社長も特別教育の対象に|2027年4月から職人と同じ現場に出る社長・役員・一人親方の義務
2027年4月1日から、建設業で常時300人以下の労働者を使う会社の社長・役員と一人親方(作業従事役員等)は、労働者と同じ場所で足場の組立て・解体・変更やフルハーネスを使う高所作業など安衛則36条の業務に就くとき、特別教育を受ける義務を負います(安衛法59条4項)。違反は6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。職人時代に同じ特別教育を受けていれば、科目を省略できます。
→ 自社の場合はどうなる? Zoom30分・無料相談で個別に整理できます従業員6人の外装リフォーム会社。3年前、社長は職人全員に足場とフルハーネスの特別教育を受けさせました。事務所の棚には、そのときの修了証の写しを綴じたファイルもあります。今日の現場は2階建ての住宅の屋根の葺き替え。昼過ぎ、職人が屋根の端まで手を伸ばせるよう、社長は自分で足場の一部を組み替えます。ブラケットを付け替えながら、ふと手が止まります。「職人には受けさせた。自分は、この教育を受けていたか」。
独立する前の職人時代に、受けたような気もする。修了証はどこへやったか覚えていない。そもそも社長の自分にも、その義務はあるのか。この問いに、2027年4月から法律がはっきり答えます。
答えを先に書きます。2027年4月1日から、建設業で常時300人以下の労働者を使う会社の社長・役員と一人親方は、職人(労働者)と同じ場所で足場の組立て・解体・変更やフルハーネスを使う高所作業など、労働安全衛生規則(安衛則)36条の業務をするとき、自分で特別教育を受けなければなりません。
この記事では、対象になる人と作業、罰則、職人時代の修了証で省ける科目、一人親方に仕事を出す会社が確かめること、会社の側で整える記録・賃金・契約を、厚生労働省の通達と改正後の条文に沿って整理します。

社長や役員も、特別教育を受けないといけないのですか?
2027年4月1日から、常時300人以下の労働者を使う建設会社の社長・役員は、職人と同じ場所で安衛則36条の業務をするとき、特別教育を受ける義務を負います(改正後の労働安全衛生法=安衛法59条4項。※2026年9月時点で公布済み・施行待ち)。
法令は、この人たちを「作業従事役員等」と呼びます。一定の数以下の労働者を使う事業者と一人親方(人を雇っていない個人事業者)のうち、自分も現場で作業する人のことで、会社ならその代表者・役員を指します。「一定の数」は、労災保険の特別加入で中小事業主とされる範囲と同じで、建設業は常時300人以下です(安衛則24条の17・労災保険法施行規則46条の16)。社長が労災の特別加入をできる範囲と同じ線なので、加入の要件は社長が3か月現場に出られなくなったら、会社はもつのかとあわせて確かめてください。
| 現場で作業する人 | 特別教育の決まり | 根拠 |
|---|---|---|
| 自社で雇っている職人 | 会社が教育を行う(今までどおり) | 安衛法59条3項 |
| 社長・役員(常時300人以下の会社で、自分も作業する人) | 労働者と同じ場所で対象の業務をするとき、本人が受ける(2027年4月1日から) | 安衛法59条4項 |
| 一人親方(従業員のいない会社の代表・役員を含む) | 労働者と同じ場所で対象の業務をするとき、本人が受ける(2027年4月1日から) | 安衛法59条4項 |
義務がかかるのは、労働者と同じ場所でその業務をするときだけです。自社の職人に限らず、元請や他の下請に雇われている職人が作業している場所も当たり得ます。通達(基発0330第1号)は、同じ場所とは原則として同じ空間で同時に作業する場所をいうとしたうえで、階が違っても火災や粉じんなどの影響が及ぶ場所は含まれ得ること、職人がたまたま休憩で外しているだけでは外れないことを示しています。線引きの例は一人親方のケガは誰が労基署へ報告?で詳しく書いています。
反対に、職人のいない現場で社長が1人で足場を組むなら、この義務はかかりません。ただ、通達(基発0526第1号)は、受講には一定の期間がかかり、仕事を続けるうちに労働者と同じ場所で作業する場面も出てくるので、あらかじめ受講しておくことが必要だとしています。「今日は1人だから」で済ませていると、雇われている職人が1人入った日から違反になる、ということです。
これまで、特別教育は会社が職人に受けさせるものでした。通達自身も、社長・役員や一人親方は従来、安衛法の直接の規制の対象として位置付けられていなかったので、義務の中身が必ずしも十分に理解されていないことも想定される、と書いています。社長が自分の分を考えてこなかったのは、落ち度ではありません。変わるのは、2027年4月からです。
どんな作業をするときに、特別教育が要るのですか?
