建設業の1年単位の変形労働時間制|土曜出勤・年間カレンダー・協定届の作り方
建設業の1年単位の変形労働時間制は、対象期間を平均して週40時間以内に収め、事前に特定した土曜を通常の勤務日に組み込める制度です。労使協定の締結・届出と勤務カレンダーの事前確定が必要で、雨や工程変更を理由に任意に組み替えることはできません。途中入退社者には、実際に働いた期間に応じた割増賃金の精算が必要になる場合があります(※2026年9月時点)。
→ 自社の場合はどうなる? Zoom30分・無料相談で個別に整理できます従業員8人の内装会社。金曜の夕方、社長の机には来週の工程表と出勤簿が広がっています。土曜にも現場が入り、週40時間を超えるのが毎週のこと。「1年単位の変形労働時間制を入れれば、土曜も割増なしで回せる」と聞いたものの、窓の外は雨。前工程がずれれば、自社の予定も変わります。「来週さえ動くのに、1年分を決められるのか」。建設会社で起こりやすい、こんな場面を考えてみましょう。
導入の判断で先に見るのは、忙しい時期の勤務を増やした分、別の時期に休みや短い勤務を確保できるかです。この記事では、土曜出勤の基本的な割増計算から一歩進み、年間カレンダー、労使協定、就業規則、給与処理までをつなげます。
1年単位の変形労働時間制で、土曜出勤はどう変わりますか?
来月は引き渡しが重なるので土曜も動く。一方、お盆や年末年始には現場が止まる。その繁閑を、あらかじめ勤務予定に反映する仕組みです。
1年単位の変形労働時間制は、1か月を超え1年以内の対象期間を平均して、週40時間以内に収める制度です。その条件のもとで、事前に特定した日や週は法定労働時間を超えて設定できます(労働基準法第32条の4、※2026年9月時点)。「所定労働時間」は、会社があらかじめ決める勤務時間のことです。
適法に組んだカレンダーで土曜を労働日にしておけば、その所定時間の勤務が土曜というだけで時間外割増になることはありません。ただし、毎週の長時間勤務をそのまま年間に並べ、制度名だけ変えても成立しません。先に短い週や休日を確保して、平均を収めます。
また、予定より長く働いた日や、予定外の土曜に出た日は別途確認が必要です。導入後も法定時間外労働や法定休日労働には、36協定(時間外・休日労働について労使で結ぶ協定)と割増賃金の対応が必要です。詳しい計算の入口は土曜出勤と割増賃金の基本、協定の実務は建設業の36協定にまとめています。
当事務所の土曜勤務の編成に関する解決事例では、実際に取っている休憩を規則へ反映する提案と、隔週土曜をあらかじめ労働日に組み込む方法をご説明しました。自社の実際の休憩と勤務予定をそろえることが出発点です。これができると、社長は追加工事の返事をする前に、予定内で動ける日と追加費用を見込む日を分けて考えられます。
繁忙期は、何時間・何日まで勤務を組めますか?
「年度末に仕事を寄せて、後からまとめて休めばよいのでは」。カレンダーを埋めていくと、繁忙期の欄が勤務日ばかりになりがちです。平均週40時間以内に加え、日・週・連続勤務にも限度があります。
以下は、建設会社が対象期間を1年として組む場合の基本です(※2026年9月時点)。
| 確認するもの | カレンダーを組む際の限度 |
|---|---|
| 1日の労働時間 | 10時間まで |
| 1週間の労働時間 | 52時間まで |
| 連続労働日数 | 原則6日まで |
| 特定期間の連続労働日数 | 1週間に1日の休日を確保できる範囲で、最大12日まで |
| 年間労働日数 | 原則280日まで |
| 48時間を超える週の連続 | 3週以下 |
| 48時間を超える週の回数 | 対象期間を起算日から3か月ごとに区切り、各期間で3回以下。週の初日で数える |
特定期間とは、対象期間のうち特に業務が忙しい期間として労使協定で定めるものです。工期が押したからその場で特定期間にする、という使い方はできません。
年間280日の制限と、48時間超の週に関する制限は、対象期間が3か月を超える場合のルールです。3か月を超え1年未満なら、労働日数の限度は「280日×対象期間の暦の日数÷365」の端数を切り捨てて求めます。旧協定がある場合には、労働日数の限度がさらに厳しくなることもあるため、更新時は前年の協定も照合します。積雪の多い地域では別ルールが適用される場合がありますが、該当するかは労働局に確認します。雪で現場が止まる冬の休業や季節雇用の整理は、建設業の冬期休業と季節雇用をご覧ください。
ここでの10時間・52時間は、この制度で所定の勤務として設定できる限度です。残業を別枠でいくらでも追加できるという意味ではありません。また、280日以内でも週平均の条件を満たすとは限らず、労働日数と時間数の両方を点検します。厚生労働省の建設業向けリーフレットにも限度と季節別のカレンダー例があります。
長い週を色分けしておくと、受注が集中する前に「この週へさらに仕事を寄せられるか」が見えます。社長が工程表を見ながら一から日数を数える手間を減らせます。
年間カレンダーは、祝日や雨天予備日をどう入れて作りますか?
