雪下ろし・除雪で職人がケガをしたら|墜落防止の義務と労災になるかの分かれ目
屋根の雪下ろしは、自社の倉庫や事務所でも、会社の仕事として行わせる以上は現場と同じ墜落防止の義務がかかります(労働安全衛生規則518条)。請け負った除雪中や会社の指示で自社の敷地を除雪中のケガは業務災害、通勤の途中の転倒は通勤災害として扱われるのが基本で、どちらも労災の対象になり得ます(認定は労働基準監督署)。2026年4月施行の労働安全衛生法62条の2で、高年齢者に配慮した作業環境の改善と作業の管理が会社の努力義務になりました。冬の前に、中止基準・2人作業・保護具・報告の流れを就業規則に書いておきます。
→ 自社の場合はどうなる? Zoom30分・無料相談で個別に整理できます従業員8人の土木会社。町から道路の除雪も請けています。1月の月曜、朝7時。社長が事務所の鍵を開けると、資材置き場の倉庫の屋根に、ひと晩で乗った雪が先週からの分と合わさって1メートル近くになっています。今日は現場が止まっている日です。63歳の親方が車から降りてきて屋根を見上げ、いつもの調子で言います。「落ちる前に、俺と若いので下ろしとくわ」。去年も、その前の年も、そうやって済ませてきました。はしごを倉庫の壁に立てかけ、ヘルメットはかぶるけれど、親綱もフルハーネスも出した覚えはありません。元請の現場なら朝礼で器具の点検から始めるのに、自社の倉庫になると「現場じゃないから」と、どこか別の仕事のように扱ってきました。その日の夜、今度は道路の除雪に出たオペレーターから「詰所の前で滑って、手首をひねった」と電話が入ります。親方を屋根に上げてよかったのか。詰所の前の転倒は労災なのか。この記事では、雪下ろし・除雪の墜落防止の義務を労働安全衛生規則の条文と労働局の資料で確かめ、除雪中のケガがどこまで労災になるかの分かれ目、2026年4月から始まった高年齢者の労災防止の努力義務、そして冬の前に就業規則と安全のルールに書いておくことを、建設会社の現場の言葉で整理します。

自社の倉庫や事務所の雪下ろしにも、現場と同じ墜落防止の義務がかかりますか?
かかります。元請の現場でも、自社の倉庫の屋根でも、会社の仕事として職人を高い所に上げる以上、労働安全衛生規則(安衛則)の墜落防止の定めは同じように会社の義務です。「本来の工事ではないから」という区別は、条文のどこにもありません。
秋田労働局の「STOP!雪下ろしによる墜落災害」(令和4年1月作成)は、自社の建物の雪下ろしで起きた災害について「本来の業務と違うためか雪下ろし作業を軽視して、安全対策が不十分なまま作業を行い被災しているケースも目立ちます」と書いています。同じ資料によると、秋田県内の雪下ろし作業で屋根から墜落して負傷した労働者は、平成23〜令和2年度の10年間の平均で毎年5人程度です。冒頭の社長のように「現場じゃないから」と扱ってきたのは、この会社だけの癖ではありません。労働局が資料にわざわざ書くほど、雪国の会社に共通する落とし穴です。
屋根の雪下ろしに関わる条文を、現場の言葉に直すと次のとおりです。
| 条文(労働安全衛生規則) | 現場の言葉で言うと |
|---|---|
| 518条1項 | 高さ2メートル以上で落ちる危険がある所では、足場を組むなどして作業床を作る |
| 518条2項 | 作業床を作るのが難しい屋根の上では、防網を張るか、要求性能墜落制止用器具(フルハーネス型など)を使わせる |
| 521条 | 器具を使わせるなら、フックを掛ける親綱や支点を会社が設け、器具と設備に異常が無いかを随時点検する |
| 520条 | 使うよう命じられた職人は、使わなければならない |
| 524条 | スレートなどの屋根で踏み抜きの危険がある時は、幅30センチ以上の歩み板を設け、防網を張るなどする |
| 527条 | 移動はしごは、すべり止め装置など、ずれや倒れ(転位)を防ぐ措置が取られたものでなければ使えない |
| 36条41号 | 高さ2メートル以上で作業床を設けるのが難しい所でフルハーネス型を使う作業は、特別教育の対象 |
屋根の上に足場を組んで作業床を作るのは、雪下ろしでは現実的でないことがほとんどです。そのため秋田労働局の「雪下ろし作業時等労働災害防止対策の基本」(令和4年1月作成)は、「屋根からの墜落防止は親綱と墜落制止用器具の使用が原則!」と言い切っています。墜落制止用器具は、以前「安全帯」と呼ばれていた、落ちた体を途中で止める器具で、フルハーネス型が代表です。親綱は、屋根の上に張り渡して器具のフックを掛けるロープで、これを固定する支点(アンカー)を取る所が要ります。同じ資料は、令和4年1月2日以降は旧規格となる「安全帯の規格」に基づいた安全帯は使えないとしています(※2026年10月時点)。倉庫の棚に規格の古い安全帯が残っていて、それを職人に渡していないか、冬の前に一度確かめてください。
