職人が元請の現場でケガをしたら|下請の労災手続き・死傷病報告・休業最初の3日は誰が払う?
下請の職人が元請の工事現場でケガをしたら、治療費と休業の給付は自社ではなく元請の工事の労災保険で請求し、健康保険は使いません。休業の最初の3日は労災が出ず平均賃金の60%の休業補償が要りますが、建設の数次請負では原則として元請がこの義務を負います。労働者死傷病報告は職人を雇う下請が、工事現場を管轄する労基署へ電子申請で出します。
→ 自社の場合はどうなる? Zoom30分・無料相談で個別に整理できます従業員8人の設備工事会社。水曜の午後2時、元請のビル改修の現場に出ている職長から電話が入ります。「Tが脚立から落ちて、手首をやりました。いま病院です」。社長が駆けつけると、付き添った若手が小声で言います。「受付で、保険証を出しちゃいました」。待合室の長いすで、社長の頭には次々と問いが浮かびます。元請には、いつ、何と伝えればいいのか。保険証で受けた診察は、もう取り消せないのか。明日から休むあいだの給料は、誰が払うのか。労基署には、何を出すのか——。ふだん元請との段取りを難なくこなしている社長でも、事故の日だけは何から手を付ければいいか分からなくなります。この記事では、雇っている職人が元請の現場でケガをした日からの手続きを、日付順の表にまとめました。どこの労災を使うのか、最初の3日は誰が払うのか、報告は誰が出すのかを、条文と労働局の資料で一つずつ確かめていきます。

職人がケガをした日から、誰が何をどこへ出しますか?
事故の当日にやることは、「職長→社長→元請」の順の報告と、病院で「仕事中のケガです」と伝えることの2つです。そのあとは、元請の労災の請求書、休業が4日以上なら労働者死傷病報告、休業が続けば月ごとの休業の請求、と続きます。下請の会社から見た流れを表にすると、次のとおりです。
| いつ | 誰が | 何をするか | どこへ |
|---|---|---|---|
| 事故の直後 | 職長 | 救護と受診の手配をし、すぐ社長へ電話する | 病院・自社 |
| 当日中 | 社長(自社) | 時刻・場所・していた作業・見ていた人を聞き取り、元請の現場責任者へ報告する | 元請 |
| 受診のとき | 本人・付き添い | 仕事中のケガだと伝え、健康保険は使わない | 病院の窓口 |
| 翌日から | 自社(元請に証明をもらう) | 療養の請求書(様式第5号)に、元請の工事の労働保険番号と工事名を書く | 病院(病院から労基署へ) |
| 休業1〜3日目 | 原則は元請(書面の契約で引き受けていれば自社も) | 平均賃金の60%の休業補償を払う | 職人本人 |
| 休業が4日以上と分かったとき | 自社 | 労働者死傷病報告を電子申請で出す | 工事現場を管轄する労基署 |
| 休業が続く間の月末ごと | 本人(書類は自社が手伝う) | 休業補償給付の請求書(様式第8号)を出す | 労基署 |
| 休業1〜3日で済んだとき | 自社 | 四半期ごとにまとめて労働者死傷病報告を出す(7〜9月分なら10月31日まで) | 工事現場を管轄する労基署 |
当日の聞き取りは、あとの書類の材料になります。療養の請求書には災害の発生を確認した人を書く欄があり、死傷病報告には発生状況と略図、原因まで書くからです(様式第5号の注意書き・労働安全衛生規則97条)。職長にその場で現場の写真を撮ってもらうだけでも、翌日の書類づくりはずっと楽になります。この表を事務所の壁に貼っておけば、職長から電話が来た瞬間に、社長は次の一手で迷わずに済みます。
下請の職人のケガは、どこの労災を使いますか?
