従業員10人の壁:建設会社が10人目を雇う前に整えること
常時10人以上の労働者を使用する事業場になると、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務になり、建設業では安全衛生推進者の選任も必要になります。人数はパート・アルバイトを含めて事業場ごとに数え、労働者でない役員や、実態が請負の一人親方は含みません。10人になってから慌てるより、9人のうちに自社の現場に合わせて就業規則を作っておくほうが、届出も助成金の申請もスムーズに進みます。
→ 自社の場合はどうなる? Zoom30分・無料相談で個別に整理できます社員は9人。社長は朝から現場に出て、夕方に事務所へ戻ってから見積書と請求書を片づけ、月末は自分で勤怠を集計しています。そこへ、付き合いのある同業者から「うちの若いのが勤め先を探している」と声がかかりました。人手はいくらでも欲しい。けれど、頭の隅に引っかかることがあります——「10人になると、何か届出が要るんじゃなかったか」。従業員10人は、建設会社にとってはっきりした境目です。この記事では、10人目を雇うと何が変わるのか、9人のうちに何を整えておけばいいのかを順番に整理します。

なぜ「10人」で会社の義務が変わるのですか?
労働基準法は、就業規則の作成・届出義務を「常時10人以上の労働者を使用する事業場」に課しています。9人までは義務がなく、10人になった時点で義務が発生する——この一線があるため「10人の壁」と呼ばれます。
ポイントは、この線が会社単位ではなく事業場単位で引かれることです。本社のほかに営業所を持つ会社なら、それぞれの事業場で数えます。建設業では職人が日々あちこちの現場へ出ていきますが、労務管理が本社でまとめて行われているなら、本社の人数として数えるのが実務上の一般的な扱いです。
もうひとつ大事なのが「常時」という言葉です。繁忙期だけ一時的に10人を超えるが普段は8人、という状態なら義務は生じません。逆に、常態として10人以上いるなら、たまたま今月9人でも義務があると判断されます。
「10人」は、誰を数えて誰を数えないのですか?
ここを間違えると、義務がないつもりのまま義務違反になります。
| 数える | 数えない |
|---|---|
| 正社員 | 労働者でない役員・代表者 |
| パート・アルバイト | 実態も契約も請負の一人親方 |
| 有期契約の職人 | 受け入れている派遣労働者(派遣元で数える) |
判断が割れやすいのが一人親方です。契約書が請負でも、実態が指揮命令下の労働なら労働者として扱われます。「毎朝うちの現場に来て、うちの段取りで、うちの道具を使って働いている」——この状態なら、人数のカウントも社会保険も、雇用しているのと同じ前提で考える必要があります。線引きは一人親方と常用の契約実態で詳しく整理しています。
10人になったら、具体的に何をするのですか?
やることは大きく2つです。
1. 就業規則を作り、労働基準監督署へ届け出る
- 会社が就業規則を作成する
- 労働者の過半数を代表する者から意見書をもらう(同意までは求められません)
- 就業規則と意見書をそろえて、所轄の労働基準監督署へ届け出る
- 従業員がいつでも見られる状態にする(周知)
作って金庫にしまっておくだけでは、規則としての効力を持ちません。周知までで1セットです。内容を変更したときも、そのつど届出が必要になります。意見書を書いてもらう代表者の選び方から届出・周知の手順までは就業規則の届出方法にまとめています。
2. 安全衛生推進者を選任する
見落とされやすいのがこちらです。建設業は労働安全衛生法で安全管理者を選任すべき業種にあたるため、常時10人以上50人未満の事業場では「安全衛生推進者」を選任しなければなりません(他業種で選任する「衛生推進者」とは呼び名も範囲も異なります)。
- 選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任する
- 所定の講習を修了した人などから選ぶ
- 労働基準監督署への届出は不要だが、氏名を作業場の見やすい場所に掲示するなどして関係する労働者に周知する
「就業規則は知っていたが、安全衛生推進者は知らなかった」という会社は少なくありません。調査で指摘されて初めて気づくパターンです。調査で何を見られるかは労基署の是正勧告にまとめています。
10人未満のうちからやらなければならないことは?
