乗り合わせの移動は残業になる?社用車を運転する人も同乗する人も、会社の指示で決まります
乗り合わせの移動が労働時間かどうかは、距離や座席ではなく、会社がだれに何を指示したかで決まります。厚生労働省の建設業向けQ&A追補分は、社用車への乗り合いや、集合しての積込み・戻った後の片付けを指示された人の移動は、運転しなくても一般に労働時間に当たり、直行直帰が自由な中で任意に乗り合うなら当たらないとします。任意の中で会社が運転や運搬を頼んだ人の移動は、当たるのが基本です。「乗れ」と言わなくても、その車でしか行けない段取りなら、指示の下と見られることがあります。働く側も、どの移動が働いた時間かを確かめられます。
→ 自社の場合はどうなる? Zoom30分・無料相談で個別に整理できます朝6時の駐車場に、ハイエースのスライドドアを開ける音が響きます。片道3時間の現場へ向かう3人。集まれと言った人はいません。道具は昨日のうちに社用車へ積んであり、遠い現場は一緒に行く方が楽だからと、自分たちで決めて来ています。年長の職人が鍵を取って運転席へ。昨日の夕方に道具を積んだ若手が助手席へ。もう一人は後ろの席で、出発前から目を閉じています。同じ車で、同じ3時間。ところが月末に勤怠を締める夜、この3人の時間を同じ言葉で説明しようとすると、手が止まります。
残業なのか、通勤なのか。調べるほど答えは揺れ、「この移動はどっちですか」と聞かれて言葉を探すうちに、職人の顔に「ん?」が浮かびます。労働時間とした判決も、通勤と変わらないとした判決も出てきます。ひな形の就業規則に書いてあるのは始業と終業の時刻までで、朝の駐車場でだれが鍵を取るかは載っていません。片道3時間の現場が続くと、同じ車の3人の時間の数え方は、だれが決めても揺れます。
ただ、社用車の乗り合いには、厚生労働省の建設業向けQ&A(追補分)が正面から答えています。働いた時間(労働時間)と通勤を分ける線を引くのは、車の形でも座席でもなく、会社がだれに何を指示したかです。同じ車でも、3人の答えがそろう朝と、人で分かれる朝があります。この分け方を規則に書いておけば、どちらの朝も同じ言葉で説明できます。
この記事で分かることは、次の4つです。
- 運転する人も同乗する人も労働時間になる朝と、人で答えが分かれる朝
- 会社が命じていない乗り合わせが、通勤になる時と、ならない時
- 片道3時間の移動の数え方と額、手当との分け方
- 規則に書く文例と、今日できる最初の1つ

乗り合わせの移動は、残業になりますか?
会社が社用車への乗り合いを指示していれば、移動時間は労働時間に当たり、1日8時間・週40時間を超えた分が残業(時間外労働)です。直行も直帰も自由な中で、従業員どうしが任意に乗り合っているなら、労働時間に当たりません。
これは、厚生労働省の「建設業の時間外労働の上限規制に関するQ&A(追補分)」の追1が示している形です。判断は個別具体的に行うとしたうえで、一般に次の場合は、移動時間が労働時間に当たるとしています(※2026年11月時点)。
- 移動手段として、社用車に乗り合って現場へ向かうことなどを指示している
- 移動の前に会社へ集合して資材を積むことや、現場から戻った後の道具清掃・資材整理を指示している
- 車の中に社長や上司も同乗して、打合せをしている
一方、直行直帰が自由な中で、従業員どうしが任意に、移動手段の一つとして集合時刻や運転者を決めて社用車に乗り合っていた、といった場合は、労働時間に当たらないとしています。
職人に聞かれたら、こう返せます。「会社がこの車で行けと言った朝は、働いた時間だ。直行でもいいのに、自分たちで決めて乗った朝は違う」。
どの形に当たるかは、規則の文ではなく、その朝の実態で見ます。会社が「通勤扱い」と決めても、会社の指示の下(法律の言葉で「指揮命令下」)にあった時間は労働時間です(最高裁 平成12年3月9日判決の考え方)。
直行直帰・事務所集合・積込みといった場面ごとの早見は、現場への移動時間は労働時間?にまとめています。
社用車を運転する人と、同乗するだけの人で、扱いは変わりますか?
