遠方費とは?見積書への載せ方と相場の見方|職人の遠方手当の原資をどう作るか
遠方費は、遠い現場で増える交通費や宿泊費などの呼び名です。諸経費に何を入れるかは会社や取引先どうしの判断とされ、額は相場を探すより、実費と手当の規程を人数・泊数・往復回数で積み上げて出します(※2026年11月時点)。職人への手当と注文者への請求は相手も決まり方も別で、規程で決めた手当は見積が値引きされても減らさず払います。手当の原資は、見積に載せる、段取りで宿代や車代を下げて回す、通らない分は一般管理費も含めた原価を割らない範囲で分かったうえで受ける、の3つで作ります。職人も、手当が値引きで動かないと分かります。
→ 自社の場合はどうなる? Zoom30分・無料相談で個別に整理できます明日の昼までに出す見積書の行が、1つだけ埋まりません。材料費、労務費、法定福利費までは数字が入りました。空いているのは、窓の向こうの山を越えた先の現場へ、職人3人を20日間、泊まりで出す分です。行の名前は「遠方費」でいいのか。いくらと書くのか。前の現場で「遠方費 一式」と書いた時は、担当者に「ここ、もう少し見てもらえませんか」と言われました。今日の夕方には、次の現場へ行く職人からも聞かれています。「泊まりの日当、もうちょっと何とかなりませんか」。出してやりたい。でも、この行が削られれば、上げた分はそのまま会社の利益から出ていきます。上げたい手当と、削られる見積。その板ばさみが、この1行に乗っています。
遠方費の額は、相場の数字を探しても、見積書のひな形を見ても、そのままは出てきません。何人で、何泊して、何往復するか。その現場の段取りに、職人へ払う額を掛けたものが、この行の中身だからです。職人に払う今の額は規程で先に決め、現場1本の費用に積み上げて見積の1行の根拠にする。上げる時は、見積で通るのを見てから規程を直す。この順番を紙にして持っておけば、値引きの話にも、職人の「いくらですか」にも、同じ数字で答えられます。
この記事で分かることは、次の4つです。
- 遠方費とは何か。職人の遠方手当とどう違うか
- 遠方費の額の出し方と、金額を入れた見積の1行の例
- 見積書への書き方と、国の資料の使い方
- 値引きを言われた時の答え方と、手当の原資の作り方

遠方費・遠方出張費とは何ですか?職人の遠方手当と同じものですか?
見積書に書く遠方費は、遠い現場の工事で増える交通費や宿泊費などを指す呼び名で、職人に払う遠方手当とは別のお金です。
「遠方費」という名前は、確認した範囲では、建設業法にも、国土交通省の見積や積算の資料にも出てきません(※2026年11月時点)。近い言葉として「遠隔地」「山間僻地及び離島」「赴任手当」などは出てきますが、どれも遠方費の決まりではありません。遠方出張費という呼び方も同じで、遠くの現場の費用を見積に書く時の名前や区分は、会社や取引先で決めることになります。
職人に払う手当を遠方費と呼ぶ会社もありますが、この記事では、お客さんへの見積に書く費用を遠方費と呼びます。2つは名前が似ていても、相手も、決まる所も違います。
| 見積の遠方費 | 職人の遠方手当 | |
|---|---|---|
| 相手 | お客さん(発注者・元請) | 自社の社員 |
| 何のお金か | 遠い現場の工事で増える費用を、工事の代金に見込む | 遠い現場へ通う負担に、会社が応える |
| 関わる決まり | 建設業法・請負契約 | 労働基準法・就業規則・税 |
| 額が決まる所 | 相手との話し合いと契約 | 会社が決めて規程に書く |
別の話ですが、数字はつながっています。遠い現場では、見積が手当より先に出ていきます。手当の額が決まらないまま見積を出せば、その分は見積に積めず、工事の粗利の中から出ます。粗利の中から出す手当は、上げるほど利益が細ります。板ばさみは、この並びから生まれます。
手当の額は、労働時間(会社の指示の下で働いた時間)に当たる移動には賃金を払い、当たらない移動の負担に手当で応え、額は過去1年の支払いから出す、という順番で決めます。詳しくは遠方手当の決め方に書いています。この記事では、その額を見積につなげる所を見ていきます。
遠方費の相場はいくらですか?金額はどう出しますか?
