日給を上げたら社会保険の届出は要る?職人の標準報酬月額と月額変更届・17日ルール
職人の日給を上げても、すぐに社会保険の届出が要るとは限りません。月額変更届が要るのは、上げた後の3か月の給与(残業代・通勤手当を含む)の平均で標準報酬月額が2等級以上動き、3か月とも出勤が17日以上ある場合で、保険料は4か月目の分から変わります。雨で17日に届かない月があれば対象外となり、次の7月の算定基礎届で見直されます。
→ 自社の場合はどうなる? Zoom30分・無料相談で個別に整理できます従業員8人の塗装会社。11月の給料日の前の晩、事務所で社長の奥さんが給与ソフトの画面と出面表を見比べています。10月から職人3人の日給を1,000円ずつ上げたので、明細の支給額は確かに増えている。なのに、社会保険料の欄は先月と同じ金額のまま。「これで合ってるんやろか」——。先に答えを言うと、上げてすぐに保険料が変わらないのは正常です。社会保険料は毎月の給料そのものではなく「標準報酬月額」という区切りの金額で決まり、その区切りを変える届出(月額変更届)が要るかどうかは、上げた後の3か月の給与と出勤日数で決まるからです。やっかいなのは日給の職人です。雨の多い月は出勤が17日に届かないことがあり、同じ1,000円の昇給でも、届出が要る人と要らない人に分かれます。この記事では、日給13,000円から14,000円に上げた職人を例に、届出が要るかどうかの見分け方と、保険料がいつからいくら変わるかを円で追います。

日給を上げたら、社会保険の届出は必要ですか?
日給を上げた後の3か月で標準報酬月額が2等級以上変わり、3か月とも17日以上出勤していれば、月額変更届が必要です。標準報酬月額とは、保険料を計算するために、月の給与を区切りのよい金額(等級)に当てはめたものです。健康保険と厚生年金の保険料は、この標準報酬月額に料率を掛けて決まります。等級は毎年7月の算定基礎届で決め直すのが基本で、その途中で給与が大きく変わったときに出すのが月額変更届(正式名は「健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額変更届」)です。
日本年金機構は、月額変更届が要る条件を次の3つとしています。3つすべてに当てはまるときだけ提出します。
| 条件 | 中身 | 日給の職人で気をつけること |
|---|---|---|
| ①固定的賃金が変わった | 日給・時給の単価、毎月決まって払う手当、日給から月給への切り替えなど | 残業時間が増えただけでは当たらない。最低賃金に合わせた日給の引き上げも単価の変更 |
| ②3か月の平均で2等級以上の差 | 変わった後の給与を初めて払った月から3か月の給与(残業代・通勤手当なども含む)の平均で判定 | 繁忙期と重なると、1,000円の昇給でも2等級動くことがある |
| ③3か月とも支払基礎日数が17日以上 | 日給制は実際に出勤した日数で数える | 雨で1か月でも16日以下なら対象外 |
固定的賃金とは、日給の単価や毎月決まった手当のように、額や率があらかじめ決まっている給与のことで、残業代のように働いた時間で変わるものは入りません。車で通う職人の通勤手当をガソリン単価で計算していて、その単価を毎月変える場合も、固定的賃金の変動として扱うと日本年金機構の事例集に示されています。
条件がそろえば、変わった後の給与を初めて払った月から数えて4か月目の分から、新しい標準報酬月額になります。届出は「速やかに」とされ、電子申請・郵送・年金事務所の窓口で出せます(※2026年9月時点)。1つでも欠ければ届出は要らず、上げた日給は次の7月の算定基礎届で標準報酬月額に反映されます。昇給を決めた日に、判定に使う3回分の給料日を予定表へ書いておけば、4か月目に慌てて過去の明細を掘り返さずに済みます。
日給の職人の標準報酬月額は、どう決まりますか?