会社が乗り合いを指示している朝は変わらず、運転する人も同乗する人も労働時間に当たります。直行直帰が自由な中で任意に乗り合っている朝も変わらず、どちらも当たりません。扱いが分かれるのは、任意の乗り合いの中で、会社が特定の人にだけ運転や運搬を頼んでいる時です。
現場割りのホワイトボードに社長が「運転はAさん」と書いた朝と、3人が駐車場で「今日はおれが運転するわ」と決めた朝では、同じハンドルでも意味が変わります。会社が運転や同僚の送迎、資材の運搬を指示している人の移動は、労働時間に当たるのが基本です。労働基準監督署が建設業向けに出していたリーフレットにも、会社から社有車の運転を指示された人は労働時間、それ以外の人は通勤、という場合分けがありました。身ひとつで向かうだけの移動は通勤と同じ扱いになりやすく、資材を運ぶ・見張るといった指示が付くと仕事の時間になりやすい、というのが行政の考え方です。
朝の形ごとに並べると、次のとおりです。
| その朝の形 | 運転する人・道具を運ぶ人 | 身ひとつで乗る人 |
|---|---|---|
| 会社が、乗る人全員に乗り合いや集合しての積込み、戻った後の片付けを指示している。車内で社長や上司と打合せをしている | 当たる | 当たる |
| 道具を積んだその車でしか行けない | 当たる側で考える | 当たる側で考える |
| 直行直帰が自由で、任意に乗り合う。運転や運搬、そのための積込みは会社が特定の人に頼んでいる | 当たる | 当たらない |
| 直行直帰が自由で、任意に乗り合う。運転も運搬もだれにも頼んでいない | 当たらない。ただ、頼んでいない人が積み運ばないと現場が回らない段取りを、社長や職長が分かって受け入れていれば、その人は働いた時間の側で考える | 当たらない |
冒頭の朝に当てはめると、答えは社長の頼み方と直行の選びやすさで、次のように分かれます。
- だれにも何も頼んでおらず、直行も本当に選べるなら、年長の職人も若手も後ろの席の人も、この3時間は労働時間に当たりません。ただ、若手が積み運ばないと現場が回らない段取りを社長や職長が分かって受け入れていたなら、若手の3時間は働いた時間の側で考えます。
- 社長が年長の職人に運転を、若手に道具の運搬を頼んでいたなら、この2人の3時間は働いた時間です。後ろの席の人は、直行も本当に選べるなら当たりません。
- 道具がその車にしかなく、だれも直行しようがないなら、3人とも働いた時間の側で考えます。
若手が昨日の夕方に積んだ時間は、どの朝でも、会社が頼んだ積込みなら働いた時間です。頼んでいなくても、社長や職長が分かって受け入れていた積込みや、積まないと翌朝の現場が回らなかった積込みも、働いた時間の側で考えます。
会社が命じていない乗り合わせは、通勤扱いでいいですか?
