建設業の労働条件通知書・雇用契約書の書き方|就業場所と変更の範囲
建設業の労働条件通知書は、雇入れ直後の現場・業務と、契約期間中に変わり得る地域・業務の範囲を分けて記載します。2024年4月改正では、有期契約の更新上限や、対象者への無期転換申込機会・転換後の条件の明示も追加されました。日給・手当・勤務時間は就業規則と照合し、厚労省の建設労働者用モデル様式を自社の実態に合わせて使います。
→ 自社の場合はどうなる? Zoom30分・無料相談で個別に整理できます従業員7人の防水会社。現場から戻った社長が、元請から届いた安全書類の提出依頼を開きます。「雇用契約書も添付してください」。これまでは雇うときに「日当はこれだけ。現場は毎回違うから」と伝えてきました。ネットのひな形に会社名を入れ、日給を書き込んだところで手が止まります。「就業場所」は今日の現場か、会社の住所か。その下には「変更の範囲」という見慣れない欄もある——。現場が変わる会社で起こり得る場面です。
迷うのは、書類の言葉と、普段の働かせ方がつながっていないからです。この記事では、建設業の労働条件通知書・雇用契約書について、現場と業務の書き分け方から、日給、直行直帰、雨天の扱いまで順に整理します。提出期限に追われて欄を埋める前に、職人へ説明できる一枚にしていきましょう。
職人を雇うとき、口約束では足りないのですか?
「日当は伝えたし、本人も了解している」。それでも、労働条件を明示する義務への対応は必要です。労働基準法第15条は、契約を結ぶ際に賃金・労働時間などを示すことを求めています。元請へ提出することになって初めて必要になる書類、という位置づけではありません。
労働条件通知書は、会社が働く条件を本人に示す書類です。雇用契約書は、双方で合意する条件を記録するために使います。「雇用契約書兼労働条件通知書」として整える場合も、必要な事項をそろえ、本人へ交付することを確認してください。表題や署名欄だけでは、条件の書き漏らしを補えません。
労働基準法施行規則第5条に定める事項のうち、書面交付が必要な主な内容は次のとおりです。
| 欄 | 書いておく内容 |
|---|---|
| 契約期間 | 期間の定めの有無。有期契約なら始まりと終わり |
| 有期契約の更新 | 更新の有無・判断基準、更新上限の有無と内容 |
| 就業場所・業務 | 雇入れ直後の場所・仕事内容と、それぞれの変更の範囲 |
| 時間・休日 | 始業・終業、所定時間外労働の有無、休憩、休日・休暇、交替制の場合の交替方法 |
| 賃金 | 決定・計算・支払方法、締め日・支払日 |
| 退職 | 退職に関する事項。解雇の事由も含む |
昇給も明示事項ですが、労働基準法上は上表の書面交付の扱いと区別されます。退職金、賞与、作業用品等の本人負担、安全衛生、休職などは、会社に定めがある場合に明示が必要です。対象者に応じた追加事項もあるため、最終的にはモデル様式の各欄と注意書きで照合します。
電子メール等による明示は、本人が希望し、記録を出力して書面にできる場合に使えます。会社が楽だからという理由だけでメールに統一することはできません。印刷・保存しやすいPDF等を添付し、希望の確認と受信確認を残すと実務が回しやすくなります。厚労省の電子明示リーフレットでも、この確認を案内しています。
口約束の怖さは、社長と職人が同じ言葉を別の意味で覚えることです。「現場は変わる」を、社長は県外への配置も含むつもりで伝え、職人は近隣だけだと思っている。労働基準法第15条には、明示された条件が事実と違う場合、労働者が直ちに契約を解除できる定めもあります。最初に場所と条件を一緒に確認すれば、翌週の現場配置を決める電話が、入社時の約束をめぐる押し問答になりにくくなります。
2024年4月の改正で、どの欄が増えたのですか?
