日当を上げたいが利益が消える:建設業の賃上げ原資の作り方
粗利が同じまま人件費だけを増やせば、賃上げ分はそのまま利益から差し引かれます。だから賃上げは「利益の分け前」ではなく、粗利の配分を組み替える判断として考える必要があります。原資は、粗利率を上げる・元請への価格転嫁・公的支援の3方向からしか出ません。上げ方も重要で、一度上げた基本給は簡単に下げられないため、手当や段階的な引き上げを就業規則と賃金規定に基準として書き込んでおくことが、助成金の要件を満たすうえでも有利になります(※2026年7月時点)。
→ 自社の場合はどうなる? Zoom30分・無料相談で個別に整理できます夜8時の事務所。従業員7人の土工事会社の社長は、閉めたばかりの現場のことより、昼にベテランから言われた一言が頭に残っていました。「社長、隣の会社、日当2万出してるらしいですよ」。責める口調ではありません。だからこそ効きました。上げてやりたい。人も欲しい。でも、去年の決算で残った利益を思い出すと、口が動きません。
「上げたら、利益が消える」。この感覚は正確です。粗利が同じまま人件費だけ増やせば、増えた分はそっくり利益から引かれるからです。ただし、それは「上げられない」という結論にはつながりません。この記事では、賃上げの原資がどこから出るのかを3方向に整理し、上げ方の設計まで進みます。

日当を1,000円上げると、年間いくら増えますか?
まず、増える額を具体的にします。職人5人、年間稼働240日の会社で、日当を1,000円上げた場合です。
| 項目 | 金額(例) |
|---|---|
| 日当の増加分 | 1,000円 × 5人 × 240日 = 120万円 |
| 法定福利費の増加分 | 120万円 × 約15% = 約18万円 |
| 合計 | 約138万円 |
さらに、時間あたりの賃金単価が上がるため、割増賃金(残業・休日)も連動して増えます。残業が多い会社では、ここが無視できない額になります。社会保険料の会社負担はおおむね給与の15%前後です(※2026年7月時点・料率は年度や都道府県で変わります)。
「1,000円くらい」と口では言えても、会社から出ていくのは年間138万円以上。ここを曖昧にしたまま「よし上げよう」と決めると、半年後に資金繰りで後悔します。逆に、この138万円という数字さえ手元にあれば、話は「上げるか上げないか」から「138万円をどこから作るか」に変わります。
なぜ「上げると利益が消える」のですか?
お金のブロックパズルで見ると、理由は一目で分かります。売上から材料費・外注費を引いた粗利があり、そこから人件費・固定費が出て、残りが利益です。粗利の箱の大きさが変わらないまま人件費の箱を138万円広げれば、利益の箱が138万円縮む。それだけの話です。
つまり賃上げは、利益の分け前を配る行為ではなく、粗利の配分を組み替える判断です。だから、粗利側を動かさない賃上げは必ず利益を削ります。図全体の読み方は利益は出ているのにお金が残らない:お金のブロックパズル入門にまとめています。
ちなみに「経費を締めて出そう」は、5〜10人の建設会社ではほとんど機能しません。固定費の大半が人件費と車両費で、削れる余地が最初から残っていないからです。
原資は、3方向からしか出ません
1. 粗利率を上げる
いちばん効きます。売上を1割増やすより、粗利率を数ポイント戻すほうが手元に残る額は大きくなります。見るべきは3か所です。
- 見積の労務費:材料費は上がった分をきちんと乗せているのに、手間の単価だけ数年前のまま、という会社が多くあります。2025年12月に全面施行された改正建設業法で示された標準労務費の考え方は、この見直しの根拠になります。
- 法定福利費の内訳明示:見積書に書いていない法定福利費は、自社の利益から出ています。書き方は法定福利費の内訳明示見積書の作り方のとおりです。
- 赤字現場をやめる:全部の現場が黒字だと思っている会社ほど、実は数本が全体を食っています。工事1本ごとの粗利を出すところから始めます。
2. 元請へ価格転嫁する
「言い出しにくい」で止まっている会社が大半です。ただ、労務費を著しく低い金額で見積り・契約することは、改正建設業法で規制の対象になりました。賃上げの必要性は、いまや会社の都合ではなく制度の側の要請です。「うちの職人の日当を上げるので、この単価でお願いしたい」と言うときに、根拠となる公的な資料を持って行けるかどうかで、話の通り方が変わります。
3. 公的支援を使う
賃上げに関係する助成金があります。代表的なのが業務改善助成金で、事業場内で最も低い賃金を一定額以上引き上げ、あわせて生産性向上のための設備投資などを行った場合に、その費用の一部が助成される制度です。年度ごとに受付期間・要件・上限額が設定されるため、最新の内容は公式サイトで確認してください(※2026年7月時点)。
有期契約の職人を正社員に登用する場面ではキャリアアップ助成金、技能講習では人材開発支援助成金の建設業向けコースが土俵に乗ります。いずれも取り組みを始める前の計画と就業規則の整備が要件になるため、上げてから調べても間に合いません。年間で組む考え方は助成金の年間活用計画にまとめました。
賃上げは、どうやって粗利に返ってくるのですか?