直行も直帰も自由な中での任意の乗り合いなら、労働時間に当たらないとされています。ただし「命じていない」だけでは足りません。
「乗れ」と言っていなくても、乗らざるを得ない状態にしていれば、会社の指示の下にあったと見られることがあります。口に出さなくても指示があったと見ることを、法律の言葉で「黙示の指示」と言います。頼んでいない積込みや片付けを社長や職長が分かって受け入れていた時も、これに当たることがあります。国のガイドラインは、義務づけられていたか、余儀なくされていたかなどの状況から個別に判断するとしています。「乗り合わせは従業員が好きにやっていること」と会社が考えていても、実際に事務所で積込みや片付けをさせているなら、その実態で判断されます。
確かめ方は、現場の言葉にすると1つです。明日の朝、1人が「自分の車で直接行って、直接帰ります」と言ったら、何と答えますか。「いいよ、現場で」と返せるなら、乗り合わせは本人たちが選んでいる形に近いと言えます。「道具はどうする」「それは困る」と返すなら、段取りがその車を前提に組まれています。
「いいよ」と返せるかは、次の3つで確かめます。
- 自分の車で現場へ行ける人がいるか(車のない若手、ガソリン代や高速代も含めて)
- 道具を現場に置けるか、現場へ届けられるか
- 直行しても現場で困らず、だれにも注意されないか
迷うのは、道具も車も会社の段取りに乗っていて、その車でしか行けない朝です。Q&Aの「任意に乗り合う」形は直行直帰が自由なことが前提なので、その車で行くしかないなら、この形には当たりません。移動手段の指示に近い状態なので、労働時間の側で考えるのが安全です。直行を本当に選べる朝にしたいなら、言葉ではなく段取りを変えます。
- 道具や資材を運ぶ役を決めて頼み、その人の移動は労働時間として数える
- ほかの人は、乗り合わせても直行してもよい形にする
- 現場に道具を置ける時や、現場へ届ける手配ができる時は、運ぶ役そのものを外す
調べて出てくる判決が揺れて見えるのも、その朝の実態が違うからです。朝の出勤が実質的に指導され、資材を積み、現場と組み分けの指示を受けて会社の車で向かっていた配管工事の会社では、帰りも含めて移動が労働時間とされました(東京地裁 平成20年2月22日判決・総設事件。控訴あり)。積込みと片付けが常態だった鉄骨工も、運転の有無にかかわらず往復が労働時間とされました(労災の給付を決める場面の、国の審査会の裁決です)。他の従業員を乗せて社有車を運転しても、車内で仕事をせず、自家用車の通勤と負担が変わらないなら労働時間にならない、とした判決は警備会社の事案です(福井地裁 令和3年3月10日判決・オーイング事件)。追補分より前の判決で、建設業でもありません。これだけを頼りに、会社が指示した乗り合いを無給と決めるのは危険です。
片道3時間の移動や、泊まりの現場への移動は、どう数えますか?
片道3時間でも泊まりの現場でも見方は同じで、労働時間に当たる移動を時間で数えます。何キロ・何時間から労働時間になる、という公的な基準はありません。
休日に前入りする移動も同じ見方です。国のリーフレットは、休日のうちに自宅から直接出張先へ移動して前泊する移動を、業務や移動手段の指示がなく自由に使える場合の労働時間に当たらない例として挙げています。身ひとつで向かう例なので、会社の車を運転する、道具を運ぶ移動には当てはめられません。
片道3時間の現場は往復6時間です。変形労働時間制を使わない会社で、法定休日(法律上の休日)ではない日に、休憩を除いて現場で8時間働き、この6時間の移動も労働時間に当たる人は、1日6時間が時間外になります。週40時間を超える分があれば、さらに増えます。
