緑ナンバーの車を運転する一人親方を社員に。もう1名は2社で雇い、指揮命令を分けた運送会社の事例
「一人親方として契約している運転手が、会社の緑ナンバーの車を運転している。この形のままで大丈夫なのか」
一人親方(業務委託)という契約でも、会社の事業用(緑ナンバー)の車を会社の指示で運転していれば、働き方の中身から雇用と判断されることがあります。大阪の運送会社のこの事例では、1名を社員として雇って社会保険に加入し、もう1名は2社で雇う形にして、運転中の指揮命令をはっきり分けました。社員になった運転手は健康保険・厚生年金と労災保険の対象になり、2社で雇われる場合は労働時間を2社分足して判断し、社会保険の加入は会社ごとに判断します。
→ 自社の場合はどうなる? Zoom30分・無料相談で個別に整理できます運送の世界では、こんな朝が珍しくありません。朝の営業所。運転手が事務所に顔を出し、会社の緑ナンバーの車の鍵を受け取って出ていきます。行き先も、戻る時間も、決めているのは会社。それでも契約書には「業務委託」とあり、毎月の支払いは給料ではなく外注費です。
建設会社の社長にも、見覚えがあるのではないでしょうか。会社の車で資材を運び、会社が決めた時間に現場へ入り、社長の段取りで動く一人親方。実態は社員とほとんど変わらないと、薄々わかってはいる。けれど、社会保険の負担と、本人にどう切り出すかを考えると、手をつけられないまま月日が過ぎていきます。
ここで1つ、思い込みを外しておきます。「一人親方(業務委託)の契約にしておけば、会社は雇う側の責任を負わずに済む」。そうではありません。雇用かどうかを決めるのは、契約書の名前ではなく働き方の中身です。誰の車で、ガソリン代や修理代を誰が持ち、仕事を断る自由があるか。行き先や納める時刻の指示は運送では当たり前なので、それだけでは決まりません。決め手になるのは、こうした中身です。
そしてもう1つ。見直しは「全員を社員にするか、今のままか」の二択ではありません。人によって形を分ける道があります。
ご相談の内容
大阪の運送会社からの、2026年のご相談です。建設業ではなく、運送業のご相談です。
一人親方(個人事業主)として契約している方が、運送会社の事業用(いわゆる緑ナンバー)の車を運転していました。契約の上では外の事業者、運転しているのは会社の車、という形です。
業種は違っても、一人親方の形を見直す時の考え方は、建設会社でもそのまま使えます。
一人親方のまま走り続けていたら、何が起きていたか
いちばん考えたくないのが事故です。契約の上で一人親方のままだと、事故が起きた時、労災が使えるかどうかは「この人は労働者だったのか」という判断から始まります。労働者と判断されれば、契約の名前に関係なく会社が雇い主として扱われます。そうでなければ、本人が特別加入していない限り労災は使えません。ハンドルを握る仕事なのに、運転する本人のケガの補償の行方が、事故の後の判断しだいになっている形です。
法律でいう労働者かどうかは、働き方の中身で決まります(労働基準法9条)。厚生労働省も、「請負契約や委任契約といった契約の形式や名称にかかわらず」、契約の内容や働き方、報酬などから一件ずつ総合的に判断すると説明しています。
最高裁は平成8年11月28日の判決で、自分のトラックを持ち込み、自分の計算と危険で運送していた運転手を、労働者ではないと判断しました。運送の世界で一人親方として認められやすいのは、こうした人です。裏返すと、車も段取りも会社持ちなら、話は変わってきます。会社の車に乗り、給油や修理も会社の指定どおりだった運転手を、裁判所が労働者と認めた例もあります(東京地裁平成24年1月27日判決)。労働者と判断されれば、社会保険も運転の時間の決まりも、社員と同じ物差しで見ることになります。
ここまで放っておいた社長が悪い、という話ではありません。車も段取りも会社持ちで、契約だけは外注。運送でも建設でも長く使われてきたこの形を、見直すきっかけがなかっただけです。
当事務所の対応
打った手は2つです。
- 1名は、運送会社の社員として雇い、社会保険に加入しました。 会社の車を運転する人が、契約の上でもその会社の社員になります。会社(法人)が人を雇えば、1人でも健康保険と厚生年金に入るのが原則です。社員になれば、仕事中のケガは労災保険の対象になり、運転の時間の決まり(改善基準告示。拘束時間や休息の決まり)も守る対象になります。
- もう1名は、2社で雇う形にして、運転中の指揮命令をはっきり分けました。 運送会社と、もう1つの会社の両方が、この方を雇う形です。2社で雇う時に欠かせないのが、「今はどちらの会社の仕事で、誰が指示を出すのか」という線引きです。自社で雇っている人を、よその会社の指揮命令のもとで働かせると、形の上では「派遣」に近づきます。派遣を事業として行うには、厚生労働大臣の許可が要ります。運転中の指揮命令をはっきり分けておくことは、この線を守るうえでも欠かせません。
この事例では、まさに人によって形を分けました。当事務所は建設業に特化し、一人親方から従業員への移行を毎月のように扱っています。運送のご相談でも、見る物差しは変わりません。契約を働き方の中身にそろえ、会社にとっても働く人にとっても安心できる形に整えるのが、当事務所の直し方です。
気をつけたいポイント
2社で雇う形は、先に決めておくことが多くあります。同じ形をとる会社がつまずきやすいのは、次の3点です。
- 労働時間は2社分を足して判断します(労働基準法38条)。2社の所定の時間を足して1日8時間・週40時間を超える分は、原則として後から雇用契約を結んだ会社の時間外労働になり、その後の残業は実際に働いた順に足していきます。あらかじめ2社それぞれの時間の上限を決めておく「管理モデル」というやり方も、厚生労働省が示しています。
