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労基署の是正勧告とは?是正報告書の書き方と建設業で多い指摘の記載例

テーマ: 建設業の就業規則作成
30秒で結論

是正勧告は、労働基準監督署が見つけた法違反を期日までに直すよう求める行政指導の文書で、受け取っただけで罰金にはなりません。是正勧告書には是正報告書、指導票には改善報告書を任意の様式で出し、指摘ごとに何をいつ直したかを書き、払った残業代には振込明細や受領書の写しを添えます。建設業では、朝の集合・積み込みや移動を労働時間に入れていないと割増賃金が不足しやすくなります。

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従業員7人の内装工事会社。社長は17時に現場から戻り、事務所で請求書と安全書類を1人でさばいています。そこへ「調査でうかがいます」と労働基準監督署から一本の電話が入り、手が止まる——。この段階でいただくご相談は、たいてい同じ言葉から始まります。「今の状態で調査が入ったら、人件費や法定福利費が膨らみすぎて会社が持たない」。怖いのは勧告そのものではなく、指摘どおりに直したあとに残る金額のほうなのです。

調査の日、監督官は賃金台帳と出面帳をめくり、朝は何時に資材置き場へ集まるのかを職長に尋ねて帰りました。机に残ったのは2枚の紙です。「是正勧告書」には「労働基準法第32条」「第37条」の文字と是正期日。「指導票」には「労働時間を適正に把握すること」。期日は3週間後です。報告書に何をどこまで書けばいいのか。残業代は何か月分、誰の分まで払うのか。間に合わなければどうなるのか。2枚の紙のどこにも、その答えは書いてありません。

是正勧告は、受け取っただけで罰金になるものではありません。指摘ごとに「何を、いつ直したか」を書いた報告書を出し、直したことが確認されれば、監督指導はそこで終わります。この記事では、勧告書と指導票の違い、是正報告書の書き方と建設業で多い指摘の記載例、さかのぼって払う残業代の計算、期日に間に合わない時の動き方を順に整理します。

労働基準監督署の調査と書類確認のイメージ図

是正勧告とは何ですか?放置したら罰金や営業停止になりますか?

是正勧告は、労働基準監督官が調査で見つけた法違反について、期日を示して直すよう求める文書での指導(行政指導)で、受け取っただけでは罰金も営業停止もありませんが、直さずに放置すると送検されることがあり、罰金などの刑が確定すれば建設業法の営業停止の対象にもなり得ます。厚生労働省が示す流れは、おおむね次の4段です。

  1. 調査(臨検監督):計画的に選ばれた会社のほか、働く人からの申告や労働災害をきっかけに、監督官が原則として予告なく事業場に立ち入り、帳簿を確かめて話を聞きます(労働基準法101条)。
  2. 文書の交付:法違反があれば「是正勧告書」、改善を求める点があれば「指導票」、危険性の高い機械・設備には使用停止などを命じる「使用停止等命令書」が渡されます。
  3. 是正・改善の報告:会社が直した内容を報告書にまとめて出します。
  4. 確認:是正が確認されれば、監督指導は終了です。確認のために再び立入調査が行われることもあり、重大・悪質な事案は送検されます。

監督指導は年間約17万件行われ、定期監督などでは約70%の事業場で何らかの法違反が見つかっています。それでも送検は年間約800件で、法違反のほとんどは監督官の指導によって是正されています(いずれも令和5年・厚生労働省)。勧告書を受け取った会社の多くは、直して報告し、そこで終わっているということです。調査で確認されやすい書類(労働者名簿・賃金台帳・出勤簿・36協定届(36協定=残業や休日出勤をさせるために労使で結び、監督署へ届け出る協定)の控え・就業規則など)と、出面帳しかない時の説明の仕方は、労基署から呼び出し(出頭要求書)が届いた建設会社へにまとめています。

ただし、放置すれば話は変わります。監督官は司法警察官として捜査もでき(労働基準法102条)、厚生労働省は、是正勧告を受けた法違反を是正しないなど重大・悪質な事案は送検するとしています。令和7年の送検事例には、是正勧告のあとも払わなかったために捜査が始まり、労働者2人分・約12万円の時間外・深夜の割増賃金の不払いで書類送検された例があります。36協定なしの残業(32条違反)や割増賃金の不払い(37条違反)の罰則は、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です(同法119条1号・※2026年9月時点)。

