建設業の出張手当・日当の相場と決め方|遠方手当・旅費規程・一人親方への支払い
建設業の出張手当・日当・遠方手当は法律で定義された言葉ではなく、会社が旅費規程で名前・支給基準・金額を決めるものです。業種別の相場を示す公的な統計は見当たらないため、距離・移動時間・宿泊の有無で区分を作り、実際の出費から金額を決めます。一人親方に払う場合は社員の手当の形にせず、請負代金や経費として契約書・見積に明記します。
→ 自社の場合はどうなる? Zoom30分・無料相談で個別に整理できます従業員8人の設備工事会社。県外の大型現場が決まり、職人3人が2週間の泊まり込みになりました。夜の事務所で社長が電卓を持ったまま考え込みます。「宿代と高速代は出すとして、日当はなんぼや」。これまでは現場ごとに社長のさじ加減で決めてきました。すると先週、若手から言われます。「前の遠方のとき、○○さんはもっともらってたって聞きましたけど」。
遠方現場は建設業の宿命です。にもかかわらず、出張手当(日当)のルールを文書で持っている5〜10人規模の会社は多くありません。ルールが無いと、金額は交渉で決まり、不公平感が残り、しかも給与として課税される扱いになりやすくなります。この記事では、出張手当・遠方手当の違いと相場の考え方、旅費規程と就業規則への落とし込み、一人親方に払う時の注意点までを整理します。

そもそも出張手当(日当)とは、何に対して払うお金ですか?
出張手当は、遠方への出張に伴って発生する細かな出費や負担をまかなうために支給するものです。交通費や宿泊費のような「領収書が出る実費」とは別枠で考えます。
- 交通費:現場までの高速代・燃料代・電車賃など。実費で精算するのが基本。
- 宿泊費:ホテル代。実費精算にするか、1泊いくらの定額にするかを会社が決めます。
- 出張手当(日当):現地での食費の差額、洗濯代、通信費など、領収書を集めにくい細かな負担に対して支給するもの。
建設業は、この3つ目が発生しやすい業種です。同じ8人の会社でも、地元の現場だけを回している会社と、月の半分が県外泊まり込みの会社では、職人の負担がまったく違います。その差を給料表だけで埋めようとすると、遠方に行く人の基本給を上げるしかなくなり、地元現場に戻ったときに下げられなくなります。
遠方手当(遠方費)とは?出張手当・日当との違いは何ですか?
朝5時、片道2時間の現場へ向かう職人が「泊まりじゃないから日当は出ないんですか」と聞いてくる。遠方手当という言葉が出てくるのは、たいていこの場面です。
先に結論を言うと、遠方手当・遠方費・出張手当・日当は、どれも法律で定義された言葉ではありません。会社が規程の中で名前を付け、何に対して、どんな条件で払うかを決めるものです。そのため、同じ「遠方手当」でも会社によって中身がまったく違います。よく見られる呼び方を整理すると、次のようになります。
| 呼び方 | 主に何に対して払うか | よくある支給のタイミング |
|---|---|---|
| 出張手当・出張日当 | 宿泊や長距離移動を伴う出張で生じる細かな出費 | 出張した日数に応じて、その都度 |
| 遠方手当・遠方費 | 日帰りでも遠い現場に通う負担(早出・長い移動) | 対象の現場に出た日数に応じて |
| 現場日当 | 会社によって「日給そのもの」を指すことも「現場に出た日の手当」を指すこともある | 会社の賃金規程しだい |
特に「現場日当」は要注意です。日給制の会社では日給そのものを日当と呼ぶことがあり、出張の日当と同じ言葉で混ざります。規程では**「出張日当」「遠方手当」のように、給与の日給と取り違えない名前**を付けておきます。
支給の基準は、次の3つのどれか、または組み合わせで決めます。
| 基準 | 決め方の例 | 向いている会社 | 気をつける点 |
|---|---|---|---|
| 距離 | 事業所から片道○km以上の現場 | 現場が県内に散らばる会社 | 地図上の距離と実際の道のりのどちらで測るかを決める |
| 移動時間 | 片道○時間以上かかる現場 | 山間部・渋滞地域など距離と時間が一致しない会社 | 何を基準に時間を測るか(経路検索の結果など)を決める |
