元請けから「社会保険に入って」と言われたら:現場に入り続けるための手順
元請けが下請けの社会保険を確認するのは、国の下請指導ガイドラインで、未加入企業を下請に選定しないことと、適切な保険加入を確認できない作業員を現場に入れない取扱いが求められているためです。放置すると現場入場や下請選定、建設業許可の更新、経審の点数に響きます。まず対象者の棚卸しと一人親方の実態確認を行い、法定福利費を見積書に明示して原資を確保しながら加入を進めるのが現実的な順番です。
→ 自社の場合はどうなる? Zoom30分・無料相談で個別に整理できます従業員8人の躯体工事会社。現場から戻った社長のスマホに、元請けの現場代理人からメッセージが届いていました。「来月から作業員名簿に保険の加入状況を書いてもらいます。入っていない人は現場に入れられません」。うちは一人親方に手伝ってもらいながら回している。全員を社会保険に入れたら、いくら増えるのか見当もつかない——「今の状態で調査が入ったら、人件費や法定福利費が膨らみすぎて会社が持たない」。この記事では、元請けから加入を求められたときに、現場を止めずに整えていく順番を整理します。

なぜ元請けは、下請けの社会保険を確認するのですか?
元請けが厳しくなったのではありません。元請け自身が、国から確認と指導を求められているからです。
国土交通省は「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」を定めており、元請企業の役割として、現場での周知啓発、法定福利費の適正な確保、協力会社の加入状況の定期的な把握と指導、下請発注時の加入状況の確認、二次以下の下請についても再下請負通知書による確認を挙げています。平成29年度以降は、社会保険に未加入の建設企業を下請企業として選定しないよう要請するとともに、適切な保険に加入していることを確認できない作業員については、特段の理由がない限り現場入場を認めない取扱いが求められています。このガイドラインは、2025年12月の改正建設業法の全面施行に合わせて改訂されています(※2026年7月時点)。
さらに、2020年10月以降は適切な社会保険への加入が建設業許可の要件です。元請けにとって、未加入の下請けを使い続けることは自社のリスクになります。
放置すると、現場で何が起きますか?
いきなり取引が止まるわけではありません。段階を踏んで、静かに外されていきます。
- 名簿で指摘される:作業員名簿や再下請負通知書の加入状況欄が空欄・「未加入」で返ってくる
- 人単位で入れなくなる:特定の作業員だけ現場入場を断られ、その日の段取りが崩れる
- 会社単位で声がかからなくなる:次の工事の見積り依頼が来なくなる。断られた理由は説明されないことが多い
- 許可と経審に響く:許可の更新時に是正を求められ、経審のW点も下がる
3の段階になってから気づくと、失注は取り返せません。未加入が許可・経審・元請対応の3方向で効く仕組みは建設業で社会保険が未加入だとどうなる?に、点数への影響は経審のW点と社会保険に整理しています。
そもそも、うちに加入義務はあるのですか?
まずここを確定させます。感覚ではなく、条件で決まります。
- 法人:従業員がいなくても、代表者1人でも健康保険・厚生年金保険は強制適用です
- 個人事業:建設業は適用業種にあたるため、常時5人以上の従業員がいれば強制適用になります。5人未満でも任意で加入する道があります
- 雇用保険:週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用見込みがあれば被保険者になります
- 一人親方:契約書の名称ではなく実態で判断します。指揮命令、道具の負担、報酬の決まり方、他社の仕事を受けられるかなどを総合して見ます
いちばん判断が難しいのが一人親方です。線引きは一人親方の社会保険・外注と雇用の線引きと偽装請負チェックリストにまとめています。ここを曖昧にしたまま加入手続きだけ進めると、後から遡って指摘を受ける原因になります。
慌てず整える順番は?