順番があります。
- 日当を上げる → 2. 求人に応募が来るようになる → 3. 断っていた仕事を受けられる → 4. 稼働が埋まり、1人当たり粗利が上がる → 5. 次の賃上げ原資ができる
この循環は、逆にも同じ速さで回ります。日当が周辺相場に届かない → 応募が来ない → 人手が足りず仕事を断る → 粗利が減る → もっと上げられない。いま「応募が来ない」状態にある会社は、すでに逆回転に入っている可能性があります(求人を出しても応募が来ない建設会社が直すべき点)。
だから賃上げは、コストの話であると同時に採用の投資です。判断を「今期の利益で払えるか」だけで決めると、循環のどちら側にいるかを見落とします。
上げ方を間違えると、あとで戻せません
金額を決める前に、どの形で上げるかを設計してください。労務の実務ではここがいちばん揉めます。
- 一度上げた基本給は、簡単には下げられません。賃金の引き下げは労働条件の不利益変更にあたり、原則として本人の同意が要ります。業績連動で調整したい部分は、基本給ではなく手当や賞与で設計します。
- 全員一律か、階段か。一律は不満が出にくい代わりに、頑張っている職人の手応えが薄くなります。資格・職長・多能工といった基準を決めて段階をつけるほうが、定着にも効きます。
- 日当を上げると割増賃金の単価も上がります。日給月給の会社では、ここを織り込まずに上げると、残業代の増加で試算が狂います(日給月給の建設業、就業規則に絶対入れるべき賃金規定)。
- 基準を就業規則・賃金規定に書く。書いていない昇給は、その場しのぎの交渉になります。書いてあれば、助成金の要件を満たすうえでも有利です。
1年後、どう変わりますか
- やること:増える額を試算し、粗利率・価格転嫁・助成金の3方向で原資を組み、上げ方を賃金規定に落とします。
- 会社がどう有利になるか:賃上げが利益をそのまま削る一方通行ではなくなります。単価交渉と採用が同じ計画の中に入るため、上げた分がどこで戻るかを説明できます。
- 社長の毎日はどう変わるか:「隣は2万らしいですよ」と言われたときに、黙って目をそらさずに済みます。「来期の頭に上げる。そのために、いまこの単価を通しにいってる」と、時期と根拠をセットで言えるようになります。職人に会社の方針を語れる社長のところに、人は残ります。
日当も、社会保険料も、割増賃金も、助成金も、全部ひとつの箱の中の話です。当事務所は建設業に特化し、キャッシュフローコーチが在籍する体制で、原資の試算と賃金規定への落とし込みを同じテーブルで進めています(キャッシュフローコンサルティング/料金は料金ページに公開しています)。なお、税務申告そのものは税理士の業務のため当事務所では行いません。
「上げたいけど、いくらまでなら上げられるのか」。この線引きを持たないまま年度末を迎えると、また1年見送ることになります。Zoom30分・無料の相談で、御社の粗利から出せる上限を一緒に出してみませんか。
参考(一次情報)
- 業務改善助成金(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/shienjigyou/03.html
- キャリアアップ助成金(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000118801_00013.html
- 人材開発支援助成金(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html
- 労務費に関する基準(国土交通省): https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/tochi_fudousan_kensetsugyo_const_tk1_000001_00044.html
- 建設業法・入契法改正について(国土交通省): https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/tochi_fudousan_kensetsugyo_const_tk1_000001_00033.html
よくあるご質問
「人を増やす判断を、勘でやめませんか?」
お金のブロックパズルで、売上・粗利・人件費の流れを1枚の図にします。「1人増やしたら資金繰りはどうなるか」を数字で確かめてから決められます。Zoom30分・無料です。
ご相談で最も多いのは、社長が現場に出ている従業員5〜10人の建設会社さまです。
▼ まずは現状をお聞かせください(相談は無料です) ▼
\ 予約ツールの入力は不要。「まず話だけ」「5分だけ電話」でOKです /