就業規則の届出方法は?建設業の意見書・代表者選び・周知と電子申請の手順
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成・変更時に、過半数組合がなければ従業員が選んだ過半数代表者から同意ではなく意見を聴き、意見書を添えて労基署へ届け出ます。届出方法は窓口・郵送・e-Gov電子申請の3通りです。人数にかかわらず、作った規則は現場の職人もいつでも確認できるよう周知する必要があります。
→ 自社の場合はどうなる? Zoom30分・無料相談で個別に整理できます従業員11人になった工務店。夜の事務所で、社長がようやくまとまった就業規則の案を印刷しています。「あとは労基署に出せば終わりだ」。ところが、届出の案内には「意見書」の文字。明日の朝も職人はそれぞれの現場へ直行し、全員が事務所に来る日はありません。誰に意見を書いてもらい、いつ規則を見せればよいのか——。こうした場面で手が止まらないよう、この記事では代表者の選び方から意見書の書き方、届出、現場への周知までを順番に整理します。
就業規則の案ができたら、誰が何をするのですか?
「正社員だけならまだ少ない」という会社でも、まず事業場の人数を確認します。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成と届出が義務です。パート・アルバイトも含めて数え、会社全体ではなく事業場ごとに判断します(労働基準法第89条、※2026年9月時点)。
現場へ散って働く会社の人数の整理や、10人になったときのほかの対応は、従業員10人の壁:建設会社が10人目を雇う前に整えることにまとめています。ここでは、案ができた後の手続きを見ていきましょう。
| 段階 | 主に動く人 | すること |
|---|---|---|
| 意見を聴く相手を確認 | 会社・従業員 | 過半数組合の有無を確認し、なければ従業員が代表者を選ぶ |
| 案を説明し、意見を聴く | 会社・組合または代表者 | 案の全文を渡し、内容を検討して意見を出せるようにする |
| 届出書類をそろえる | 会社 | 就業規則と意見書を届出書に添える |
| 届け出る | 会社 | 所轄の労働基準監督署へ提出する |
| 周知する | 会社 | 適用する内容を、職人がいつでも確認できる状態にする |
届出と周知は、それぞれ必要な仕事です。 上の表で周知を最後に載せていますが、届出が終わるまで規則を見せてはいけない、という意味ではありません。使い始める日から逆算し、意見を聴く日と、確定した内容を全員に見せる段取りを一緒に決めます。
最初にこの予定を組めば、「書類はできたのに、代表者が決まらない」という足踏みを減らせます。社長が現場の合間に追いかける相手と、用意するものがはっきりします。
過半数代表者は、現場に散っている職人からどう選びますか?
朝、事務所にいたベテランへ「意見書、頼むわ」と声をかける。手早い方法に見えますが、会社の指名では代表者を選んだことになりません。
事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があれば、その組合の意見を聴きます。なければ、過半数代表者(従業員の過半数を代表して意見を述べる人)を選びます。代表者には、次の条件があります。
- 労働基準法上の管理監督者ではないこと
- 就業規則の作成・変更について意見を述べる人を選ぶと明らかにしたうえで、投票・挙手などで選出されること
- 会社の意向に基づく選出ではないこと
親睦会の幹事や、特定の役職者が自動的に代表者になる扱いも避けます。管理監督者かどうか確認が必要な人を、「現場をよく知っているから」という理由だけで代表者にしないことも大切です。現場監督・職長が管理監督者に当たるかの判断基準は、現場監督・職長に残業代は出ない?で整理しています。
全員が集まれない工務店の選出手順例
次は運用の一例です。全員が同じ場所に集まれない場合も、参加できる仕組みを先に用意します。
- 対象者をそろえる。 その事業場の従業員に、選出の目的と方法を案内します。現場に出ている職人やパートの事務員にも届くようにします。
- 候補者を募る。 従業員の立候補・推薦を受け、代表者の要件を確認します。
- 支持を確認する。 紙の投票や回答フォームなどを使い、候補者を代表者として支持するか回答してもらいます。回答期間を設け、同じ人が重複して投票しないよう管理します。
- 結果を記録する。 選出目的、対象者数、方法、実施日、支持数を残し、誰が選ばれたか全員へ知らせます。
たとえば、事業場の労働者が11人なら、過半数の支持は6人以上です。その日に事務所にいた人だけの多数決にせず、事業場の労働者全体を基準に確かめます。この数字は選出方法を説明するための例です。
代表者には、案を読んだり職人の意見を集めたりする時間、必要な機器の利用などへの配慮も必要です。代表者になったことや、正当に意見を述べたことを理由とする不利益な扱いはできません。会社が先に「反対を書かれても不利に扱わない」と伝えれば、現場の困りごとを出してもらいやすくなります。社長も、運用を始めてから初めて不満を聞く状況を減らせます。
就業規則の意見書には、何を書いてもらえばよいですか?