建設会社には、その先もあります。罰金を含む刑が確定すると、建設業法の監督処分の対象になり得ます。国土交通省の監督処分の基準では、労働基準法違反で役職員が刑に処せられた場合は3日以上(役員などが拘禁刑に処せられた場合は7日以上)の営業停止とされ、大阪府の監督処分基準も同じ内容です。ただし、社長本人(法人なら役員、個人事業なら事業主)が拘禁刑に処せられた場合にいちばん重いのは、営業停止ではなく建設業許可の取消しです。拘禁刑以上の刑を受けて5年を経過しない人は許可の欠格(許可を受けられない事由)に当たり、許可は取り消さなければならないとされています(建設業法8条7号・12号、29条1項2号)。5〜10人の会社では、社長がその役員本人です。一方、32条・37条の違反で罰金にとどまる場合は、この欠格には当たりません(罰金で欠格になる労働関係の違反は、強制労働や中間搾取など政令で定めるものに限られます・同法8条8号、同法施行令3条の2)。営業停止の処分をするかどうかは、違反の内容・程度や建設業の営業との関連などを総合的にみて決めるとされています。そして、建設業法28条による指示や営業停止を受けた年が経営事項審査(経審)の審査対象年に入ると、「法令遵守の状況」で減点されます。反対に、是正勧告は労働基準監督署の行政指導で、建設業法28条の指示や営業停止には当たらないため、勧告を受けただけで経審の点数が下がることはありません(※2026年9月時点)。

怖いのは勧告書そのものではなく、期日を黙って過ぎることです。期日を守って直し、報告を出せば、話は事務所の机の上で片付きます。

是正勧告書と指導票は、何が違いますか?

是正勧告書は法違反を直すよう求める文書で「是正報告書」を、指導票は法違反の是正とは別に改善を求める点を書いた文書で「改善報告書」を、それぞれ出します(岡山労働局の案内)。

渡される書面何を求めているか出す報告書報告のタイミング
是正勧告書法違反の是正。「労働基準法第37条」のような条文と違反の事実が書かれる是正報告書是正期日のあと、遅れずに
指導票改善指導。労働時間の把握の仕方や、長時間労働による健康障害の防止など改善報告書担当官が示した期日まで
使用停止等命令書危険性の高い機械・設備などの使用停止などを命じる行政処分是正報告書違反を直した時点で

1回の調査で、是正勧告書と指導票の両方を渡されることもあります。その場合に使えるよう、1枚の報告書の中で「是正勧告事項」と「指導事項」の欄を分けたひな形が、福井労働局や岡山労働局から公開されています。厚生労働省の集計でも、法令違反には是正勧告書、健康障害の防止や労働時間の把握の不備には指導票と、分けて数えられています。

建設業の例もあります。厚生労働省が2026年9月15日に公表した令和7年度の監督指導の事例では、電気設備工事業の会社(労働者約20人)で、現場の職人7人が36協定の上限(臨時に通常の上限を超えて働かせられるようにする「特別条項」で定めた月99時間)と法律の上限(月100時間未満・複数月平均80時間以内)を超えて働き、最も長い人で1か月237時間の時間外・休日労働になっていました。会社は労働基準法32条と36条6項の違反で是正勧告を受け、あわせて、時間外・休日労働を月80時間以内にする具体策の検討と、労働時間の適正な把握を指導されています。

会社は職人を14人増やし、始業・終業の時刻をスマートフォンなどから入力する仕組みを入れ、労務管理の責任者を現場に常駐させました。職人ごとに、あと何時間で36協定の上限に届くかを毎日確かめられるようになり、残業の必要性を現場代理人がその数字をもとに判断できるようになって、3か月後には違反が解消しています。指導票の宿題は「記録を付けてください」で終わりません。毎日の現場の回し方を、上限の手前で止められる形に変える入口です。

是正報告書に決まった様式はありますか?どう書けばいいですか?