もう一つ見落としやすいのが、特別教育です。高さ2メートル以上で作業床を設けるのが難しい所でフルハーネス型を使う作業は、安衛則36条41号の特別教育の対象で、会社が教育を行ってから就かせる業務です。元請の現場のために職人へ受けさせた教育は、自社の屋根でも同じように効きます。受けていない職人を屋根に上げるなら、先に教育です。2027年4月からは、常時300人以下の労働者を使う会社の社長・役員や一人親方が職人と同じ場所でこの作業をする時にも、受講の義務が広がります(社長も特別教育の対象に)。社長自身が屋根に上がる会社は、社長のケガへの備え(労災の特別加入)を社長が3か月現場に出られなくなったら、会社はもつのかで確かめてください。
この条文の表を1枚持っておくと、親方が「俺が上がるわ」と言った朝の、社長の返事が変わります。「頼む」ではなく、「親綱を張って、はしごを固定してからな」。止めるのではなく、順番を決めるだけです。
雪下ろしの前に何を決めて、どんな日は中止しますか?
決めるのは、作業の前に確かめる5つのことと、作業をしない日の基準の2つです。「積雪が何センチになったら雪下ろしをするか」という基準は、労働安全の法令にはありません。だからこそ、会社が自分で決めて紙にしておく必要があります。
秋田労働局の「雪下ろし作業時等労働災害防止対策の基本」は、作業の前に次の5つを決めるよう求めています。
- 積雪の状態と屋根の形状
- 落雪防止金具(雪止め)の有無と位置
- 昇降設備(はしごなど)の場所と固定の方法
- 親綱の設置場所
- 使用する墜落制止用器具や親綱など
親綱の支点(アンカー)の取り方は、同じ資料が3つの例を挙げています。屋根の上に立てる支柱(スタンション)を使う、屋根の反対側の柱・固定物・車両のホイールなどに回す、既存の雪止め金具を使う(強度不足に注意し、複数箇所に取る)。秋田労働局の雪下ろし作業時の労働災害防止サイトには、雪下ろし作業計画書の様式(Excel)と、住宅用・大規模な建物用の記入例も公開されています。ゼロから様式を作る必要はなく、自社の倉庫と事務所の分を一度埋めれば、毎年そのまま使えます。
作業を中止する日の基準は、どう決めますか?
同じ秋田労働局の資料は、中止基準の例として、気温が高い日は屋根の雪下ろし作業や軒下での作業をしないこと、悪天候(風速10m/s以上、1回の降雪25cm以上など)が予想される場合も危険なので、事前に作業の中止基準を定めておくことを挙げています。北海道労働局の令和7年度「北海道冬季ゼロ災運動」(2025年12月1日〜2026年3月31日)も、雪下ろしについて、親綱などを設置して墜落制止用器具を使うこと、気温が高く雪が融けて滑りやすくなる場合には作業を中止する等の基準を策定すること、はしごの上端と脚部を固定するなど転位を防ぐこと、雪下ろし場所の周辺に立入禁止区域を設定することを挙げています。今年度の運動の資料は、冬の前に所轄の労働局のサイトで確かめてください。
気温が高い日が危ないのは、屋根の雪が緩んで一度に滑るからです。北海道労働局の同じ資料には、1月に屋根の雪落とし中に足元の雪が滑り出して落下し、雪に埋没して亡くなった事例が載っています。石川労働局のチェックリスト(2022年12月〜2023年2月版)には、事業場の敷地内で除雪をしていた人に大屋根から大量の雪が落ちて背中に当たり、胸部を骨折して3か月休業した事例があります。屋根の上の人だけでなく、軒下で雪をかいている人も、落雪の線の外に出しておく必要があります。
規定例(雪下ろし作業の中止基準と人数) 次のいずれかに当たるときは、屋根の雪下ろし及び軒下での除雪作業を行わない。①風速10m/s以上又は1回の降雪25cm以上が予想されるとき ②気温が高く、屋根の雪が緩んで滑りやすいとき ③その他、作業責任者が危険と判断したとき。作業は2人以上で行い、1人では行わせない。中止の判断は作業責任者が行い、会社に報告する。
条文イメージです。数字は労働局の例に合わせていますが、自社の建物の屋根の形や勾配、地域の気象に合わせて調整してください。
除雪の重機には、何が要りますか?