白紙の年間表に、とりあえず日曜だけ休みを入れる。その埋め方では、土曜の現場を足した段階で時間が収まらなくなります。次の順序で、勤務できる枠と工事を入れる枠を合わせていきます。
- 過去の勤務と工程を並べる。 忙しかった月、土曜に動いた週、雨で止まった日を拾い、例年の傾向と突発的な工期変更を分けます。
- 会社の休日を先に置く。 祝日、お盆、年末年始について、元請の休工予定も確認し、自社ではいつを休日にするか決めます。
- 土曜勤務と短い勤務を配分する。 引き渡しが重なる時期に勤務を増やすなら、仕事が少ない時期の休日や短い勤務日とセットで組みます。
- 各日の勤務時間と休憩を記す。 出勤・休日の印だけで終わらせず、日ごとの労働時間を集計できる状態にします。
- 総時間・週平均・限度を照合する。 年間だけでなく、前の表にある最長の日・週、連続勤務、48時間超の週も確認します。
例えば「1日8時間の勤務を260日置く」と仮定すると、年間の所定労働時間は2,080時間です。ただし、この掛け算だけでは日付の並びや連続勤務の検査になりません。どの土曜を勤務日にするかまで決めた表で確認する必要があります。
雨天予備日は、まず工程表に余裕として設けます。 例えば、勤務日として確定した日の作業量に余白を持たせ、工程が順調なら資材整理などを予定しておく考え方です。勤務カレンダー上は、その日が労働日なのか休日なのかを明確にします。「雨が降ったら休み、晴れたら出勤」と未確定のまま残す枠にはしません。
1年分の日付を決めにくい場合
対象期間を1か月以上の期間に区分する方法もあります。例えば月ごとに区分するなら、協定の段階で次を決めます。
- 最初の月:具体的な労働日と、日ごとの労働時間
- その後の各月:労働日数と総労働時間
- その後の各月の具体的な日付・時間:各月初日の30日以前に、決めてある日数・総時間の範囲内で、過半数労働組合または過半数代表者の同意を得て書面で確定
過半数代表者は、従業員の過半数を代表して労使協定を結ぶ人です。この方法でも、前日の天気予報を見て翌日の勤務を自由に決められるわけではありません(※期限等は2026年9月時点)。期限までに決められる単位を選ぶと、社長も職人も、次の月の予定を同じ表で確認できます。
労使協定・就業規則・協定届は、何をどう書けばよいですか?