対象は安衛則36条に並ぶ危険・有害な業務で、建設現場でよく出てくるのは、足場の組立て・解体・変更(39号)と、フルハーネス型の墜落制止用器具を使う高所作業(41号)です。一覧は今と同じで、変わるのは受ける人の範囲です。
| 安衛則36条 | 業務(条文の要旨) |
|---|---|
| 39号 | 足場の組立て・解体・変更(地上や堅固な床の上での補助作業を除く) |
| 41号 | 高さ2m以上で作業床を設けるのが難しい所で、フルハーネス型の墜落制止用器具を使う作業 |
| 9号 | 機体重量3t未満の、整地・運搬・積込み用、掘削用、基礎工事用、解体用の建設機械(ドラグ・ショベルなど)の運転(道路上の走行を除く) |
| 10号の5 | 作業床の高さ10m未満の高所作業車の運転(道路上の走行を除く) |
| 19号 | つり上げ荷重1t未満のクレーン・移動式クレーンなどの玉掛け |
| 3号 | アーク溶接機を使う金属の溶接・溶断など |
| 4号 | 低圧の充電電路の敷設・修理など |
| 37号 | 石綿が使われている建物などの解体等の作業(石綿障害予防規則4条1項) |
表は例です。36条には41号まで業務が並んでいます。自社の職人に受けさせている特別教育の名前と、社長自身が現場でしている作業を、条文(参考に載せたe-Govの安衛則)で突き合わせてください。義務は「その業務に就くとき」にかかるので、現場を見て回る、記録の写真を撮るといった仕事だけの日は対象になりません。
受講にかかる時間も見ておきます。今の安全衛生特別教育規程では、足場は学科だけで6時間以上、フルハーネスは学科4.5時間以上と実技1.5時間以上です(※2026年9月時点)。どちらも、現場をほぼ1日空ける計算になります。
もう一つ、見落としやすい点があります。この2つの教育の中身を定めた規程が適用されたのは、足場が2015年7月、フルハーネスが2019年2月からです。職人から独立したのがそれより前なら、職人時代に受ける機会そのものがなかった、ということもあります。
受けずに作業したら、罰則はありますか?
2027年4月1日以降、特別教育を受けずに労働者と同じ場所で36条の業務をすると、6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象です(改正後の安衛法119条1号。※2026年9月時点で公布済み・2027年4月1日施行)。会社の代表者や従業者が会社の業務に関して違反したときは、本人のほか会社にも罰金刑を科す両罰規定もあります(122条)。
同じ日から、職人と同じ場所で作業するときに社長・役員・一人親方自身にかかる決まりは、特別教育だけではありません。
| 2027年4月1日から始まること | 誰に | 罰則(条文) |
|---|---|---|
| 特別教育を受ける(59条4項) | 社長・役員・一人親方 | 6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(119条1号) |
| 規格や安全装置を備えない機械を使わない(42条3項) | 社長・役員・一人親方 | 同上(119条1号) |
| 持ち込む一定の機械の定期自主検査と記録(45条2項) | 一人親方(人を雇っていない事業者) | 50万円以下の罰金(120条1号)。記録の保存には罰則の適用なし |
| 危険・有害な業務の安全衛生教育を受けるよう努める(60条の2第2項) | 社長・役員・一人親方 | 努力義務(罰則なし) |
規格が決まっている機械には、墜落制止用器具や保護帽、交流アーク溶接機の自動電撃防止装置などがあります。元請などから一時的に借りて使う機械は、管理している側が適切な措置をとっているかを確かめれば足りる、とされています(基発0526第1号)。
通達は、元請や注文者、業界団体に対し、社長や一人親方へ改正の中身を丁寧に知らせ、必要な支援をするよう求めています。元請から説明や受講の確認が来たら、この改正の話です。
職人のころに受けた特別教育は、受け直しになりますか?
