば、**労務費のおよそ16%**です。たとえば労務費が200万円の工事なら、約32万円。これまで「工事一式」で出していた見積りの中に、この金額が見えないまま埋もれていたことになります。数字が1つ手元にあるだけで、元請けから「高い」と言われたときに、どこまでが削れない部分なのかを即答できます。
実際の保険料は標準報酬月額などから決まるため、見積りの金額とぴったり一致するものではありません。料率も年度ごとに改定されますので、最新の数字は公式の保険料額表で確認してください。
内訳明示の見積書は、どう書きますか?(記載例)
書き方には型があります。国土交通省「法定福利費を内訳明示した見積書の作成手順」に載っている作成例の並びを、上の概算例の数字に当てはめて表にすると、次のようになります。会社名・金額はすべて架空の例です。
御見積書(例)|○○工事
| 区分 | 項目 | 金額 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 工事費 | 材料費 | 1,500,000円 | |
| 工事費 | 労務費 | 1,000,000円 | 事業主負担分の法定福利費は含めない |
| 工事費 | 経費(法定福利費を除く) | 300,000円 | 法定福利費は下で別に計上する |
| 工事費 | 小計① | 2,800,000円 | |
| 法定福利費(事業主負担分) | 雇用保険料 | 10,500円 | 労務費1,000,000円 × 10.5/1,000 |
| 法定福利費(事業主負担分) | 健康保険料 | 50,650円 | 労務費1,000,000円 × 5.065% |
| 法定福利費(事業主負担分) | 介護保険料 | 4,050円 | 労務費1,000,000円 × 0.405%(40〜64歳の割合を加味) |
| 法定福利費(事業主負担分) | 子ども・子育て支援金 | 1,150円 | 労務費1,000,000円 × 0.115% |
| 法定福利費(事業主負担分) | 厚生年金保険料(子ども・子育て拠出金を含む) | 95,100円 | 労務費1,000,000円 × 9.51% |
| 法定福利費(事業主負担分) | 小計② | 161,450円 | |
| 合計 | ①+②(税抜) | 2,961,450円 | |
| 消費税等 | 合計に税率を掛けた額 | 法定福利費も消費税の対象 | |
| 見積金額 | 合計+消費税等 |
国の作成例では、厚生年金保険料の行に子ども・子育て拠出金を含めています。書くときの要点は次のとおりです。
- 法定福利費を独立した枠で示す:材料費・労務費・経費の小計の下に「法定福利費」の枠を設け、保険ごとに行を分けます
- 工事価格の内数にしない:「工事一式に含む」と書くと、明示していないのと同じ扱いになります。経費からも法定福利費を除いておきます
- 備考に算出根拠を書く:「労務費○○円 × 料率○%」のように、どの労務費にどの率を掛けたかが追えるようにします
- 本人負担分を含めるなら範囲を書く:国の手順では事業主負担分が基本です。本人負担分まで含める場合は、「法定福利費は××保険料の本人負担分も含んでおります」のように範囲を明記します
- 消費税の扱いに注意する:法定福利費も請負代金の一部であり、消費税の課税対象です。税抜きの内訳として計上し、最後に消費税を乗せます
- 団体の標準見積書を使う:所属する専門工事業団体の標準見積書を使うと早く、元請けにも通りやすくなります。国の手順では、内訳が明示されていれば自社や元請けが指定する様式でも構わないとされています
国は、下請けの見積書に法定福利費が明示されているのに元請けがそれを尊重せず一方的に削り、「通常必要と認められる原価」に満たない金額で契約した場合、取引の依存度などによっては建設業法第19条の3(不当に低い請負代金の禁止)に違反するおそれがあると示しています。内訳を書いておくことは、この線を引くための材料にもなります。
社会保険の加入状況そのものを元請けから確認される場面での対応は、元請けから「社会保険に入って」と言われたらにまとめています。
内訳を明示すると、何が変わりますか?
- 仕組みとしては:法定福利費が見積書の独立した行になり、金額の根拠が相手に見える状態になります。
- この会社はどう有利になるか:値引きの話が材料費・労務費・経費の範囲に限定されます。「あと5%」と言われても、削る対象から法定福利費が外れます。加入状況の確認を受けたときにも、原資を確保している会社として説明できます。
- 社長の毎日はどう変わるか:保険料の引き落とし日に通帳を見て青くなる回数が減ります。職人を1人増やすときも、増える保険料をあらかじめ見積りに乗せられるので、「取ってから足りないことに気づく」がなくなります。
逆に一式のまま出し続けると、値引きに応じるたびに保険料の原資が静かに減ります。加入していない会社ほど安く見積もれてしまい、まじめに加入している会社が競争で不利になる——この構造を変えるために、内訳明示は始まりました。経審での評価につながる話は経審のW点と社会保険を参照してください。
見積りと実際の保険料が合わない場合は?
見積りは着手前の予定額、実際の保険料は標準報酬月額や実際の賃金から決まります。ある程度の差は当然生じますが、差が大きいと元請けから根拠を求められることがあります。
- 見積りの前提にした労務単価・人工数と、実際の賃金台帳がかけ離れていないか
- 賃金規程・就業規則に書かれた手当の扱いと、見積りの前提が合っているか
- 加入対象者の範囲(週20時間未満の人、一人親方扱いの人)に漏れがないか
見積書の作り方は経理の話に見えますが、根っこは賃金と社会保険の設計です。ここがそろって初めて、書いた金額に説明がつきます。賃金規程の整え方は日給月給の建設業が就業規則に入れるべき賃金規定にまとめています。
まず何から始めればいいですか?
いちばん早いのは、直近に出した見積り1件を分解してみることです。その工事の労務費はいくらだったか、そこに事業主負担分の料率を掛けるといくらになるか。出た金額が、これまで工事価格の中に埋もれていた分です。多くの社長が、その金額を見て初めて手を打ちます。
当事務所は建設業に特化しており、社会保険の実務と賃金設計を同じ相手にまとめて相談できます。見積りに乗せた労務費と、実際に払っている日当・手当の決め方がずれていると、書いた法定福利費に説明がつきません。賃金の決め方を就業規則・賃金規程ごと見直す流れは建設業の就業規則作成で紹介しており、就業規則・賃金規程の整備は顧問の基本料金内で対応しています。進め方は料金ページをご覧ください。「元請けから様式を渡されたが、根拠の書き方が分からない」という段階でも構いません。Zoom30分の無料相談で、自社の労務費から計算の型を作れます。料率や制度は変わりますので、最新の情報は必ず公式サイトでご確認ください。
参考(一次情報)
- 各団体が作成した標準見積書(国土交通省): https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/totikensangyo_const_tk2_000082.html
- 法定福利費を内訳明示した見積書の作成手順(国土交通省): https://www.mlit.go.jp/common/001090440.pdf
- 社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン(国土交通省): https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/totikensangyo_const_fr2_000008.html
- 建設業法(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000100
- 令和8年3月分からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(大阪支部)(全国健康保険協会): https://www.kyoukaikenpo.or.jp/assets/R8_27osaka.pdf
- 都道府県毎の保険料率 令和8年度(全国健康保険協会): https://www.kyoukaikenpo.or.jp/about/business/insurance_rate/rate_prefectures/r08
- 子ども・子育て支援金制度(こども家庭庁): https://www.cfa.go.jp/policies/kodomokosodateshienkinseido
- 令和8年度の雇用保険料率について(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/content/001692566.pdf
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