カレンダーはできたのに、届出用紙を開くと手が止まる。そんなときは、協定で合意する内容を先にそろえ、そこから様式第4号へ転記します。
労使協定で決める5つの事項
| 決めること | 内装会社で確認する内容 |
|---|---|
| 対象労働者の範囲 | 現場職と事務職のどちらに適用するか。育児・介護等への配慮も確認 |
| 対象期間と起算日 | いつから、いつまでの勤務を平均するか |
| 特定期間 | 特に忙しい期間を設けるか。設けるなら期間を特定 |
| 労働日と日ごとの労働時間 | 勤務カレンダーと対応させる。区分方式なら各期間の定めも記す |
| 協定の有効期間 | 対象期間との関係を確認し、協定が有効な期間を定める |
協定は、従業員の過半数で組織する労働組合があればその組合、なければ適正に選ばれた過半数代表者と書面で結びます。代表者は法律上の管理監督者ではなく、協定を結ぶ代表を選ぶ目的を明らかにした投票・挙手などで選出します。社長が都合のよい人を指名する方法は使えません。厚生労働省の説明でも、選出要件を示しています。現場に散っている職人から代表者を選ぶ手順例は、就業規則の届出と過半数代表者の選び方でも紹介しています。
就業規則の規定例
次は、1年分を事前に確定する方式の条文イメージです。自社の対象者、起算日、勤務パターンに合わせた調整が必要です。
規定例(労働時間) 労使協定で定める従業員について、同協定に定める起算日から1年間の変形労働時間制を適用し、対象期間を平均して1週間当たりの労働時間を40時間以内とする。労働日、各日の始業・終業時刻、休憩時間および休日は、本規則の別表および労使協定に基づく年間勤務カレンダーで定め、対象期間の開始前に従業員へ周知する。
別表には、実際の始業・終業・休憩の時刻を記載します。この条文だけを貼り、別表とカレンダーを空欄にしたままでは運用できません。月ごとに区分する方式なら、確定期限や同意の手続きも、その方式に合わせて整えます。
様式第4号の記入例を使うときの順番
協定届には、限度いっぱいの数値を先に書くのではなく、自社の勤務カレンダーの集計結果を入れます。
| 主な記入欄 | 記入の考え方・例 |
|---|---|
| 常時使用する労働者数/該当労働者数 | 仮に常時8人で、現場職6人だけに適用するなら、それぞれ8人/6人。実際の人数で記入 |
| 対象期間・起算日/特定期間 | 協定で合意した期間を記入 |
| 1週間の平均労働時間数 | 対象期間の所定労働時間の合計から計算した平均を記入 |
| 最も長い日・週の労働時間 | 10時間・52時間という上限値の丸写しではなく、カレンダー上の最長時間を記入 |
| 総労働日数・最長連続労働日数 | 日付を並べたカレンダーから集計 |
| 48時間を超える週数・最長連続週数 | 週ごとに集計し、該当する回数・連続数を記入 |
| 協定成立日・当事者・選出方法等 | 実際の締結日と代表者の選出手続きに合わせる。旧協定があれば比較欄も確認 |
この表は記入する順序の説明で、提出用紙の再現ではありません。最新様式は必ず労働局の公式サイトでダウンロードしてください。 福井労働局の手続案内には、協定届・協定書・年間カレンダーの記載例がまとまっています。
導入に向けて、協定届、労使協定書、勤務カレンダーをそろえ、対象期間の起算日までに所轄の労働基準監督署へ届け出ます。就業規則の作成・届出義務は、常時10人以上を使用する事業場が対象です。冒頭の8人の会社でも、変形制の労使協定の締結・届出は必要で、就業規則等による労働契約上の根拠も整えます(※2026年9月時点)。
協定や勤務予定は、掲示・備え付け・書面交付などで従業員に周知します。届け出た書類と職人に配った表を同じ内容で保管しておけば、「その土曜は出勤だったか」を社長の記憶で答えずに済みます。
雨で工程がずれたら、休日を振り替えてよいですか?