一度に全員を加入させる必要はありません。順番を決めれば、資金繰りを壊さずに進められます。
- 対象者を棚卸しする:現場に入る全員を一覧にし、雇用契約か請負か、週の労働時間、年齢(40歳以上か、70歳以上か)を書き出す
- 一人親方の実態を判定する:実態が雇用に近い人を先に特定する。ここが元請けからいちばん突かれる論点です
- 加入時期を決める:資格取得日をいつにするか、届出をどの順で出すかを整理する
- 原資を手当てする:保険料の会社負担分を試算し、法定福利費を見積書に明示して受け取る段取りを作る(→法定福利費の内訳明示見積書の作り方)
- 元請けに工程を示す:「いつまでに、誰を、どう加入させるか」を書面で提示する。ゼロ回答ではなく工程を示せば、待ってもらえる場面は少なくありません
3と4を飛ばして先に加入だけ進めると、翌月の資金繰りで詰まります。逆に、工程を示さないまま検討だけ続けると、その間に現場から外れます。
保険料の負担は、どれくらい増えますか?
社会保険料は労使折半が原則です(子ども・子育て拠出金は会社の全額負担)。健康保険・厚生年金保険・子ども子育て拠出金・雇用保険の事業主負担分を合計すると、会社負担はおおむね賃金の15%前後が目安になります。料率は年度・都道府県・従業員の年齢によって変わるため、必ず最新の料額表で試算してください(※2026年7月時点)。
ただ、この15%前後を丸ごと利益から削る必要はありません。吸収の道は3つあります。
- 法定福利費を見積書に明示して受け取る:一式見積りのままだと、値引きのたびに保険料の原資が消えます
- 賃金体系を組み替える:日給のままか、日給月給か、手当をどう置くか。設計次第で総額の伸び方が変わります(→日給月給の建設業が就業規則に入れるべき賃金規定)
- 助成金を使う:一人親方から従業員への移行や、有期契約からの正社員登用は、助成金の対象になり得ます(→助成金が不支給になるパターン)
整えたあと、社長は何が変わりますか?
- 制度としては:加入状況の書類が、いつ求められても出せる状態になります。
- この会社はどう有利になるか:元請けの確認が「確認するだけ」で終わり、指導や入場制限の対象になりません。許可の更新や経審の準備も、書類を集め直す作業ではなくなります。
- 社長の毎日はどう変わるか:現場代理人から名簿の提出を求められても、封筒を開ける前から中身が分かっています。職人から「入ってないと入れんらしいで」と聞かれても、その場で説明できます。加入手続きが済んでいるからこそ、若い職人に「うちは社保あるよ」と言って口説けます。
労務の調査で人件費と法定福利費がどう問われるかは労務調査で人件費はどこまで見られるかにまとめています。
まず何から始めればいいですか?
最初の一手は現場に入る全員の一覧を作ることです。名前・契約の形・週の労働時間・年齢。この4項目がそろえば、誰が対象で、増える保険料がいくらかを試算できます。
当事務所は建設業に特化しており、一人親方から従業員への移行対応を毎月のように扱っています。実態判定、加入手続き、賃金設計、助成金までを一つの流れで整えられるのが強みです。社会保険の手続きは顧問の基本料金内で対応しており、進め方は料金ページにまとめています。「元請けに何と返事をすればいいか分からない」という段階でも構いません。Zoom30分の無料相談で、返事の内容と工程を一緒に決められます。制度や料率は変わりますので、最新の情報は必ず公式サイトでご確認ください。
参考(一次情報)
- 社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン(国土交通省): https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/totikensangyo_const_fr2_000008.html
- 建設業における社会保険加入対策について(国土交通省): https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/totikensangyo_const_tk2_000080.html
- 適用事業所に関すること(日本年金機構): https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/jigyosho/index.html
よくあるご質問
「今の状態で調査が入ったら、うちは持つのか?」
未加入・一部加入のまま人を増やしてきた会社ほど、指摘されてからでは負担が一度に来ます。保険料と人件費の見通しを立てて、無理のない順番で整えます。Zoom30分・無料です。
ご相談で最も多いのは、社長が現場に出ている従業員5〜10人の建設会社さまです。
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