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「日当に残業代込み」は通る?建設業の固定残業代の決め方と就業規則の記載例

テーマ: 建設業の就業規則作成
30秒で結論

建設業の日給制でも固定残業代は設計できますが、「残業代込み」と伝えるだけでは不十分です。通常の賃金と時間外労働の対価を判別できる定め、実際の割増賃金が固定額を超えた場合の追加支給を整えます。金額・対応時間数・対象となる労働を契約書や賃金規程に示し、勤怠記録に基づいて精算するとともに、固定残業代を除いて最低賃金を確認します。

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従業員7人の型枠会社。夕方、現場から戻った社長のスマホに、辞めた職人から「残業代が一度も払われていません」と連絡が入る。日当は1万8千円。社長は残業代も込みのつもりで、本人たちにもそう伝えてきた。机に給与明細を並べても、書かれているのは日当と出勤日数だけ。「この中に入っている」と指で示せる欄がない——。これは、日当の内訳が決まっていない会社で起こり得る場面です。

「では、日当をどう決め、何に書けばいいのか」。この記事では、建設業の固定残業代(みなし残業)を、契約書の記載から毎月の給与計算までつながる形で整理します。

「残業代込み」を有効な固定残業代にするには、何が必要ですか?

職人から「残業代はどの部分ですか」と聞かれたとき、社長の説明と書類と支払いが一致していることが出発点です。固定残業代は、時間外労働などの対価を定額であらかじめ支払う方法です。採用すること自体が直ちに違法になるわけではありません。

判例と厚生労働省の表示ルールを踏まえ、設計・運用で確認する点は次の3つです。判決に「この3要件を満たせば必ず有効」と書かれている、という意味ではありません。

確認する点自社の書類と支払いで確かめること
通常の賃金と割増賃金を判別できる日当のうち、通常の仕事への賃金と固定残業代がそれぞれいくらか分かる
時間外労働の対価である固定残業代が何の労働に対するお金なのか、契約・説明・実態がそろっている
不足する差額を支払う法律に沿って計算した割増賃金が固定額を超えたら、追加で支払う

日本ケミカル事件が示した判断

日本ケミカル事件(最判平成30年7月19日)は、薬局の業務手当が争われた事件です。最高裁は、時間外労働の対価かどうかについて、契約書の記載に加え、会社の説明や実際の勤務状況なども考慮するとしました。この事件では対価性が認められましたが、会社が支払うべき賃金額などの審理は差し戻されています。「固定手当が認められれば精算不要」という判決ではありません。判決原文(裁判所)

国際自動車事件が示した判断

国際自動車事件(最判令和2年3月30日・第2次上告審)は、残業などの割増金が増えると、その分を歩合給から差し引く仕組みが問題になりました。最高裁は、実質的に通常の賃金の名目を割増金へ置き換える仕組みであり、通常賃金と割増賃金を判別できず、法定の割増賃金を支払ったとはいえないと判断しました。判決原文(裁判所)

どちらも建設業の事件ではありませんが、手当の名前だけでなく、賃金全体の仕組みを確認する際の判断枠組みになります。国際自動車事件の仕組みを出来高払いの職人に置き換えた例は、出来高払い・歩合の職人の残業代で紹介しています。日当にもこの視点を当てはめれば、社長は「込みと言ったはず」の押し問答から、内訳と計算根拠を示す説明へ進めます。

日当1万8千円なら、固定残業代をどう分ければいいですか?

社長が紙に「日当1万8千円」と書いたら、次に書くのは「何時間働く日の通常賃金か」です。総額から適当な金額を抜き出して残業代と呼んでも、対応する時間数と計算が合わなければ困ります。

順番は、①所定労働時間(会社が決める通常の勤務時間)を確認する、②通常の賃金と割増計算に入る手当を整理する、③時間外労働の単価を計算する、④固定額と対応時間数を決める、です。

以下は、これから条件を設計する際の仮の計算例です。 所定労働時間が毎日8時間、他の手当なし、通常の時間外労働に25%の割増を適用する場面だけを考えます。深夜・休日や、月60時間を超える時間外労働は別に計算します(※2026年9月時点)。

項目仮の設計・計算
1日分の支給額18,000円
通常の賃金16,000円
固定時間外手当2,000円
通常賃金の時間単価16,000円÷8時間=2,000円
時間外労働の単価2,000円×1.25=2,500円
固定手当が対応する時間2,000円÷2,500円=0.8時間(48分)

この条件では、2,000円は「1時間分」には足りません。1時間分とするなら固定手当は2,500円となり、通常の賃金16,000円と合わせて18,500円です。固定する金額と時間数はセットで計算する、ということです。

冒頭の会社について「今までの1万8千円も、この内訳だったことにする」という話ではありません。同じ1万8千円のまま一部を固定残業代に振り替えると、残業代を計算する時間単価が下がるため、労働条件の不利益変更になり得ます。既存の契約を変える場合は、現在の賃金の性質や本人の同意の取り方も含めて検討します。説明や同意書の進め方は手当・日当を下げる就業規則の不利益変更で整理しています。過去の請求への備えは建設業の未払い賃金リスクと記録の備えにまとめています。

日給の決め方や締め日などの土台は、日給月給の建設業で整える賃金規定も参照してください。内訳と時間数を先に計算しておくと、採用時に職人へ伝える金額と、給与計算で使う金額が食い違わなくなります。

雇用契約書・就業規則・給与明細には、どう書けばいいですか?

