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職人が週末は一人親方に|建設業の副業・兼業を就業規則でどう扱うか

テーマ: 建設業の就業規則作成
30秒で結論

建設業の副業・兼業は、届出制で内容を把握し、本業への支障・秘密漏えい・信用の毀損・競業による利益侵害を理由に制限を検討します。他社にも雇用される場合は原則として労働時間を通算しますが、実態も請負である一人親方の副業は通算対象外です。請負でも疲労の把握と労災の特別加入の確認を行い、顧客との関係や変更時の報告まで規則に定めることが大切です。

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従業員7人の内装会社。月曜の朝、腕のいい職人が資材を積みながら何度も目をこすっています。「土日も知り合いの現場に、一人親方で入っているらしい」。ほかの職人から聞いた話が、社長の頭を離れません。今日の脚立作業を任せて大丈夫か。それに、うちのお客さんから直接仕事を取っているのではないか。本人に聞こうにも、「休みの日まで会社が口を出すんですか」と返されたら、何と答えればよいのでしょう。

こんな場面で必要なのは、週末に何をしているのかを確認し、止める必要のある仕事と続けられる仕事を分けるルールです。この記事では、建設業の副業・兼業を就業規則で扱う際の判断、雇用と一人親方の違い、届出書を受け取った後の動きまで整理します。

職人の副業は、就業規則で全面禁止にできますか?

「事故が怖いから、副業は全部禁止にしたい」。現場を預かる社長には切実な話です。ただ、勤務時間外をどう使うかは、基本的には働く人の自由です。厚生労働省のガイドラインは裁判例を踏まえ、原則として副業・兼業を認める方向で検討する考え方を示しています。「うちは昔から禁止」で一律に押し切るのは難しいのです。

一方で、会社の仕事や利益を守るため、禁止・制限を検討できる場合もあります。厚労省のモデル就業規則が示す理由は、次の4つです。右欄は建設会社で確認する場面の例であり、当てはまれば直ちに禁止できるという一覧ではありません。

禁止・制限を検討する理由建設会社で確かめたい場面
労務提供上の支障がある副業の疲労で遅刻が続く、作業中に集中できない
企業秘密が漏れる社内の見積単価や顧客情報を副業で使っている
会社の名誉・信用を損ない、信頼関係を壊す会社が請けた工事のように装い、個人で受注している
競業によって会社の利益を害する会社が商談中の工事を、本人が個人受注へ誘導している

冒頭の職人なら、まず「月曜にふらついている」という仕事上の様子と、「土日に働いているらしい」という伝聞を分けます。副業の有無、仕事内容、働いた時間、疲労の状態を本人に聞き、原因を決めつけずに確認します。

制限を検討するときも、確認した支障に応じて、就業時間を短くする、特定の仕事を控えるなど、対応の範囲を整理します。何が困るのかが具体的になれば、社長も「副業しているから駄目」ではなく、「月曜の作業を安全にできる状態に整えよう」と話せます。

全面禁止を見直すなら、届出制の規定はどう書きますか?

「知り合いの応援だけなので、副業とは思っていませんでした」。本人と社長で言葉の受け止め方が違えば、禁止とだけ書かれた規則では実態が見えません。

厚労省のモデル就業規則は、勤務時間外の副業を認め、届出に基づいて内容を確認し、支障がある場合に禁止・制限する仕組みです。対象には、他社のアルバイトだけでなく、一人親方として請け負う仕事も含まれます。届出は「出せばどんな仕事でも自由」という意味ではなく、会社が必要な確認をする入口です(※2026年9月時点、ガイドラインは令和4年7月改定版を参照)。

例えば、次のような骨格にします。以下は厚労省の考え方を踏まえた**規定例(条文イメージ)**であり、そのままの転載ではありません。自社の勤務形態や既存の服務規律に合わせた調整が必要です。

規定例1|副業・兼業の届出
従業員は、勤務時間外に副業・兼業を行うことができる。副業・兼業には、他社に雇用される業務及び個人として請け負う業務を含む。開始前に、相手先、業務内容、契約形態及び就業予定を会社へ届け出るものとする。届出内容に変更が生じたときも、速やかに届け出る。

規定例2|禁止・制限と報告
会社は、副業・兼業により労務提供上の支障、企業秘密の漏えい、会社の名誉・信用の毀損若しくは信頼関係を破壊する行為、又は競業による会社の利益の侵害が認められる場合、その事情に応じて副業・兼業を禁止又は制限することができる。従業員は、会社が必要な確認を行えるよう就業状況を報告し、本業に影響する疲労や負傷がある場合は速やかに申し出る。

会社側の運用としては、誰が届出を受け、何を確認し、いつ本人へ結果を伝えるかも決めます。社長が現場に出ている間、書類が机に置かれたままになるなら、受け付ける方法から直す必要があります。

既に副業をしている人にも現在の状況を申告してもらい、変更後のルールを説明します。これなら、社長がうわさを拾うまで分からなかった週末の仕事を、予定の段階で話し合えるようになります。

副業先にも雇われる場合、労働時間と残業代はどうなりますか?

