建設業専門の社会保険労務士|松原市・堺市・東大阪ほか南大阪 平日 10:00〜17:00/TEL 072-334-4102
解決事例

移動時間の残業代を払っても36協定の上限は迫る。造園・土木会社の積込み交代制と移動手当の設計

テーマ: 建設業の就業規則作成
ご相談

「移動時間の残業代はきちんと払っている。それでも遠い現場が続くと、36協定の上限を超えてしまいそうだ」

30秒で結論

現場までの移動を残業として払っている建設会社では、遠い現場が続くと、残業時間が36協定の上限に近づきます。関東の造園・土木会社のこの事例では、遠い現場は直行直帰にして距離に応じた移動手当を付け、資材の積込みの担当を交代制にすることで、一人ひとりの残業を月45時間以内に収める形を設計中です。減る残業代の補填に調整手当や固定残業代は使わない方針で、職人にとっても、給与明細で残業代と移動手当が分かれ、積込みの負担も同じ人に偏りにくい形です。

→ 自社の場合はどうなる? Zoom30分・無料相談で個別に整理できます

まだ薄暗い資材置き場で、トラックに砕石と土のう袋を積み、植木を荷台にくくりつける。そのままハンドルを握って、遠い現場へ。夕方は同じ道を戻り、残った資材を下ろす。気づけば、積込みもハンドルも、いつも同じ職人です。造園や土木の会社では、よくある光景です。

移動の時間まで残業に数えて、残業代もきちんと払っている。うちはむしろ真面目な方だ——そう思っている社長ほど、月末に勤怠を締めた夜、遠い現場が続いた職人の残業の欄だけが妙に大きいことに気づきます。その胸騒ぎは当たっています。残業の上限は「いくら払ったか」ではなく、「何時間働いたか」で数えるからです。移動を働いた時間として数えれば、遠い現場が続く月は、それだけで数字が36協定の上限へ近づきます。残業代を払っていれば安心、ではないのです。

ご相談の内容

関東で造園・土木を営む会社からの、2026年のご相談です。人数は10名ほどで、ほかに外国人材も働いています。

現場までの移動時間を残業として扱い、残業代で払っていました。そのぶん残業時間が積み上がり、36協定の上限を超えるおそれが出ていたのです。

外国人の方だけを直行直帰にした以前の事例では、移動時間の代わりに移動手当・出張手当で補う形を、導入まで進めています。今回は別の会社で、打ち手も違います。遠い現場は直行直帰にして距離に応じた移動手当を付け、積込みの担当を交代制にする形です。そしてこの事例は、いまその形を設計している途中です。

そのままだと、何が起きていたか

36協定(残業をさせるために、会社と従業員の代表が結んで労働基準監督署へ出す取り決め)で認められる残業は、原則として月45時間・年360時間までです(1年単位の変形労働時間制を使っている会社は月42時間・年320時間)。建設業にも2024年4月からこの上限がかかり、超えて働かせると、罰則(6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)の対象になります。建設業では、実務上は特別条項(忙しい時期に限って上限を延ばせる取り決め)付きで、災害の復旧・復興の特例(労働基準法139条)も付けて結ぶのが基本です。ただ特別条項を付けても、年720時間・単月100時間未満・2〜6か月平均80時間以内(後ろ2つは休日労働を含む)の天井があり、45時間を超えられるのは年6か月まで。残りの月は、45時間以内に収めなければなりません。

かといって、急いで手を打つと別の傷ができます。会社の指示で積み込んで運ぶ移動を、就業規則に「通勤扱い」と書き足しても、労働時間でなくなるわけではありません。労働時間かどうかは、規則の書き方ではなく、その時間に会社の指示の下にあったかどうかで決まるからです(最高裁の判断)。直行直帰に切り替えれば移動は外れやすくなりますが、今度は残業代が減る職人が出ます。手当で補う設計をせずに切り替えると、手取りが下がる職人から不満が出ます。移動を労働時間として払う扱いを長く続けてきた会社では、その扱いを変えること自体が労働条件の変更と見られ、争いの種になりえます。

ただ、移動の時間まで残業代を払ってきた社長が、手を抜いていたわけではありません。会社に集まって資材を積み、そこから現場へ向かう——建設業で昔から当たり前のこの段取りが、2024年4月に建設業へかかった上限に、そのままぶつかっているだけです。

そして、上限を守るには人を増やすか現場を断るしかない、ということもありません。この事例で動かしているのは、人数でも受注でもなく、1日の始まりと終わりの段取りと、手当の付け方です。