受け直さなくてよい場合があります。過去に労働者として同じ特別教育を受けた人や、その業務の免許・技能講習を持っている人は、科目の全部または一部を受けなくてよいとされています(改正後の安衛則37条2項・基発0526第1号 第2の4(5))。
だから最初の一歩は、事務所の机の引き出しや、昔の道具箱の奥から、職人時代の修了証を探すことです。勤めていた会社に記録が残っていないか聞く手もありますが、会社が特別教育の記録を保存する義務は3年間です(安衛則38条)。10年前の分が残っている保証はありません。手元の修了証が、いちばん確かな手がかりになります。どの免許・技能講習でどの科目を省けるかは業務ごとに違うので、申し込む前に、手元の修了証を見せて受講先に確かめてください。
受ける場所についても、よくある誤解を一つ正しておきます。特別教育は、登録教習機関でしか受けられないものではありません。都道府県労働局長の登録を受けた機関が行うのは技能講習で(安衛法61条)、特別教育は事業者が行う教育です(59条3項)。職人に行う特別教育は、社内で行うことも、外部の講習を使うこともできます。eラーニングでも行えますが、実技は講師と同じ場所で対面で行うことが要件です(2026年9月2日の厚生労働省の通達)。ただし、社長・役員や一人親方が誰の行う教育を受ければよいかは、具体的な定めが見当たりません(※2026年9月時点)。迷うときは、申し込む前に受講先や労働基準監督署へ確かめておくと確実です。
一人親方に仕事を出す会社は、何を確かめればいいですか?
確かめるのは、一人親方が現場でする36条の業務と、その特別教育の修了証(または免許・技能講習)の有無です。 受講料を仕事を出す会社が払う義務は一律にはありません。ただし通達は、受講の情報を伝え、まだ受けていない人に受講の機会をつくるといった配慮が望ましいとし、特別教育が要る業務を頼むときは、受講費用を工期で按分して安全衛生経費として計上するなどの配慮が必要だとしています(基発0526第1号 第2の4(3))。
さらに通達は、現場を管理する元請などが、作業する人の特別教育の受講や技能講習・免許の有無を確かめることが望ましいともしています(同 第2の4(4))。2027年4月以降は、元請から現場に入る前の書類などで、社長や一人親方の分まで受講の有無を聞かれることが考えられます。そのとき、自社の分と出入りの一人親方の分を、まとめて出せるかどうかです。
一人親方の名簿を、労災保険(特別加入)の加入証明書の写しと一緒に作っているなら(作り方は一人親方が現場で亡くなったら、会社はいくら払うのか)、そこに「特別教育の業務と受講日」の欄を足すだけで済みます。契約書にも、確かめる手順を一文入れておきます。
規定例:乙は、本件業務のうち労働安全衛生規則第36条に定める業務を労働者と同一の場所で行うときは、あらかじめ当該業務に係る特別教育を受講しておくものとする。乙は、甲から求められたときは、受講したことを示す書面の写しを甲に提出する。甲は、乙に対し、特別教育の受講に関する情報を提供する。(自社の契約書に合わせた調整が必要です)
気をつけたいのは、配慮の範囲を超えることです。受講の日時や受け方まで会社が一方的に決め、出欠を管理するような運用にすると、一人親方を労働者のように指揮しているとみられるおそれがあります。会社がするのは、情報を渡し、修了証を確かめ、受講の費用を代金に織り込むところまでにしておきます。契約全体の点検は偽装請負にならないために:建設業の一人親方契約チェックリストでできます。
職人の特別教育の時間や費用は、会社がどう扱えばいいですか?