去年使ったファイルをコピーし、名前と日付だけ変える。そのやり方では、古い様式の空欄そのものに気づけません。2024年4月1日からの改正では、誰に、いつ示すかによって追加事項が分かれています(※2026年9月時点)。
| 対象・タイミング | 追加された明示事項 |
|---|---|
| すべての労働者の契約締結時・有期契約の更新時 | 就業場所と業務の変更の範囲 |
| 有期契約の締結時・更新時 | 更新回数や通算契約期間の上限の有無と内容 |
| 無期転換申込権が発生する契約の更新時ごと | 無期転換を申し込めることと、転換後の労働条件 |
有期契約とは、終わりの日を定めて雇う契約です。更新上限を新たに設けたり短くしたりする場合は、あらかじめその理由を説明する必要があります。「今回は更新欄に上限を足しておこう」と、本人への説明を飛ばして処理しないようにします。
無期転換は、期間の定めのない契約へ切り替えることです。対象者には、申し込めることだけでなく、切替後の賃金や働く条件も明示します。**転換後の条件の明示は義務であり、正社員等とのバランスを考慮した事項の説明に努めることとは別です。**この区別は厚労省パンフレットの10〜11ページに示されています。
社内では、有期契約の人について「次の更新日・更新上限・無期転換の確認」を同じ一覧にしておくと便利です。給与の締め処理と同じように、更新前に見る欄を決めておけば、忙しい現場の合間に毎回ゼロから調べずに済みます。
現場が毎回変わる会社は、就業場所と業務の変更の範囲をどう書きますか?
来週は市内の屋上防水、その後は隣の県の集合住宅。同じ職人が複数の現場を回るなら、最初の現場だけを書いて終わりにはできません。「雇入れ直後」は働き始める時点、「変更の範囲」は契約期間中に配置が変わり得る範囲として考えます。
次は、大阪府内と兵庫県内の現場を担当し、将来は現場管理も任せる防水会社を想定した例です。厚労省様式からの引用ではありません。
規定例(労働条件通知書の就業場所・業務欄) 就業場所:(雇入れ直後)大阪府○○市所在の○○改修工事現場。(変更の範囲)大阪府内および兵庫県内の会社が施工する工事現場、ならびに本社資材置場(所在地:○○)。 従事する業務:(雇入れ直後)防水工事の施工、下地処理、施工に伴う資材の搬入・片付け。(変更の範囲)左記業務および防水工事の現場管理業務。
※自社の施工地域、実際の担当作業、本人と合意する範囲に合わせて調整が必要です。資格や技能を要する作業を、この記載だけで任せられるという意味ではありません。
直後から複数現場を回る予定なら、その働き方が分かるよう、地域や対象現場を具体化します。事務所で勤務しない職人の欄に、会社の住所だけを機械的に入れると、普段どこで働くのかが伝わりません。
書き分けの出発点は、次の三つです。
- 地域・職種に限定がある:対象の都道府県や業務を具体的に書く。
- 限定を設けない:会社の就業場所・業務の全体が伝わるように示す。範囲を限定して採用する人にまで同じ文言を使わない。
- 変更しない:変更がない旨を書く。ただし、その前提と実際の現場配置が一致しているか確認する。
一時的な出張・研修・臨時の応援と、通常の配置の変更も分けます。厚労省の説明では一時的な変更先は「変更の範囲」に含めませんが、日常的に各地へ配置する働き方を、すべて出張という名称で片付けるのは避けます。
また、業務を「建設作業全般」で済ませると、防水の施工を続けるのか、現場管理も任せるのかが伝わりません。どこまで任せる予定かを先に言葉にしておくと、職人に次の役割を相談するときも、入社時の説明から話をつなげられます。
日給と手当は、どこまで細かく書けばよいですか?