元請の工事のための作業でケガをしたなら、自社ではなく元請の工事の労災保険で請求します。建設の工事が元請から一次、二次と何段にも請け負われている場合、労災保険ではその工事全体を一つの事業とみなし、元請だけを事業主として扱うからです(労働保険徴収法8条1項・請負事業の一括)。この扱いは労災保険だけのもので、雇用保険には及びません(同法施行規則7条)。長崎労働局の資料も、下請の職人が元請の工事に関連した作業でケガをしたとき、下請の保険関係で請求するのは「誤り」だとはっきり書いています。
ただし、分かれ目は「どこでケガをしたか」ではなく「どの工事のための作業だったか」です。
| ケガをしたときの作業 | 使う労災 | 根拠 |
|---|---|---|
| 元請の工事現場での作業(その工事の準備や後片付けを含む) | 元請の工事の労災 | 徴収法8条・熊本労働局 |
| 自社の資材置き場で、特定の元請の工事のために資材を整理していた | その元請の工事の労災 | 長崎労働局 |
| 事務所での作業、道具や重機の手入れ・整理整頓、見積のための現場確認など、特定の工事に付随しない作業 | 自社の「事務所等の労災」 | 長崎労働局 |
| 自社の加工場で、工事ごとに一時的に行う加工 | その元請の工事の労災 | 福井労働局 |
| 自社の加工場で、工事の期間と関係なく続けている製作・加工 | 自社の「事務所等の労災」(製造業) | 福井労働局 |
同じ資材置き場の作業でも、特定の工事のための整理なら元請の労災、そうでなければ自社の労災です。下請の仕事しかしていない会社でも、事務所での作業や資材置き場の整理を年に数回でもさせる見込みがあれば、自社の「事務所等の労災」の手続き(保険関係の成立)が要ります(滋賀労働局・福井労働局のFAQ)。手続きをしていない間に起きたケガに労災の給付が出ると、その費用の全部または一部を会社から徴収されることがあります。
- 下請の工事を独立させる例外:規模の大きい下請工事(保険料160万円以上か請負金額1億8千万円以上)について、元請と下請が一緒に申請して認可を受けた場合に限り、下請の部分を独立した事業として扱えます(徴収法8条2項・同法施行規則9条)。
- 社長と一人親方:社長自身や一人親方は雇われている職人(労働者)ではないので、特別加入(社長や一人親方など、労働者でない人が任意で入る労災保険)をしていなければ労災の給付を受けられません。社長のケガへの備えは社長が3か月現場に出られなくなったら、一人親方の事故は一人親方が現場で亡くなったらで扱っています。一人親方のケガを労基署へ報告する新しい仕組みは、2027年1月1日から始まります(一人親方のケガ、労基署へ報告するのは誰?)。
事故の日に「どの番号で出すか」を迷わないために、今入っている現場ごとに、元請の労働保険番号と工事名を控えておきましょう。
健康保険で受診させてしまったら、どうすればいいですか?
まず受診した病院に、健康保険から労災保険へ切り替えられるかを確かめます。切り替えられれば、療養の請求書(様式第5号)を病院に出すことで、窓口で払った一部負担金が返ってきます。仕事中のケガに健康保険は使えないため、切り替えられない場合は、健康保険が負担した分を返したうえで労災に請求し直します(厚生労働省Q&A 2-1・リーフレット「お仕事でのケガ等には、労災保険!」)。
- 加入している健康保険(協会けんぽ・健康保険組合・建設国保など)に、労災だったことを報告する
- 届いた返納の通知と納付書で、健康保険が負担した分を納める
- 療養の費用の請求書(様式第7号)に事業主と医師の証明をもらい、返した分と窓口で払った分の領収書を付けて労基署へ出す
健康保険への返納が済む前でも、労災への請求はできます。病院の明細が健康保険に届くまで2〜3か月ほどかかることがあり、納付書が来るのはその後です。すでに労災と認められていて、全額をいったん負担するのが難しいときは、立て替えずに請求する方法もあるので、労基署に申し出てください。
労災病院や労災保険指定医療機関で治療を受ければ、様式第5号を出して治療そのものを労災から受けられます(療養の給付)。それ以外の病院では、いったん費用を払い、様式第7号で請求します(療養の費用の支給)。健康保険で受診してしまったことを責めるより、今日のうちに病院へ一本電話を入れるほうが、職人の負担は早く軽くなります。
休業の最初の3日分は、元請と下請のどちらが払いますか?
