現場への移動時間は労働時間?建設業の指揮命令下の判断基準
現場への移動時間が労働時間になるかは「会社の指揮命令下にあるか」で判断します。集合場所への立ち寄りを指示しているか、移動の前後に積み込み・運転などの業務があるか、移動中に自由に過ごせるかの3点で見ます。直行直帰は原則として労働時間外、事務所集合や積み込みを伴う移動は労働時間と判断されやすくなります。
→ 自社の場合はどうなる? Zoom30分・無料相談で個別に整理できます朝5時半、まだ暗いうちに職人が事務所の前に集まってくる。社長のハイエースに道具と資材を積み込み、全員で1時間半かけて県外の現場へ向かう。「移動は仕事のうちに入るんか、それとも現場に着いてからが仕事なんか」——このひと言に、はっきり答えられる社長は意外と少ないものです。移動時間が労働時間になるかどうかは、距離や時間の長さでは決まりません。決め手は「その時間、会社の指揮命令下にあるか」です。この記事では、建設業でよくある直行直帰・事務所集合・資材の積み込みという3つの場面ごとに、どこからが労働時間になるのかを整理します。

そもそも、移動時間が「労働時間」になる基準は何ですか?
労働時間かどうかは、「労働者が会社の指揮命令下に置かれているか」で判断します。会社の指示で何かをしなければならない状態、あるいは指示があればすぐ動ける状態に拘束されているなら、それは労働時間です。
- 制度としては:労働時間とは、会社の指揮命令下にある時間を指します。移動時間も、この基準で個別に判断されます。
- この会社はどう有利になるか:この基準で自社の移動を整理できると、残業代の計算根拠がはっきりし、「なんとなく」で払う・払わないを決める会社から卒業できます。
- 社長の毎日はどう変わるか:職人から「移動分はどうなってるんですか」と聞かれても、その場で理由とともに答えられます。給料の説明でしどろもどろにならずに済みます。
ポイントは、「移動している」という事実だけでは決まらないことです。同じ移動でも、拘束の度合いによって扱いが変わります。3つの場面で見ていきます。
直行直帰の日、自宅から現場までの時間はどうなりますか?
自宅から現場へ直接向かい、終われば現場から直接帰る。この「直行直帰」で、移動中に会社の指示に縛られていないなら、その移動時間は原則として労働時間には当たりません。通勤に近い扱いになります。
- 自宅 → 現場 → 自宅と、途中で会社に立ち寄らない
- 移動中に業務の指示を受けたり、資材を運んだりしない
- 現場に着いて作業を始めた時点から労働時間、と整理しやすい
現場でよくあるのは、「直行直帰のはずが、途中で材料屋に寄って資材を積んでくるよう頼まれる」ケースです。この寄り道が入った瞬間、その部分は会社の指示による業務になり、労働時間の色が濃くなります。純粋な直行直帰なのか、業務が挟まるのかを分けて考えるのが大事です。
事務所や集合場所に集まってから移動する時間はどうですか?
一方、会社が「まず事務所に集合」「決めた場所に集まってから一緒に行く」と指定している場合は、扱いが変わります。指定場所への集合を義務づけ、そこから会社の車で移動するなら、その移動時間は労働時間と判断されやすくなります。
- 集合場所と集合時刻を会社が指定している
- 集合後に点呼、朝礼、道具の受け渡しがある
- 全員で会社の車に乗って現場へ向かう
この状態は、集合した時点で職人が会社の管理下に入っていると評価されます。冒頭の「事務所に集まって全員で県外へ」というケースは、まさにこの典型です。集合を義務にしている以上、その移動を丸ごと無給にするのは難しくなります。集合か直行かで扱いが分かれるため、両方が混在する会社は特に線引きが重要です。この移動時間の記録は、時間外労働の管理にも直結します。自社の残業時間が上限に収まっているかは、時間外労働上限規制の実態チェックリストで確認できます。
資材の積み込みや荷降ろしを挟む移動は、どう考えますか?