渡された用紙でなくても、任意の様式で作ってかまいません。報告先の監督署名、報告者の職氏名、指摘された事項とそれに対する措置の具体的な内容が分かれば足ります(富山労働局 魚津労働基準監督署の案内)。

ひな形と記載例は、新潟・岡山・福井などの労働局が公開しています。形はどこもほぼ同じです。上に日付と「○○労働基準監督署長 殿」、会社の所在地・名称・代表者の職氏名。続けて「令和○年○月○日、貴署○○監督官の監督指導の際、指摘を受けた事項について、下記のとおり是正しましたので報告します」の一文。その下に「法条項等」「是正の状況」「是正年月日」の3列の表を置きます。

表を埋める時の決まりは、次の7つです。

  1. 法条項と指摘事項は、勧告書(指導票)の記載をそのまま写す:内容が分かる範囲なら、省略してもかまいません。
  2. 是正の状況は具体的に書く:「今後注意します」「なんとかします」のような漠然とした書き方は認められません。
  3. いつ直したかを書く:できる限り日付を入れます。「これから雇う人には書面で労働条件を示します」のように、今後の対応になる項目はその旨を書きます。
  4. 書ききれない時は「別添のとおり」:内容が分かる資料を別に付けます。
  5. 証拠を添える:支払った賃金は受領書や振込明細の写し(または賃金台帳の写し)、新しく作った規程や書面はその写し、足場などの設備を直した時は写真を付けます。
  6. 名義は報告する権限のある人:事業主の名義でなくてもかまいません。
  7. 提出は郵送でよい:特別な事情や担当官の指示がなければ郵送で出せます。FAXは不可です。

出す時期は、勧告書に書かれた「是正期日」(直す期限)と、担当官が示す報告の期日の2つを確かめます。福井・岡山労働局の案内では、是正勧告の報告は是正期日のあと遅れずに出すこととされています。

勧告書の法条項欄に□印が付いている項目は、点検の体制まで書きます。何を・いつ・誰が点検し、誰が補修を確かめ、どの記録簿に残すかです。福井労働局の記載例には、外部足場の床面の整頓・手すりと幅木・水平ネットを、作業開始前に現場代理人が点検するという例が載っています。

報告は、書類の上だけで直したことにする場ではありません。厚生労働省の示す流れには、報告のあとの再度の立入調査も入っています。体裁だけを整えた報告は、その時に実態との食い違いとして表に出ます。書き方に迷ったら、担当官に聞いてかまいません。厚生労働省も、具体的な是正方法や是正報告書の書き方で分からない点は担当官に相談するよう案内しています。

型が分かれば、報告書づくりは「指摘1つにつき1行を埋め、証拠を1つ添える」作業に変わります。白紙の前で手が止まっていた夜が、書類をそろえる時間に置き換わります。

建設業で多い指摘は何ですか?是正報告書にはどう書きますか?(記載例)

全業種で多い違反は、①36協定の未届や、届け出た上限を超える残業、②健康診断の未実施、③割増賃金の不払いの3つで(厚生労働省・令和5年)、建設業では、朝の集合・積み込みや現場への移動、資材待ちの時間を労働時間に入れていないことが、③の割増賃金の不足につながりやすくなります。

長時間労働が疑われる事業場を選んで行われた令和7年度の監督指導では、建設業の2,421事業場のうち1,878事業場(約78%)で法令違反が見つかり、違法な時間外労働は865事業場、賃金不払残業は160事業場でした。選んで調べた結果なので、建設業全体の違反率ではありません。厚生労働省は、11月の「過重労働解消キャンペーン」の期間中にも重点的な監督指導を行うとしています(※2026年9月時点)。

是正報告書の書き方を、建設会社でよくある指摘に当てはめると次のようになります。福井労働局・新潟労働局・魚津労働基準監督署の記載例にそろえた架空の例で、実在の会社の事例ではありません。法条項・日付・人数は、自社の勧告書の記載と実際に行ったことに合わせて書き換えてください。

是正勧告書への是正報告(架空の記載例)

