片道3時間の移動もある北海道の建設会社。乗り合わせと日当の線を「会社の指示」で引き直す
「片道3時間の現場もざら。乗り合わせの移動は残業なのか、日当と残業代を両方払っていいのか、従業員に示せる線がない」
従業員が自分たちで決めて乗り合わせる移動は、会社の指示がなければ通勤に近い扱いになりやすく、道具や資材を積んで運ぶよう指示された人の移動は労働時間として扱う考え方があります。北海道の建設会社のこの事例では、この線を会社の指示の有無で規則に書き、遠さの負担には手当で応える形を整えています。手当の額はこれまでの支払いと大きくずれないように決める方針で、働く側も、どの移動が働いた時間かを規則で確かめられるようになります。
→ 自社の場合はどうなる? Zoom30分・無料相談で個別に整理できます朝6時、まだ暗い会社の駐車場。道具を積んだ社用車のまわりに、同じ現場へ向かう職人が集まってきます。集まれと言った人はいません。一人の現場なら家から直行するところを、遠い現場は乗り合わせた方が楽だからと、自分たちで決めて来ているのです。片道3時間の移動も珍しくない地域の建設会社では、ごく普通の朝です。
困るのは月末です。この3時間は残業なのか。出張の日当も払っているのに、同じ移動の時間外まで払うのか。自分の判断で早く出てきた分の残業申請は、認めるのか。調べるほど答えが揺れ、従業員に「ん?」という顔をされるたびに、説明の言葉が出てきません。でも、線を引くのは規則の書き方でも、手当の名前でもありません。その時間が、会社の指示の下にあったかどうか。物差しは、この1本です。
ご相談の内容
北海道の建設会社からのご相談です。2026年9月に、オンライン(Google Meet)で30分ほどの初回の面談を行い、その2日後にご依頼をいただきました。10月から顧問契約で、規則の整備を始めています。大阪の事務所と北海道の会社で、初回の面談からやり取りはオンラインです。
就業規則はありましたが、ひな形をもとにしたもので、実態と合わない所が多く残っていました。調べたり、ほかの会社の規則を見たりしても、自社に合う形は見つかっていませんでした。いまの運用は、次のとおりです。
- 現場へは社用車で行き、直行直帰を原則として認めている。高速道路代と宿泊費は全額会社負担
- 複数人で行く現場は、従業員が自分たちで決めて会社に集まり、乗り合わせている。会社は命令していない
- 出張の日当を給与とは別に払っていて、移動の分の時間外も払っている場合がある
- 自分の判断で早く出てきて、残業を申請する従業員がいる。直近2〜3か月で、時間外労働の事前申請制を入れた
- 1年単位の変形労働時間制のカレンダーを出しているが、土日祝が休みで、祝日に出た日は割増を払っている
ご相談の中心は、移動時間を残業として扱うかどうかの物差しがないことでした。道具を積んだ社用車で行く以上、実際には乗らざるを得ないのではないか、という迷いもありました。従業員に示せる指標が欲しい。会社にも従業員にも納得のいく線を引きたい、というご相談でした。
移動時間の事例には、関東の造園・土木会社で積込みを交代制にした事例と、外国人の方だけを直行直帰にした事例もあります。どちらも、会社に集まって資材を積む形が出発点でした。今回は別の会社で、直行直帰はすでに認めています。論点は、従業員が自分たちで決める乗り合わせ、日当と残業代の重なり、申請のない早出、1年単位の変形労働時間制の見直しです。
そのままだと、何が起きていたか
物差しがないままだと、同じ乗り合わせの移動でも、月によって、人によって扱いが変わります。従業員から見れば、なぜ先月は残業で今月は違うのかが分かりません。説明できない払い方は、金額の多い少ないに関係なく、不信の種になります。
線を引き違えた時の痛みは、両方向にあります。会社の指示で道具や資材を積んで運んでいる人の移動まで「自由な乗り合わせ」として扱えば、払うべき残業代が漏れます。未払いの残業代は、3年分までさかのぼって請求されることがあります(残業代の時効は3年)。逆に、指示のない乗り合わせの時間まで時間外として払い、同じ移動に日当も払っていれば、何に対するお金かが分からないまま経費が積み上がります。
早出も同じです。申請のない早出を知りながら黙って受け入れ続ければ、会社の黙示の指示があったと見られ、労働時間になりえます(厚生労働省のガイドライン)。せっかく入れた事前申請制が、形だけになってしまいます。
