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手当・日当を下げる就業規則の不利益変更|建設会社の同意と説明の進め方

テーマ: 建設業の就業規則作成
30秒で結論

就業規則を変えるだけで手当や日当を一方的に下げることは原則できません。例外は、変更後の規則を周知し、不利益の程度・変更の必要性・内容の相当性・交渉の状況などから変更が合理的といえる場合です(労働契約法9条・10条)。個別同意も同意書の署名だけでなく、事前の説明を踏まえた自由な意思かが問われるため、職人ごとの新旧試算と経過措置を用意して進めます。

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従業員10人の設備会社。現場が終わった夕方、社長が机に給与明細と就業規則を並べる。残業代の計算を正しくするため、日当を「基本日当+固定残業代」に分けたい。会社集合から現場へ向かう移動も見直し、手当を整理したい。けれど、説明の練習をしただけで、職人の「給料を下げるつもりか」という顔が浮かび、ペンが止まる——。これは、建設会社が賃金の仕組みを見直すときに起こり得る場面です。

「正しく直したいのに、どう説明すればよいのか」。この記事では、就業規則の改定のうち、従業員に不利になる変更に絞り、変更できる条件と、試算・説明・同意・届出の進め方を整理します。

就業規則を変えれば、手当の廃止や賃金の引き下げはできますか?

「来月から現場手当は廃止します」。朝礼で伝え、新しい規則を配れば済むのでしょうか。就業規則を書き換えるだけで、従業員の労働条件を一方的に下げることは原則できません。 これが労働契約法9条の出発点です。労働条件の変更は、会社と従業員の合意によるのが原則です(同法8条)。

一方、同法10条には例外があります。変更後の規則を周知し、変更が合理的といえる場合です。周知とは、従業員が規則の内容を知ることができる状態にすること。合理性は「社長が必要と思ったか」だけでは決まりません。

合理性を考える要素建設会社で整理すること
従業員が受ける不利益の程度誰の、どの条件が、どれだけ不利になるか。特定の職人に負担が集中しないか
変更の必要性なぜ今の仕組みを続けられないのか。他の方法を検討したか
変更後の内容の相当性見直し方が目的に見合うか。急な減収を和らげる手当や経過措置があるか
労働組合等との交渉状況、その他の事情どのように説明し、何を話し合い、出た意見にどう対応したか

厚生労働省が紹介する第四銀行事件の考え方でも、不利益を補う措置や他の労働条件の改善、交渉の経緯などが総合的な判断材料とされています。どれかに丸が付けば変更できる、というチェック式の許可制度ではありません。

また、個別の契約で「就業規則の変更では変えない」と合意した条件は、別途確認が必要です。同法10条ただし書にも扱いが定められています。労働契約法(e-Gov法令検索)

「法律に合わせたい」という目的と、「今の賃金を下げてよいか」は分けて考えます。この整理を先にしておけば、社長は朝礼で変更を言い切った後に撤回する事態を避けやすくなります。

固定残業代の導入や手当の統合では、何を比べればよいですか?

社長の試算では「日当の総額は同じ」。ところが職人は「忙しい月も今までと同じだけ出るのか」と尋ねます。比べるのは名称やある月の総額だけでなく、同じ働き方をしたときの変更前後の条件です。

よくある見直し不利益が隠れやすい箇所説明前に用意する比較
日当を基本日当と固定残業代に分ける通常の仕事に対する賃金部分や、残業した場合の支給額が変わる現行の契約内容と新しい内訳、残業の少ない月・多い月の試算
現場手当・資格手当などを統合する対象者や支給条件の変更で、これまで受け取っていた人が減額になる手当ごとの目的・対象者・支給条件と、職人ごとの差額
変形労働時間制を導入する日・週の所定労働時間や休日配置、時間外賃金の計算が変わる新旧の勤務カレンダーと、繁忙期・閑散期の給与試算
会社集合から直行直帰へ変える集合・積み込み等の担当や移動の実態が変わり、給与にも影響する変更前後の一日の動き、時間の記録、減る賃金と補う手当

固定残業代は、一定の残業への対価をあらかじめ定額で払う仕組みです。導入そのものと、既存の日当の一部をそこへ組み替える変更は分けて確認します。制度の設計は建設業の固定残業代の決め方で扱っています。

変形労働時間制は、一定期間の中で労働時間を配分する制度です。不利益変更への対応だけで制度の導入手続きが済むわけではありません。1年単位の変形労働時間制で、カレンダーや協定などの論点を確認してください。

手当の統合は、まず「何に対して払っていたか」を言葉にします。統合後の手当を残業代の計算に入れるかは、現場手当・資格手当も残業代に入る?割増賃金の基礎で確認できます。雇用形態ごとの手当の整理は同一労働同一賃金と就業規則の見直しへ譲ります。同じ額を受け取る月だけでなく、遠方現場が続く月や出勤日数の少ない月も比べれば、社長は職人からの「自分の場合は?」に明細を示して答えられます。

就業規則の変更は、同意書に署名をもらえば十分ですか?