初回の給料日に「聞いていた日当には、現場手当も入っていたんですか」と聞かれる。これを防ぐには、金額だけでなく、何に対して、どの単位で払うかを分けます。
| 項目 | 記入前に決めること |
|---|---|
| 基本の日給 | 本人の日給額と、その日給に対応する所定労働時間 |
| 現場・資格等の手当 | 手当名、金額、月額か日額か、支給条件 |
| 時間外等の賃金 | 通常の賃金と区別した計算方法・割増率 |
| 集計と支払 | 出勤等の集計方法、締め日、支払日、支払方法 |
| 欠勤・途中退勤・休業 | それぞれの計算方法と、確認する賃金規程の箇所 |
たとえば基本日給を「○円/日」、資格手当を「○○資格を保有し、所定の届出をした者に○円/月」と別欄にすれば、何が上乗せされるのかが見えます。これは記入の考え方の例で、金額や支給条件は会社で決めた内容を入れます。手当を残業代の計算に入れるかどうかは、現場手当・資格手当も残業代に入る?で整理しています。
「日当」という呼び方にも注意してください。普段の仕事への日給と、出張に伴う日当が混ざるなら、書類では「基本日給」「出張日当」と名前を分け、参照する規程も示します。出張の区分、宿泊費、精算方法の設計は出張手当・日当と旅費規程の決め方で整理しています。
ここでは通知書に何を書くかをそろえ、時間単価への換算など計算の詳細は日給月給の会社が整える賃金規定で確認してください。本人の金額と会社共通の計算ルールをつなげると、給与担当者が社長に「この人だけ、どう計算するんでしたか」と聞きに来る回数を減らせます。
直行直帰と雨天中止は、通知書にどう書けばよいですか?
朝、雨が降り始めた。現場に着いた職人もいれば、まだ自宅にいる職人もいる。このとき必要なのは、「今日は休み」の一言で終わらない手順です。通知書には勤務時間と扱いの入口を示し、具体的な連絡・記録方法を就業規則や勤務ルールにつなげます。
直行直帰については、始業・終業・休憩の時刻を記載したうえで、現場へ直接向かう日と、資材置場で準備してから向かう日を区別します。「直行直帰だから移動も準備も一律に労働時間に入れない」という書き方は適切ではありません。労働時間は、会社の指示の下にあるかどうかという実態で判断されます。会社の指示による準備や片付けも確認対象です。大阪労働局掲載のガイドラインに、この考え方が示されています。
規定例(通知書に添える勤務ルールの一部) 会社が直行直帰を指示した日は、指定された現場で勤務する。従業員は、会社指定の勤怠記録方法により実際の始業・終業を記録する。会社の指示による資材準備・片付け等がある場合は、その作業時間も記録する。 雨天等による作業中止時は、担当者が中止・待機・他業務への変更を連絡する。担当者は中止理由と勤務状況を確認し、賃金の取扱いは賃金規程第○条に基づいて本人に説明する。
※規定例です。勤怠の確認方法、連絡担当者、雨天時の判断手順と賃金規程を実際に整え、参照条文を特定してから使ってください。この文だけで雨天休業の支払条件が完成するわけではありません。
雨の日の記入前には、「元から休日だったのか」「勤務予定日を会社が中止したのか」「現場で待機や別作業をしたのか」を分けます。休業中の賃金や休業手当の扱いは、理由・勤務状況・会社の規程をそろえて社労士に確認し、適用する支払条件を具体化してください。「雨なら全部無給」「日給だから出勤日数だけ」と先に決めて欄を埋めないことが大切です。
記録の仕組みは直行直帰の就業規則・規定例にまとめています。誰が連絡し、何を記録し、どの規程で精算するかがつながれば、雨の朝も、社長が全員から同じ質問を受け続ける状態を減らせます。
雇用契約書と就業規則が違っていたら、どちらが優先されますか?