3つ目は、移動に「作業」が挟まる場面です。出発前に事務所で資材を積み込む、現場で荷を降ろす、帰りに残材を持ち帰る——こうした積み込み・荷降ろしは、会社の指示による立派な業務です。
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積み込み・荷降ろしそのものは労働時間に含めるのが基本
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作業を挟むと、その前後の移動も指揮命令下と評価されやすい
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「移動時間だけ無給」という切り分けが成り立ちにくくなる
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この会社はどう有利になるか:積み込みを伴う日と伴わない日を分けて記録できる会社は、払うべき時間と払わなくてよい時間の境目がクリアになります。
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社長の毎日はどう変わるか:あとから未払いを指摘されて数年分をまとめて請求される、という最悪の事態を避けられます。「うちはここまでが労働時間」と胸を張って言える安心感があります。
逆に言えば、積み込みを移動から切り離せば、扱いは変えられます。資材置き場に集合して積み込んでから遠方の現場へ向かっていたため、往復の移動まで労働時間になり残業を45時間以内に抑えられなくなっていた建設会社では、外国人の従業員を積み込み・荷降ろしの担当から外して現場への直行直帰に切り替え、残業時間を大幅に短縮しました(解決事例:移動時間で残業45時間を超える現場を、直行直帰で立て直した事例)。減った残業代を移動手当・出張手当で補う設計まであわせて提案したのが、この事例の要です。
移動時間が労働時間になるか、どう判定すればいいですか?
月曜の朝、ホワイトボードに今週の現場割りを書き込む社長。「Aさんは現場へ直行、Bさんは資材置き場で積んでから運転、Cさんは助手席」。同じ現場へ向かう3人でも、移動時間の扱いが同じとは限りません。
厚生労働省のガイドラインは、労働時間かどうかは就業規則の書き方ではなく、その行為が会社から義務づけられていたか、せざるを得ない状況だったかなどから、個別具体的に客観的に決まるとしています(※2026年9月時点)。現場への移動は、次の順番で確かめると迷いにくくなります。
- 会社の指示で、事務所・資材置き場・集合場所に寄りますか? 寄らずに自宅から現場へ直接向かうなら、通勤に近い扱いで、原則として労働時間には当たりません。立ち寄りを義務づけているなら、次の②③を確かめます。
- 移動の前後や途中に、積み込み・荷降ろし・運転・点呼・打合せなどの業務がありますか? あれば、その業務の時間は労働時間です。業務に挟まれた移動も、会社の指揮命令下と評価されやすくなります。
- 移動中、仕事から離れて自由に過ごせますか? 眠る、スマホを見るといった過ごし方が保障されているかどうかです。運転や荷物の見張りを命じられている、指示があればすぐ動くことを求められている、という状態なら、労働時間と判断されやすくなります。
- ①〜③の答えを、場面ごとに規則と記録に残します。 集合時刻・出発時刻・現場到着・作業終了を日報やスマホ打刻で残しておくと、あとから説明がつきます。
建設業でよくある場面に当てはめると、目安は次のとおりです。
| 場面 | 見るポイント | 扱いの目安 |
|---|---|---|
| 直行直帰(自宅→現場→自宅、寄り道なし) | 途中に会社の指示による業務が入らないか | 原則として労働時間外(通勤に近い扱い) |
| 集合してから会社の車で移動し、運転する人 | 集合の義務づけと、運転の指示 | 労働時間と判断されやすい |
| 集合してから会社の車に同乗するだけの人 | 集合が義務か、移動中に自由に過ごせるか | 集合が義務で一緒に移動するなら労働時間寄り。自由に過ごせる度合いによって判断が分かれる |
| 出発前に積み込み、帰りに荷降ろしがある | 積み込み・荷降ろしは会社の指示による作業 | 作業は労働時間。前後の移動も労働時間と判断されやすい |
| 遠方現場への前泊・休日の移動日 | 移動中に運転や資材・工具の管理を命じているか | 一律には決まらず個別に判断。手当や規程で扱いを先に決めておく |