代表者へ紙を渡して、その場で「異議なし」と書いてもらう前に、案を読む時間を取ります。必要なのは同意を取り付けることではなく、意見を聴くことです(労働基準法第90条)。
会社は就業規則の案を全文渡し、休日・賃金・現場の集合など、日々の働き方に関わる部分を説明します。代表者がほかの職人の意見も集められるようにし、そのうえで意見書を受け取ります。要約だけを見せて、未提示の条文まで了承したことにしないようにしましょう。
就業規則の届出書・意見書には全国統一の法定様式があるわけではなく、厚生労働省が記載例を公開しています。意見書は、誰が、どの案について、いつ、どのような意見を述べたかが分かる形に整えます。
意見書の記載例
次は書き方を示すための架空の例です。実際の意見と選出結果に合わせて記載してください。
意見書の記載例
株式会社○○工務店 代表取締役○○○○ 殿
○年○月○日付で意見を求められた就業規則案について、次のとおり意見を述べます。
【意見】休日の連絡方法について、直行直帰の職人にも変更が確実に伝わるよう、連絡担当と確認方法を明らかにしてください。
○年○月○日
労働者の過半数を代表する者 氏名○○○○
選出方法:就業規則案への意見聴取を目的として、従業員による投票で選出
反対する箇所があるなら、「第○条の休日の定めには反対します。理由は○○です」のように、対象と理由を書けます。意見がなければ、その旨を書きます。会社が先に結論を埋めて署名だけ求める運用にはしません。
反対意見が記載されていても、届出はできます。 ただし、それで規則の内容まで有効と決まるわけではありません。とくに従業員に不利な変更では、変更の理由や内容が合理的かどうかも慎重な検討が必要です。この点は厚生労働省のモデル就業規則の解説でも示されています。手当や日当を下げる変更での説明と同意の進め方は、就業規則の不利益変更で扱っています。
反対が出たら、条文を直す必要があるのか、説明が足りないのかを分けて整理します。「休日の伝え方が分からない」という意見なら、連絡担当を決めるだけでも運用は具体的になります。意見書を集める時間が、翌月の現場の混乱を先に見つける時間になります。
労基署への届出は、どの書類をどの方法で出しますか?
現場へ出る前に書類を封筒へ入れるなら、「就業規則だけ入っていないか」を確認します。提出先は、事業場を管轄する労働基準監督署です。新しく作った場合の基本の書類は、次の組み合わせです。
| 書類 | 用意する内容 |
|---|---|
| 就業規則届 | 事業場の名称・所在地、使用者氏名などを記載する |
| 就業規則 | 届け出る規則の本文。別冊の賃金規程などがあれば一緒にそろえる |
| 意見書 | 過半数組合または適正に選ばれた代表者の意見を記載する |
変更する場合は変更届と意見書を用意し、変更内容が分かるように整理します。新旧対照表(変更前と変更後を並べた表)も準備しておくと、どこを変えたか確認しやすくなります。提出する範囲や添付形式は、利用する手続きの案内で確認してください。
窓口・郵送・e-Gov電子申請の選び方
| 方法 | 社長が準備すること |
|---|---|
| 窓口へ持参 | 書類一式と控えを用意し、所轄の労働基準監督署へ持参する |
| 郵送 | 提出用と控えを用意する。受理印付きの控えの返送を希望する場合は、返信先を記入し切手を貼った返信用封筒も同封する |
| e-Gov電子申請 | 届出内容を入力し、就業規則・意見書などを電子ファイルで添付する |
電子申請は、行政の手続き窓口であるe-Govを利用する方法です。GビズIDでのログインもできます(※2026年9月時点)。まず手元の規則と意見書を読める電子ファイルにそろえ、手続きの案内に沿って進めます。操作画面や処理時間を決めつけず、現在の案内を確認しましょう。
提出後は、提出した版と控え、電子申請なら受付結果などをまとめて保存する運用にします。「労基署へ出した版はどれだったか」を後から探さずに済み、事務担当が変わったときにも引き継ぎやすくなります。
就業規則は、直行直帰の職人へどう周知すればよいですか?