「10人になるまで何もしなくていい」は誤解です。人数に関係なく必要なものがあります。
- 法定三帳簿(労働者名簿・賃金台帳・出勤簿)の作成・保存
- 採用時の労働条件の書面明示(→労働条件通知書・雇用契約書の書き方)
- 時間外・休日労働をさせるなら36協定の締結と届出(→36協定の締結と届出)
- 健康診断、雇入れ時の安全衛生教育
繁忙期だけ日払いで頼む手元さんも、労働条件の明示が要ることは変わりません(→建設業の日雇い・短期の手元さん)。
さらに、常時10人未満の事業場に認められる「週44時間」の労働時間の特例は、商業や保健衛生業などが対象で、建設業は対象外です。9人の会社でも週40時間が原則になります。ここを勘違いしたまま土曜日を回していると、未払い残業が静かに積み上がります。
9人のうちに整えると、10人目の採用はどう変わりますか?
- 制度としては:10人未満の会社が作った就業規則も、従業員に周知すればきちんと効力を持ちます。義務がない時期に作っても無駄にはなりません。
- この会社はどう有利になるか:届出期限に追われずに、自社の現場に合わせて中身を詰められます。人が増えてからだと、すでにある待遇を整理し直すのが難しくなります。
- 社長の毎日はどう変わるか:10人目の入社日に、労働条件通知書と就業規則をそろえて渡せます。「そんなルール、聞いてない」から始まるもめごとが起きません。助成金の案内が来ても、「就業規則の写しを添付してください」の一行で止まらずに済みます。
なぜ10人未満でも作る価値があるのか、その理由そのものは建設業の就業規則、従業員10人未満でも作るべき3つの理由で3つに分けて解説しています。この記事が「10人になると何が変わるか」、あちらが「10人未満でも作る価値」です。あわせて読むと、いつ・何から手を付けるかがはっきりします。
10人の次は、どこに壁がありますか?
次の大きな節目は50人です。常時50人以上の事業場になると、産業医と衛生管理者の選任、衛生委員会(建設業では安全委員会も)の設置、ストレスチェックの実施などが加わります。10人の壁を越えるときに就業規則と安全衛生の担当を決めておけば、50人の手前で組織ごと作り直す事態を避けられます。
まず何から手を付ければいいですか?
順番はシンプルです。①いま何人かを事業場ごとに数える、②一人親方の実態が請負か雇用かを確認する、③就業規則のたたき台を作る——この3つです。ひな形をそのまま届け出ると後で困る点は就業規則のひな形にひそむ5つの落とし穴にまとめました。助成金を視野に入れるなら、要件を満たせずに落ちるパターンを助成金が不支給になるパターンで先に確認しておくと安全です。
当事務所は建設業に特化しており、就業規則の作成・改定は顧問の基本料金内で対応しています。移動時間の扱い、出張手当の設計、一人親方から従業員への移行といった、10人前後の建設会社でよく起きる論点は毎月のように扱っています。詳しい進め方は建設業の就業規則作成と料金ページをご覧ください。「今は9人だが、来月10人になりそう」という段階でのご相談が、いちばん手戻りの少ないタイミングです。制度の細部は変わることがあるため、最新の要件は必ず公式サイトでご確認ください。
参考(一次情報)
- 労働基準法(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049
- 労働安全衛生法(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000057
- 就業規則の作成・変更・届出の義務(厚生労働省 栃木労働局): https://jsite.mhlw.go.jp/tochigi-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/roukijou/roukihou_point/kijunhou_kaisetsu/article89_90_92.html
- モデル就業規則について(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/model/index.html
よくあるご質問
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