額にする時は、日当の職人も、日当を所定の時間で割って1時間の額を出します。所定8時間・日当16,000円なら1時間2,000円、時間外は25%増しの2,500円で、往復6時間は1日15,000円です。車の1時間が現場より高く見えるのは、1日8時間を超えて残業の割増が付くからです。月に8日通うと、時間は48時間、額は12万円になります。この時間も額も、運転をだれに頼むか、道具を現場に置くか、泊まりに切り替えるかで抑えられます。現場で8時間、月に8日、所定8時間、日当の額は、ほかの手当がなく、その月の時間外が60時間以内で、深夜に当たらない場合で置いた、計算の手順を見せるための仮の数字です。
移動だけの48時間で、36協定(残業をさせるために、会社と従業員の代表が結んで労働基準監督署へ出す取り決め)の原則の上限である月45時間を超えます(※2026年11月時点)。36協定には1日に延ばせる時間の欄もあり、特別条項(臨時に上限を超えて延ばす取り決め)でない方の1日の時間が6時間より短い会社は、月の合計が45時間以内でも、その日に協定を超えます。対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制の会社は、時間外の数え方そのものが別で、上限も月42時間・年320時間です。残業代を払っても、労働時間に当たる移動は上限から外れないので、「全員を残業で数えて払っておけば安心」とは言い切れません。かといって全員を通勤扱いにすれば、指示している移動の時間が抜け落ちます。その朝の指示と実態のとおりに数えるのが、いちばん説明のつく形です。
この数字は、運転をだれに頼むかを決める時に使います。いつも同じ人に頼めば、時間はその人にだけ積み上がります。造園・土木会社の事例では、積込みの担当を交代制にして、一人ひとりの残業を月45時間以内に収める形を設計している途中です。交代しても、運転する日の1日の時間は減りません。運転できる人が限られて交代だけでは足りない月は、道具を現場に置くか泊まりに切り替えて、運転を頼む日数そのものを減らします。どの手にも費用が出るので、現場を受ける前に数えておきます。
片道3時間の往復を運転する日は、帰りのハンドルをだれが握るか、どこで休むかも現場割りの時に決めておきます。道路交通法は、社用車の使用者に対し、過労での運転などを運転者に命じたり、知りながら見過ごしたりしてはならないと定めています。
遠さの負担は、時間とは別に考えます。手当は、その負担に応えるものです。手当を払ったから労働時間でなくなる、という順番にはなりません。出張の日当も同じで、日当を払っていても、移動が労働時間に当たるかどうかは別の判断です。
だから同じ現場で、時間で払う人と手当を付ける人の両方が出ることがあります。そこで聞かれるのが「ハンドルを握った俺には付かないんですか」です。社長の言葉にすると、こうなります。
「運転は俺が頼んだ仕事だから、働いた時間として払う。手当は遠さの分だ。運転した者にも付けるかどうかは、会社の決まりに書いてある」
働いた時間に当たる移動の支払いは必ず要ります。その人に遠さの手当も付けるかどうかは、会社が決めて規則に書きます。今の運転手当や日当の上乗せを、この時間の支払いに回せるかは、その手当の決め方しだいです。ただ、職人の受け取る総額を変えずに、今の手当が何の支払いかを決め直すだけでは、この時間の残業代を払ったと認められないおそれがあります。
移動中の事故の扱いは、残業かどうかと同じ答えになりますか?
同じ答えにはなりません。移動中の事故が業務災害か通勤災害かという労災の区分と、その移動が残業代の対象になる労働時間かどうかは、別々に判断されます。どちらの区分も労災の対象ですが、使う請求書も会社の負担も変わります。
会社が用意した車に、会社が決めた段取り(集合場所・時刻・運転役)のとおりに乗って現場へ向かう移動は、労災では原則として業務災害として扱われます。従業員どうしが自分たちで決めて乗り合わせる場合は、労災の扱いが変わることがあります。どちらに当たるか迷うときは、請求の前に労働基準監督署に事情を話して確かめてください。事故の当日からの進め方は現場へ向かう車で事故、職人のケガは労災?にまとめています。
乗り合わせの扱いは、規則にどう書けばいいですか?