遠方費の金額を業種・規模別に示した公的な統計や計算式は、確認できる範囲では見当たらないので(※2026年11月時点)、金額は自社の現場1本の費用を積み上げて出します。
先に、見積の行のできあがりを見ます。泊まりの現場は片道3時間、日帰りの現場は片道2時間で、どちらも職人3人、車1台です。金額は、計算の手順を見せるための仮の数字です。相場でも目安でもありません。
見積の行の例(仮の数字)
泊まりの現場
遠方費 588,000円(宿泊費3人×16泊、交通費1台×4往復、出張日当3人×20日)
移動の賃金 180,000円(往復6時間×4往復×3人)
日帰りの現場
遠方費 127,200円(交通費1台×8往復、遠方手当3人×8日)
移動の賃金 259,500円(往復4時間×8往復×3人)
移動の賃金を別の行にしておくと、削られた時にどの分が減ったかが見え、職人に払う分を守る話ができます。
相場の代わりになるのは、自社の現場1本の紙です。上の行の中身は、遠い現場でかかるお金を次のように書き出して出します。
| 遠い現場でかかるお金 | 出し方 | 数字のもと |
|---|---|---|
| 高速代・燃料代 | 1往復の実費×往復の回数×車の台数 | 前の現場の精算 |
| 宿泊費 | 1泊の実費×人数×泊数 | 領収書・旅費規程 |
| 出張日当 | 規程の額×支給する人ごとの日数 | 旅費規程 |
| 遠方手当 | 規程の額×手当を付ける人ごとの日数 | 賃金規程 |
| 働いた時間に当たる移動の賃金 | 移動の時間×その人の時間単価(割増を含む)×回数 | 勤怠の記録・賃金台帳 |
| 手当や移動の賃金に付く社会保険料 | 報酬に入る額×会社負担の率(見込み) | 保険料額表 |
遠方手当の行に掛ける人数は、規程で決まります。会社が運転を頼んだ人や、同じ車で行くよう指示した人の移動は働いた時間なので、手当ではなく時間で払います。手当は、働いた時間に当たらない移動の負担に応えるものです。同じ現場で、時間で払う人と手当を付ける人の両方が出ることがあります。時間で払う人に遠さの手当も付けるかどうかは、会社が決めて規程に書きます。手当の額がまだ決まっていない時は、前の遠い現場で実際に渡した額を入れます。
当事務所の標準の規程では、出張日当は宿泊を伴う出張、または片道60km以上を目安に、1日3,000円としています。3,000円は当事務所の規程の目安で、御社の数字でも、業界の相場でも、国が決めた額でもありません。見積では、支給する人ごとに規程の額と支給する日数を掛けて合計します。計算の手順を見せるための仮の数字ですが、仮に3人へ20日分ずつ支給すると、3,000円×3人×20日で18万円です。仮に1,000円上げると、6万円増えます。この目安だと片道60km以上の日帰りにも出張日当が付くので、日帰りの遠い現場は、出張日当か遠方手当かのどちらで払うかを決めておきます。同じ負担に2度払わないためです。
上の行の中身を、2つの現場で計算します。
- 泊まりの現場。20日間の工事で、月曜に行って金曜に帰る形にして4往復、1人16泊。会社の指示で3人が同じ車に乗ります。出張日当は泊まりの出費の補いなので、移動を時間で払う3人にも付ける決まりとします。