| 宿泊の有無 | 会社の指示で宿泊した日 | 県外の泊まり込みが多い会社 | 日帰りの遠方が手当の対象から漏れやすい |
多くの会社で運用しやすいのは、「宿泊あり=出張日当」「宿泊なし・一定距離以上=遠方手当」の二段構えです。こうしておくと、「泊まりじゃないから出ない」「あの人は同じ距離なのにもらっている」という食い違いが起きにくくなります。社長にとっては、朝の現場配置を決めた時点で、誰にどの手当が付くかが決まっている状態になります。
なお、税務の見え方は名前ではなく中身で決まります。旅費規程に基づいて出張の都度支給するものと、毎月決まった額を給料に上乗せするものとでは扱いが変わり得ます。日帰りで毎日通う遠方現場への手当をどう扱うかは現場の実態によるため、顧問税理士にご確認ください。残業代の計算でも同じで、出費をまかなう出張日当と違い、遠い現場へ通う負担に報いる遠方手当は賃金として割増賃金の計算基礎に入り得ます(計算基礎から外せる手当は労働基準法第37条第5項と同法施行規則第21条で限られています)。
出張手当が給与と別に扱われるのは、どういう仕組みですか?
ここが設計の中心です。
- 制度としては:所得税法では、勤務する場所を離れて職務を行うための旅行に対して支給される金品のうち、その旅行に通常必要と認められるものは非課税として扱われます(所得税法第9条第1項第4号)。判断のよりどころになるのが、社内の旅費規程です。
- この会社はどう有利になるか:同じ額を渡すのでも、給与として上乗せするのと、旅費規程に基づく出張手当として支給するのとでは、会社と本人の手元に残る形が変わります。遠方現場の原価としても、労務費と旅費を分けて把握できます。
- 社長の毎日はどう変わるか:「今回はいくら出す?」という交渉が消えます。規程の表を見せれば、誰が行っても金額は同じ。若手からの「あの人のほうが多いらしい」がなくなります。
国税庁の所得税基本通達9-3は、「通常必要」の範囲かどうかを判断するときに、次の2点を考えるとしています。
- 役員と社員の全員を通じて、適正なバランスが保たれた基準で計算されているか
- 同業種・同規模の他の会社が一般的に支給している金額に照らして相当か
つまり、「規程さえ作れば何でも非課税になる」という話ではありません。通常必要とされる範囲を超える部分は給与として課税されます(所得税基本通達9-4)。実態と離れた高額な日当や、特定の人だけに支給する運用は、給与と判断されることがあります。金額水準や個別の税務上の取扱いについては、必ず顧問税理士や国税庁の情報でご確認ください。
建設業の出張手当・日当の相場は、いくらが目安ですか?
「同業はいくら出してるんや」。規程を作ろうとした社長が最初に打つ検索語が、これです。
正直にお伝えすると、建設業の出張手当・日当の金額を、業種・規模別に示した公的な統計は、確認できる範囲では見当たりません(※2026年9月時点)。ネット上に出てくる「相場」の多くは、出典のはっきりしない数字です。自社の規程にそのまま写すと、「なぜこの金額なのか」を職人にも税理士にも説明できません。
そこで、相場の数字から逆算するのではなく、自社の距離・時間の基準と実際の出費から金額を組み立てるのが確実です。
- 実際の出費を1日単位で書き出す:泊まり込み現場で職人が自腹を切っているもの(外食と自炊の差額、コインランドリー、現地での細かな買い物など)を、本人に聞いて並べます。
- 過去に渡した額を並べる:直近1年の遠方現場で、誰にいくら渡したかを一覧にします。ここで金額のバラつきが見えます。
- 区分を決めて1つの表にする:「日帰りの遠方」「宿泊あり」の区分ごとに、1と2の間で説明のつく額を決めます。役職で差をつけるなら、その理由も書き添えます。
- 税務の妥当性を確認する:通達の「同業種・同規模の会社と比べて相当か」という目安に照らして、顧問税理士に見てもらいます。
この順番で決めた金額は、「業界の相場がこうだから」ではなく「うちの現場ではこれだけかかるから」と説明できます。見積の段階で人数×日数の原価にも積めるので、遠方現場のたびに利益が読めなくなる状態から抜けられます。
旅費規程では、何を決めればいいのですか?
