深夜の出来高払いを業務委託から直接雇用へ、総支給額を変えずに切り替えた事例(ゴルフ練習場)
「1球いくらの出来高払いで、働く時間は全部が深夜帯。なのに、扱いは業務委託になっている」
1球いくらの出来高払いで深夜に働く人を業務委託として扱っていても、働き方の実態が雇用なら労働者と判断され、午後10時から午前5時の労働には25%以上の深夜割増が必要です。大阪のゴルフ練習場では会社が直接雇う形に切り替え、働く人の総支給額を変えずに単価を深夜割増込みに作り直しました。割増込みにするなら通常の分と割増の分を判別できる形にし、通常の分だけで最低賃金を上回るかも確かめます。
→ 自社の場合はどうなる? Zoom30分・無料相談で個別に整理できます月末、事務所の机に請求書が並びます。手間請けの職人から届いた、1㎡いくら、1本いくらの出来高の請求書です。夜間工事に入ってもらった分も、昼と同じ単価で載っています。契約書の表題は「業務委託契約」。うちが雇っている人ではないのだから、働く時間も、夜の割増も関係ない。建設業では、そう考えて長く回してきた会社が少なくありません。
それでも、頭の片隅で引っかかっていないでしょうか。会社が決めた時間に入ってもらい、作業のやり方まで会社の指示どおりに動いてもらっている人を、本当に「雇っていない」と言い切れるのか、と。法律が見るのは、契約書の表題ではなく働き方の中身です。 今回ご紹介するのは、業務委託の扱いを会社が直接雇う形に切り替え、しかも働く人の総支給額は変えなかった事例です。
ご相談の内容
今回は建設業ではなく、ゴルフ練習場のご相談です(大阪・18名・2026年)。仕事は、練習場のボール拾いです。
払い方は、1球いくらの出来高払いでした。働く時間は、全部が深夜帯(法律でいう午後10時から午前5時まで)に入っていました。それなのに、扱いは業務委託になっていました。
1球いくらを1㎡いくらに、ボール拾いを夜間工事に置き換えると、冒頭の場面と同じ形です。出来高で払い、夜に働いてもらい、雇っていない人として扱う。業種は違っても、確かめるべき点は変わりません。
そのままだと、何が起きていたか
業務委託の契約書を交わしていても、働き方の中身が雇用と同じなら、その人は労働基準法が守る「労働者」として扱われます。厚生労働省は、労働者に当たるかどうかを、請負や委任といった契約の形式や名称にかかわらず、実態から総合的に判断するとしています。目安は、仕事の依頼を断れるか、仕事のやり方を会社が指示しているか、働く場所と時間を会社が決めているか、本人の代わりに別の人が来てもよいか、といった点です。
建設業の手間請けも同じです。厚生労働省が示している、建設業の手間請けの職人についての判断の目安でも、1㎡いくらの出来高で計算していることや、請求書を出させていることだけでは、雇用ではない理由にならないとされています。
労働者と判断されれば、午後10時から午前5時までに働いた時間には、給料の形にかかわらず25%以上の深夜割増(いわゆる深夜手当)が必要です。働く時間が全部深夜帯なら、出来高払いの深夜割増は、出来高の合計の25%にあたる計算になります(残業が無い場合)。払っていなかった深夜割増は、過去3年分さかのぼって請求されるおそれがあります。裁判になれば、払っていなかった額と同じ額まで、さらに上乗せ(付加金)を命じられることもあります。
ここまで読んで、ひやりとした社長もいると思います。けれど、誰かが悪意でこの形にしたわけではないはずです。出来高で払い、業務委託として頼む形は、長く当たり前に続いてきた頼み方です。その形が、そのまま残っていただけです。
そして、雇う形に切り替えても、給料として払う総額を変える必要はありませんでした。 このご相談では、総額を前と同じにしたまま、中身だけを法律に合う形に組み直しています。
当事務所の対応
- 会社が直接雇う形に切り替えました。 業務委託の扱いをやめ、会社が働く人を雇う関係にしました。
- 1球いくらの単価を、「深夜割増込み」の単価に作り直しました。 働く時間が全部深夜帯なので、深夜割増はどの時間にもかかります。その割増を、はじめから単価の中に組み込む形です。