法条項等よくある指摘の中身是正の状況(書き方の例)添付するもの
労基法第32条36協定を届け出ないまま、1日8時間・週40時間を超えて働かせていた時間外・休日労働に関する協定を締結し、令和○年○月○日に○○労働基準監督署へ届け出ました。協定届の控えの写し
労基法第37条第1項朝の集合・積み込みと、資材置き場に戻ってからの荷下ろしを労働時間に入れず、割増賃金が不足していた集合から荷下ろしまでを労働時間に含めて、職人○名の令和○年○月分から○月分までの不足額を計算し、○月○日に支払いました(計算表は別添のとおり)。不足額の計算表、賃金台帳の写し、受領書または振込明細の写し
労基法第108条賃金台帳に労働時間数や時間外労働の時間数が書かれていない(出面帳の日数だけ)○月支払分から、賃金台帳に労働日数・労働時間数・時間外労働の時間数を記入するようにしました。○月分の賃金台帳の写し
労基法第89条常時10人以上の事業場なのに、就業規則を届け出ていない就業規則を作成し、労働者代表の意見書を添えて○月○日に届け出ました。届出の控えの写し
労基法第15条第1項雇い入れた職人に、日当・労働時間・休日を書面で示していない労働条件通知書を作成し、在籍する職人○名に○月○日に交付しました。今後雇い入れる際も書面で明示します。交付した通知書の写し
安衛法第66条第1項年1回の定期健康診断を受けさせていない職人○名が○月○日に定期健康診断を受診しました。残る○名は○月○日に受診予定です。受診の記録
安衛法(安衛則第563条)足場の躯体側に中さん・幅木がない足場の躯体側に中さんと幅木を設けました。設置後の写真

37条の行が、いちばん重く、いちばん手間のかかる行です。どこからどこまでが労働時間になるかの線引きは現場への移動時間は労働時間?で、計算の手順はこの次の見出しで説明します。32条の行は、届け出たら終わりではありません。特別条項の書き方と上限の管理は建設業の36協定の書き方・特別条項の記載例にまとめています。

指導票への改善報告(架空の記載例)

指導事項改善の状況(書き方の例)添付するもの
労働時間を適正に把握していないこと(出面帳に出た日だけを付けている)○月○日から、職人がスマートフォンで始業・終業の時刻を入力し、職長が毎日確認する方法に改めました。○月分の記録は別添のとおりです。直近1か月分の記録
残業代相当として払っている日当の一部について、位置づけや内訳を就業規則などに示していないこと○月支払分から、日当○○円のうち○○円を○時間分の時間外労働の割増賃金とすることについて職人○名の同意を得て、賃金規程と労働条件通知書に明記しました(別添のとおり)。改定した賃金規程と労働条件通知書の写し
特別条項付き36協定の運用が適切でないこと(限度を超えた残業など)職人ごとの時間外・休日労働の累計を管理表にし、事務所と現場代理人で毎日共有して、上限に近づいた時点で工程と人の配置を見直す運用にしました(別添のとおり)。管理表の写し

1行目で問われているのは「時刻」です。厚生労働省のガイドラインは、毎日の始業・終業の時刻を、使用者が自分で確認するか、タイムカードやICカードなどの客観的な記録をもとに確認して記録するよう求めています。出面帳の丸だけでは、この時刻が残りません。

2行目の書き分けは、これから払う日当についての話です。今までと同じ額のまま一部を固定残業代に振り替えると、残業代を計算する時間単価が下がるため、労働条件の不利益変更になり得ます。有効な固定残業代の条件と、職人への説明・同意の進め方は「日当に残業代込み」は通る?で整理しています。

集合と積み込みそのものを見直して、移動時間を労働時間から外した実例もあります。積み込みを担当しない職人は現場へ直行直帰する形に切り替え、残業を大きく減らした直行直帰で立て直した事例です。減った残業代を移動手当や出張手当で補う設計まで含めて整理しています。

表の1行が埋まるたびに、同じ指摘を受ける理由が1つ消えていきます。次に監督官が来ても、棚のファイルを開いて見せれば済む会社に近づきます。

さかのぼって払う残業代は、何か月分をどう計算しますか?

何か月分さかのぼるかは勧告書の記載と担当官の指示で決まり、法律上の上限は、当分の間3年とされている賃金請求権の時効です(労働基準法115条・附則143条3項、※2026年9月時点)。何か月分と一律に決めた国の基準は、公開されている資料には見当たりません。

対象は、申告した1人とは限りません。厚生労働省が公表した令和7年の是正事例でも、過去にさかのぼって各労働者から事実関係を聞き取るなどの実態調査をしたうえで、差額があれば追加で払うよう指導されています。同じ集合・同じ日当で働く職人がいれば、その人たちの分も確かめる前提で準備します。期間や対象者がはっきりしない時は、計算を始める前に担当官へ確かめます。