水曜が雨で休工になり、元請から「日曜に取り戻してほしい」と連絡が来る。このとき、確定した勤務カレンダーの水曜と日曜を消しゴムで入れ替えて終わりにはできません。
いったん特定した労働日や労働時間は、業務の都合で任意に変更できません。 雨天時は、次の順序で判断と記録を分けます。
- 同じ日に別の作業ができるか。 屋内の現場、資材整理、工具の手入れなどを検討します。同日の作業変更と、別の日への休日の振替を区別します。
- 休ませるなら、理由と賃金の扱いを確認する。 「雨だから当然に無給」とは決められません。会社の責任による休業なら休業手当が必要になり得て、不可抗力による休業なら対象外と判断されることがあります。
- 別日に働かせるなら、その日の勤務区分を確認する。 振替休日の手続き(就業規則の根拠、日付の特定、前日までの通知、休日の確保)を踏むだけで変形制の予定を自由に動かせるとは扱わず、確定したカレンダーとの関係、制度上の限度や時間外・休日労働への該当を確認します。
雨で休んだ日の賃金判断は、建設業の雨天休業と休業手当で詳しく説明しています。本記事では「休んだ日の給料」と「追加で働く日の割増」をひとまとめにして相殺しないことを押さえてください。
雨天予備日を工程表に用意し、休工理由と代替作業の有無を残しておくと、給料日前に「あの雨の日、どうしたか」を職人へ聞き直す手間が減ります。社長は当日の安全と段取りの判断に集中しやすくなります。
途中で入社・退職した職人の給料は、どう精算しますか?
繁忙期に土曜まで働いた職人が、閑散期の長い休みに入る前に退職する。会社全体のカレンダーでは平均が収まっていても、その人は忙しい期間だけ働いていることがあります。
対象期間より実際に働いた期間が短い人については、その期間を平均して週40時間を超える労働があれば、割増賃金の精算が必要です。途中採用・退職のほか、配置転換で対象から外れる場合なども確認します(労働基準法第32条の4の2、※2026年9月時点)。
| 給与処理でそろえるもの | 確認すること |
|---|---|
| 適用開始日・終了日 | その職人について、平均を計算する期間を確定する |
| 勤務記録 | 予定表に加えて、その期間に実際に働いた時間を集計する |
| 割増賃金の処理記録 | すでに割増の支払いが必要な時間を区別し、二重計算を避ける |
| 精算する時点 | 途中退職等はその時点。途中採用は対象期間終了時(その前に退職等したらその時点) |
精算は「土曜に何回出たか」だけでは計算できません。対象期間の区切り、実労働時間、すでに割増対象となった時間を合わせて確認します。
規定例(途中入退社等の精算) 対象期間の途中での採用、退職その他の事由により、本制度の下で労働した期間が対象期間より短い従業員については、法令に基づき割増賃金を精算する。
条文は自社の賃金規程に合わせて調整し、入退社の給与処理チェックにも精算の確認欄を設けます。退職の申し出があった日に必要な記録を集め始められれば、社長が最後の給与を渡した後に、追加精算のため出勤簿を探し直す事態を防ぎやすくなります。
うちの会社に向いていますか、何から始めればよいですか?
昨年の工程表と出勤簿を並べてみてください。毎年忙しい月が似ているか、それとも翌週の現場さえ変わり続けるか。導入できる規模かどうかに加え、予定を守れる仕事の組み方かが判断の軸になります。
| 向きやすい会社 | 導入を慎重に考えたい会社 |
|---|---|
| 繁忙期と閑散期がある程度読める | 年間を通して同じ長時間勤務が続く |
| 土曜勤務の分を、他の休日や短い勤務で調整できる | 休みを増やす時期や短い勤務日を確保しにくい |
| 勤務予定を期限までに確定して共有できる | 元請から直前の勤務変更が頻繁に入る |
| 雨天時の代替作業と勤怠記録を整えられる | 休工・追加出勤の記録が口頭のやり取りにとどまる |
最初に用意したいのは、直近の勤務記録、現在の就業規則、今後の工程の見通しです。そこから「土曜を何日組めるか」「どの時期に休みを確保するか」「雨の日はどう処理するか」を一緒に並べていきます。
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参考(一次情報)
- 労働基準法(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049
- 建設業における1年単位の変形労働時間制のポイント・令和7年6月版(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/content/001505975.pdf
- 1年単位の変形労働時間制・制度と精算の解説(厚生労働省・東京労働局): https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/library/tokyo-roudoukyoku/jikanka/1nen.pdf
- 1年単位の変形労働時間制について・手続きと記載例(福井労働局): https://jsite.mhlw.go.jp/fukui-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/1nenhenkei.html
- 節電に向けた労働時間の見直しなどに関するQ&A・総論(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/faq_01.html
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