決めるべき項目は、おおむね次の5つです。
- 出張の定義:どこからが「出張」かを決めます。「事業所から片道○km以上」「移動を含めて所定労働時間を超える現場」「宿泊を伴う現場」など、自社の現実に合った基準を選びます。ここがあいまいだと、毎回もめます。
- 区分ごとの日当:日帰り出張と宿泊出張で分け、役職ごとに差をつけるかを決めます。差をつけるなら、その理由(責任の範囲、対外的な立場)を説明できる形にします。
- 宿泊費の扱い:実費精算にするか、1泊いくらの定額にするか。定額にすると精算の手間は激減しますが、地域差への配慮が要ります。
- 交通費と実費の精算方法:領収書の要否、社用車を使った場合の扱い、立替の締め日と支払日。
- 適用範囲:役員から新人まで、全員に同じ規程が適用されることを明記します。社長だけが突出して高い設計は、規程そのものの説得力を失わせます。
条文にすると、たとえば次のような形です。
規定例(旅費規程) 第○条(出張の定義)この規程において出張とは、会社の命令により、事業所から片道○km以上離れた現場、または宿泊を伴う現場で業務に従事することをいう。 第○条(出張日当)出張した者には、次の区分により出張日当を支給する。①宿泊を伴わない出張 1日につき○円 ②宿泊を伴う出張 1日につき○円
※規定例です。距離や金額、区分の分け方は、自社の現場の実態に合わせて調整が必要です。
この5つを決めて文書にすれば、旅費規程は数ページで完成します。むしろ大事なのは、決めた基準が現場の実感と合っているかどうかです。片道50kmが日常の会社と、県境を越えるのが年に数回の会社では、線を引く場所が違います。
就業規則・賃金規程には、どう落とし込みますか?
旅費規程は単体では機能しません。次の3点とセットで整えます。
- 就業規則からの委任:就業規則に「出張旅費については別に定める旅費規程による」と一文を置き、規程を正式な社内ルールとして位置づけます。
- 賃金規程との切り分け:出張手当は実費弁償として扱う旨を明記し、割増賃金の計算基礎に含めない整理を明確にします。ここを書かずに毎月固定額で払っていると、実質は給与の一部と評価されかねません。
- 移動時間の扱いとの整合:出張手当を払っていても、移動時間が労働時間にあたるかどうかは別の判断です。会社が集合を指示していれば労働時間になり得ます。線引きは現場への移動時間は労働時間?で整理しています。
遠方現場が多い会社では、会社に集合せず現場へ直接向かう形に切り替えることもあります。その場合の始業・終業の記録や規定の書き方は直行直帰の就業規則・規定例にまとめました。実際に、会社集合で移動時間が労働時間になり残業が上限を超えそうだった会社が、積み込み作業を外して直行直帰に切り替え、減った残業代を移動手当・出張手当で補う設計を提案した事例もあります(移動時間で残業45時間を超える現場を、直行直帰で立て直した事例)。労働時間だけ削って手取りが急に落ちると、法令は守れても人が辞めます。手当の設計は、その受け皿にもなります。
日給月給の会社では、遠方現場の日と地元現場の日で賃金の見え方が変わります。日給の時間単価への換算式まで含めて設計しておくと、給与計算が安定します(日給月給の建設業が就業規則に入れるべき賃金規定)。
一人親方に出張手当や遠方費を払う時は、何に気をつけますか?
