社長が3か月現場に出られなくなったら、会社はもつのか|建設業の社長が倒れる前の備え
社長は労働者ではないため原則として労災保険の対象外です。現場に立つ建設業の社長は、労働保険事務組合を通じた中小事業主等の特別加入で業務上のケガに備えます。業務外の病気やケガで働けない期間は健康保険の傷病手当金が支給されますが、国民健康保険にこの給付はありません。役員報酬を止める判断には議事録が必要で、後から作ることはできません。
→ 自社の場合はどうなる? Zoom30分・無料相談で個別に整理できます脚立から落ちた。左足首の骨折、全治3か月——。搬送先の処置室で、社長のポケットの携帯が鳴り続けています。元請けの監督、明日の生コン、来週の見積り。ベッドの上で「明日どうする」を考えている社長を、何人も見てきました。
従業員7人の会社で、社長は職人であり、営業であり、経理でもあります。その1人が3か月抜けたとき、会社に何が起きるのか。倒れてからでは選べない話を、先に並べておきます。
現場でケガをしても、社長には労災が下りません
まず、ここがいちばん大きな穴です。
労災保険は「労働者」を守る制度です。法人の代表取締役や個人事業主は労働者ではないため、原則として対象になりません。 同じ足場から同じように落ちても、職人には療養の給付と休業補償が出て、社長には出ない。5〜10人規模の会社では、いちばん現場に出ている社長がいちばん無防備という逆転が起きています。
しかも、業務中のケガは健康保険からも原則として給付されません。小規模法人の役員に一部例外はありますが、それを当てにして足場に上がるのは備えではありません。治療費は全額自己負担、休んでいる間の収入もゼロ。この状態で3か月です。
現場に立つ社長は、労災の「特別加入」で穴をふさぎます
これを埋めるのが、労災保険の中小事業主等の特別加入です。
- 制度としては:従業員について労災保険の関係が成立していること、労働保険事務組合に事務を委託すること、社長と労働者でない役員・家族従事者を包括して加入すること。この3つが要件で、建設業は常時使用する労働者300人以下が対象です。
- 会社はどう有利になるか:現場でのケガが、職人と同じ土俵で補償の対象になります。元請けから「社長も特別加入していますか」と安全書類で聞かれても、その場で答えられます。
- 社長の毎日はどう変わるか:自分で墨出しをしても、荷揚げを手伝っても、夜に天井を見ながら「今日は危なかったな」と考えずに済みます。
守られるのは申請した業務の範囲だけです。実態とずれていると、いざというときに外れます。
業務外の病気で休むときは、健康保険の傷病手当金です
ケガは現場だけで起きるわけではありません。日曜の草野球で肩を壊す。朝、脳梗塞で倒れる。業務外なので労災ではなく、健康保険の話になります。
法人の役員でも、健康保険の被保険者であれば傷病手当金の対象です。 業務外の病気やケガで働けず、連続する3日を含めて4日以上仕事に就けなかったとき、4日目から支給されます。金額は、支給開始日以前12か月の標準報酬月額を平均した額を30で割り、その3分の2。支給期間は通算して1年6か月です。
ここに、法人と個人事業の決定的な差があります。国民健康保険には傷病手当金がありません。 個人事業のまま現場に出ている社長は、業務上は労災の対象外、業務外は傷病手当金なしという二重の穴を抱えたまま働いていることになります。
役員報酬を止める判断には、議事録が要ります
入院3週目。病室に来た奥さんが通帳を見て、「役員報酬、このままでいいの?」と聞いてきます。
傷病手当金は、報酬が支払われている間は支給されないか、差額が調整されます。だから「役員報酬をどうするか」を決めないと話が進みません。そして役員報酬は、社長の一存で今日から止められるものではありません。
- 手続としては:役員報酬の減額や不支給は、株主総会または取締役会の決議事項です。決議した事実を残すのが議事録で、これは後から作ることができません。社会保険の側では、固定的な報酬が変わって3か月の平均が2等級以上動いたときに随時改定(月額変更届)を出し、標準報酬月額を下げます。
- 会社はどう有利になるか:議事録・保険の届出・税務の処理が、同じ日付と同じ事実の上に並びます。あとで調査が入っても、説明が一本で通ります。
- 社長の毎日はどう変わるか:病室から電話で指示を出さずに済みます。奥さんが年金事務所と税理士に別々の説明をして、途中で食い違う心配もありません。
なお、減額した役員報酬が損金になるかどうかという税務上の扱いは税理士の領域です。決議の日付と内容を先に固め、税務の処理は税理士にも確認してください。
もう1つ、見落としやすい点があります。傷病手当金の額は「支給開始日以前12か月の標準報酬月額の平均」で決まります。保険料を抑える目的で役員報酬を低く置いてきた会社ほど、いざというときに受け取れる額も小さくなります。 これは平時の設計の話です。
抜けた3か月の粗利は、どこで埋めますか
保険は社長個人の生活を支える仕組みです。会社の粗利までは埋めてくれません。
ホワイトボードの工程表を見てください。社長が段取りしている現場に赤い線を引くと、残るのは何本ですか。多くの会社で、ここが半分以下になります。埋め方は3つしかありません。現場を回せる番頭を育てる/その期間だけ外注比率を上げる/手元資金で食いつなぐ。どれを選ぶにしても、必要な金額を先に出しておかないと判断できません。
自社の数字は、利益は出ているのにお金が残らないと建設業の人件費率・労働分配率の目安で見える化できます。番頭役を1人増やす場合の実際の負担は、職人を1人雇うと年間いくらかかる?にまとめました。
倒れる前に、この順番で決めておきます
- 労災の特別加入をしているか。その業務内容は実態と合っているか
- 傷病手当金を受けられる状態か(法人か、社長が健康保険の被保険者か)
- 役員報酬を止める場合の議事録のひな形が、平時のうちに用意してあるか
- 社長が3か月抜けたときに消える粗利は、いくらか
中峯社労士事務所は建設業を専門にしています。特別加入に必要な労働保険まわりの手続き、傷病手当金の書類、議事録の整備、そしてキャッシュフローコーチとしてのお金の見える化まで、同じ窓口で扱います。全体設計は建設業の社会保険に、現場に入る一人親方との線引きは一人親方の社会保険はどうなる?にまとめました。従業員の職人が病気やケガで長く休むときの休職のルールは、職人が病気・ケガで長く休むとき|休職規程と復職の決め方で解説しています。
まずは「うちの社長が3か月抜けたら」を、Zoom30分の無料相談で一緒に洗い出しませんか。備えは、動ける今しか作れません。
参考(一次情報)
- 労災保険への特別加入(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/kanyu.html
- 特別加入制度のしおり(中小事業主等用)(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/040324-5.html
- 労働保険事務組合制度(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/hoken/roudouhoken01/kumiai-seido.html
- 傷病手当金(全国健康保険協会): https://www.kyoukaikenpo.or.jp/benefit/injury_and_sickness_allowance/index.html
- 随時改定(月額変更届)(日本年金機構): https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20150515-02.html
よくあるご質問
「今の状態で調査が入ったら、うちは持つのか?」
未加入・一部加入のまま人を増やしてきた会社ほど、指摘されてからでは負担が一度に来ます。保険料と人件費の見通しを立てて、無理のない順番で整えます。Zoom30分・無料です。
ご相談で最も多いのは、社長が現場に出ている従業員5〜10人の建設会社さまです。
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