- 総支給額は変えていません。
働く人の給料を下げずに、払い方の中身だけを法律に合う形へ組み直す。業種が変わっても、当事務所の直し方は同じです。建設業を専門にしている事務所なので、手間請けの職人さんが現場でどう動いているか、元請から何を聞かれるかを前提にして形を組みます。
気をつけたいポイント
深夜割増込みの単価は、作り方を誤ると「払っているのに、払ったことにならない」おそれがあります。同じ形に切り替える会社がつまずきやすい点を3つ挙げます。
1つ目は、単価の内訳が分かる形にすることです。 最高裁は、割増賃金を払ったと言えるかを判断する前提として、通常の労働時間の賃金に当たる部分と、割増賃金に当たる部分とを判別できることが必要だとしています(国際自動車事件・令和2年3月30日判決)。名前を「深夜割増込み」にするだけでは足りません。労働条件通知書・賃金規程・給与明細で、どこからが深夜の分なのかが分かるようにしておきます。総額は同じでも、通常の分にあたる単価は、これまでの1球いくらより低くなります。切り替える時は、新しい単価の内訳を働く人一人ひとりに説明し、労働条件通知書などの書面で確かめ合っておきます。
2つ目は、通常の分だけで最低賃金を上回っているかです。 これは今回の会社の内訳ではなく、計算の仕組みを示す例です。たとえば働く時間が全部深夜帯で、時間外労働が無い月に、総額を変えずに割増込みへ組み直すとします。その場合、計算上は総額の8割が通常の分、2割が深夜割増の分になります(通常の分の25%が、総額の2割にあたるためです)。最低賃金と比べるのは、深夜割増を除いた通常の分だけです。総額では足りていても、通常の分だけだと下回ることがあります。令和8年度の最低賃金の改定(大阪府は10月1日から1,231円。日付は都道府県ごとに違います)の後は、特に確かめておきたい点です(※2026年10月時点)。最低賃金を下回った基本給を、総支給額を変えずに組み替えて直した例は、古い最低賃金のままの時給を直した事例で紹介しています。
3つ目は、働いた時間の記録です。 出来高払いの1時間あたりの単価は、その月の出来高の合計を、実際に働いた時間の合計で割って出します。最低賃金の確認も、この時間がもとになります。1日8時間・週40時間を超えた時間が深夜にかかれば割増は50%以上になり、8割・2割の組み方では足りない月が出てきます。出来高が少ない日でも、働いた時間に応じて一定額を保障する決まり(保障給)も、賃金規程に入れておきます。
雇用に切り替えると、ほかにも次の決まりが付いてきます。
- 常時10人以上が働く事業場(店や営業所ごとに数えます)では、出来高の単価や深夜割増の計算方法を就業規則(賃金規程)に書き、労働基準監督署に届け出ます。
- 給与の記録(賃金台帳)には、深夜に働いた時間数を分けて残します。
- 深夜の仕事を常に任せる人には、働く時間などによって、年1回ではなく6か月以内ごとに1回の健康診断が必要になります。深夜だけの仕事は、18歳未満の人には任せられません。
- 働く時間などに応じて、雇用保険・社会保険の加入も確かめることになります。
顧問契約なら、就業規則(賃金規程)の作成・改定は基本料金内で行い、労働基準監督署への届出も当事務所が電子申請で出します。社長が現場を離れて役所へ行く必要はありません。
なお、形を直しても、直す前の期間に払っていなかった割増が消えるわけではありません。過去の差額の計算は、スポット(1時間15,000円・15分単位・税別)でお受けしています。
出来高払いの割増の計算例と保障給は出来高払い・歩合の職人にも残業代は必要?に、深夜割増と時間外が重なる時の率は夜間工事の割増賃金にまとめています。自社の手間請けの職人が雇用と請負のどちらに近いかは一人親方契約チェックリストで、常用と請負の違いは建設業の「常用」と「請負」の違いで確かめられます。一人親方として契約していた運転手を社員として雇い直した例は、緑ナンバーの車を運転する一人親方を社員にした事例で紹介しています。
この形にすると、社長と働く人の毎日がどう変わるか