「平日はうち、土曜は別の内装会社のアルバイト。給与も別だから時間も別でしょう」。ここは、請負の副業と大きく違うところです。両方で労働時間規制の対象となる従業員として雇われる場合、労働基準法第38条第1項により、原則として労働時間を通算、つまり会社をまたいで合計します。

割増賃金の負担は、契約の順番と残業の発生順で決まります

原則的な方法では、まず所定労働時間(契約で決めた時間)を労働契約の締結順に通算します。その後、所定外労働時間(契約で決めた時間を超えて働いた時間)を、実際に発生した順に加えます。各社は、法定労働時間を超えた部分のうち、自社で働かせた時間に対する割増賃金を支払います。

例えば、通常の労働時間制で、先に契約した自社で平日週40時間、後から契約した副業先で土曜4時間と約束した場合です。週の区切りが同じで、土曜は副業先の法定休日ではなく、ほかに残業がない前提なら、副業先の4時間が週40時間を超える時間外労働となり、副業先は自社の36協定の範囲内で働かせ、割増賃金を支払う必要があります。

ただし「後から雇った会社がいつも全部払う」とは限りません。所定外労働まで通算した結果、自社で働かせた時間が法定時間を超える部分になれば、自社もその分を負担します。契約の締結日、約束した勤務時間、実際の記録を一緒に確認する理由はここにあります(※2026年9月時点)。順序と負担の詳細は、厚労省の解説P.16・22・32〜33に示されています。

割増を払うだけでなく、働かせられる時間も確認します

通算管理には、原則的な方法のほか、あらかじめ両社の労働時間の枠を設定する「管理モデル」もあります。届出を受けたら、どの方法で管理するかまで決める必要があります。

また、時間外労働の上限には、通算して確認するものと、各社で確認するものがあります。「他社の時間は全部関係ない」「残業の上限はすべて両社合計」と一括りにしないことが大切です。給与計算をする人へ届出内容と実績が届くようにしておけば、締め日になって初めて土曜の勤務を知り、計算をやり直す事態を減らせます。

一人親方としての副業なら、時間の通算や労災はどうなりますか?

「雇われているんじゃなくて、壁紙の張り替えを自分で請けています」。実態も独立した請負であれば、その副業は労基法の労働時間規制の対象ではなく、原則として本業との時間通算の対象外です。

ただし、「一人親方という契約書がある」だけでは決まりません。契約と実際の働き方がずれていれば、雇用として扱われることがあります。判断の詳しい整理は一人親方と常用従業員の契約実態、確認項目は一人親方契約のチェックリストをご覧ください。

副業の入口では、次の違いを押さえます。

副業の実態時間・労災で確認すること
他社にも雇用される労働時間規制の対象なら原則通算。労災は労働者としての適用を確認する
一人親方として請け負う原則として時間通算の対象外。労災は自動適用されると考えず、特別加入を確認する

一人親方は労働者ではないため、労災保険の適用対象外が原則です。ただし、承認を受けた特別加入団体を通じて任意に加入する特別加入制度があります。週末に一人親方として入る現場のケガについて、「平日は社員として働いているから大丈夫」と本人が思い込んでいないかを確認します。加入の有無だけでなく、予定している仕事が補償の対象になるかも、加入先へ確認してもらいましょう。給付や保険料の具体額は、特別加入団体の案内と最新の公式資料で確かめます。

そして、通算対象外でも、疲労やケガが本業に及ぼす影響は残ります。日曜の作業で手を負傷すれば、月曜に予定していた施工を任せられなくなるかもしれません。就業時間や体調を把握し、長時間にならないよう配慮することが望ましいとされています。

実務では、疲れが強いときや負傷したときの報告先と、翌日の配置を誰が見直すかを決めておきます。社長が朝礼で初めて異変に気づく状態から、現場へ送り出す前に仕事の割り振りを考えられる状態へ変えていきます。

自社のお客さんから直接仕事を取る副業には、どう備えますか?