会社が指示する移動と、従業員が任意に乗り合う移動を分けて書き、運用をその文のとおりにそろえます。
現場への移動は、私が毎月のように扱っている実務です。直行直帰が自由な中で、従業員が任意に決めているだけの移動は、通勤に近い扱いになりやすいと考えます。一方、道具や資材を積んで運ぶ役の人の移動は、労働時間として扱う考え方があります。そこで、会社の指示の有無で分けて書く形を提案します。
規定例:現場への移動時間の扱い
1 複数の従業員が同じ現場へ向かう日に、会社が運転又は道具・資材の運搬を指示するときは、前日までに担当者を指名する。当日に替えるときは、出発前に指名し直す。
2 前項の担当者その他会社が運転又は道具・資材の運搬を指示した者(当日に指示した者を含む。)の移動時間は、労働時間とする。会社の指示で行う積込み、荷降ろし及び片付けの時間も、同様とする。
3 前項の者以外の従業員は、自宅から現場へ直接向かい、現場から直接帰宅することができる。本人の判断で他の従業員と乗り合わせる場合で、移動中に業務の指示を受けず、業務に従事せず、移動手段の指示も受けず、その時間を自由に利用できるときは、その移動時間を労働時間としない。
4 会社が集合又は社用車への同乗を指示した日は、前項にかかわらず、指示された集合時刻から労働時間とする。帰りに会社へ戻る場合は、戻って片付け等の業務を終えるまでを労働時間とする。
5 現場から会社へ戻って片付け等をするよう会社が指示した者は、第3項にかかわらず、現場を出てから片付け等を終えるまでを労働時間とする。
これは一例で、直行できる現場かどうか、だれが運転するかといった実態に合わせて調整が要ります。3のとおりに書いても、直行を現場で本当に選べず、実態が会社の指示の下にあれば、労働時間になります。
規定例を就業規則に足す時は、常時10人以上の事業場なら、過半数労働組合があればその組合、なければ過半数代表者(従業員の過半数を代表する人)の意見を聞き、意見書を付けて届け出ます。全員への周知は、人数に関係なく要ります。
記録は、本人がその場でスマホから時刻を1行送る形なら、事務員がいなくても残せます。移動を時間で数える人は出発と帰着、それ以外の人は現場での始業と終業です。出発の前と帰着の後に、集合や積込み、荷降ろし、片付けがあった日は、その時間も同じ1行に足します。帰りに会社へ戻って片付けるよう頼んだ人は、現場を出た時刻も送ります。本人の申告で残す形なので、実際の時刻をそのまま送るよう最初に伝え、月の上限に合わせて短く書かせません。日報やETCの明細、元請の入退場記録があれば見比べ、ずれた日は本人に聞いて直します。
就業規則を置いていない10人未満の会社は、同じ決まりを全員に渡す紙にして始められます。今の条件を下げる時は、一人ずつ説明して同意をもらいます。
ここまで決まると、答えは前の日に出ています。現場割りを書きながら運転と運ぶ役を頼めば、その人の移動は働いた時間です。直行を選べる現場なら、ほかの人の乗り合わせは各自の判断です。「この移動は残業ですか」と聞かれても、同じ答えを返せます。
職人にとっても、話が早くなります。頼まれた日は働いた時間として数えられ、頼まれていない日は、直行か乗り合いかも車内の過ごし方も自分で決められます。
会社は経費を抑えたい。職人はもらえるだけもらいたい。どちらも正直な気持ちです。何に何を払うかが先に決まっていれば、その両方に同じ言葉で応えられます。
規則に書くのはこれからの決まりで、これまでの分は別の作業です。これまでの分はその時の実態で決まり、規則を変えても消えません。働いた時間に当たる移動が時間の欄に入っていない月があれば、賃金台帳と勤怠を並べて差額を出すと、大きさが分かります。分かった分は、いちばん早く払える給料で払います。先に片付けておくと、3人に同じ言葉で決まりを渡せます。
逆に、これまで移動を残業として払ってきた人の扱いを変えられるのは、段取りまで変えて、その移動が労働時間に当たらない形になった時です。移動の分の残業代が減る人が出るので、過去1年の支払い実績を並べ、人ごとに前と後の受け取りを比べてから説明します。給料が下がる方向の変更は、本人の合意を得て進めるのが原則です。就業規則や賃金規程、10人未満の会社が全員に渡している決まりの紙に、移動を働いた時間として払う定めや額が書いてある時は、本人が合意していても、それを下回る約束はその部分が無効になるので(労働契約法12条)、その規則や紙も一緒に直します。合意がない人には、就業規則を変える形で、周知と変更の合理性が問われます(労働契約法10条)。決まりを変える時に、職人へどう説明するかは別の記事にまとめています。
北海道の建設会社の事例もあわせてご覧ください。
何から手を付ければいいですか?