県外の現場に、社員2人と一緒に付き合いの長い一人親方にも来てもらう。社長としては「同じ現場で同じだけ苦労してるんやから、同じ日当を出したろ」と考えるのが人情です。ただ、ここに落とし穴があります。
**請負で仕事を頼んでいる一人親方は、社員ではありません。**社員向けの旅費規程を当てはめて「出張日当○円」を払う形にすると、報酬の払い方が社員と同じになります。
- 制度としては:労働者かどうかは、契約書の名前ではなく実態で判断されます。厚生労働省の労働基準法研究会報告(昭和60年)は、欠勤すれば報酬が差し引かれ、残業すれば通常の報酬と別の手当が出るなど、報酬が一定時間働いたことへの対価と判断される場合には、使用従属性(雇われて働いている性質)を補強するとしています。社員と同じ規程で日当や手当を上乗せする払い方は、実態が雇用に近いと見られる材料の一つになり得ます。
- この会社はどう有利になるか:遠方でかかる宿泊費や交通費を、請負代金の中身として契約書や見積に明記しておけば、「仕事の完成に対して払う代金」という請負の形を崩さずに負担を分け合えます。
- 社長の毎日はどう変わるか:見積の時点で遠方分の費用が決まっているので、現場が始まってから「日当はなんぼ出るんですか」と交渉になりません。調査や労災の場面で、契約と支払いの説明に困ることもなくなります。
社員と一人親方で、書き分けるとこうなります。
| 社員 | 一人親方(請負) | |
|---|---|---|
| 根拠になる書類 | 就業規則・旅費規程 | 請負契約書・見積書・請求書 |
| 遠方の負担の払い方 | 出張日当・遠方手当として支給 | 請負代金に含める、または宿泊費・交通費を経費として別途精算 |
| 金額の決め方 | 規程の区分表どおり | 現場ごとに見積で合意 |
記載例(見積書・請負契約書の特記事項) 本工事(○○市)に係る宿泊費および交通費は、請負代金に含む。 または:本工事に係る宿泊費および交通費は、明細を付して別途請求するものとする。
※記載例です。取引の実態に合わせて調整が必要です。
指示の出し方や時間の拘束など、ほかの点でも雇用に近づいていないかは偽装請負にならないための一人親方契約チェックリストで点検できます。なお、一人親方側での経費や所得の扱い、会社側の支払いの税務処理は税理士の領域です。細かな扱いは顧問税理士にご確認ください。
整えた会社と、そのままの会社では何が変わりますか?
規程が無い会社の遠方現場は、こう進みます。見積の段階では「宿代くらい見とけばええやろ」で通し、いざ始まると職人から日当の話が出て、社長が渋々上乗せする。それが前例になって、次の現場ではもっと上を求められる。誰がいくらもらったかは口伝えで広がり、不公平感だけが残ります。
規程がある会社は違います。見積の段階で、日当と宿泊費を人数×日数で原価に積めます。遠方だから利益が薄くなる、という状態から抜けられます。求人票にも「遠方現場は出張手当支給(旅費規程による)」と書けるので、応募者から見た条件が明確になります。若手の採用に効く条件整備は若手採用に強い就業規則でも触れています。
何から始めればいいですか?
まずは、直近1年の遠方現場を3件ほど書き出し、そのとき実際にいくら渡したかを並べてみることです。だいたい、金額がそろっていません。そのバラつきこそが、規程を作る出発点になります。社員と一人親方が同じ現場に出ていたなら、それぞれに何の名目で払ったかも並べておくと、直すべき点が一度に見えます。
旅費規程は、就業規則からの委任、賃金規程との切り分け、移動時間の扱いまでそろって初めて会社を守ります。まとめて整えるなら建設業の就業規則作成のページもご覧ください。当事務所は建設業に特化し、出張手当の設計・活用を毎月のように扱っています。旅費規程を含む就業規則・付属規程の整備は顧問の基本料金内で対応しています(料金の考え方は料金ページをご覧ください)。「うちの現場だと、どこから出張にすべきか」という一点だけでも構いません。Zoom30分の無料相談で、御社の現場実態に合った線引きを一緒に決められます。税務上の取扱いや金額の妥当性については顧問税理士にご確認ください。最新の制度や金額は、必ず公式サイトでご確認ください。
参考(一次情報)
- 所得税法(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
- 所得税基本通達9-3 非課税とされる旅費の範囲(国税庁): https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/02/02.htm
- No.2508 給与所得となるもの(国税庁タックスアンサー): https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2508.htm
- 労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」昭和60年12月19日(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000xgbw-att/2r9852000000xgi8.pdf
- 労働基準法(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049
- モデル就業規則について(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/model/index.html
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