職人に行った特別教育は、受講者・科目などの記録を作って3年間保存する義務があり(安衛則38条)、受講にかかった時間は労働時間なので、法定労働時間を超えれば割増賃金が要ります(昭和47年基発第602号)。どちらも今ある決まりで、2027年4月の改正とは別に、すでに守る必要があるものです。
記録の保存は、小さな会社ほど抜けやすいところです。社長の修了証を探すついでに、職人の分の記録が綴じてあるかも確かめてください。外部の講習を使った場合も、修了証の写しなど、誰がいつ何を受けたかが分かる記録を会社に残しておくと、元請に聞かれたときにそのまま出せます。
昭和47年の通達(基発第602号)は、あわせて、安全衛生教育は所定労働時間内に行うのが原則であること、外部で行う特別教育の講習会費や講習旅費は事業者が負担すべきものであることも示しています。休みの日の講習や、仕事が終わってからの講習に職人を行かせるとき、ここがあいまいだと給料日に揉めやすくなります。就業規則や賃金規程に書いておけば、その場で迷わずに済みます。
規定例:会社は、業務に必要な安全衛生教育(特別教育を含む。)を、原則として所定労働時間内に行う。教育に要した時間は労働時間として扱い、法定労働時間を超えた場合は、賃金規程に定める割増賃金を支払う。会社の指示により外部の講習を受ける場合の受講料及び旅費は、会社が負担する。(自社の就業規則・賃金規程に合わせた調整が必要です)
安全衛生の定めを就業規則のどこに置き、現場の運用とどうそろえるかは、安全衛生管理と就業規則、労災事故で問われる安全配慮義務で書いています。
2027年4月までに、何から始めればいいですか?
最初にやるのは、社長・役員・職人・出入りの一人親方を1枚の表に並べ、現場でする36条の業務と、修了証の有無を書き出すことです。表の形は、たとえば次のようなものです(記入例)。
| 氏名 | 立場 | 現場でする業務 | 修了証・受講日 | 省略の根拠・予定 |
|---|---|---|---|---|
| 社長 | 代表者 | 足場(39号)・フルハーネス(41号) | 足場は職人時代の修了証あり。フルハーネスは未受講 | 足場は科目の省略を受講先に確認。フルハーネスは年内に受講 |
| 職人A | 雇用 | 足場(39号)・フルハーネス(41号) | 会社で受講済み・記録あり | 記録を3年保存 |
| 一人親方B | 外注 | 高所作業車(10号の5) | 修了証の写しを受け取り済み | 契約更新時に確認 |
表ができたら、次の順で進めます。
- 社長・役員の修了証を探し、足りない業務の受講を予約する
- 職人の特別教育の記録が3年分そろっているかを確かめる
- 受講の時間と費用の扱いを、就業規則・賃金規程に書く
- 一人親方との契約書に、受講を確かめる条項を足す
- 修了証の写しを1冊に綴じ、元請に聞かれたらすぐ出せるようにしておく
受講には予約と、現場を1日空ける段取りが要ります。通達も、受講には一定の期間がかかるとして、あらかじめ受けておくよう求めています。施行の直前にまとめて動くより、現場が落ち着く時期を選んで、社長の分から順に受けておくほうが、段取りは楽です。
表が1枚あれば、2027年4月の朝、元請から「社長さんの特別教育は?」と聞かれても、ファイルから修了証の写しを出すだけで済みます。職人に「受けておけよ」と言ってきた社長が、自分の分も胸を張って出せる。現場に立つ社長にとって、それがこの改正への一番の備えです。
当事務所は建設業に特化した社労士事務所として、受講台帳の作り方、特別教育の記録の残し方、受講時間の賃金の決め方、一人親方の働き方が請負として成り立っているかの労務面の点検を、お手伝いしています。契約書の文面そのものは、必要に応じて契約書を扱う専門家にご確認ください。特別教育そのものは、講習を行う機関などで受けていただくものです。社長・役員の労災保険の特別加入は社長が3か月現場に出られなくなったら、会社はもつのかを、労務全体の考え方は建設業の社会保険をご覧ください。料金は料金ページにまとめています。受講の時間や費用の定めを就業規則に入れる作業は、建設業の就業規則作成として顧問の基本料金内で行っています。自社の誰が、どの業務で、いつまでに受ければよいか、Zoom30分の無料相談で一緒に整理できます。最新の制度や金額は、必ず公式サイトでご確認ください。
参考(一次情報)
- 個人事業者等関係の施行通達(令和9年4月施行分)基発0526第1号(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001704274.pdf
- 労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)の概要(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001497667.pdf
- 改正労働安全衛生法の関連資料(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/an-eihou/index_00001.html
- 労働安全衛生法 2027年4月1日施行分(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000057/20270401_507AC0000000033
- 労働安全衛生規則 2027年4月1日施行分(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032/20270401_508M60000100112
- 労働安全衛生法および同法施行令の施行について 昭和47年基発第602号(厚生労働省 法令等データベース): https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb2043&dataType=1&pageNo=1
よくあるご質問
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