採用時の契約書には「固定残業代」、就業規則に付けた賃金規程には「現場手当」、明細には「日給」とだけ書いてある。この状態では、本人も給与担当者も同じお金なのか判断できません。名称・金額・対象時間・差額の扱いをそろえます。

厚労省の求人票向けリーフレットは、固定残業代を除く基本給、固定残業代の時間数と金額等の計算方法、超過分を追加支給する旨の明示を求めています。その考え方を日給制に当てはめたのが、次の作例です。行政が示した日給制の公式ひな形ではありません。 支給対象日、欠勤・休業、休日勤務、他の手当などに合わせた調整が必要です。

雇用契約書の規定例

所定労働時間は1日8時間とする。所定労働日に所定労働時間勤務した日の賃金は18,000円とし、通常の賃金16,000円と固定時間外手当2,000円に区分する。固定時間外手当は、当日の時間外労働の有無にかかわらず、法定時間外労働48分分の対価として支給する。当日の法定時間外労働に対する賃金が同手当を超える場合は、その差額を追加支給する。深夜割増賃金および法定休日労働の賃金は同手当に含めず、別途支給する。

賃金規程の規定例

固定時間外手当の額、対応する時間数および支給対象日は、雇用契約書に明示する。日ごとに精算する固定時間外手当については、各対象日の法定時間外労働に対する賃金と同手当を比較し、超過額を賃金計算期間ごとに集計して、当該期間の賃金支払日に支給する。残業が少ない日の手当を、他の日の不足額に充当しない。賃金計算期間全体でも、法定の割増賃金に不足がないことを確認する。

上の例は、日ごとに固定分と超過分を確認し、月の給与でまとめて払う設計です。日給制でも固定手当を月額で定める設計は考えられますが、その場合は比較する期間・金額・時間数を月単位でそろえる必要があります。日単位の規定と月単位の計算を混ぜないでください。

給与明細では、少なくとも次のように内訳を見える形にします。これも表示の作例です。

明細の欄表示する内容
通常の賃金通常賃金の日額×対象日数
固定時間外手当手当の日額×支給対象日数、対応時間数
超過時間外手当日ごとの超過額を集計した金額
深夜・休日の賃金固定分に含めていない分を別欄に表示
勤怠の欄実際の時間外・深夜・休日の時間数

契約書を渡すときには、残業がなくても固定分を支給し、超えたら追加することまで説明します。書類をそろえると、給料日前の「この手当は何だったか」という確認を減らせます。

固定分を超えた月は、何を記録してどう精算しますか?

月末に出面帳を開いて「今月は何日来たか」だけ数えても、固定分を超えたかは分かりません。残業代を定額で払っていても、実際に働いた時間の記録が必要です。

本記事でいう「みなし残業」は固定残業代の呼び名であり、実労働時間を記録しなくてよいという意味ではありません。現場ごとに始業・終業・休憩を残し、会社集合や資材の積込み、帰社後の片付けなども、勤務実態を確認できる記録に含めます。どこを労働時間として計上するか、社長と職人で基準をそろえておきます。

先ほどの日ごとの設計なら、給与締めには次の順で確認します。

  1. 各日の記録から、法定時間外・深夜・休日の労働を分けて集計する。
  2. 適用する単価・割増率で、支払うべき賃金を計算する。
  3. 固定手当の対象となる分と固定額を比較し、日ごとの不足額を集計する。
  4. 固定分の対象外の賃金も加え、当月の給与明細と支払いに反映する。

例えば、上の仮定である日に法定時間外労働が2時間あったなら、時間外労働の賃金は2,500円×2時間=5,000円。固定手当2,000円との差額3,000円を追加します。残業のなかった日の固定分を差し引いて、この追加額を減らす設計にはしていません。

月額の固定手当なら、同じ賃金計算期間の対象となる割増賃金と比較し、不足分を追加します。どちらの設計でも、「設定した時間数に達していないから追加ゼロ」と、時間だけで判定しないことが大切です。割増率が変わる場合や対象外の労働も確認します。

締め日に記憶をたどる作業を減らすには、日々の記録と給与明細の欄を対応させておくことです。社長が現場ごとに電話で聞き直す手間も減ります。

日当が高ければ、最低賃金は確認しなくてもよいですか?