最初の3日分の休業補償(1日につき平均賃金の60%)は、建設の工事が元請から何段にも請け負われている現場では、原則として元請が払う義務を負います。
労災の休業補償給付が出るのは休業4日目からで(労災保険法14条)、最初の3日(待期期間)は労災から出ません。この3日は、業務上のケガであれば、使用者が労働基準法76条の休業補償を行います。そして同法87条1項と施行規則48条の2は、建設の事業が数次の請負で行われる場合、災害補償については元請を使用者とみなすと定めています(茨城労働局の解説も同じ内容です)。
「3日分は雇っている会社が払うもの」と考えがちですが、建設の現場では、法律上の義務は原則として元請にあります。例外は、元請が書面の契約で下請に補償を引き受けさせた場合で、そのときは下請も使用者として義務を負います(87条2項)。まずは下請負契約書に、労災の補償を下請が負うという条項があるかを確かめてください。
職人にとって大事なのは、誰が払うかより、3日分がきちんと手元に届くことです。どちらが払うかを元請の担当者と早めに確かめておけば、給料日に職人を待たせずに済みます。契約書の読み方で元請と意見が分かれ、交渉が必要になったときは弁護士の領域です。
金額の目安を、事故の前の3か月(7〜9月・92日、賃金締切日は月末)に日給15,000円で66日働いた職人で計算すると、次のようになります(労働基準法12条・施行規則48条)。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 3か月の賃金の総額 | 15,000円×66日 | 990,000円 |
| 平均賃金(原則) | 990,000円÷92日(暦の日数) | 10,760円86銭 |
| 日給制の最低保障 | 990,000円÷66日×60% | 9,000円 |
| 最初の3日の休業補償 | 10,760円86銭×60%×3日 | 約19,370円 |
平均賃金は暦の日数で割るため、日給よりかなり低くなります。日給制の職人には最低保障の計算もあり、高いほうを使います。
なお、この3日分の補償義務は、業務中のケガ(業務災害)の話です。通勤中の事故(通勤災害)には、会社がこの3日分を補償する定めがありません。現場へ向かう車の中など、移動中の事故がどちらに当たるかは通勤災害と業務災害の分かれ目で、移動が労働時間になるかは現場への移動時間は労働時間?と直行直帰の規定例で解説しています。
4日目からは、労災からいくら出ますか?
休業4日目からは、労災から給付基礎日額の80%(休業補償給付60%+休業特別支給金20%)が出ます(厚生労働省Q&A 3-5)。上の例なら、給付基礎日額は平均賃金の1円未満を切り上げた10,761円で、1日あたり6,456円+2,152円=8,608円です。
請求は、休業補償給付の請求書(様式第8号)で労基署へ出します。休業が長く続くときは1か月ごとの請求が一般的で、休業した日ごとに、その翌日から2年を過ぎると時効で請求できなくなります。平均賃金の欄を埋める材料は、自社の賃金台帳と出勤簿です。締め日ごとに3か月分の賃金と出勤日数をすぐ拾える形にしておけば、休業が長引いても、毎月の請求で手が止まりません。
労働者死傷病報告は、元請と下請のどちらが出しますか?
労働者死傷病報告は、ケガをした職人を雇っている下請の会社が、工事現場を管轄する労基署へ出します。
報告の義務は、労働者を使用する「事業者」にあるためです(労働安全衛生法2条3号・100条、同規則97条)。ただし書く内容には元請の情報が入り、建設工事の作業をしている下請の職人がケガをした場合は、元請(元方事業者)の労働保険番号、工事の名称、元請の事業場の名称を書きます。提出先は、事故現場が会社の事務所と別の地域にあれば、事故現場を管轄する労基署です。
| ケガの結果 | いつまでに | 出し方 |
|---|---|---|
| 死亡、または休業4日以上 | 遅滞なく(後回しにせず早く) | 1件ごとに報告 |
| 休業1〜3日 | 1〜3月・4〜6月・7〜9月・10〜12月の区切りで、最後の月の翌月末日まで(7〜9月分は10月31日まで) | 期間中の分をまとめて報告 |
| 休業なし | この報告の対象外 | — |
2025年1月1日から、労働者死傷病報告は電子申請が義務になりました。パソコンがないなどで電子申請が難しい場合は、当分の間は書面でも出せますが、以前の様式第23号・第24号は使えません(※2026年9月時点)。厚生労働省の「帳票入力支援サービス」を使えば、画面の案内に沿って入力できます。申請はe-Gov経由なので、e-GovアカウントかGビズID(MicrosoftやGoogleのアカウントでのログインも可)が要ります。事故が起きてから慌てて作らずに済むよう、今のうちに用意しておくのがおすすめです。入力した内容はPDFで出力でき、厚生労働省も、工事現場の事故では元請などに確認してもらう際に使うよう案内しています(電子申請の手順の資料)。社労士が提出を代行することもできます。元請の安全担当者にPDFで工事名と番号を確かめてもらってから送れば、出し直しの手間を減らせます。
元請に言いにくいケガでも、報告しないといけませんか?