日給×出勤日数に、残業代や通勤手当などを足した月の給与を、保険料額表の等級に当てはめて決まります。ここでいう給与(報酬)は税金などを引く前の額で、基本給のほか残業手当や通勤手当、会社が用意した寮・社宅や食事(現物給与)も含まれます。日給の職人は毎月の出勤日数で給与が動くため、同じ日給でも、どの3か月で計算するかによって当てはまる等級が変わります。
| 日給 | 月18日 | 月20日 | 月22日 | 月24日 |
|---|---|---|---|---|
| 12,000円 | 22万円 | 24万円 | 26万円 | 28万円 |
| 13,000円 | 24万円 | 26万円 | 28万円 | 32万円 |
| 14,000円 | 26万円 | 28万円 | 30万円 | 34万円 |
| 15,000円 | 28万円 | 30万円 | 34万円 | 36万円 |
(日給×日数だけの単純計算で、残業代・通勤手当は含めていません。協会けんぽ大阪支部の令和8年度の保険料額表の区切りで判定。※2026年9月時点)
表を横に見ると、日給13,000円の職人でも、月20日なら26万円、24日なら32万円と3等級違います。縦に見ると、同じ22日で日給が1,000円上がると、28万円から30万円への1等級です。日給の職人の等級は、単価よりも出勤日数のぶれで大きく動きます。日給を上げた職人を一律に「届出あり」「なし」と決めず、1人ずつ3か月の出面で確かめる必要があるのはこのためです。
寮・社宅に住ませている職人は、10月から数え方が変わります
家賃を取らずに寮や社宅に住ませている職人は、その住まいの分も報酬に入ります。令和8年10月1日から、住宅の現物給与の価額は「居住室の畳数」ではなく「総面積(台所・トイレ・浴室なども含む)」で計算する方式に変わり、大阪府は1畳1,780円から総面積1㎡820円になります(※2026年9月時点)。別棟の物置・車庫や、ほかの人と共同で使う部分の面積は除きます。
たとえば6畳・総面積20㎡の部屋なら、9月までは1,780円×6畳=10,680円、10月からは820円×20㎡=16,400円です(家賃を取っている場合は、この額から取っている家賃を差し引きます)。日本年金機構はこの改正を固定的賃金の変動に当たるとしていて、月額変更届が必要になる場合があります。寮の職人は、日給を上げていなくても、10月以降の等級を確かめる対象に入れておきます。価額は都道府県ごとに違うので、全国現物給与価額一覧表(日本年金機構)で確かめてください。
日給を1,000円上げたら、届出の対象になりますか?
3か月の出勤日数と残業代しだいで、対象になる職人とならない職人に分かれます。日給13,000円で毎月22日出勤、標準報酬月額28万円(13,000円×22日=286,000円)の職人を、10月1日から14,000円に上げたとします。給与は月末締め・翌月10日払いです。「社会保険に入りたくない」と言われたらで手取りを比べた職人と同じ例です。
新しい日給で1か月分まるごと計算した給与を初めて払うのは11月10日なので、11月・12月・1月に払う給与で判定します。条件を満たせば、4か月目の2月分から新しい等級です。
| ケース | 11月払い | 12月払い | 1月払い | 3か月の平均 | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| A 繁忙期で残業あり | 23日・342,000円 | 22日・333,000円 | 20日・290,000円 | 321,666円=32万円 | 2等級上がる→届出が必要 |
| B 残業なし | 22日・308,000円 | 22日・308,000円 | 22日・308,000円 | 308,000円=30万円 | 1等級だけ→届出は不要 |
| C 雨の多い月あり | 22日 | 16日 | 22日 | 計算しない | 17日未満の月がある→届出は不要 |
(Aは日給分に残業代2万円・2万5千円・1万円を足した額。協会けんぽ大阪支部の令和8年度の保険料額表で判定。※2026年9月時点)
Aの職人は28万円から32万円に上がります。40歳未満なら、本人の負担は健康保険料が2,026円、子ども・子育て支援金が46円、厚生年金保険料が3,660円増え、合わせて月5,732円です。会社は同じ額に子ども・子育て拠出金の144円が加わり、月5,876円増えます。40〜64歳の職人は介護保険料も加わるので、本人の増え方は月6,056円です(※2026年9月時点)。適用除外の承認(健康保険法3条1項8号)を受けて健康保険だけ建設国保に残っている職人は、健康保険の被保険者ではないので、協会けんぽの健康保険料と支援金の差は当てはまりません。この場合も厚生年金には同じ17日・2等級の決まりがあるので、判定は同じように行い、例では厚生年金の月3,660円が増えます。
新しい保険料は2月分からですが、給料から天引きできるのは前月分の保険料なので(健康保険法167条)、明細の天引き額が変わるのは3月10日払いの給与からです。冒頭の場面のように、11月の明細で保険料が前のままなのは、この順番どおりに動いているからです。
BとCの職人は届出をしませんが、保険料がずっと変わらないわけではありません。次の7月の算定基礎届で、4〜6月に払った給与をもとに等級が見直され、9月分から新しい等級になります。
なお、雇用保険料は毎月の賃金の総額に料率を掛けて計算するので、上がった給与を払った月から自動的に変わります。また、10月1日は大阪府の最低賃金が時間額1,231円に上がる日でもあります(大阪労働局)。日給を1日の所定労働時間で割って最低賃金を下回らないかは、日給の職人と最低賃金の早見表で確かめてください。最低賃金に合わせて日給を上げた場合も、単価の変更なので同じ判定をします。
雨で出勤が17日に届かない月は、どう数えますか?