ただ、この会社が手を抜いていたわけではありません。直行直帰を認め、高速代も宿泊費も持ち、日当も払い、事前申請制まで入れている。従業員の負担に手を打ってきた会社です。ひな形の就業規則に、片道3時間の現場と、従業員が自分たちで決める乗り合わせのことが書かれていなかっただけです。
そして、「乗り合わせは自由です」と規則に書けば労働時間にならない、ではありません。逆に、移動を全部残業にして払っておけば安心、でもありません。労働時間かどうかは、規則の書き方ではなく、その時間に会社の指示の下にあったかどうかで決まります(最高裁の判断)。線を引くのは、名前でも書き方でもなく、会社の指示です。
当事務所の対応
初回の面談でお伝えした方向は、次の5つです。10月から、これを規則と手当に落とし込んでいます。
- 乗り合わせの移動は、会社の指示の有無で人を分ける 会社が命令せず、従業員が自由に乗り合わせているだけなら、その移動は通勤に近い扱いになりやすいものです。身ひとつで現場へ向かうだけの移動は通勤と同じ扱いになりやすく、資材を運ぶ・見張るといった指示が付くと仕事の時間になりやすい、というのが行政の考え方でもあります。そこで、道具や資材を積んで運ぶ役の1人は、その移動を労働時間として扱う考え方もお伝えしました。労働時間になる人と、ならない人を、会社の指示があるかどうかで分けて規則に書く方向です。
- 早出は、事前申請制とセットで運用をそろえる 会社が頼んでいない早出は、それだけで直ちに残業になるわけではありません。ただ、黙って受け入れ続ければ労働時間になりえます。だから、申請のない早出はさせない・黙認しない運用まで、事前申請制と合わせて整えます。
- 時間は物差しで、遠さの負担は手当で応える 移動を残業として数えない人の遠さの負担には、月額の移動手当や、一定の距離を超える遠方の現場への出張手当で応える方向です。面談では手当の形の例をご紹介しました。金額や距離の区切りは、これから決めます。
- 手当の額は、これまでの支払いと大きくずれないように決める 移動の分の残業代が減る人が、損をしないようにするためです。過去1年分の日当・手当の支払い実績を出していただき、それをもとに設計を進めています。
- 1年単位の変形労働時間制は、見直しの対象として検討中 土日祝が休みで、祝日に出た日に割増を払う運用なら、1年単位の変形より通常の労働時間制の方が合う可能性がある、というのが面談での見立てです。1年単位の変形は、カレンダーを出すと労働日が決まり、あとから会社の都合で動かしにくい点もお伝えしました。結論はまだ出ていません。
建設業の移動は、だれが道具を積み、だれがハンドルを握り、だれが身ひとつで乗っているかで扱いが変わります。現場の段取りまで聞かないと線が引けないので、当事務所は建設業に絞っています。働く人の総支給額を大きく動かさずに中身を直すのも、ほかの事例でとってきた当事務所の直し方です。就業規則の見直しは、相談も規定の変更も、顧問契約の基本料金の中で対応しています(※2026年10月時点)。
気をつけたいポイント
規則に書いた「自由」と、現場の実態をそろえます。労働時間かどうかは、規則の書き方ではなく実態で決まります。道具を積んだ車に乗らなければ現場で仕事にならない、という運用なら、「自由な乗り合わせ」と書いてあっても、指示の下にあったと見られる余地が残ります。会社の指示で運転や積込みを頼む人の扱いも、先に決めておきます。運転する人と同乗する人の考え方は現場への移動時間は労働時間?建設業の指揮命令下の判断基準で整理しています。
日当と月額の手当は、別の物として決めます。当事務所では、実費の弁償として払う出張の日当は残業代の計算のもとに入れず、移動時間の代わりとして月額で払う移動手当は入れる前提で設計します。残業代の計算から外せる手当は、家族手当・通勤手当・住宅手当など法律で限られた7種類だけだからです。日当と月額の手当では、税金・社会保険の扱いも変わります。日当の決め方は建設業の出張手当・日当の相場と決め方をご覧ください。
手当を組み替える時は、試算と説明が先です。移動の分の残業代が減る人が出る変更は、手当で補う設計をせずに進めると、不利益な変更として争いの種になります。労働条件を下げる方向の変更には、本人の合意か、周知したうえで合理的といえることが必要です(労働契約法)。進め方は手当・日当を下げる就業規則の不利益変更にまとめています。