除雪機械の事故は、屋根とは別の形で起きます。北海道労働局の資料に載るもう一つの死亡事例は、1月に、停止中の除雪車の後ろを通っていた人が、後退してきた除雪車にひかれたものです。同じ運動は、重機で除雪をする時はあらかじめ作業計画を作り、作業範囲内への立入禁止措置を講じるよう求めています。
安衛則は、車両系建設機械を使う作業について、使う機械の種類と能力・運行経路・作業の方法を定めた作業計画を作って関係する労働者に知らせること(155条)、運転中の機械に接触する危険がある所への立入りを、禁止の表示などで止めること(誘導者を置いて誘導させる時は別)(158条)を定めています。除雪に使うホイールローダーや除雪ドーザ、手押しの小型除雪機が、それぞれこの車両系建設機械に当たるかどうか、運転にどの資格(技能講習・特別教育)が要るかは、機械の区分ごとに違います。機械の仕様書と労働基準監督署で確かめてください。区分がどうであれ、「どの道を通り、どこに人を立たせないか」を紙にして全員に見せておくことが、後退する除雪車の後ろに人を立たせない一番の手当てです。石川労働局のチェックリストにも、除雪機の取扱者に安全な使用方法と除雪時の作業方法を教育しているか、という項目があります。
夜の除雪で残業が延びる時の36協定と労働基準法33条の届(様式第6号)、割増賃金の数え方は、親記事の建設業の冬、給料と除雪の残業はどうする?で表にしています。この記事では、その夜に職人がケガをしないための段取りと、ケガをした時の労災の側を扱います。1年単位の変形労働時間制で冬の所定を短くしている会社の、除雪の時間の数え方と36協定の月42時間の枠は、雪国の建設業の1年単位の変形労働時間制にまとめています。
除雪中のケガは、どこまでが労災になりますか?
請け負った除雪の作業中のケガも、会社の指示で自社の敷地を除雪していた時のケガも、業務上のケガ(業務災害)として労災の対象になるのが基本です。通勤の途中に凍った道で転んだケガは、通勤災害として、やはり労災の対象です。どちらも労災ですが、区分によって会社の負担と出す書類が変わるので、まず分かれ目を押さえます。
厚生労働省の「業務災害とは」は、所定労働時間内や残業時間内に事業場の施設内で業務に従事している場合の災害は「特段の事情がない限り、業務災害と認められます」としています。休憩時間や就業の前後に施設内にいて業務に従事していない時の私的な行為によるケガは業務災害になりませんが、「事業場の施設・設備や管理状況等が原因で発生した災害は業務災害となります」。地震や台風など天災地変によるケガは原則として認められないものの、「事業場の立地条件や作業条件・作業環境等により、天災地変に際して災害を被りやすい業務の事情があるときは、業務災害と認められます」。
通勤災害の方は、労働者災害補償保険法7条2項が、通勤を「労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除く」と定め、住居と就業の場所との間の往復などを挙げています。寄り道(逸脱・中断)の間とその後は通勤になりません(日常生活に必要な行為の例外があります)。
この2つの原則に、冬の場面を当てはめると次のようになります。
| 冬の場面 | 区分の見立て | 考え方 |
|---|---|---|
| 町から請け負った道路除雪の作業中(夜の出動を含む) | 業務災害 | 会社の仕事そのものに従事している間のケガ |
| 社長の指示で、就業時間内に自社の事務所・資材置き場・駐車場を除雪していた | 業務災害として扱われるのが基本 | 事業場の施設内で業務に従事している(厚生労働省の原則からの当てはめ) |
| 自社の倉庫の屋根の雪下ろし中に墜落した | 業務災害として扱われるのが基本 | 同上。会社が業務として行わせている |
| 休憩中に自分の車の雪を払っていて転んだ | 私的な行為なら業務災害にならない。ただし屋根からの落雪など、施設・設備や管理状況が原因なら業務災害 | 厚生労働省の考え方 |
| 朝、自宅から会社や現場へ向かう途中、凍った歩道で転んだ | 通勤災害 | 住居と就業の場所の往復(労災保険法7条2項) |