「事務所の棚にあるから、見たい人は見て」。社長には身近な棚でも、現場へ直行し、そのまま帰る職人には見に行ける場所とは限りません。周知は、従業員が必要なときに規則の内容を確認できる状態を作ることです。
労働基準法第106条とその施行規則では、主に次の方法が示されています。
| 方法 | 建設会社での具体化 | 気を付けたいこと |
|---|---|---|
| 掲示・備え付け | 各作業場の見やすい場所に掲示する、閲覧できるファイルを置く | 鍵付きの棚や、社長の許可がないと出せない場所にしまわない |
| 書面の交付 | 職人一人ひとりに全文を渡す | 当日不在の人にも渡し、別冊規程を抜かさない |
| 電子媒体での確認 | 内容を常時確認できる機器を各作業場に備えるなど、閲覧環境を整える | ファイルがあるだけでなく、従業員が使えて読めるか確認する |
パソコンやスマホで見られる共有先は、現場が分かれる会社で役立ちます。ただし、スマホへ送れば一律に周知の要件を満たす、とは考えないでください。 私物端末の有無や通信環境に左右されるなら、書面交付や閲覧用機器の整備も組み合わせます。
たとえば、全員へ紙の冊子を渡したうえで、会社指定の共有先にも同じ全文を置く方法があります。朝の連絡時に保存場所と開き方を案内し、職人の端末で実際に開けるか確かめます。リンクを送っただけで流れてしまうなら、いつでも戻れる場所を決めます。通信が使いにくい現場へ行く人には、手元の冊子でも確認できます。
規定例(周知方法の条文イメージ)
会社は、この規則を従業員に書面で交付するほか、会社指定の共有先に掲載し、従業員が常時その内容を確認できるようにする。変更した場合も同様とする。
これは紙の交付と電子共有を併用する会社の例です。実際の配付方法・端末・通信環境に合わせて調整が必要です。条文を書いた後は、実際に配り、開ける状態を保つところまで行います。
休暇の申請方法を聞かれたときに、「冊子のこの部分、スマホならここ」と同じものを指せる。社長が現場ごとに説明し直す負担を減らすには、全文へたどり着く入口をそろえることが役立ちます。
周知していない就業規則は、届出済みでも効力がないのですか?
職人の行動を注意するとき、社長が初めて棚から就業規則を出し、「ここに書いてある」と示す。それまで誰も見られなかった規則では、処分の根拠として通用するかが問題になります。
フジ興産事件で、最高裁判所(平成15年10月10日、第二小法廷)は、就業規則が労働者を拘束するには、適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続きが必要だという考え方を示しました。懲戒の根拠にする規則を従業員へ知らせていたかが問われた事件です。
ここから押さえたいのは、労基署に届け出たという事実だけでは、従業員への周知に代えられないことです。事務所に原本がある、代表者だけは読んだ、という状態で止めないようにします。
確認するなら、社長自身のパソコンではなく、普段は直行直帰している職人の立場で見ます。「全文はどこにあるか」「社長が不在でも読めるか」「別冊の賃金規程も見られるか」。引っかかった箇所を直し、配付や閲覧案内の記録も残しておくと、いつ、どの内容を知らせたか説明しやすくなります。
周知を後回しにしなければ、注意する日に初めてルールを持ち出す状況を減らせます。ただし周知をしたことだけで個別の懲戒処分が正当になるわけではありません。処分の可否は個別に確認し、紛争の交渉や訴訟の代理が必要な場合は弁護士に相談します。
10人未満や変更時も同じですか?まず何から始めますか?
「うちは8人だから、この作業はまだ先」と考えた社長にも、周知は関係します。常時10人未満の事業場には、労働基準法上の就業規則の作成・届出義務はありません。ただし、作った就業規則は従業員へ周知する必要があります。 人数が少ないからと、社長だけの保管資料にはできません。
少人数のうちに作る意味そのものは、従業員10人未満でも就業規則を作る3つの理由をご覧ください。届出義務がない会社でも、案を見せて意見を聞き、確定版を渡す段取りにすると、ルールの行き違いを減らせます。
常時10人以上の事業場で規則を変更するときも、意見聴取・意見書を添えた届出・変更内容の周知が必要です。古いファイルを黙って差し替えるだけにせず、何を、いつから変えるのか案内します。改定内容の優先順位は、建設業の就業規則の見直し・改定の進め方で整理しています。
手元の案ができているなら、次の項目を順番に埋めてください。
- 過半数組合の有無を確認し、なければ代表者を選ぶ方法を決めた
- 案の全文を渡し、検討と意見集約の時間を設けた
- 実際の意見を記載した意見書と届出書類がそろった
- 常時10人以上の事業場では、提出方法と担当を決めた
- 使い始める日までに、不在者を含む全員が全文を確認できる段取りを組んだ
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参考(一次情報)
- 就業規則の作成・変更・届出と意見聴取(厚生労働省 栃木労働局): https://jsite.mhlw.go.jp/tochigi-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/roukijou/roukihou_point/kijunhou_kaisetsu/article89_90_92.html
- 労働基準法施行規則 第6条の2(過半数代表者)・第52条の2(周知の方法)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023
- 主要様式ダウンロードコーナー(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudoukijunkankei.html
- 労働基準法等の規定に基づく届出等の電子申請について(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000184033.html
- 労働政策審議会労働条件分科会 第68回資料・フジ興産事件(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/11/s1121-5b.html
- モデル就業規則・令和7年12月版「はじめに」(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/content/001620507.pdf
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