直行直帰の就業規則・規定例|建設業の労働時間管理と事業場外みなし
建設業で直行直帰を導入するときは、就業規則に指示・報告・記録・手当のルールを定めます。業務を伴わない自宅と現場の往復は原則として通勤ですが、指示された積込み等は労働時間です。事業場外みなしは労働時間の算定が困難な場合に限られ、現場の指示や日報・打刻で勤務状況を具体的に把握できる場合は認められにくいため、実際の始業・終業を記録します。
→ 自社の場合はどうなる? Zoom30分・無料相談で個別に整理できます従業員10人の電気工事会社。月曜の朝、資材置き場に職人が集まり、電線や工具を車へ積んで遠方の現場へ出発します。社長は次の現場の地図を見ながら、「家から直接行くほうが近い職人もいる。来週から集合をやめようか」と考えます。でも、会社へ来なくなったら、誰がいつ働き始めて、いつ終わったのか。「みなし労働時間にすれば残業代はいらない」と聞いたこともあり、就業規則のどこを直せばよいのかで手が止まります。
これは、直行直帰を検討するときに想定される場面です。切り替えるには、集合をなくす段取りと、現場の時間を記録する仕組みを一緒に決めます。この記事では、実際の解決事例を入り口に、就業規則の規定例と、給与の説明までの順番を整理します。
直行直帰にすると、どの時間の扱いが変わりますか?
朝の資材置き場への集合がなくなり、自宅から現場へ向かう。移動中に業務の指示に拘束されず、資材の運搬などの仕事も伴わないなら、その往復は原則として通勤の扱いになります。会社の指示で行う積込み・荷降ろしは、引き続き労働時間です。
気をつけたいのは、「直行の日だけど、途中で材料を取ってきて」と頼む日です。予定表に直行直帰と書いてあっても、業務の実態は変わっています。集合を義務づけて作業や移動をさせる場合も含め、会社の指揮命令下、つまり会社の指示で行動する時間かどうかで判断します。場面ごとの詳しい線引きは、現場への移動時間は労働時間?建設業の指揮命令下の判断基準で確認できます。
導入前には、職人ごとに次のように整理してみてください。
| 確認すること | 決めておく段取り |
|---|---|
| 朝の積込みを誰がするか | 現場への納品方法も含め、担当と作業時間を確認する |
| 会社に集合する日が残るか | 直行の日と集合する日を、事前の指示で分ける |
| 帰りに荷降ろしを頼むことがあるか | 立寄りと業務終了までを記録できるようにする |
| 現場で最初と最後に何をするか | 指示された準備・片付けも含めて始業・終業を確認する |
直行する職人の積込みを別の職人に任せる場合は、その人の負担も確認します。会社全体では誰かの早出が増えている、ということがないようにするためです。「明日はどこへ行き、何をするか」がそろえば、朝になってから集合場所を聞かれるやり取りも減らせます。社用車を持ち帰って直行する場合の運転前後の酒気帯び確認は、建設業のアルコールチェック義務と社用車規程で整理しています。
実際に直行直帰へ切り替えた会社では、何を変えましたか?
解決事例:移動時間で残業45時間を超える現場を、直行直帰で立て直した事例
中峯社労士事務所で扱ったこの事例は、外国人を受け入れている建設会社からの相談です。会社に集合して遠方現場へ往復する働き方で、移動時間が積み上がり、残業を45時間以内に抑えることが難しくなっていました。
そこで、対象の外国人従業員は道具・材料の積込みと積下ろしを担当しない形にして、現場への直行直帰を指示するよう提案しました。現場での作業はそのままに、出発前と帰着後の担当業務・動き方を変えたことで、残業時間を大幅に短縮できました。
ただし、切替後に別の問題が起きています。それまでの残業代が大きく減り、従業員から給与の減額についてクレームが出ました。このため、移動手当や出張手当による補填を提案しています。公開している事例では、具体的な補填額や切替後の残業時間数までは示していません。
自社で参考にしたいのは、業務の組替えと給与への影響を一緒に見ることです。「来週から集合しなくてよい」と伝える前に、切替後の明細がどうなるかまで用意すれば、社長は働き方と給料を続けて説明できます。
会社に来ない職人の始業・終業は、どう記録すればよいですか?
