職人を1人雇うと年間いくらかかる?給与以外の「見えないコスト」全部盛り
月給30万円の職人を雇うと、会社が負担するのは給与の年360万円だけではありません。賞与、社会保険料の会社負担(給与のおおむね15%前後)、労災保険、道具や作業服、資格取得の講習費、車両、そして一人前になるまでの教育期間の逸失が積み上がります。1人1台の車をつける会社なら年間の実コストは500万円台後半に達し、給与の1.5倍規模になります。採用の判断は「払えるか」ではなく「その人がいくらの粗利を生めば会社に残るか」で行うと、決めどきを外しません(※2026年7月時点)。
→ 自社の場合はどうなる? Zoom30分・無料相談で個別に整理できます「月30万出せば来てくれるやろか」。従業員6人の外構工事会社の社長は、事務所のホワイトボードに求人票の下書きを書きながら、頭の中で電卓を叩いていました。月30万なら年間360万。今期の利益からすれば、なんとかいける——。3か月後、実際に1人採ったあとの通帳を見て、社長は首をひねります。想像していた減り方ではありませんでした。
計算が間違っていたわけではありません。足していた項目が足りなかっただけです。この記事では、職人を1人雇ったときに会社から出ていくお金を、給与以外まで含めて全部並べます。そのうえで、「この人がいくら稼げば会社に残るのか」を逆算する手順まで進みます。

月給30万円の職人は、会社にとっていくらの支出ですか?
以下は、考え方を示すための仮の試算です。実際の金額は、賞与の有無・車両の持たせ方・地域・事業の種類で大きく変わります。
| 項目 | 年間(例) | 内容 |
|---|---|---|
| 給与 | 360万円 | 月30万円 × 12か月 |
| 賞与 | 30万円 | 年1か月分を出す場合 |
| 法定福利費 | 約59万円 | 給与+賞与の約15%(会社負担分) |
| 通勤・現場移動 | 約12万円 | 通勤手当・高速代・駐車場代など |
| 道具・作業服・保護具 | 約20万円 | 初年度は一式そろえる分が乗る |
| 資格取得・講習 | 約10万円 | 玉掛け・車両系・職長教育など |
| 車両 | 約80万円 | 1人1台の場合。リース・保険・燃料・整備 |
| 健康診断・その他 | 約2万円 | 年1回の定期健康診断ほか |
| 合計 | 約573万円 | 月あたり約48万円 |
月30万円のつもりが、実際には月48万円規模。給与の約1.6倍です。車両をつけない会社でも、約490万円で1.4倍近くになります。「なんとかいけると思ったのに、思ったより減る」の正体はここにあります。
法定福利費は、なぜ「給与の15%前後」になるのですか?
会社が負担しているのは、次の5つです。
- 健康保険:労使折半。料率は都道府県ごとに異なります
- 厚生年金保険:労使折半
- 子ども・子育て拠出金:全額が会社負担
- 雇用保険:会社と本人で負担割合が異なり、建設の事業は一般の事業と率が別に定められています
- 労災保険:全額が会社負担。事業の種類ごとに率が定められ、建設業は高めの区分に入ります
これらを合わせると、おおむね給与の15%前後になります(※2026年7月時点・料率は年度や都道府県で改定されます)。建設業は労災保険率が高い区分にあたるため、これを上回るケースもあります。
もう一点、建設業に固有の扱いがあります。請負による事業では、請負金額に労務費率を掛けた額を賃金総額とみなして労災保険料を計算する方法が認められています。現場ごとに人が入れ替わる建設業の実態に合わせた仕組みですが、自社がどの区分に該当するかを取り違えると、年度更新のたびにズレが積もります。
なお、この法定福利費は元請に出す見積書で内訳を明示することが求められています。書き方は法定福利費の内訳明示見積書の作り方にまとめました。見積に載せていない法定福利費は、そのまま自社の利益から出ていきます。
いちばん大きい「見えないコスト」は何ですか?