「今回は新人だから、契約書には手当なしと書いておこう」。ところが就業規則には、その新人も対象となる資格手当の支給条件がある。この場合、本人の署名をもらったから契約書どおりでよい、とはいえません。
労働契約法第12条は、就業規則の基準に達しない労働条件を定めた契約について、その部分を無効とし、就業規則の基準によると定めています。契約書全体が無効になるという意味ではなく、下回っている部分の扱いです。
仮に、就業規則が「所定の資格を持ち、所定業務に従事する者へ資格手当を支給する」と定め、その職人も条件を満たしているなら、個別の契約書だけに「資格手当なし」と書いて済ませることはできません。通知書を作る前に、適用される規則と、対象者・条件を照合します。
机に並べるのは、就業規則、賃金規程、本人の通知書の三つです。「休日」「所定労働時間」「手当」「休業時の扱い」を横に見比べ、違いがあれば理由を確認します。空欄を埋めるためだけに、新しい条件を作らないようにしてください。
外国人の職人に渡す場合は、書類同士の一致に加えて、本人に伝わる説明も整理します。言語面の工夫や説明項目は外国人向け就業規則・雇用契約書の作り方をご覧ください。共通ルールと本人の条件が一致していれば、採用のたびに社長の記憶で例外を足す必要がなくなり、説明も給与処理もそろえやすくなります。
厚労省のモデル様式を使って、何から仕上げればよいですか?
元請への提出期限が迫っているなら、まず本人一人分の勤務と賃金が分かる資料を机に置きます。厚労省の主要様式ダウンロードコーナーには、建設労働者用の常用・有期雇用型と日雇型が用意されています。日給かどうかだけで選ばず、雇い方に合う様式から始めてください。なお、日々雇い入れる人については、厚労省のQ&Aで「雇入れ日の就業場所と業務を明示すれば足り、変更の範囲の明示は不要」とされています。期間を定めた短期雇用とは扱いが違うため、線引きは日雇い・短期の手元さんを入れるときで確認してください。
同コーナーには、2026年9月30日まで使える様式と、10月1日以降に使う様式が区別されています。日雇型は引き続き使用可能と案内されています。保存済みの古いファイルを使い回さず、使用時期の案内も確認します(※2026年9月時点)。
- 雇い方を確認する:契約期間、更新の有無、本人の担当業務を整理する。
- 現場を並べる:雇入れ直後の場所と、今後配置する地域・業務を書き分ける。
- お金と時間を照合する:日給・手当・勤務時刻・雨天の扱いを、就業規則や賃金規程に合わせる。
- 本人と読み合わせて交付する:遠方現場や雨の日を例に説明し、会社にも同じ内容を残す。
最後は「この紙を見れば、来週の現場と初回の給料について同じ説明ができるか」で確認します。参照する規程があるなら、本人がどこで読めるかまで案内してください。
中峯社労士事務所では、就業規則の作成・改定を顧問の基本料金内で行っています。通知書と会社のルールを一緒に整える考え方は、建設業の就業規則作成をご覧ください。Zoom30分の無料相談では、自社の現場配置や日給の決め方をもとに、どの欄から直すかを一緒に整理できます。次の採用でひな形を開いたとき、社長が同じ欄で手を止めずに済む形を作っていきましょう。最新の制度や金額は、必ず公式サイトでご確認ください。
参考(一次情報)
- 労働基準法・第15条(日本法令外国語訳データベースシステム): https://www.japaneselawtranslation.go.jp/ja/laws/view/2236
- 2024年4月からの労働条件明示のルール変更 備えは大丈夫ですか?(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001298244.pdf
- 労働条件明示等に関するQ&A(日雇い労働者の変更の範囲/厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001156119.pdf
- 労働条件の明示がFAX・メール・SNS等でもできるようになります(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/content/000481172.pdf
- 労働契約法・第12条(日本法令外国語訳データベースシステム): https://www.japaneselawtranslation.go.jp/ja/laws/view/1992
- 主要様式ダウンロードコーナー・建設労働者用労働条件通知書(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudoukijunkankei.html
- 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(厚生労働省・大阪労働局掲載): https://jsite.mhlw.go.jp/osaka-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/hourei_seido/jikan2/kokuji/kokuji2.html
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