| 自宅の前の雪かき中に転んだ | 通勤災害には当たらないと考えるのが原則 | 移動の途中ではないので「通勤」ではない(原則論) |
表の2行目と3行目は、「会社の指示で事務所や駐車場を除雪していてのケガは業務災害」と直接書いた行政の資料があるわけではなく、厚生労働省の原則から当てはめたものです。実際の認定は労働基準監督署が個別に行います。指示の有無・時間帯・場所が分かれ目になるので、除雪を頼む時は「誰に・いつ・どこを」を日報に残しておくと、請求の時に迷いません。会社の車で会社の段取りどおりに現場へ向かう途中の事故が原則として業務災害になる点や、相乗り・直行の分かれ目は、通勤災害と業務災害の分かれ目で表にしています。
冬の間、職人を休業させている会社が、休業中の日に雪下ろしや除雪で呼び出すと、その日は丸一日の休業ではなくなります。休業手当・保険料と、通年雇用助成金の休業の数え方への影響は、冬の休業中の給料と社会保険料で整理しています。
区分で何が変わるかは、休業の最初の3日分です。業務災害なら、労災の休業の給付が出ない最初の3日について、会社側が平均賃金の60%を補償します。通勤災害にはその義務がありません。労働者死傷病報告が要るかどうかも違います。手続きそのものは、職人が元請の現場でケガをしたらに日付順の表があります。当日のうちに職長から社長へ報告し、病院では「仕事中のケガです」と伝えて健康保険証を出さない。休業4日以上なら労働者死傷病報告を電子申請で出す。この流れは、雪下ろしのケガでも同じです。
冬の前に確かめておきたいのが、どの労災保険で請求するかです。町や県から請け負う除雪が労災保険のどの事業の種類に当たるかは、この記事で一律に言い切ることができません。自社の事務所や資材置き場での作業に備える「事務所等の労災」の保険関係が成立しているかと合わせて、所轄の労働基準監督署か労働局に確かめてください。請け負った除雪で職人が倒れた夜に、労働保険番号を探すところから始めるのは避けたいところです。
分かれ目が頭に入っていれば、夜の電話を受けた社長は「請けている除雪の作業中だから業務災害。明日、療養の請求書」と、その場で次の一手を言えます。職人も、「仕事中のケガだから労災で治る」と分かって病院に向かえます。
60代の職人の冬の転倒に、2026年4月から会社は何をすればいいですか?
今年、2026年(令和8年)4月1日から、労働安全衛生法62条の2が施行され、高年齢者の労働災害を防ぐために「高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善、作業の管理その他の必要な措置を講ずるように努めなければならない」ことが、会社の努力義務になりました(令和7年法律第33号で新設。※2026年10月時点)。あわせて厚生労働省は「高年齢者の労働災害防止のための指針」(指針公示第1号・令和8年2月10日、適用は令和8年4月1日)を公表し、それまでの「エイジフレンドリーガイドライン」はこの指針に替わりました。
冬の労災の中身を見ると、なぜ高年齢者なのかが分かります。青森労働局は、令和7年度の冬期労働災害防止運動(2025年12月1日〜2026年2月28日)の案内で、「昨冬」として、休業4日以上の被災者数を246人(前年同期比84人の増加)、そのうち転倒災害を181人と示しています。石川労働局のチェックリスト(2022年12月〜2023年2月版)は、「積雪20cmを超える大雪後には、屋外のみならず屋内を含めた転倒災害が増加し、特に従業員駐車場から建物入口までの移動時に多く発生」と書いています。北海道労働局の令和7年度の資料も、労働者の高年齢化の影響で転倒災害の件数は増加傾向にあり、転倒した時のけがの程度も重くなる傾向だとしています。
労働者に限らない数字ですが、国土交通省の資料(令和7年2月)によると、令和6年度の冬の除雪作業中の死者は令和7年2月5日時点で34人、そのうち65歳以上が約9割で、屋根からの転落が17人、屋根からの落雪が9人と、屋根に関わるものが約8割です。住民を含む全国の数字で、労災の統計ではありません。それでも「誰が、どこで」亡くなっているかは、会社の倉庫の屋根にもそのまま当てはまります。