当事務所の対応

設計の柱は3つと、方針が1つです。

  1. 遠い現場は、直行直帰にする 出張の移動についての行政の解釈では、物品の監視など特別の指示がなければ仕事の時間として扱わなくてよいとされています。身ひとつで現場へ向かう移動は通勤と同じ扱いになりやすく、資材を運ぶ・見張るといった指示が付くと仕事の時間になりやすい、と考えるのが安全です。遠い現場の日は、家と現場を直接行き来する形にします。
  2. 遠さの負担には、距離に応じた移動手当で応える 移動が残業から外れても、遠い現場へ通う負担そのものは残ります。そこには残業代ではなく、距離に応じた移動手当で応えます。
  3. 積込みの担当は、交代制にする 会社の指示で資材を積み込む時間は、作業そのものです。似た場面について最高裁は、始業前に資材の受け出しを義務付けられていた時間を、労働時間に当たると判断しています。積み込んで現場まで運ぶ人の移動は、これまでどおり働いた時間として数えます。だからこそ担当を交代で回し、その時間がだれか一人に積み上がらないようにします。

この3つを組み合わせて、一人ひとりの残業を月45時間以内に収める形を設計しています。

そのうえで、減る残業代の穴埋めに「調整手当」や「固定残業代」は使わない方針です。賃金の総額を変えずに、名前だけを割増賃金や調整手当に付け替えた賃金体系について、最高裁が残業代を払ったとは認めなかった例があります(運送会社の事案・令和5年3月10日判決)。この方針は、その落とし穴を最初から避ける設計です。

当事務所は、小規模の建設会社には固定残業代を原則としてお勧めしていません(使う場合の条件は建設業の固定残業代の決め方で整理しています)。すでに固定残業代を払っている会社で、社員の総支給額を変えずに中身を組み替えた例は、古い最低賃金のままの時給を直した事例で紹介しています。

建設業の労務は、現場を知らずに書類だけ整えても機能しません。当事務所が建設業に絞っているのはそのためで、現場への移動時間の扱いや出張手当の設計は、毎月の実務として扱っているテーマです。こうした就業規則と、賃金規程・旅費規程などの諸規程の作成・改定、36協定の作成・届出は、顧問契約の基本料金の中で対応しています(※2026年10月時点)。

気をつけたいポイント

直行直帰の日も、時刻は残します。 現場に着いた時刻と出た時刻は、スマホの打刻などで記録します。スマホで指示を出し、日報で報告を受けている現場では、「時間が分からないから所定の時間働いたことにする」という扱い(事業場外みなし)は通りにくいからです。労働時間の状況の把握は法律上の義務で、記録は3年間保存します。仲間を乗せて運転する人の移動は判断が分かれやすいので、扱いを先に決めておきます。規定例と記録の付け方は直行直帰の就業規則・規定例にまとめています。

移動時間の代わりに払う移動手当は、残業代の計算のもとに入れます。 残業代の計算から外せる手当は、家族手当・通勤手当・住宅手当など法律で限られた7種類だけです。移動手当は、払い方の中身で決まります。移動の時間への対価として払うなら、残業代の計算のもとに入れます。ガソリン代などの実費の弁償として払う出張手当・出張日当とは扱いが違います。当事務所では、移動時間の代わりとして払う移動手当は、計算のもとに入れる前提で設計します。外して計算すると、手当を払っているのに残業代が足りない、という逆転が起きます。出張日当との違いは建設業の出張手当・日当の相場と決め方で解説しています。

変える時は、規則と手続きもそろえます。 直行直帰の日の始業・終業の決め方や移動手当の計算方法は、就業規則(賃金規程)に書き込む事項です。従業員が常時10人以上なら、従業員の代表の意見を聞いて書面に残し、変えた規則を労働基準監督署へ届け出ます。残業代が減る人が出る変更なので、説明と同意の進め方は手当・日当を下げる就業規則の不利益変更を参考にしてください。

外国人材がいる会社では、担当を国籍で決めません。 国籍を理由に労働条件で差をつけることは、労働基準法で禁じられています。積込みの担当も、交代の順番で決めます。特定技能の方なら、日本人と同等以上の報酬が雇用契約の基準なので、移動手当の付け方でも差が出ないようにします。

この形にすると、社長と職人の毎日がどう変わるか

形が整えば、遠い現場の日の朝はこう変わります。積込みの順番に当たった人は資材置き場へ、それ以外の職人は家から現場へ。打刻も合わせて整えれば、だれが何時から何時まで働いたかを、そのまま確かめられます。

月末、勤怠を締める夜に、残業の欄を見て胃が縮む思いをしなくて済むようになります。積込みが交代で回っていれば、一人だけが上限に張り付く形が起きにくくなるからです。

元請から遠方の現場の話が来ても、「直行で、積込みは順番どおり」と段取りを決めた時点で残業の見通しが立ち、受けるかどうかを落ち着いて決められます。

職人の側の毎月も、こう変わります。積込みの番は順番で回ってきて、番でない朝は資材置き場へ寄らず、家から現場へ直接向かいます。給料日に明細を開けば、番だった日の朝の積込みと現場までの運搬は、これまでどおり働いた時間として数えられて、残業になった分が残業代に入っています。番でない日に家から遠い現場へ直接通った負担には、距離に応じた移動手当が付いています。減る残業代を固定残業代や調整手当で埋める形にしないので、どこまでが残業代でどこからが移動手当かを、自分の目で確かめられます。