表には入れませんでしたが、実務でいちばん効くのは教育期間の逸失です。
入社したその日から一人前の粗利を生む職人は、まずいません。段取りを覚え、自社のやり方に慣れ、任せられる工程が増えるまでに、経験者でも数か月、未経験者なら1年単位でかかります。その間も給与と法定福利費は満額出ていきます。つまり会社は、将来の戦力に対して先にお金を出しているわけです。
ここが読めていないと、こうなります。採用した月から現金の出は増えるのに、粗利が増えるのは半年後。その半年のあいだに、材料の支払いと納税が重なる——採用直後に資金繰りが苦しくなる会社の多くは、この時間差にやられています。
そして最悪なのが、その職人が1年以内に辞めた場合です。求人費も、道具も、講習費も、教育に使った先輩の時間も、すべて回収前に消えます。定着は情の話ではなく、投資回収の話です。
その職人は、いくら粗利を稼げば会社に残りますか?
ここまで出した実コストを、自社の労働分配率で割り戻します。
- 実コスト573万円 ÷ 労働分配率75% = 約764万円
つまり、この職人が年間で約764万円の粗利を生んで、ようやく会社の他の数字が今までどおりに保たれます。年間240日稼働なら、1日あたり約3万2,000円の粗利。ここまで落とすと、社長の感覚と数字がつながります。「この単価の現場に、1日この人数で入って、間に合うのか」——判断がその場でできるようになります。
労働分配率の出し方は建設業の人件費率・労働分配率の目安で解説しています。
見えないコストは、どこを削れるのですか?
削るというより、回収を早める・取り逃さないという方向で考えます。
- 定着させる:辞められると全部やり直しです。日当だけでなく、休みの取り方・評価の伝え方・キャリアの見せ方が効きます(職人が辞めない会社の就業規則)。
- 助成金を先に組み込む:雇い入れや正社員化、技能講習に関する助成金の多くは、取り組みを始める前の計画や就業規則の整備が要件になります。採用してから調べても間に合いません(助成金の年間活用計画)。
- 賃金の配分を設計する:同じ支給総額でも、基本給・手当・賞与のどこに乗せるかで、割増賃金の単価も社会保険料も変わります。求人票に出す前に決めておく話です(日給月給の賃金規定)。
- 安全管理を保険料の話として見る:一定の規模の事業には、災害の発生状況に応じて労災保険率が増減する仕組みがあります。無事故は、安全の話であると同時にコストの話でもあります。
採用の判断は、どう変わりますか?
- やること:求人を出す前に、年間の実コストと、必要な粗利、そして回収が始まる時期を試算します。
- 会社がどう有利になるか:「払えるかどうか」ではなく「いつ回収できるか」で決められます。教育期間の立て替え分を先に見込んでおけば、採用直後の資金繰りが崩れません。
- 社長の毎日はどう変わるか:求人票の月給欄で手が止まらなくなります。「うちは月30万まで」ではなく、「この単価の仕事が取れているうちに、この時期に1人」と、時期まで込みで言えるようになります。
人件費という箱の中身は、社会保険料・残業代・日当の設計・助成金——そのまま労務の実務です。当事務所は建設業に特化し、キャッシュフローコーチが在籍する体制で、採用の前にこの試算を社長と一緒に置いています(キャッシュフローコンサルティング/料金は料金ページに公開しています・※2026年7月時点)。税務申告そのものは税理士の業務のため、当事務所では行いません。
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参考(一次情報)
- 都道府県毎の保険料額表(全国健康保険協会): https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g7/cat330/sb3150/
- 厚生年金保険(日本年金機構): https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/index.html
- 労働保険の適用・徴収(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/hoken/index.html
- 各団体が作成した標準見積書(国土交通省): https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/totikensangyo_const_tk2_000082.html
よくあるご質問
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