- 社会保険は会社ごとに判断します。 2社の時間を足せば条件を満たす、という数え方はしません。2社とも条件を満たす場合は、本人が主な会社を選んで届け出て、2社の給料を合わせた額で保険料を決め、給料の割合で2社が分けて負担します。
- 雇用保険は原則1社だけです。 2社の両方では入れず、主な給料を払う会社で入ります。
建設会社で同じ形をとるなら、線引きはさらに大事です。建設の現場作業は、そもそも派遣が禁止されているからです(労働者派遣法4条)。よその会社に雇われている職人に自社の人間が指示を出す形は、運送よりも慎重に組み立てる必要があります。建設業の手間請けの職人についても、国は判断の目安を別にまとめています。
本人への切り出し方も含めた移行の手順と時期は一人親方を従業員として雇い直す|移行の手順・タイミングと会社側の準備に、常用か請負かの見分け方は建設業の「常用」と「請負」の違いと偽装請負にならないための一人親方契約チェックリストに、業務委託の扱いを直接雇用へ切り替えて総支給額を変えずに単価を作り直した例は深夜の出来高払いを直接雇用へ切り替えた事例に、ほかの会社でも働く人の労働時間の扱いは建設業の副業・兼業を就業規則でどう扱うかにまとめています。
この形にすると、社長と運転手の毎日がどう変わるか
整うと、朝、車の鍵を渡す時の気持ちが変わります。渡す相手は自社の社員です。仕事中の万一の事故でも、補償は労災保険という決まった道に乗ります。「もし事故が起きたら、あの人の補償はどうなるのか」と、最悪の想像から1日を始めずに済みます。
鍵を受け取る運転手の側も同じです。一人親方のままなら、労災が使えるかどうかは、事故の後の「労働者だったか」の判断しだいでした。社員になった方は健康保険と厚生年金に入り、仕事中のケガには労災保険が使えます。前の晩の戻りが遅かった日も、次の出発までの休み(休息期間)を確保することは、会社が守る決まりです。ハンドルを握る仕事だからこそ、万一の時の道が先に決まっていることは、働く側にとっても安心の土台です。
2社で雇う方も、「この時間はどちらの会社の仕事か」「誰が指示を出すのか」が決まっていれば、夕方に急ぎの仕事が入った時も、頼んでいいのかどうかを社長が一人で抱え込まずに済みます。働く本人も、急な仕事を頼まれた時に、どちらの会社の指示で動けばいいかを迷わずに済みます。2社で働いた時間は足して数えられ、足した時間が1日8時間・週40時間を超えた分は、原則として残業になり、割増賃金の対象です。
社員にすれば、社会保険料の会社負担は増えます。その代わりに、誰が社員で、誰がどの会社の指示で動いているのかを、聞かれたその場で説明できる会社になります。建設会社なら、元請に加入状況を聞かれても慌てずに済み、求人票には「社会保険あり」と書けます。一人親方として来てもらっていた人を、胸を張って「うちの社員です」と紹介できるようになります。
御社も同じ状態か、3つで確かめてください
- 一人親方(外注)として契約している人が、会社の車や道具を使い、会社が決めた時間と段取りで働いている
- その人への支払いが、仕上げた仕事ではなく、働いた日数や時間で決まっている
- 自社でも雇っている人が、ほかの会社にも雇われているのに、どの時間がどちらの会社の仕事で、誰が指示を出すのかを書面で決めていない
1つでも当てはまれば、今の形を、働き方の中身から一度見直す時期です。社会保険の加入の届出は、手続き業務として当事務所が行います。社員として迎えた後の就業規則や社用車規程の作成・改定は、顧問の基本料金内です。社会保険の整え方は建設業の社会保険、規則づくりは建設業の就業規則作成をご覧ください。
車の鍵を渡すたびに胸の奥がざわつく毎日から、万一の事故の時も補償の道が先に決まっている毎日へ。まずはZoom30分の無料相談で、御社で働いている人の今の形をお聞かせください。全員を一度に社員にしなくても、誰をどの形にするかを一緒に整理するところから始められます。
一人親方として会社の仕事を受けている方や、2社で雇われている方がこのページを読まれたら、社長に見せていただくのがいちばんの近道です。ご相談は会社からお受けしています。
参考(一次情報)
- 労働基準法における「労働者」とは(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/index02.html
- 副業・兼業の促進に関するガイドライン(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000962665.pdf
- 複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き(日本年金機構): https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/hihokensha1/20131022.html
- 貨物自動車運送事業輸送安全規則(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/402M50000800022
よくあるご質問
※ 実際にお受けしたご相談をもとに、事業所が特定されないよう内容を一般化して掲載しています。対応の内容は、会社の規模・契約形態・現場の実態によって変わります。
「うちも、これと同じ状態です」
同じご相談でも、会社の規模と現場の回し方で打ち手は変わります。まずは御社の今の形をお聞かせください。図面を見ずに見積もれないのと同じで、そこからでないと正確なことは申し上げられません。
ご相談で最も多いのは、社長が現場に出ている従業員5〜10人の建設会社さまです。
▼ まずは現状をお聞かせください(相談は無料です) ▼
\ 予約ツールの入力は不要。「まず話だけ」「5分だけ電話」でOKです /