「うちは1万8千円出しているから」と、総額だけを見るのは早計です。固定残業代は、最低賃金を満たしているか比較する際の賃金に含めません。時間外労働などへの賃金を除外する扱いは、最低賃金法施行規則に定められています。

所定労働時間が毎日同じ日給制では、最低賃金の対象になる日給額を1日の所定労働時間で割り、適用される最低賃金の時間額と比べます。確認方法(厚生労働省)

上の仮の設計なら、他の手当がないため、確認するのは18,000円÷8時間ではなく、固定残業代を除いた16,000円÷8時間=2,000円です。この時間額を、適用される最低賃金と比較します。他の手当がある会社は、その手当が最低賃金の比較に含まれるかも別に確認してください。

  • 通常の賃金と固定残業代の内訳を確認する。
  • 最低賃金の対象になる賃金だけを時間額に直す。
  • 適用される最低賃金額と、その発効日を確認して比較する。

最低賃金の具体額は改定されるため、ここでは固定しません。日給を時間額に直す手順と確認用のチェック表は、日給の職人は最低賃金を割っていない?にまとめています。賃金改定のたびに同じ表で確認できれば、社長は「総額が高いから大丈夫」という感覚に頼らず判断できます。

「込み」だけ・時間数なし・長すぎる設定は、どこが問題ですか?

求人票の空欄に「日当1万8千円、残業代込み」と書いて終わらせたくなる。忙しい社長ほど、この一行で伝わってほしいところです。しかし、その一行では計算できない部分が残ります。

設計・運用の例問題と直し方
「込み」とだけ伝える通常の賃金と割増賃金が判別できず、残業代の支払いと認められないおそれがあります。内訳と対価の範囲を定めます
時間数を書かない金額が何時間に対応するか、本人にも担当者にも伝わりません。金額・計算方法・対応時間数を示します
極端に長い時間数を設定する実態とかけ離れ、長時間労働を前提にした設計になっていないか検討が必要です。記録を基に時間数と工程を見直します
超過しても一切払わない固定額が法定の割増賃金に不足すれば追加支給が必要です。差額が出る計算欄を設けます

時間数が未記載という一点だけで、すべての固定残業代が当然に無効になるとはいえません。 日本ケミカル事件でも契約や説明、勤務実態などが検討されています。ただし、これから設計する会社が時間数を省略してよい理由にはなりません。求人表示でも時間数・金額等の明示が求められています。

また、固定残業時間について一律の法定上限があるかのようには扱えません。極端に長い設定は有効性を含む個別検討が必要で、「長く設定した分だけ働かせてよい」ともいえません。

残業をさせるための36協定の整え方と、実際の働かせ方を確認する時間外労働の上限チェックリストは、固定残業代とは別に確認してください。手当の設計と工程管理を両方整えると、社長が残業代の枠を理由に無理な工期を受け入れることも防ぎやすくなります。

今の「残業代込み」を見直すなら、何から始めればいいですか?

まず職人1人分の雇用契約書、賃金規程、給与明細、勤怠記録を机に並べてください。同じ月を選び、「通常の賃金」「固定残業代」「対象時間」「追加支給」の4か所に印を付けます。どこに何が書いてあるか分からない項目が、その会社の最初の見直し箇所です。

次に、その月の実際の労働時間で試算し、規程どおりに計算できるか、法定の割増賃金に不足がないかを確かめます。日ごとに固定するのか月額で固定するのか、誰が記録を集め、誰が差額を確認するのかまで決めておけば、翌月から同じ手順で回せます。

中峯社労士事務所では、建設業の就業規則作成・改定を顧問の基本料金内で行っています。Zoom30分の無料相談で、自社の日当の内訳や記録の残し方、どこから整えるかを一緒に整理できます。すでに退職者との交渉や訴訟が必要になっている場合は、弁護士への相談も必要です。

次の給料日に職人から聞かれたとき、明細の欄を指して「通常の賃金がここ、固定分がここ、超えた分はここ」と説明できる状態を目指しましょう。最新の制度や金額は、必ず公式サイトでご確認ください。

参考(一次情報)

よくあるご質問

いいえ。本記事でいうみなし残業は、一定の残業代をあらかじめ支払う固定残業代のことで、実際の労働時間の把握を省ける仕組みではありません。固定分を超えたか確認するため、始業・終業・休憩を記録します。
時間外労働の有無にかかわらず支給すると定めた固定残業代は、残業がなかったことを理由に減らしません。欠勤・休業の日の扱いは別の論点なので、支給対象日と計算方法をあらかじめ整理します。
名前だけでは決まりません。時間外労働の対価として定められているかを、契約書・説明・勤務実態などから判断します。担当業務への手当と残業代を混ぜず、それぞれの目的と金額を示してください。
あります。時間数だけでなく、適用する単価・割増率で計算した金額と固定額を比べる必要があります。深夜・休日の割増を固定分の対象にしていない場合は、それらも別に計算します。
今後の規程を整えることと、過去に割増賃金を支払えていたかは別の問題です。当時の契約・説明・勤務記録・支払額を確認し、既存の日当を後から自由に分けられるとは考えないでください。
社会保険労務士 中峯崇文

この記事の執筆・監修:中峯 崇文(社会保険労務士)

中峯社労士事務所 代表|社会保険労務士 登録番号 第27110112号採用定着士

建設業に特化した社会保険労務士として、残業対応や一人親方の移行など、現場の労務を毎月扱っています。外国人雇用では自ら監理団体を立ち上げて運営し、採用定着士として採用と定着の設計まで踏み込みます。

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