1年単位の変形を続けるかは、縛りを並べて決めます。カレンダーで決めた労働日は、始まってから会社の都合で組み替えられません。対象期間が3か月を超えると、36協定で認められる残業の上限も、月45時間・年360時間から月42時間・年320時間に下がります。一方で、北海道は全域が豪雪地帯で、建設工事の屋外の作業に就く職人には「積雪特例」という別のルールもあります。雪国での使い方は雪国の建設業の1年単位の変形労働時間制で扱っています。
社長と社員さんの毎日が、どう変わるか
整うと、遠い現場の前日はこう変わります。道具を積んで運ぶのはだれかを会社が決めた時点で、その人の移動は働いた時間、ほかの人の乗り合わせは、乗るかどうかを本人が決められる運用にしたうえで各自の判断、と線が引けます。月末に勤怠を締める夜、移動の時間外を1件ずつ前の月と見比べて迷うことがなくなります。
従業員に「この移動は残業ですか」と聞かれても、規則の条文を指して、だれにでも同じ言葉で答えられるようになります。日当は食事代などの補い、残業代は働いた時間への賃金、手当は遠さの負担への応え。何に払うお金かが分かれていれば、経費の見通しも立てやすくなります。打ち合わせは画面越しなので、片道3時間の現場を抱えたままでも、事務所まで出向かずに進められます。
社員さんの毎月も、こう変わります。道具を積んで運ぶ役を頼まれた日は、その移動が働いた時間として数えられます。自分たちで決めた乗り合わせで遠い現場へ通う負担には、手当が付きます。その額はこれまで受け取ってきた額と大きくずれないように決めるので、移動の分の残業代が減っても、急に給料が細る形にならないように設計します。頼まれた早出は記録に残り、頼まれていないのに早く来て待つ必要もなくなります。自分の移動がどちらの扱いかを、規則で確かめられます。
会社は経費の見通しが立ち、従業員はもらえるものが分かる。どちらにも、同じ物差しで応えられる。この事例の整備が目指しているのは、そういう毎月です。
御社も同じ状態か、3つで確かめてください
- 同じ現場へ向かう従業員が会社に集まって乗り合わせているが、会社の指示なのか本人たちの判断なのか、規則に書いていない
- 出張の日当を払いながら、同じ移動の時間外も払う月がある
- 自分の判断で早く出てきた分の残業申請を、認めるかどうか毎回迷う
1つでも当てはまれば、線を引き直す余地があります。規則への落とし込み方は建設業の就業規則作成のページでも紹介しています。
物差しは、会社の指示があるかどうかの1本です。それが規則に書いてあれば、従業員に「ん?」という顔をされた時も、条文を指して同じ言葉で答えられる。給料日には、日当・手当・残業代の行を指して、胸を張って説明できる。その毎月に向けて、御社の現場の回り方に合わせた線の引き方を、Zoom30分の無料相談で一緒に整理します。遠方の会社でも、初回からオンラインで進められます(流れは就業規則は遠方の社労士に頼める?にまとめています)。まず電話で話だけ、でも構いません。
社員の立場でこのページを読まれた方は、社長に見せていただくのがいちばんの近道です。ご相談は会社からお受けしています。
参考(一次情報)
- 三菱重工業長崎造船所事件 最高裁第一小法廷 平成12年3月9日判決(裁判所): https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-52572.pdf
- 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/070614-2.html
- 割増賃金の基礎となる賃金とは?(厚生労働省・鳥取労働局): https://jsite.mhlw.go.jp/tottori-roudoukyoku/library/tottori-roudoukyoku/pdf/26kajyu_4.pdf
- 労働基準法(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049
よくあるご質問
※ 実際にお受けしたご相談をもとに、事業所が特定されないよう内容を一般化して掲載しています。対応の内容は、会社の規模・契約形態・現場の実態によって変わります。
「うちも、これと同じ状態です」
同じご相談でも、会社の規模と現場の回し方で打ち手は変わります。まずは御社の今の形をお聞かせください。図面を見ずに見積もれないのと同じで、そこからでないと正確なことは申し上げられません。
ご相談で最も多いのは、社長が現場に出ている従業員5〜10人の建設会社さまです。
▼ まずは現状をお聞かせください(相談は無料です) ▼
\ 予約ツールの入力は不要。「まず話だけ」「5分だけ電話」でOKです /