日給の職人は実際に出勤した日数(有給休暇の日を含む)で数え、判定に使う3か月のうち1か月でも17日未満の月があれば、月額変更届の対象になりません。この日数を支払基礎日数といい、給与の形によって数え方が違います。
| 給与の形 | 支払基礎日数の数え方 |
|---|---|
| 日給・時給(日給×出勤日数を月1回払う、建設業でいう日給月給を含む) | 実際に出勤した日数(有給休暇の日を含む) |
| 月給(休んでも減らない) | 暦日数(30日・31日など) |
| 月給から休んだ日の分を差し引く | 就業規則などで決めた日数から欠勤日数を引いた日数 |
雨で現場を中止にして給与を払わなかった日は数えません。一方、午前だけ働いて雨で上がった日は、その日の分を払っていれば、1時間だけの勤務でも1日と数えます(算定基礎届の記入・提出ガイドブック(日本年金機構))。会社の都合で休ませて休業手当を払った日は、休業手当も報酬に入ります。事例集では、一時帰休(会社の都合で一時的に休ませること)で休業手当を払った日も支払基礎日数に含めるとしています。雨の日を無給の休みにするか休業手当を払うかで17日に届くかが変わる職人がいるときは、届出の前に年金事務所へ確かめておくと確実です。休業手当が要る日の線引きは雨の日の休業手当で整理しています。
月給から欠勤分を差し引く形なら、「決めた日数」は就業規則や賃金規程に書いておく数字です。ここがあいまいだと数え方そのものが定まらないので、賃金の決め方と合わせて規則に残しておきます(建設業の就業規則作成)。
7月の算定基礎届でも、17日未満の月は外して計算します。4〜6月の出勤日数によって、扱いは次のとおりです。
- 3か月とも17日以上:3か月の平均で決める
- 1〜2か月だけ17日以上:17日以上の月だけの平均で決める
- 3か月とも17日未満:これまでの標準報酬月額のまま
梅雨で6月だけ16日しか出られなかった職人なら、4月と5月の平均で決まります。なお、パートなど短い時間で働く人には、15日や11日で数える別の扱いがあります。
4〜6月だけ忙しい会社は、算定基礎届の等級が高くなりすぎませんか?
4〜6月の給与で出した標準報酬月額と、1年間の平均で出した標準報酬月額に2等級以上の差が毎年決まって出るなら、「年間平均」で決めてもらう申立てができます。算定基礎届は、7月1日時点で雇っている全員について4〜6月に払った給与を届け、その平均で9月分から翌年8月分までの等級を決める手続きです。提出は毎年7月1日から10日までで、4〜6月に残業が集中する会社では、1年の実態より高い等級が1年続くことになります。
年間平均の申立てには、次の3つがそろうことが必要です。
- 4〜6月の平均と、前年7月〜当年6月の平均で出した標準報酬月額に2等級以上の差がある
- その差が、業務の性質上、毎年決まって出る
- 職人本人が同意している
申立ては、算定基礎届に「年間報酬の平均で算定することの申立書」と、例年の状況・標準報酬月額の比較・本人の同意を書く書類を付けて出します。毎年決まって出ることを確かめるために、賃金台帳などの提出を求められることもあります。
昇給と繁忙期が重なって月額変更届の等級が跳ね上がる場合にも、年間平均で届け出る仕組みがあります。ただし、昇給が毎年この時期の定期昇給で、この時期に残業が集中するのも毎年くり返されている場合に限られ、その年だけの特別な昇給は対象になりません。どちらも条件の細かい申立てなので、前年の賃金台帳を並べて、差が毎年出ているかを先に確かめます(保険者決定(日本年金機構))。
月額変更届を出し忘れていたら、どうなりますか?