夕方、出勤していた職人を集めて「内容は説明したので、ここに名前を書いて」。その場で全員が署名しても、それだけで安心はできません。

山梨県民信用組合事件(最高裁第二小法廷・平成28年2月19日判決)は、賃金・退職金に関わる不利益変更への同意について、署名押印などの行為だけで直ちに判断せず、労働者の自由な意思に基づくものと認められるかを客観的に検討する考え方を示しています。ここでは判決の要旨を紹介しています。

見るのは、不利益の内容と程度、同意に至る経緯や方法、それ以前に行われた情報提供・説明の内容などです。建設会社なら、少なくとも次を本人が確認できるようにしておきます。

  • 自分の基本日当・各手当・支給条件が、どう変わるのか。
  • 同じ勤務条件なら、変更前後で支給額がどう違うのか。
  • なぜ変更が必要で、ほかにどのような案を検討したのか。
  • 調整手当があるなら、いつまで支給され、終了後はどうなるのか。
  • 疑問を誰に聞けるのか。持ち帰って検討し、改めて相談できるか。

同意書には「就業規則の変更に同意します」とだけ書かず、対象の条項、変更前後の内容、実施予定日、経過措置、説明に使った資料を特定できるようにします。本人が何への同意を求められているか分からない書面は避けてください。

説明資料の受領確認、説明会の出席記録、変更への同意は、それぞれ別の事柄です。出席簿の署名を同意の代わりにせず、本人の回答を分けて残します。分からない用語をその場で聞けるようにしておけば、社長も「判をもらったから大丈夫」と考える前に、説明の足りない箇所を見つけられます。

調整手当や経過措置で、急な減収をどう和らげますか?

直行直帰に変わり、帰宅は早くなった。けれど給料日に通帳を見た職人から「家の支払いは変わらない」と言われる。労働時間の見直しと、生活に及ぶ影響は一緒に考える必要があります。

経過措置とは、新しい条件へ移る途中の負担を和らげる措置です。一定の差額を調整手当で補う、段階的に変更するなどの方法が考えられます。厚生労働省が紹介するみちのく銀行事件でも、大きな不利益を受ける人への経過措置などが問題となりました。ただし、手当を付ければ、どの変更でも合理的になるわけではありません。

手当を決める前にそろえる比較表

職人ごとに、次の項目を一枚にまとめます。ここでの並べ方は説明用の作例であり、行政の指定様式ではありません。

比較する項目書き込む内容
試算の前提出勤日数、残業時間、現場条件など、新旧でそろえた条件
変更前・変更後基本日当、各手当、時間外賃金、支給総額
差額への対応調整手当で何をどこまで補うか、対象者と算定方法
経過措置の終了後手当がなくなる時期と、その後の支給額の見込み

「手取りを守る」と説明する場合も、まずは支給総額を比べ、控除後の受取額とは区別して示します。条件によって変わる試算額を、そのまま毎月の手取り保証として約束しないことが大切です。

調整手当の規定例(条文イメージ)

今回の賃金制度変更に伴う減額を緩和するため、別表に定める対象者に調整手当を支給する。対象となる賃金項目、比較条件、算定方法、支給開始日および終了日、期間中の取扱いは別表に定め、対象者へ書面で説明する。

これは規定の骨組みです。自社の条件に合わせた調整が必要で、別表を空欄のまま使うことはできません。名称だけの手当にせず、担当者が同じ計算を再現できる内容にします。変更への合意や合理性の検討も、別に必要です。

既存事例から参考になる考え方

当事務所の移動時間の課題を直行直帰で見直した事例では、積み込み等の担当を変えて直行直帰へ移行した結果、残業代が減り、従業員から給与減額への不満が出ました。そこで、移動手当・出張手当で補う対策をご提案しています。

参考になるのは、働き方を直す際に、減収を補う設計も併せて考えた点です。手当の額や期間、同意取得の詳細は掲載していないため、そのまま他社に当てはめることはできません。自社で終了後まで試算しておけば、社長は給料日の後に慌てて追加の約束をするのを避けやすくなります。

説明会・記録・同意書・変更届は、どの順番で進めますか?

現場が分かれていて、全員が同じ日に事務所へ戻らない。そんな会社では、一度の説明会で伝えたつもりになりやすいものです。改定全体の手順は就業規則の見直し・改定の進め方にまとめています。ここでは、賃金を下げる可能性がある部分で残す資料と対応を整理します。

  1. 変更案と職人別の試算を作る。 現行の規則・契約書・明細を照合し、減額になる項目と理由、経過措置をまとめます。
  2. 共通説明と個別説明を分ける。 説明会では変更の目的と全体像を伝え、本人の金額は個別に説明します。欠席者にも説明の機会を設けます。
  3. 質問・反対意見を受け、案を見直す。 質問、会社の回答、修正した点を記録します。持ち帰って検討できる時間も確保します。
  4. 個別同意を求める場合は、具体的な変更内容を示す。 回答の有無と内容を残し、同意がない人を一律に同意済みと扱いません。その人への適用は、合理性と周知の枠組みで別に検討します。
  5. 法定の意見聴取・届出と、変更後の規則の周知を行う。 個別同意の記録と、届出用の意見書を分けて管理します。