いちばん遠い現場を1つ選び、明日の朝の車を紙に書き出すことから始めます。書くのは4行です。
- いつ集まり、どの車で行き、だれが運転するか。会社が頼んだのか、自分たちで決めたのか
- 道具はだれがいつ積み、帰りの片付けはだれがするか
- 「自分の車で直接行って、直接帰ります」と言われたら、何と答えるか
- 車の中で、社長や上司との打合せや仕事の指示があるか。自由に過ごせるか
読み方はこうです。3行目で「いいよ、現場で」と返せて、1行目と2行目に会社が頼んだことがなく、4行目で車の中を自由に過ごせるなら、その朝は任意の乗り合いで、3人とも労働時間に当たらないとされています。ただし、頼んでいない人が積み運ばないと現場が回らない段取りで、社長や職長がそれを分かって受け入れている時は、その人の移動は働いた時間の側で考えます。1行目か2行目に会社が頼んだ人がいれば、その人の移動を時間で数えます。4行目に打合せや指示があれば、その移動も労働時間の側で考えます。3行目で「それは困る」と返すなら、3人とも労働時間の側で考えます。
労働時間に当たらない人の遠さの負担は、次に遠方手当の決め方を読むとつながります。明日の朝の車を書いた紙の下に書き足す形なので、紙は1枚で足ります。
決めた扱いを規則にする形は、建設業の就業規則作成のページで紹介しています。頼み方は顧問だけではありません。
- 顧問の契約なしでの就業規則の作成は、スポット(1時間15,000円・15分単位・税別・2026年10月時点)でお受けしています。
- 就業規則の作成・改定は顧問の基本料金の中です。基本料金は月22,000〜28,000円(契約の年数が長いほど下がります・税別・2026年10月時点)。社用車規程なども、この中で作成・改定をご相談いただけます。
くわしくは料金表をご覧ください。
移動の決まりは、朝の駐車場でだれが鍵を取るかまで聞いて、初めて動きます。だから私は、建設業に絞りました。
紙に書いて決めた後の朝も、駐車場の音は同じです。朝6時、スライドドアが開く。鍵を取る職人には、昨日のうちに運転を頼んであります。道具は先週から現場に置いてあり、若手と後ろの席の人は直行も選べるので、時間で数えるのはハンドルを握る1人だけです。2人の遠さの負担には、手当で応えると決めてあります。給料日に「なんで明細が違うんですか」と聞かれても、社長の答えは先月と同じです。「運転は俺が頼んだ仕事だから、時間で払う。ほかの2人には頼んでいない。遠さの分は手当だ」。聞いた職人も、うなずいて明細をしまいます。同じ車の3人の時間は、座席ではなく、会社がだれに何を頼んだかで説明がつきます。月末の夜、移動の欄はスマホに届いた時刻を日報と見比べて写せば埋まり、手は止まりません。
4行に書いても、帰りの片付けだけを頼んだ日に、自分たちで決めて乗った行きの3時間のように、1つの形に収まらない朝は残ります。その朝の車の話から、Zoom30分の無料相談で聞かせてください。だれの移動を時間で数える形になりそうかまで、一緒に見ます。聞くだけで終わっても構いません。遠方の会社でも、オンラインでやり取りしながら進められます。
社員の方でこのページを読まれた方は、社長に見せていただくのがいちばんの近道です。ご相談は会社からお受けしています。
最新の制度は、厚生労働省などの公式サイトでご確認ください。
参考(一次情報)
- 建設業の時間外労働の上限規制に関するQ&A(追補分)(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/content/001505976.pdf
- 三菱重工業長崎造船所事件 最高裁第一小法廷 平成12年3月9日判決(裁判所。社内での行為についての判断で、車での移動そのものを扱った判決ではありません): https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-52572.pdf
- 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000149439.pdf
- 労働時間の考え方:「研修・教育訓練」等の取扱い(厚生労働省・三重労働局掲載): https://jsite.mhlw.go.jp/mie-roudoukyoku/content/contents/001182580.pdf
- 事務所と現場の移動時間を見直してみませんか?(奈良・葛城・桜井・大淀の各労働基準監督署が問い合わせ先のリーフレット・保存版): http://web.archive.org/web/20250827212043/https://jsite.mhlw.go.jp/nara-roudoukyoku/content/contents/001474180.pdf
- 労働保険審査会 裁決要旨 平成29年労第118号(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/shinsa/roudou/saiketu-youshi/dl/29rou118.pdf
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