給料日。夜の仕事を任せている人に明細を渡す時、深夜の分を明細の欄で分けておけば、「深夜の分は、ここに入っています」と指させるようになります。払う総額は前と同じでも、その中身を、誰に聞かれても同じ言葉で説明できます。
同じ給料日、明細を受け取る働く人も、その欄を見れば、総支給額のうちどこまでが深夜割増の分かを自分の目で確かめられます。出来高払いで雇われる人には、拾うボールが少ない夜でも、働いた時間に応じて一定額を保障する決まり(保障給)が法律で付きます。夜の作業中のケガは労災保険の対象になり、深夜の仕事を続ける人は、働く時間などによって、6か月以内ごとに1回、健康診断を受けられます。給料の総額は同じまま、働く人は法律で守られる範囲が広がり、会社は払い方を誰に聞かれても説明できる。労使どちらにとっても良い形です。
建設会社なら、元請から「この職人さんは御社の社員ですか、一人親方ですか」と聞かれても、「うちで雇っています」と一言で答えられます。
いちばん変わるのは、払うたびに引っかかりが一つ積み上がっていく状態が、そこで止まることです。これから先の月末に、新しい心配が増えることはありません。直す前の分も、いくらになりそうかを数字で出せば、「いつ突かれるか分からない不安」は「計算して片付けられる宿題」に変わります。
そして、夜の仕事を「業務委託の人に頼んでいる仕事」ではなく、「うちで雇っている人の仕事」として、胸を張って語れるようになります。人を増やす時も、同じ形で迎え入れられます。
出来高の賃金規程を含む就業規則の考え方は、建設業の就業規則作成でご紹介しています。
御社も同じ状態か、3つで確かめてください
- 1㎡いくら・1本いくらといった出来高で払っている人を、業務委託や請負として扱っている
- その人の始業・終業の時刻や作業のやり方を、会社が指示している(工程の調整だけではなく)
- 夜10時から朝5時までに働く日があるのに、明細にも請求書にも深夜割増の欄が無い
1つでも当てはまれば、御社も今回と同じ形に整えられるか、一度確かめてみてください。出来高で頼んでいる職人さんを、給料の総額は変えずに、元請にも本人にも「うちで雇っている人です」と言い切れる会社へ。今の契約書や1か月分の支払いの記録が手元にあれば、それを見ながら、Zoom30分の無料相談で今の払い方をお聞かせください。どこから直せばよいかを、一緒に整理します。
出来高払いや業務委託の形で働いていて、このページを読まれた方は、働き先の社長に見せていただくのが、いちばんの近道です。ご相談は会社からお受けしています。
参考(一次情報)
- 労働基準法(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049
- 労働基準法における「労働者」とは(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/index02.html
- 建設業手間請け従事者及び芸能関係者に関する労働基準法の「労働者」の判断基準について(厚生労働省・平成8年3月): https://www.mhlw.go.jp/content/001477331.pdf
- 平成30年(受)第908号 令和2年3月30日 第一小法廷判決(最高裁判所): https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-89433.pdf
よくあるご質問
※ 実際にお受けしたご相談をもとに、事業所が特定されないよう内容を一般化して掲載しています。対応の内容は、会社の規模・契約形態・現場の実態によって変わります。
「うちも、これと同じ状態です」
同じご相談でも、会社の規模と現場の回し方で打ち手は変わります。まずは御社の今の形をお聞かせください。図面を見ずに見積もれないのと同じで、そこからでないと正確なことは申し上げられません。
ご相談で最も多いのは、社長が現場に出ている従業員5〜10人の建設会社さまです。
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