手当は距離という同じ物差しで決まるので、外国人材の方にも日本人の職人にも、同じ言葉で説明できます。次に人を採る時も、移動の扱いと手当をはっきり示して募集できます。

社長は上限の内側で現場を回せ、職人は負担が偏らず、給料の中身も見える。この事例の設計が目指しているのは、そういう毎月です。

御社も同じ状態か、3つで確かめてください

  • 会社に集まって資材を積み込んでから、遠い現場へ向かう日がある
  • 移動の時間も残業として数えていて、遠い現場が続く月は、だれかの残業が月45時間(変形労働時間制なら42時間)に近づく
  • 積込みや運転を担うのが、いつも同じ人になっている

1つでも当てはまれば、上限を超える前に、段取りから組み替える余地があります。規則への落とし込み方は建設業の就業規則作成のページでも紹介しています。

残業代を払っていれば安心、ではありません。でも、時間の数え方と手当の付け方を組み直せば、遠い現場の話が来ても、月末に残業の欄を見て胃が縮むことなく段取りを決められる。給料日には、明細の「移動手当」の行を指して、職人に胸を張って応えられる。その毎月に向けて、御社の現場の回り方と人数に合わせた組み直し方を、Zoom30分の無料相談で一緒に整理します。まず電話で話だけ、でも構いません。

職人や社員の立場でこのページを読まれた方は、社長に見せていただくのがいちばんの近道です。ご相談は会社からお受けしています。

参考(一次情報)

よくあるご質問

いいえ。36協定の上限は、払った額ではなく働いた時間で数えます。会社の指示で資材を積み込んで運ぶ移動は、労働時間に入ります(労働時間かどうかは、就業規則の書き方ではなく、会社の指揮命令の下にあったかどうかで決まるという最高裁の判断)。残業代を払っていても、遠い現場が続く月は、原則の月45時間(1年単位の変形労働時間制なら月42時間)に近づきます。
積込みの番の日は、資材置き場での積込みも現場までの運搬も、これまでどおり労働時間として数えるので、残業になればその分の残業代が出ます。番でない日は家から遠い現場へ直接向かえ、その移動は、会社の指示で資材を運んだり仲間を乗せて運転したりしなければ、通勤と同じ扱い(労働時間に入らない)になりやすいので、遠さの負担には距離に応じた移動手当が付きます。運転役の扱いは、会社が先に決めておく形にします。番は交代で回るので、朝の積込みと長い移動が、いつも同じ人に重なりにくい形を設計しています。
調整手当という名前の手当そのものが禁じられているわけではありません。ただ、賃金の総額を変えずに名前だけを割増賃金や調整手当に付け替えた賃金体系について、最高裁が残業代を払ったとは認めなかった例があります(令和5年3月10日判決)。この事例では、補填に調整手当や固定残業代を使わない方針で設計しています。
残業代の計算から外せる手当は、家族手当・通勤手当・住宅手当など法律で限られた7種類だけで、名前ではなく中身で判断されます。移動手当は中身しだいで、移動の時間への対価として払うなら計算のもとに入れます。当事務所では、移動時間の代わりとして払う移動手当は、計算のもとに入れる前提で設計します。
国籍を理由に、賃金や労働時間などの労働条件で差をつけることは、労働基準法で禁じられています。積込みの担当は、国籍ではなく交代の順番という業務上のルールで決めます。特定技能の方なら、日本人と同等以上の報酬が雇用契約の基準なので、移動手当の付け方でも差が出ないようにします。

※ 実際にお受けしたご相談をもとに、事業所が特定されないよう内容を一般化して掲載しています。対応の内容は、会社の規模・契約形態・現場の実態によって変わります。

社会保険労務士 中峯崇文

この事例の対応・執筆:中峯 崇文(社会保険労務士)

中峯社労士事務所 代表|社会保険労務士 登録番号 第27110112号

建設業に特化した社会保険労務士として、残業対応や一人親方の移行など、現場の労務を毎月扱っています。外国人雇用では自ら監理団体を立ち上げて運営し、採用と定着の設計まで踏み込みます。

「うちも、これと同じ状態です」

同じご相談でも、会社の規模と現場の回し方で打ち手は変わります。まずは御社の今の形をお聞かせください。図面を見ずに見積もれないのと同じで、そこからでないと正確なことは申し上げられません。

ご相談で最も多いのは、社長が現場に出ている従業員5〜10人の建設会社さまです。

▼ まずは現状をお聞かせください(相談は無料です) ▼

\ 予約ツールの入力は不要。「まず話だけ」「5分だけ電話」でOKです /

📞 電話で相談 無料相談する

建設業の就業規則・外国人雇用の労務、Zoom30分・無料でご相談ください。