計算は、次の5段で進めます。

  1. 対象者を決める:勧告書と担当官の指示を確かめ、同じ働き方の職人を労働者名簿から洗い出します。
  2. 期間を決める:指示された期間で区切ります(上限は3年)。
  3. 1時間あたりの賃金を出す:日給なら、日給を1日の所定労働時間で割ります(労働基準法施行規則19条1項2号)。毎月払う現場手当や資格手当も割増賃金の基礎に入ることがあり、家族手当や通勤手当などは除きます(労働基準法37条5項・同法施行規則21条)。
  4. 足りなかった時間を出す:出面帳・作業日報・車両の運転日報などから、1人1日1行で始業・終業の時刻を並べます。
  5. 差額を出す:1時間あたりの賃金×1.25(時間外労働の場合)×足りなかった時間から、すでに払った分を引きます。1か月の時間外労働が60時間を超えた部分は、1.25ではなく1.5以上の率で計算します(労働基準法37条1項ただし書。中小企業にも適用・※2026年9月時点)。

架空の例で計算してみます。日給1万2,000円・所定8時間の職人が、朝7時30分に資材置き場へ集合して積み込み、8時から17時まで現場で作業(休憩1時間)、資材置き場へ戻って荷下ろしを終えるのが17時30分、という毎日だったとします。

項目計算結果
1時間あたりの賃金1万2,000円÷8時間1,500円
時間外の単価1,500円×1.251,875円
1日の時間外7時30分〜17時30分の10時間−休憩1時間−所定8時間1時間
1か月(出勤20日)1,875円×1時間×20日3万7,500円
12か月分3万7,500円×12か月45万円
上限の3年分3万7,500円×36か月135万円

深夜(22時〜翌5時)や法定休日の労働があれば、それぞれの割増率で別に計算して足します。同じ働き方の職人が5人いれば、12か月分で225万円です。冒頭の社長が口にした「会社が持たない」の正体は、この掛け算です。ただ、同じ掛け算は逆にも使えます。集合・積み込みの段取りを変えれば、来月からの「1日1時間」はそもそも生まれません。

支払ったら、職人ごとの計算表と賃金台帳の写しに、受領書か振込明細の写しを添えて報告します。滋賀労働局の様式の裏面のように、氏名・月ごとの不足額・合計・受領印(またはサイン)を1枚の表に並べると、監督官にも職人にもひと目で伝わります。時効や付加金、辞めた職人から直接請求された場合の話は辞めた職人から3年分の残業代を請求されたらで詳しく解説しています。

期日までに直しきれないときは、どうすればいいですか?

期日の前に担当官へ連絡し、それまでの進み具合と今後の予定を伝えれば、改めて報告の時期が示されます(富山労働局 魚津労働基準監督署の案内)。

いちばん避けたいのは、何も言わずに期日を過ぎることです。先に見た送検事例も、是正勧告のあとに是正が図られなかったことが捜査の始まりでした。

報告書では、直した項目と直しきれていない項目を分けます。直しきれていない項目は、今の状況と理由、いつまでに何をするかの計画を書きます(新潟労働局の様式の注意書き・滋賀労働局の様式の記入欄)。

記載例(架空の例):36協定は令和○年○月○日に届け出ました。割増賃金の不足額は、令和○年○月分から○月分までを○月○日に支払いました。残る○か月分は出面帳と作業日報の突き合わせを進めており、○月○日までに支払う予定です。

支払いの資金繰りが厳しい時も、黙らずに事情を担当官へ伝えます。労働基準監督官の行動規範には、法令違反の是正に取り組む事業主の希望に応じて、情報提供や具体的な取り組み方の助言に努めることが書かれています。中小企業に法令違反があった場合は、労働時間の動向や人材確保の状況、取引の実態などの事情を踏まえて、自主的な改善を促すともされています。

報告を出すことと、会社の数字を守ることは両立できます。確かめた不足分は払う必要がありますが、これから先の賃金は、集合・積み込みの段取り、直行直帰の決まり、日当の内訳の書き方で、実態に合った形に組み直せます。「指摘されたから払った」で終わらせず、「来月から同じ時間が生まれない段取り」まで決めておけば、給料日のたびに胸がざわつくことはなくなります。

何から手を付ければいいですか?