元請へ伝えないこと自体に罰則はありませんが、元請に黙ったままでは労災の手続きが進みません。元請の労災で請求するには元請の労働保険番号と工事名を書いて元請の証明をもらう必要があり、労働者死傷病報告にも元請の労働保険番号や名称を書くからです。そのうえで、休業したケガの労働者死傷病報告を労基署へ故意に出さないこと、うその内容で出すことは「労災かくし」と呼ばれ、50万円以下の罰金の対象です(労働安全衛生法100条・120条5号、同規則97条)。
元請の現場で事故を出せば、次の現場に呼ばれなくなるのではないか。軽いケガなら、自社で治療費を持てば丸く収まるのではないか。職人とその家族の暮らしを背負う社長が、そう迷うのは無理もないことです。
それでも、隠す道を選ぶと会社を守れません。労災かくしの罰金は、違反した本人だけでなく会社にも及びます(同法122条)。そもそも仕事中のケガに健康保険は使えず、元請の労災で請求するには、元請の労働保険番号と工事名を書き、元請の証明をもらうのが基本の形です。隠す前提で動くと、治療費も休業中の生活費も行き場を失い、いちばん困るのはケガをした職人本人です。
迷う時間をなくすには、報告の順番を事故の前に決めておくことです。
- 職長は、救護と受診の手配をしたら、その場で社長に電話する
- 社長は、状況を聞き取り、その日のうちに元請の現場責任者へ報告する
- 元請に、工事の労働保険番号と工事名を確かめ、請求書の証明を頼む
事業主には、請求に必要な証明を求められたらすみやかに証明する義務があります(労災保険法施行規則23条2項)。万一それでも証明が得られないときも、労災の請求はできると厚生労働省は案内しています。順番が決まっていれば、職長からの電話を受けた社長が「言うかどうか」で一晩悩むことはなくなります。
事故が起きる前に、何から手を付ければいいですか?
事故の前にやっておくことは、次の5つです。冒頭の水曜の午後のような電話は、前ぶれなくかかってきます。
- 入っている現場ごとに、元請の労働保険番号・工事名・安全担当者の連絡先を控えておく
- 事務所での作業や資材置き場の整理があるなら、自社の「事務所等の労災」の手続きが済んでいるかを確かめる
- 死傷病報告の電子申請に使うe-Govのログイン(e-GovアカウントやGビズIDなど)を用意しておく
- 下請負契約書に、労災の補償を下請が引き受ける条項があるかを読んでおく
- 職長に、事故のときの電話の順番(職長→社長→元請)と、病院で「仕事中のケガです」と伝えることを話しておく
休業が長引くと、職人の籍や復帰の段取りも問題になります。業務上のケガで休んでいる間とその後30日間は、原則として解雇できません(労働基準法19条)。休む期間の扱いと復職の決め方は職人が病気・ケガで長く休むときにまとめています。
事故のあとは、就業規則の災害補償や安全衛生の定めが現場の実態に合っているかも見直したいところです。規則の作り方は建設業の就業規則作成のページで紹介しており、当事務所では就業規則の作成・改定を顧問の基本料金内で行っています。社会保険の加入や手続きの整え方は建設業の社会保険のページをご覧ください。職人が現場でケガをした時の労災の請求は、当事務所の手続き業務に含めて対応しています。顧問の社労士がいれば、事故の日は電話1本で、その日にやることと書類の段取りが決まります。自社の現場の備えに何が抜けているかは、Zoom30分の無料相談で一緒に確認できます。
(※2026年9月時点)2026年7月17日に公布された改正労災保険法(令和8年法律第60号)は、主に2027年4月1日から施行され、遺族補償年金の見直しや、判断の難しい一部の病気の請求期限を2年から5年に延ばすことなどが中心です。ケガの請求、最初の3日の補償、死傷病報告の手順を変える内容は含まれていません。最新の制度や金額は、必ず公式サイトでご確認ください。
参考(一次情報)
- 労働基準法(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049
- 労働安全衛生規則(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032
- 労働者死傷病報告の報告事項が改正され、電子申請が義務化されました(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/denshishinsei_00002.html
- 健康保険証を使って受診してしまいました。どうしたらよいでしょうか(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000154463.html
- 休業(補償)等給付・傷病(補償)等年金の請求手続(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001743917.pdf
- 建設業の事業主の皆様へ・事務所等の労災保険(長崎労働局): https://jsite.mhlw.go.jp/nagasaki-roudoukyoku/content/contents/shiryou-26021002.pdf
よくあるご質問
「今の状態で調査が入ったら、うちは持つのか?」
未加入・一部加入のまま人を増やしてきた会社ほど、指摘されてからでは負担が一度に来ます。保険料と人件費の見通しを立てて、無理のない順番で整えます。Zoom30分・無料です。
ご相談で最も多いのは、社長が現場に出ている従業員5〜10人の建設会社さまです。
▼ まずは現状をお聞かせください(相談は無料です) ▼
\ 予約ツールの入力は不要。「まず話だけ」「5分だけ電話」でOKです /