夕方、職人から「終わりました」とだけ報告が届く。その一言では、片付けまで終えたのか、これから資材置き場へ戻るのかが分かりません。記録するのは、実際の業務の始まりと終わりです。
厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」は、会社側が実際に確認する方法、またはタイムカード等の客観的な記録を基礎にする方法を原則としています。ガイドラインの公的解説資料では、自己申告制を使う場合の説明・実態調査・補正等も示されています。
建設現場での運用例は、次のように組み合わせる形です。特定のアプリや写真の使用が、法律で一律に指定されているわけではありません。
| 記録の方法 | 残す内容・使い方 | 会社が確認すること |
|---|---|---|
| スマホ打刻 | 業務開始・終了の時刻と現場名を、その場で記録する | 打刻漏れや修正履歴、業務前後の記録漏れがないか |
| 日報 | 作業内容、実際の休憩、立寄り、指示された追加業務を残す | 打刻した時刻と、その日の動きが整合しているか |
| 写真 | 撮影可能な現場で、作業状況を示す補助資料として使う | 撮影時刻と送信時刻を混同せず、日報等と照合する |
| 入退場記録・管理担当者の確認 | 現場にいた時間や業務の状況を照合する | 滞在時間と労働時間に差があれば、その理由を確かめる |
スマホでも、後日まとめて時刻を手入力するだけなら、客観的な打刻記録と同じには扱えません。写真も、その瞬間の状況を補う資料です。写真がない時間を休憩と決めたり、現場にいた時間をすべて労働時間と決めたりせず、実際の仕事と突き合わせます。
自己申告制によらざるを得ない場合は、少なくとも次を運用に入れます。
- 職人と管理担当者に、準備・片付けを含む労働時間の考え方と記録方法を説明する。
- 申告と実態が合っているか必要に応じて調べ、特に入退場記録等と大きな差があれば確認して補正する。
- 「この時間までしか書けない」という申告上限を設けず、少なく申告する慣習がないかも確かめる。
例えば、終業打刻後に会社が日報作成や写真整理を指示していれば、その仕事も記録の対象です。打刻を忘れたときは、実際の時刻・理由・確認者を残して直す、という手順も用意しましょう。社長が月末に全員へ聞き直す負担を減らすには、記憶が新しいうちに不足を埋める運用が役立ちます。
建設業の直行直帰に、事業場外みなし労働時間制は使えますか?
「会社には来ないけれど、朝の作業指示は出している。職長も現場にいて、帰りには日報が届く」。このような働き方なら、まず実際の労働時間を把握する方法を考えます。
事業場外みなし労働時間制は、会社の外で働き、労働時間を計算することが困難な場合に適用される制度です。原則は所定労働時間、つまり会社が定めた勤務時間を働いたものと扱います。ただし、通常それを超える時間が必要な業務なら、その業務に通常必要な時間で扱います。根拠は労働基準法第38条の2です。
阪急トラベルサポート事件から確認できること
最高裁第二小法廷の平成26年1月24日判決では、旅行添乗員について制度の適用が否定されました。判断では、事前に具体的な日程・業務が決まっていたこと、業務中に一定の変更が必要なら報告して指示を受けること、終了後に詳しい日報を提出し、その正確性も確認できたことなどが考慮されています。単に携帯電話を持っていたことだけが理由ではありません。判決文(裁判所)
この考え方を建設現場に当てはめると、次が確認点になります。
- 開始前:現場、作業内容、開始予定をどこまで具体的に指示しているか。
- 業務中:職長が時間を把握しているか、変更時には会社が指示しているか。
- 終了後:打刻・日報等で勤務状況を把握し、内容の正確性を確認できるか。
行政通達(昭和63年1月1日基発第1号)でも、何人かのグループで事業場外労働に従事し、その中に労働時間を管理する者がいる場合は、「労働時間を算定し難いとき」に当たらない例として挙げられています。職長が現場で時間を管理している班は、この例に近い形です。これらにより勤務状況を具体的に把握できる現場では、「時間を計算するのが困難」とはいえず、みなし制度はなじみにくいと考えられます。これは添乗員の判決を踏まえた建設業での検討の視点であり、建設業全体への適用を一律に否定するものではありません。
また、制度が使えても、残業代が一律に不要になるわけではありません。法定労働時間を超えるみなし時間を設定する場合は、通常の労働時間制と同じく36協定の締結・届出と時間外の割増賃金が必要です。厚生労働省の資料「事業場外みなし労働時間制の概要」にも明記されています(※2026年9月時点)。自社で把握できる時間を記録する運用なら、社長は「みなしにしたから払わない」という説明に頼らず、働いた内容に沿って給与を説明できます。
直行直帰のルールは、就業規則にどう書けばよいですか?