勧告書と指導票を受け取った日に、指摘1つにつき1行の「やること表」を作り、期日から逆算して動くのが近道です。

いつやること
受け取った日期日・条文・担当官の名前を確かめ、勧告書と指導票のコピーを取る。指摘ごとに「何を・誰が・いつまでに」を1行ずつ書き出す
1週目36協定の届出、労働条件通知書の交付、健康診断の予約など、すぐ直せるものから片付ける。さかのぼる期間と対象者が分からなければ担当官に確かめる
2週目出面帳・作業日報から労働時間を集計し、不足額を計算して支払う。振込明細や受領書を残す
是正期日のあと、遅れずに報告書を書き、添付資料をそろえて郵送する。間に合わない項目があれば、期日の前に担当官へ連絡しておく
報告のあと始業・終業の時刻の記録、日当の内訳を書いた賃金規程、集合と直行直帰の決まりを整え、同じ指摘を受けない形にする

まだ勧告を受けていない会社も、確かめる場所は同じです。

  • 36協定を結んで、労働基準監督署に届け出ているか(毎年の更新も)
  • 集合・移動・手待ちを含めて、毎日の始業・終業の時刻を記録しているか
  • 日給や毎月の手当から、正しい単価で割増賃金を計算しているか
  • 賃金台帳に、労働時間数と時間外労働の時間数まで書いているか
  • 常時10人以上の事業場で、就業規則を作成・届出しているか
  • 年1回の定期健康診断を受けさせ、記録を残しているか

是正報告書の下書き、さかのぼる残業代の再計算、36協定の届出、日当の内訳を書いた賃金規程や直行直帰の決まりの見直しと、勧告書が残していく宿題は、社内だけでは片付けにくいものばかりです。就業規則から整え直したい方は、建設業の就業規則作成のページをご覧ください。当事務所では、就業規則の作成・改定を顧問の基本料金内で行い、36協定の整備も一緒に進めています。労基署の調査の立会いや、呼び出しへの同席もお受けしています。料金は、顧問契約をいただいている会社で50,000円、スポットで150,000円です。是正報告書の作成も、この料金に含みます(※2026年10月時点)。時間外労働の上限への対応、移動時間の扱いの整理、出張手当の設計といった建設業特有の論点は、毎月のように扱っている実務です。Zoom30分の無料相談では、お手元の勧告書と指導票を画面越しに一緒に読み、報告書の下書きと再計算の段取りを整理できます。期日を数えながら2枚の紙を眺める夜が、1行ずつ片付いていく毎日に変わります。最新の制度や金額は、必ず公式サイトでご確認ください。

参考(一次情報)

よくあるご質問

是正勧告は法違反を直すよう求める行政指導の文書で、受け取っただけで罰金が科されるものではありません。是正期日までに直して報告し、是正が確認されれば監督指導は終わります。ただし直さずに放置するなど重大・悪質な事案は送検されることがあり、36協定なしの残業(労働基準法32条違反)や割増賃金の不払い(37条違反)は、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の対象です(119条1号・※2026年9月時点)。
出します。是正勧告書には是正報告書、指導票には改善報告書で答えるのが基本です(岡山労働局の案内)。同じ調査で両方を渡された時は、福井労働局や岡山労働局の是正報告書のひな形のように、1枚の中で是正勧告事項と指導事項の欄を分けて書く形もあります。
任意の様式で作ってかまいません。報告先の監督署名、報告者の職氏名、指摘事項とそれに対する措置の具体的な内容が分かることが条件です。提出は、特別な事情や担当官の指示がなければ郵送でよく、FAXは不可とされています(富山労働局 魚津労働基準監督署の案内)。
期日の前に担当官へ連絡し、それまでの進み具合と今後の予定を伝えると、改めて報告の時期が示されます(魚津労働基準監督署の案内)。報告書では直した項目と直しきれていない項目を分け、直しきれていない項目は理由と計画を書きます。黙って期日を過ぎることだけは避けてください。
期間と対象者は勧告書の記載と担当官の指示に沿って決まり、何か月分と一律に決めた国の基準は見当たりません。法律上さかのぼれる上限は、当分の間3年とされている賃金請求権の時効です(労働基準法115条・附則143条3項、※2026年9月時点)。申告した1人だけでなく、同じ働き方の職人の分も確かめるよう指導されることがあります。
社会保険労務士 中峯崇文

この記事の執筆・監修:中峯 崇文(社会保険労務士)

中峯社労士事務所 代表|社会保険労務士 登録番号 第27110112号

建設業に特化した社会保険労務士として、残業対応や一人親方の移行など、現場の労務を毎月扱っています。外国人雇用では自ら監理団体を立ち上げて運営し、採用と定着の設計まで踏み込みます。

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