どんぶり勘定の卒業:見積もりの利益が現金にならない建設会社の数字の見方
見積もりの利益が現金にならない原因は、利益が消える側と、入金が遅れる側の2つに分かれます。消える側は実行予算を作っていないこと、移動時間や手待ちを労務費に数えていないこと、追加工事を口約束で受けていること。遅れる側は、材料費と給料が先に出て入金が数か月後になる建設業の構造です。卒業の第一歩は工事1本ごとの実行粗利を出すことで、月次では実行粗利率・未入金の残高・今後3か月の入出金予定の3つを見ます(※2026年7月時点)。
→ 自社の場合はどうなる? Zoom30分・無料相談で個別に整理できます無事に引き渡しが終わった現場がありました。従業員8人の内装工事会社。見積もりの段階では、粗利は25%出るはずでした。社長の感覚でも「今回はまあまあ」だった現場です。ところが月末、材料屋と協力会社への支払いを済ませたところで通帳を見ると、残高はほとんど動いていません。あの現場の入金は、来月の末。手元にあるのは、まだ請求もしていない次の現場の材料費の請求書です。
「利益が出た気がしない」。この感覚には、2つの別々の原因が混ざっています。見積もりの利益が現場で目減りしているという原因と、利益は出ているが入金がまだ先という原因です。この2つは対策がまったく違うのに、どんぶり勘定のままだと区別がつきません。この記事では、見積もりから回収までの流れに沿って、両方を分けて見ていきます。
なお、会社全体のお金の箱の並べ方(売上・粗利・固定費・利益・返済)は利益は出ているのにお金が残らない:お金のブロックパズル入門で扱っています。この記事は、その中の工事1本と、その回収に踏み込みます。

見積もりの利益は、どこで消えるのですか?
現場で目減りする理由は、だいたいこの4つに収まります。
- 実行予算を作っていない:見積もりは元請に出す金額、実行予算は自社がその工事にいくらかけるかの計画です。実行予算がなければ、終わったときに「何が原因でズレたか」を特定できません。次の見積もりも勘のままになります。
- 労務費を人日で置いていない:「この現場は3人で2週間くらい」で見積もると、実際に何人日入ったかが誰にも分かりません。とくに漏れやすいのが移動時間・段取り・手待ち・やり直しです。移動時間が労働時間にあたるかどうかの判断は現場への移動時間は労働時間?にまとめています。給料として払っている以上、これらは全部原価です。
- 追加工事を口約束で受けている:「ついでにこれもお願い」は建設業の日常ですが、書面がなければ請求の根拠になりません。追加分の材料と手間だけが自社持ちになります。
- 完成後に集計していない:終わった現場の粗利を出さない会社は、良かった現場と悪かった現場の区別がつきません。全部の現場が平均的に薄いと思い込んだまま、実際は数本の赤字現場が全体を食っている、という状態が続きます。
法定福利費も見落とされます。見積書に内訳を明示していない法定福利費は、そのまま自社の利益から出ていきます(法定福利費の内訳明示見積書の作り方)。
「利益が出た」と「お金が入った」は、何か月ずれますか?
こちらは、目減りとは別の話です。建設業の構造そのものによるズレです。典型的な流れを並べます。
| 時期 | 会社のお金 |
|---|---|
| 着工 | 材料を仕入れる(現金または翌月払い) |
| 施工中(毎月) | 職人の給料・社会保険料が出ていく |
| 施工中〜完成後 | 協力会社への外注費が出ていく |
| 完成・引き渡し | ここで「利益が出た」と数えられる |
| 月末締め | 元請に請求する |
| 翌月末〜翌々月末 | 入金。手形ならさらに先 |
つまり、先に出るお金(材料費・給料・外注費)と、後から入るお金の間に3〜5か月の開きがあるのが普通です。この期間は、会社が自分の現金で立て替えています。利益が出ていても現金が減るのは当然で、社長の感覚が間違っているわけではありません。
立て替えている金額は、いくらですか?