努力義務は、「〜するように努めなければならない」と法律が会社に求める定めです。条文の言葉は「作業環境の改善」と「作業の管理」の2つで、冬の建設会社に置き換えると、たとえば次のようなことです。
- 作業環境:従業員駐車場から事務所の入口までを朝一番に除雪し、融雪剤をまく人を決める。詰所の出入口やはしごの足元の凍結を見る
- 作業の管理:屋根の雪下ろしに上げる人を若い職人にし、60代の親方には下で監視役・はしごの固定役に回ってもらう。雪下ろしも除雪も1人では行わせない。朝の集合時刻を、路面の凍結が緩む時間にずらす
- 本人の状態:膝や足首に不安のある職人には、屋根と軒下の作業を外す。前の冬に転んだ人を把握しておく
これらは条文の言葉から考えた例で、指針に並ぶ個別の項目は厚生労働省のページで確かめてください。努力義務ですが、万一の事故の後で、会社が職人の命と体の安全に配慮する義務(安全配慮義務)を果たしていたかを問われる時、「法律が努めるよう求めていたことを会社はしていたか」は物差しになり得ます(労災事故で問われる安全配慮義務)。
60代の職人を屋根から外すことは、戦力を外すことではありません。60代のベテラン職人に長く働いてもらうで書いたとおり、親方が持っているのは体力ではなく判断です。雪下ろしの日、親方には屋根の下から「そこの雪は緩んでる、先にこっちを落とせ」と言ってもらう。親方の「俺が上がるわ」に、社長が「上は若いのに任せて、親方は下で見といてくれ」と返せるようになる。本人の顔を立てながら、法律が会社に求めていることを、その一言で果たせます。
冬の前に、就業規則や安全のルールに何を書いておきますか?
書いておくのは、①作業を中止する基準 ②2人以上で行うこと ③保護具の使用命令と報告の流れ ④屋根に上げる人の決め方 の4つです。安衛則の義務は、規則に書かなくても会社にかかります。それでも書くのは、職人に守らせるルールとして示し、守らなかった時の注意や懲戒の根拠にし、事故の後に「会社は決めて、伝えて、守らせていた」と示すためです。就業規則の安全衛生の章に置くか、別に安全衛生規程や作業手順書を作って就業規則から指すかは、規則の分量で決めます。
| 書くこと | 中身の例 | 根拠・出どころ |
|---|---|---|
| 作業計画 | 雪下ろしの前に、作業場所・昇降設備と固定方法・親綱の設置場所・使う器具・作業者と監視者を決め、計画書に書く | 秋田労働局の作業計画書の様式 |
| 中止基準 | 風速10m/s以上・1回の降雪25cm以上が予想される時、気温が高く屋根の雪が緩む時 | 秋田労働局・北海道労働局の例 |
| 人数 | 雪下ろし・除雪は2人以上。屋根の上に1人、下に監視役 | 北海道労働局の死亡事例(雪に埋没) |
| 保護具 | 会社が命じた墜落制止用器具・保護帽を使う義務。使わない人は作業に就かせない | 安衛則520条・521条 |
| はしご・立入禁止 | はしごの上端と脚部を固定する。落雪の範囲に立入禁止区域を設ける | 安衛則527条・北海道労働局 |
| 教育 | フルハーネスの特別教育(安衛則36条41号)、除雪機の使用方法の教育 | 安衛則36条・石川労働局 |
| 報告 | ケガ・ヒヤリ・落雪があったら、軽くても当日に報告する。報告の相手と順番 | 労災の手続きの起点 |
| 高年齢者 | 屋根に上げる人の決め方、足元の除雪の担当 | 安衛法62条の2 |
規定例(保護具の使用と報告) 従業員は、会社が使用を命じた墜落制止用器具、保護帽その他の保護具を使用しなければならず、会社は、使用しない者を当該作業に就かせない。従業員は、除雪作業中に負傷したとき、又は転倒・落雪・機械との接触等により危険を感じたときは、程度の軽重にかかわらず、直ちに作業責任者又は会社に報告しなければならない。
条文イメージです。報告の相手や保護具の種類は、自社の体制と建物に合わせて調整してください。保護具を使わない職人への注意・懲戒を規則に入れておく形は懲戒規定の入れ方で、書いたルールを現場の運用と記録でそろえる考え方は安全配慮義務で書いています。雪下ろしの作業計画書、特別教育の修了証の写し、保護具の点検の記録は、同じファイルに綴じておきます。