常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成時だけでなく、変更時にも労働基準監督署への届出が必要です。会社全体の合計人数ではなく、事業場単位で判断します(労働基準法89条、※2026年9月時点)。意見書のもらい方や届出の具体的な手順は就業規則の届出と意見書の手順にまとめています。

変更については、過半数労働組合があればその組合、なければ過半数代表者(従業員の過半数を代表して意見を述べる人)から意見を聴き、届出に意見書を添えます(同法90条)。この意見聴取は、各人の賃金引き下げへの同意を集める手続きとは別です。

届出をしただけで、不利益変更の合理性まで認められるわけでもありません。労働契約法10条による変更では周知も条件になるため、実施予定日から逆算して、現場に出る職人も改定後の規則を確認できるようにします。

保管するのは同意書だけでなく、説明に使った版の規則・比較表・説明日・質問と回答・案の修正履歴です。給与担当者にも確定した内容を渡しておけば、社長が給料日のたびに「誰にどこまで説明したか」を思い出す手間を減らせます。

職人との不信感につながる、やってはいけない進め方は何ですか?

「来月の給与計算に間に合わせたい」。締め日が近づくほど、説明より書類を先に片付けたくなります。しかし、次の進め方は避けてください。

避けたい進め方問題になる点と、先にすること
「全員同じだから」と一律に手当を廃止する人によって減額幅が違います。職人別に影響を比べます
「法律が変わったから仕方ない」とだけ説明する必要な法対応と減額の理由が混ざります。なぜこの設計を選ぶのかを示します
その場で署名を迫り、断るなら辞めるよう求める自由な意思による同意かが問題になります。質問と検討の機会を設けます
名前だけ直行直帰にし、記録から移動を消す書面の名称だけで処理を決めず、集合・作業指示・実際の動きを確認します
調整手当の終了を説明せず「給料は変わらない」と伝える終了後の減収が隠れます。終了時点までの試算を渡します
意見書と届出がそろったので、反対者にも当然に適用する個別同意と合理性の検討が抜けます。適用の根拠を確認します

特に、移動時間を労働時間から外すことを先に決め、その埋め合わせとして手当の額だけを相談する進め方は避けます。先に確かめるのは、現場へ向かうまでの仕事と指示を本当に変えられるかです。直行直帰へ切り替えるときの記録と手当の考え方は、直行直帰の就業規則・規定例で整理しています。

反対が出たら「説明不足」「試算への疑問」「減額そのものへの反対」を分けて聞きます。紛争の交渉や訴訟の対応が必要になった場合は、弁護士への相談が必要です。疑問の中身が分かれば、社長も同じ説明を繰り返すだけでなく、修正すべき箇所に向き合えます。

自社の日当や手当を見直すなら、まず何を用意すればよいですか?

最初に作るのは同意書ではなく、今の条件と変えたい条件を並べた表です。事務所の机に、就業規則・賃金規程・雇用契約書・給与明細・勤怠記録を出してください。「日当を分けたい」「遠方手当を統合したい」など、変更したいことを一つずつ書き添えます。

そのうえで、通常の月、忙しい月、遠方現場が続く月を選び、同じ条件で新旧を試算します。職人ごとの減額、変更が必要な理由、補う方法が見えれば、説明会で何を伝えるべきかも決まります。

中峯社労士事務所では、建設業の就業規則作成・改定を顧問の基本料金内で行っています。Zoom30分の無料相談で、自社の変更案がどこに影響するか、どの資料から比べればよいかを一緒に整理できます。

次に職人から「給料を下げるつもりか」と聞かれたとき、減る部分も含めて表を示し、理由と対応案を説明できる。その準備から始めましょう。最新の制度や金額は、必ず公式サイトでご確認ください。

参考(一次情報)

よくあるご質問

労働契約法の不利益変更のルールは、就業規則の届出義務がある規模だけに適用されるものではありません。10人未満でも、一方的に手当を廃止してよいとはいえません(※2026年9月時点)。
意見書による意見聴取と、各従業員の労働条件の変更への同意は別です。代表者の署名だけで、全員が賃金の引き下げに同意したことにはなりません。
総額だけでは判断できません。支給条件や計算方法が変わり、現場・出勤日数・残業時間によって不利になる人がいないか、同じ勤務条件で比べる必要があります。
返事がないことだけで、自由な意思に基づく同意があったと扱わないでください。個別同意がない場合の適用は、労働契約法9条・10条の周知と合理性の枠組みで別に検討します。
この記事で一律の金額や期間は示せません。不利益の大きさ、対象者の生活への影響、会社の支払能力などを踏まえて設計し、終了後の支給額まで説明します。
社会保険労務士 中峯崇文

この記事の執筆・監修:中峯 崇文(社会保険労務士)

中峯社労士事務所 代表|社会保険労務士 登録番号 第27110112号採用定着士

建設業に特化した社会保険労務士として、残業対応や一人親方の移行など、現場の労務を毎月扱っています。外国人雇用では自ら監理団体を立ち上げて運営し、採用定着士として採用と定着の設計まで踏み込みます。

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