運転する人と同乗する人の違いは、ハンドルを握ること自体が会社の指示による業務かどうかにあります。車内での待機や運転が義務づけられている時間は労働時間に当たる、というのが厚生労働省の示す考え方です。一方、助手席で眠っていてもよい同乗者は、運転者と同じ扱いになるとは限りません。ただし、集合を義務づけて全員を同じ車で運ぶ運用なら、同乗者も労働時間と判断されやすくなります。ここは運用の実態で結論が分かれるため、「うちの同乗者はどちらか」を一度はっきりさせておくことが大切です。
休日に遠方の現場へ前入りする移動日も、同じ物差しで考えます。社用車を運転させ、工具や資材を運ばせるなら業務の色が濃くなり、公共交通機関で身ひとつで向かうだけなら薄くなります。とはいえ、休日の移動日の扱いは事情によって判断が分かれやすく、一律に「労働時間ではない」と言い切れるものではありません。移動日の負担には手当で報いる形にしておくと、職人の納得も得やすくなります。
- この会社はどう有利になるか:人ごと・日ごとの扱いを表で決めておけば、給料計算のたびに悩まず、残業の上限管理も現場割りの段階で見通せます。
- 社長の毎日はどう変わるか:「なんで運転した俺と、寝てたあいつが同じなんですか」と聞かれても、決めてある線引きで答えられます。現場割りを書くときに、残業代の心配まで一緒に片づきます。
直行直帰を始める時に就業規則へ何を書き、始業・終業をどう記録するかは直行直帰の就業規則・規定例|建設業の労働時間管理と事業場外みなしで、移動が減って手取りが下がる分を手当で補う設計は建設業の出張手当・日当の相場と決め方で詳しく解説しています。
移動時間の線引きは、どうやって決めておけばいいですか?
ここまで見たように、移動時間の扱いは「直行直帰か」「集合か」「作業が挟まるか」「移動中に自由に過ごせるか」で変わります。だからこそ、その場の判断に任せず、あらかじめルールとして決めておくことが会社を守ります。たとえば次のような書き方が考えられます。
規定例:会社が集合場所を指定し、集合後に会社の車両で就業場所へ移動する場合は、集合時刻から労働時間とする。自宅から就業場所へ直接出勤し、就業場所から直接帰宅する場合は、その移動時間を労働時間としない。ただし、会社の指示により移動の途中で資材の受け取り等の業務を行った場合は、その業務の時間及びその業務に伴う移動の時間を労働時間とする。
これはあくまで一例で、実際の運用(誰が運転するか、休日の移動日をどう扱うか)に合わせて調整が必要です。
就業規則や運用ルールで「どこからが労働時間か」を場面ごとに定めておく方法は、建設業の就業規則作成のページでも考え方を紹介しています。当事務所では、移動時間の扱いを含めた就業規則の作成・改定を顧問の基本料金内で行っています。雨天で現場が流れた日の扱いとあわせて相談したい方は、雨で現場が休みになったら給料はどうなるも参考になります。「うちの移動、労働時間に入るのか判断がつかない」という方は、Zoom30分の無料相談で、自社の運用に沿って一緒に整理できます。労働時間の判断は個別の事情で変わるため、最終的な判断が必要な場面では専門家にご相談ください。最新の制度や金額は、必ず公式サイトでご確認ください。
参考(一次情報)
- 労働基準法(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049
- 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/070614-2.html
- トラック運転業務での長期の待機時間は、労働時間になりますか?(確かめよう労働条件・厚生労働省): https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/qa/roudousya/roudoujikan/q6.html
- 建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyosyu/topics/01.html
- モデル就業規則について(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/model/index.html
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