社長の毎日はどう変わるか。 1月の朝、倉庫の屋根を見上げた時、社長の頭に浮かぶのが「誰に頼むか」ではなく「計画書を出して、中止基準を見る」になります。気温が上がる予報なら、その日はやらない。やる日は、若い職人2人と親綱、下に親方。親方の顔を立てるための遠慮も、落ちたらどうしようという朝の重さも、紙が引き受けてくれます。
職人の毎日はどう変わるか。 倉庫の屋根に上がる28歳の職人には、フルハーネスと、フックを掛ける親綱と、はしごを下で押さえる相棒がいます。元請の現場と同じ装備で、自社の屋根に上がれる。万一落ちても、仕事中のケガとして労災で治療を受け、休んだ分の補償も労災から受けられます。健康保険証を出して自分で払う必要も、「自社の屋根だから労災にならないのでは」と不安になる必要もありません。朝、家を出る時に、家族に「会社がちゃんと装備を出してくれる」と言える。社長が冬の前に紙を1枚作ることの、職人の側の意味はそこにあります。
雪が降る前に、何から手を付ければいいですか?
最初にやるのは、去年の冬に職人を屋根に上げた建物と、除雪に出した場面を書き出すことです。「倉庫の屋根(スレート・高さ約4メートル)、親方と若手、はしご、親綱なし」。1行書くだけで、何が足りないかが見えます。
- 建物と作業の棚卸し:雪下ろしをする建物ごとに、屋根の高さ・材質・雪止めの有無・はしごを掛ける場所を書き出し、秋田労働局の様式で作業計画書を作る
- 道具と教育の確認:墜落制止用器具が今の規格か、フルハーネスの特別教育を受けた職人は誰か、親綱と支点をどう取るか。足りない分を雪の前に手配する
- 中止基準と人の決め方:風速・降雪量・気温の基準、2人以上、屋根に上げる人と下で見る人、60代の職人の配置
- 労災の確認:請け負う除雪の労災保険の扱いと、事務所等の労災の保険関係を労働局・労働基準監督署で確かめ、ケガの日の報告の順番を職長と共有する
- 就業規則・安全衛生規程に書いて周知する:中止基準・2人作業・保護具・報告の流れを文書にし、冬の前の朝礼で全員に話す
雪の日の仕事を安全衛生の章に落とし込む作業は、建設業の就業規則作成でお受けしています。中峯社労士事務所では、就業規則の作成・改定を顧問の基本料金内で行っています。北海道や東北、北陸など遠方の会社でも、オンラインでやり取りしながら進められます(遠方の社労士に頼む流れ)。Zoom30分の無料相談では、自社の建物と除雪の請け方をもとに、何を作業計画にし、何を規則に書き、どこを労働局に確かめるべきかを一緒に整理できます。社員の方でこのページを読まれた方は、社長に見せていただくのがいちばんの近道です。ご相談は会社からお受けしています。
1月の朝、親方が屋根を見上げて「俺が下ろしとくわ」と言った時、社長が計画書を手に「今日は気温が上がるから明日。明日は若いのが上で、親方は下な」と返せる。雪国の会社の冬は、その一言を事前に用意できるかどうかで変わります。最新の制度や金額は、必ず公式サイトでご確認ください。
参考(一次情報)
- 労働安全衛生規則(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032
- 労働安全衛生法(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000057
- 雪下ろし作業時の労働災害防止サイト(秋田労働局): https://jsite.mhlw.go.jp/akita-roudoukyoku/newpage_00986.html
- 北海道冬季ゼロ災運動 令和7年度(北海道労働局): https://jsite.mhlw.go.jp/hokkaido-roudoukyoku/content/contents/002449275.pdf
- 業務災害とは(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040325-12_0002.pdf
- 高年齢者の労働災害防止のための指針(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/newpage_00010.html
よくあるご質問
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