朝は直行、帰りは荷降ろしのため会社へ。こうした日があるなら、規則にも予定変更を記録する入口が必要です。軸にするのは、誰が指示するか・何を報告するか・どう記録するか・手当をどう扱うかです。
以下は本記事で作成した規定例です。法令の条文や公的なひな形の転載ではありません。自社の始業・終業、休憩、賃金規程と合わせて調整が必要です。
規定例:直行直帰の指示と報告
会社は、業務上必要な場合、従業員に直行直帰を指示し、又は申出により承認する。会社は、対象となる現場、勤務予定及び報告先を明示する。従業員は、立寄り、追加業務その他予定に変更が生じた場合、速やかに報告する。
規定例:勤務の記録と手当
従業員は、会社が指定する方法により、実際の始業・終業時刻、休憩及び業務内容を記録する。指示された準備、積込み、片付け等の時間も記録し、会社は記録の不足・不一致を確認して実態に沿って補正する。直行直帰に伴う手当・費用の取扱いは、別に定める賃金規程・旅費規程による。
ここでいう「始業」は、門を通った時刻に自動的に固定する意味ではありません。現場に早く着いて私用で過ごす時間と、指示を受けて準備を始める時間は分けます。逆に、朝礼前の準備や終了後の報告が業務なら、予定の作業時間の外だからと記録から落とすことはできません。
運用表には、通常の直行直帰、途中の資材受取り、帰りの荷降ろしという記入例を添えます。アプリが使えない日には誰にどう伝えるかも決めておけば、職人は迷わず記録でき、社長も人によって違う説明をせずに済みます。
残業代が減る分は、移動手当や出張手当でどう考えますか?
最初の給料日に「遠くまで通っているのに、前より減っている」と言われる。この問題は、集合をやめる前の試算で見つけたいところです。
まず、切替前後の支給見込みを並べます。基本の賃金、残る残業代、新たに設ける手当、立替費用を分け、どの項目がなぜ変わるのかを示します。手取りは支給総額だけで決まらないので、同額の手当を足せば必ず同じ手取りになる、と約束しないことも大切です。
手当を検討するときは、次の目的を分けて整理します。
- 遠方へ通う負担や給与への影響を踏まえ、会社として設ける移動手当。
- 出張に伴う費用等を想定し、旅費規程で支給条件を決める出張手当。
- 実際に労働した時間に対して支払う賃金と、必要な割増賃金。
移動手当や出張手当を設けても、実際には業務である移動や積込みを労働時間から外すことはできません。また、手当の名称だけで税務上の扱いや残業代の計算上の扱いを決めず、何のために、どの条件で支払うのかを確認します。旅費規程の項目は建設業の出張手当・日当の決め方にまとめています。個別の税務判断は税理士へ確認してください。
支給条件を固めたら、就業規則だけでなく、賃金規程や労働条件通知書の内容も実際の支給とそろえます。給与への影響が大きい変更は、手当・日当を下げる不利益変更の進め方も参考に、本人への説明を含めて進め方を整理しましょう。社長にとっては、給料日の不満をその場の上乗せで収める運用から、現場が決まった時点で費用と支給条件を説明できる運用へ変える作業です。
自社で始めるには、何から手を付ければよいですか?
明日の現場から全員を直行直帰にする前に、最近の遠方現場を一つ選び、出発から帰宅までの動きを紙に書いてみてください。誰が積み、誰が運び、どこで業務を終えるかが出発点です。
- 集合・積込み・立寄りを洗い出し、直行直帰にできる担当と日を決める。
- 実際の始業・終業、休憩、追加業務を記録する方法と確認担当を決める。
- 切替前後の給与を試算し、手当の条件と本人への説明内容を整理する。
- 規則と書面を整え、開始後は記録漏れや給与への影響を確認する。
記録がそろったら、時間外労働上限規制の実態チェックリストで残業の管理も確認できます。移動を変えても、現場作業の延長や追加の立寄りが増えれば、実際の残業は別途見ていく必要があります。
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参考(一次情報)
- 労働基準法・第38条の2等(厚生労働省法令等データベース): https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=73022000
- 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/070614-2.html
- 労働時間適正把握ガイドライン解説資料(和歌山労働局・国土交通省近畿運輸局掲載): https://wwwtb.mlit.go.jp/kinki/content/000009703.pdf
- 平成24年(受)第1475号・平成26年1月24日第二小法廷判決(裁判所): https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-83887.pdf
- 裁量労働制の現行制度の概要及び経緯等について・「事業場外みなし労働時間制の概要」の頁(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000825479.pdf
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