- 日帰りの現場。片道2時間の現場へ8日間、会社の指示で3人が同じ車に乗って通います。出張日当ではなく遠方手当で払う会社です。遠方手当は遠さの分として、移動を時間で払う3人にも付ける決まりとします。
| 泊まりの現場 | 日帰りの現場 | |
|---|---|---|
| 宿泊費 | 7,000円×3人×16泊=33万6,000円 | なし |
| 高速代・燃料代 | 1万8,000円×4往復×1台=7万2,000円 | 1万2,000円×8往復×1台=9万6,000円 |
| 手当 | 出張日当 3,000円×3人×20日=18万円 | 遠方手当 1,300円×3人×8日=3万1,200円 |
| 遠方費の行の合計 | 58万8,000円 | 12万7,200円 |
| 別の行の移動の賃金 | 往復6時間×4往復×3人×2,500円=18万円 | 往復4時間×8往復×3人×2,703.125円=25万9,500円 |
2,500円と2,703.125円は、割増を含む時間単価の仮の数字です。所定8時間・日給16,000円なら1時間2,000円で、時間外の25%増しで2,500円です。泊まりの現場は、この2,500円で数えます。出張日当は泊まりの出費の補いとして旅費規程で払うので、当事務所の整理では残業代の計算に入れません(中身が賃金の上乗せなら、入ることがあります)。
日帰りの現場の遠方手当は、実費の精算でなく決まった額で払う手当なので、残業代の計算に入れて考えるのが安全です。日給16,000円に遠方手当1,300円を足した17,300円を8時間で割ると2,162.5円、時間外の25%増しで2,703.125円です。見積なので、1円未満も丸めずに計算しています。どちらも、ほかに残業代の計算に入れる手当が無く、その月の時間外が60時間以内で、深夜に当たらない場合の数字です。手当や移動の賃金に付く社会保険料の会社負担は、法定福利費の行へ入れます。会社負担の率は法定福利費の内訳明示見積書の作り方にまとめています。
行の中に手当の字があっても、これは職人への約束の額ではなく、会社が手当を払うために見込む費用です。この行が削られても、職人に払う額は動きません。動くのは会社の粗利です。
移動が働いた時間に当たるかは、段取りの実態で決まり、選ぶものではありません。上の2つの現場は、会社の指示で3人が同じ車に乗るので、3人とも時間で払います。
相場を調べると、ほかにも次の数字が目に入ります。どれも、自社の遠方費の額に置き換えられる数字ではありません。
- 山間僻地の補正係数1.3。国の土木工事の積算には、山間僻地や離島の工事で、共通仮設費のうち率で計算する部分に1.3の補正係数を掛ける決まりがあります。対象は特地勤務手当を支給する地区とこれに準ずる地区で、コンクリートダム・フィルダム工事は除かれます。事務所から現場までの距離は、この補正の条件に入っていません。
- 雇用に伴う必要経費の参考値。国土交通省が公表している参考値は、宿舎費などを含みますが、遠くから労働者が来る場合を想定した金額ではない、と断り書きがあります。
遠方費は、見積書にどう書けばいいですか?