取引先との打ち合わせで、「あの職人さん、次は個人でも来てくれるそうですね」と言われた。こうなる前に、副業の届出で顧客との関係を確認しておきたいところです。

競業とは、会社と競合する仕事を行うことです。ただ、同じ内装工事をするというだけで直ちに会社の利益を害するとは限りません。誰から、どの仕事を、どのような経緯で受けるのかを確認します。副業規程の入口で、次の項目を聞けるようにしておきます。

  • 副業の相手先は、自社の既存顧客や商談中の相手ではないか
  • 自社の営業・施工を通じて持ちかけられた仕事ではないか
  • 会社の見積書、単価、顧客情報を利用しないか
  • 会社名や会社の受注と誤認させる説明をしていないか

例えば「会社で見積中の案件を、個人で受けたいと言われた」ときは、契約前に申し出る運用にします。事前の届出と変更の報告があれば、仕事が終わってから会社の案件だったと判明する事態を防ぎやすくなります。秘密保持の規定も、何の情報を持ち出してはいけないかが本人に伝わる内容か点検します。

退職後まで競業を制限できるか、独立や引き抜きにどう備えるかは、職人の独立・引き抜き・元請への直接営業で扱います。実際に受注を巡る紛争になり、交渉や訴訟への対応が必要な場合は弁護士へ相談してください。

在職中の副業は、届出を受ける段階で顧客との接点を確認することが出発点です。社長が「裏で仕事を取られているのでは」と疑い続けるより、確認する事実と守る約束を共有できます。

届出書には何を書いてもらい、どこから運用を始めますか?

届出書に「土日に内装の応援」とだけ書かれていても、時間の通算が必要か、月曜に影響があるかは分かりません。厚労省の解説にある確認事項を基に、次の欄を用意します。公式Word様式の再現ではなく、届出書を自社向けに整えるための項目です。

対象届出・確認する項目
副業をする全員副業先の事業内容、本人が行う業務内容、労働時間通算の対象かどうか
時間通算の対象者他社との契約締結日・期間、所定労働日・時間、始業・終業時刻
時間通算の対象者所定外労働の有無、見込み時間数・最大時間数、実労働時間の報告手続、確認頻度

建設会社での運用上の追加項目として、自社顧客との関係、一人親方の場合の特別加入の状況、本業に影響する疲労・負傷の報告方法も設けると、前の節までの確認につながります。通算対象かどうかは本人に丸を付けてもらって終わりにせず、契約形態と仕事内容を会社側で確認しましょう。

受け取った後の手順も、書類と一緒に決めます。

  1. 開始前に確認する:社長などの担当者が仕事内容と予定を読み、雇用か請負か、競業や健康への懸念がないかを整理する。
  2. 報告方法を合わせる:雇用の副業は実労働時間をどう受け取り、給与計算へ渡すかを決める。確認頻度は上限管理に支障が出ないよう設定する。
  3. 変更と異変を受け取る:副業先、仕事内容、予定時間が変わるときや、本業に影響する疲労・負傷があるときは、その都度知らせてもらう。
  4. 支障があれば見直す:本人の説明と勤務の状況を確かめ、必要な調整や制限の理由・範囲を整理する。

副業・兼業の労働時間通算については、労働基準法の見直し議論もあります。ただし、通算の見直しを含む改正法案は2026年通常国会への提出が見送られ、施行日は未定です(※2026年9月時点)。「近く通算が不要になるらしい」と現在の管理を外す段階ではありません。今の制度で運用し、改正が決まった時点で規則と帳票を見直します。

まず、自社の副業条項と届出書を並べ、誰が受け取るかを書き込むところから始めてください。建設業の就業規則作成では、現場の働き方に合わせた整備をご案内しています。中峯社労士事務所では、就業規則の作成・改定を顧問の基本料金内で行っています。Zoom30分の無料相談で、週末の応援をどこまで届け出てもらうか、時間と顧客の確認をどう回すかを、自社の場合に沿って一緒に整理できます。月曜の朝に問い詰める前に話し合える仕組みを、規則と届出書から作っていきましょう。最新の制度や金額は、必ず公式サイトでご確認ください。

参考(一次情報)

よくあるご質問

届出制を設ける際は、単発の応援や一人親方としての請負も対象だと明記しましょう。回数だけで判断せず、仕事内容や本業への影響を確認できるようにします。
無届という理由だけで解雇できるとは限りません。就業規則の内容と本人の説明、本業への支障などを確認し、処分を検討する場合は個別に専門家へ相談してください。
契約名だけでは決まりません。実態が雇用で労働時間規制の対象なら通算が必要になるため、契約書と実際の働き方を確認します。
いつも後から雇った会社だけが払うわけではありません。原則的な方法では所定労働時間を契約の締結順、所定外労働時間を発生順に通算し、法定時間を超えた部分のうち自社で働かせた時間について各社が負担します(※2026年9月時点)。
特別加入の有無と、疲労で本業に支障が出るかは別の問題です。一人親方としての副業でも、就業時間や体調を把握し、現場の安全に支障が出ないよう話し合うことが大切です。
社会保険労務士 中峯崇文

この記事の執筆・監修:中峯 崇文(社会保険労務士)

中峯社労士事務所 代表|社会保険労務士 登録番号 第27110112号採用定着士

建設業に特化した社会保険労務士として、残業対応や一人親方の移行など、現場の労務を毎月扱っています。外国人雇用では自ら監理団体を立ち上げて運営し、採用定着士として採用と定着の設計まで踏み込みます。

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