ざっくり概算できます。
- 必要な運転資金 ≒ 月に出ていくお金(材料費+外注費+人件費+固定費)× 立て替え月数
月の出金が700万円、立て替えが3.5か月なら、約2,450万円。この金額が、通帳と借入枠で常に押さえておかなければならない体力です。
ここで分かるのが、「仕事が増えると苦しくなる」の正体です。工事量が増えれば、先に出る材料費も給料も増えます。入金は変わらず数か月後。つまり受注が伸びた直後がいちばん資金が薄くなります。増えた分だけ立て替えも増える——これを知らずに大きな現場を取ると、黒字のまま資金が詰まります。
どんぶり勘定を卒業する最初の一歩は?
工事1本の実行粗利を出すことです。全社の管理体制を作る必要はありません。まずは1本、いま動いている現場でやってみてください。
- 見積もり時に、労務費を人日で置く:「3人×10日=30人日」と書き、1人日あたりの原価(給与+法定福利費を日割りした額)を掛けます。
- 現場ごとに人日を集める:日報に現場名を書いてもらうだけで足ります。移動時間と手待ちも書きます。
- 完成時に、実行粗利を出す:請負金額 −(材料費+外注費+労務費+直接経費)。
- 見積粗利率との差を、1行メモする:「追加分を請求できず▲30万」「雨で4人日ロス」。この1行が、次の見積もりの精度になります。
エクセル1枚で足ります。3本も溜まれば、自社がどこで負けているかがはっきりします。労務費をいくらで置くべきかは、改正建設業法で示された標準労務費の考え方が参考になります。
月次で見るべき3つの数字は?
決算を待つ必要はありません。毎月、この3つだけ見てください。
- 工事1本ごとの実行粗利率(と、見積粗利率との差):儲かる現場と赤字の現場を区別できるようになります。差が出た理由を1行ずつ残すのが肝心です。
- 未入金の残高:請求済みで入金待ちの額と、施工済みでまだ請求していない出来高を、合わせて把握します。これが「外に置いてある自社のお金」です。
- これから3か月の入出金予定:日付順に、入る予定と出る予定を並べるだけの表です。いちばん薄くなる日が分かれば、借入の相談も、大きな現場を受ける判断も、前もってできます。
会社全体の粗利率・固定費・通帳残高を追う話とは別物です。あちらが会社という箱の話、こちらは工事と回収という流れの話。両方そろって初めて、「今月なぜ苦しいのか」が説明できます。
数字を持つと、元請との交渉はどう変わりますか?
- やること:工事1本ごとの実行粗利と、入金までの実際の日数を記録します。
- 会社がどう有利になるか:「この規模・この工期・この支払条件なら、うちはここまで」と、根拠つきで線を引けます。追加工事も、その場で人日に換算して答えられます。
- 社長の毎日はどう変わるか:受けるか断るかを、その場の空気ではなく数字で決められます。断った現場を後悔しなくなり、受けた現場で夜中に不安になることもなくなります。
そして、この流れのなかでいちばん大きく、いちばん動かしにくいのが人件費です。給料も、社会保険料も、割増賃金も、締め日と支払日が決まっていて待ってくれません。だからこそ、労務とお金は同じテーブルで見る必要があります。当事務所は建設業に特化し、キャッシュフローコーチが在籍する体制で、実行粗利と資金繰りを社長が自分で追える形に整えるところまで伴走しています(キャッシュフローコンサルティング/料金は料金ページに公開しています・※2026年7月時点)。記帳や税務申告そのものは税理士の業務のため、当事務所では行いません。
まずは、直近で終わった現場を1本。請負金額と、材料費・外注費・かかった人日を持ってきていただければ、Zoom30分・無料の相談でその場で実行粗利を出せます。1本出すだけで、「なんとなく苦しい」が「どこで苦しいか」に変わります。
参考(一次情報)
- 建設業法(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000100
- 建設業法・入契法改正について(国土交通省): https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/tochi_fudousan_kensetsugyo_const_tk1_000001_00033.html
- 労務費に関する基準(国土交通省): https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/tochi_fudousan_kensetsugyo_const_tk1_000001_00044.html
- 各団体が作成した標準見積書(国土交通省): https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/totikensangyo_const_tk2_000082.html
よくあるご質問
「人を増やす判断を、勘でやめませんか?」
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