気づいた時点でさかのぼって届け出ることになり、時効(2年)にかからない期間の差額を、会社の分と本人の分を合わせてまとめて納めることになります。日本年金機構は、事業所調査で報酬の届出が正しいかを確かめ、報酬月額の届出の誤りなどがあれば指摘して正しい届出を求めます。指摘しても出さない場合は、確認した事実に基づいてさかのぼり、職員が手続きをすることもあると説明しています。
- 届出は会社の義務で(健康保険法48条・厚生年金保険法27条)、正当な理由なく出さないと6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象です(健康保険法208条・厚生年金保険法102条)
- 調査では帳簿書類を検査でき(健康保険法198条・厚生年金保険法100条)、算定基礎届を出していない事業所などには訪問で調査すると示されています
- 改定月が60日以上前にさかのぼる月額変更届は、賃金台帳と出勤簿の写しを付けなくてよくなりましたが、そのぶん事業所調査のときに確認されます
仮に、ケースAの職人の届出を忘れ、2月分から8月分までの7か月を28万円のまま納めていたとします(9月分からは算定基礎届で等級が見直されたとします)。差額は本人5,732円と会社5,876円で月11,608円、7か月で81,256円です(仮の数字。40歳未満・協会けんぽ大阪支部の令和8年度の料率で計算)。本人の分も、給料から天引きできるのは前月分の保険料だけです(健康保険法167条・厚生年金保険法84条)。さかのぼった分をどう払ってもらうかは、職人本人と話し合って決めることになります。
等級が低いままだと、その職人が仕事以外のケガや病気で休んだときの傷病手当金(直近12か月の標準報酬月額の平均の30分の1の3分の2が日額)や、将来の厚生年金も低い等級で計算されます。職人に「保険料が上がった」と言われたとき、「そのぶん休んだときの手当も年金も増える」と説明できれば、昇給の話が手取りの話だけで終わりません。年金事務所の調査で何を見られるかは建設業の労務調査で見られる点にまとめています。
何から手を付ければいいですか?
日給を上げた職人の名前と、上げた日、新しい日給で1か月分まるごと払う最初の給料日を一覧にするところから始めます。あとは次の順で進めます。
- 職人ごとに、判定に使う3回分の給料日を決める(締め日の途中で上げたなら、その次の給料日から)
- 3回分の給与(残業代・通勤手当・寮の現物給与を含む)と出勤日数を、賃金台帳と出勤簿から拾う
- 3か月とも17日以上か、平均が保険料額表で2等級以上動くかを確かめる
- 当てはまれば月額変更届を速やかに出し、4か月目の分から保険料を直す(天引きはその翌月の給料から)
- 当てはまらなければ、次の7月の算定基礎届で見直されることを控えておく。4〜6月に残業が偏る会社は年間平均の申立ても検討する
日給の見直しは給与計算と同じ机の上で起きるので、判定を毎月の給与計算に組み込んでおけば、社長は日給を決めることに集中でき、3か月後の届出を覚えておく必要がなくなります。給与計算を外に任せるときに決めておくことは建設業の給与計算を外注する前にで整理しています。社会保険の手続きの全体像は建設業の社会保険にまとめています。当事務所では月額変更届や算定基礎届を手続き業務として、日給月給の計算を給与計算として承っており、料金は料金ページのとおりです(手続き業務は従業員〜5名で月11,000円・6〜10名で月16,000円、給与計算は〜5名で月10,000円・6〜10名で月18,000円。税別・2026年7月時点)。昇給前後の給与明細と出面表をお持ちいただければ、Zoom30分の無料相談で、どの職人が届出の対象になるか、いつの分から保険料が変わるかを一緒に確かめられます。最新の制度や金額は、必ず公式サイトでご確認ください。
参考(一次情報)
- 随時改定(月額変更届)(日本年金機構): https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20150515-02.html
- 定時決定(算定基礎届)(日本年金機構): https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20121017.html
- 標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集(日本年金機構): https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20121017.files/jireisyu.pdf
- 令和8年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(大阪支部)(全国健康保険協会): https://www.kyoukaikenpo.or.jp/assets/R8_27osaka.pdf
- 厚生年金保険・健康保険などの適用促進に向けた取り組み(日本年金機構): https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/info/torikumi/20150120.html
- 健康保険法(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/211AC0000000070
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