相手の様式に合わせて、何の費用が、どの人数・泊数・回数の分で、いくらかを、相手が追える形で書きます。
書く前に、先に聞くことがあります。見積を頼まれた電話で、「宿はどちらで手配しますか。車と高速代はどちらの持ちですか」と確かめます。元請が下請に見積を頼むときは、施工場所や施工環境、費用の負担区分などを具体的に示すことが求められています(建設業法令遵守ガイドライン)。ただ、負担区分の例に移動や宿泊の費用は出ていないので、聞かなければ分からないまま見積を作ることになります。
書き方の形は、大きく3つです。どの形がよいかは、相手の様式と話し合いで決まります。様式の指定があればその欄に合わせ、指定が無ければ、上の例のように別の行に立てて中身まで書くと、相手が数字を追いやすくなります。
| 書き方の形 | 見積書での見え方 | 見ておくこと |
|---|---|---|
| 別の行に立てる | 「遠方費(宿泊費○人×○泊、交通費○台×○往復、出張日当○人×○日)」のように、1行に中身まで書く | 「一式」だけだと、何の費用かが相手に伝わらない |
| 内訳明細書に書く | 国の様式例(詳細版)の「見積書合計金額の内訳明細書」に、諸経費としてまとめても、費用ごとに分けても書ける(運用方針の別紙03「書き方ガイド」)。車両関係費の行や「その他経費分」の欄は、国の見積書の書き方ガイド(運用編)が紹介する建専連(建設産業専門団体連合会)の様式にある | 様式例は使用が義務づけられたものではなく、そのとおりに書けば認められるものでもない |
| 特記事項に書く | 工事の代金に「含む」か、「別途請求」かを書く | 「含む」なら費用が増えた時の扱い、「別途請求」なら精算の方法を、先に相手と決める |
記載例(見積書・請負契約書の特記事項)
本工事(○○市)に係る宿泊費および交通費は、請負代金に含む。
または:本工事に係る宿泊費および交通費は、明細を付して別途請求するものとする。
記載例です。取引の実態に合わせて調整が必要です。請負契約書に入れる時は、建設業に詳しい行政書士に確かめます。
日数や回数は、費用ごとに数え方が違います。出張日当は規程で支給する日数、宿泊費は泊数、高速代や燃料代は往復の回数と車の台数で数えるので、見積の作業日数と同じになるとは限りません。どの数字で数えたかを書いておくと、相手も数字を追えます。
迷いやすいのが、職人に払うお金を労務費の行に入れるかどうかです。国土交通省の運用方針は、見積で示す労務費(職人の賃金相当分)に、通勤手当や現場手当などは含まれ、時間外・休日・深夜の割増賃金、突貫手当、赴任手当は含まれない、と例を挙げています。遠方現場への移動の手当や出張日当は、この例に出てきません。上の例は、どの行に置いても中身が読めるよう、出張日当と遠方手当を遠方費の行に中身つきで書いています。
同じ方針は、労務単価は1日8時間労働が前提で、8時間を超える労働を前提にするなら、適切な時間外手当などを別に見積ることが必要だとしています。遠方の移動を名指しした文ではありませんが、移動が働いた時間に当たる人が出る現場では、その時間の賃金も別に見積ります。上の例では、別の行に分けています。
出した見積は、最初の版と最終版の両方を残します。国土交通省の運用方針は、建設業者は最初の見積書と最終の見積書を、工事の目的物の引渡しから10年間保存することが義務付けられている、と説明しています(建設業法40条の3など)。見積の内容について相手と取り交わした打合せ記録も同じです。
遠方の交通費や宿泊費を見積書にどう書くか、国は決めていますか?
国土交通省の建設業法令遵守ガイドラインには、遠方の現場の交通費や宿泊費を見積書にどう書くか、どちらが負担するかを定めた記載は、確認した範囲では見当たりませんでした(※2026年11月時点)。調べても書き方が出てこないのは、そのためです。
ただ、次の3つは、自社の数字の裏づけとして手元に置けます。次の仕事をくれる元請に国の資料を持ち出すのは怖いものですが、見せなくても役に立ちます。どれも遠方の費用を名指しした文ではありません。
- 見積に載せてよいか迷った時。交通費などを計上できるのか迷った、という事業者の声に、国の見積書の書き方ガイド(運用編)は「個社または事業者間の判断としてください」と答えています。相手と決める話だと分かります。
- どちらが持つか迷った時。国土交通省は、職人を雇うために必要な賃金以外の経費について、元請と下請のどちらが負担し、契約の中でどこまで見込むかは、個々の契約で当事者が話し合って決めるもの、としています。宿と車の持ち分を電話で聞いてよい理由になります。
- 一式で出すか迷った時。国土交通省は、注文者(発注者や元請)には、見積書に書かれた「当該建設工事の施工のために必要な経費の内訳」も含めて内容を考慮する努力義務がある、と説明しています(「労務費に関する基準」の運用方針)。一式でなく内訳で出す理由になります。
値引きの電話が来た時に自社の数字が手元にあれば、どの行がいくらかを答えられます。
遠方費の値引きを言われたら、どう答えますか?職人の手当は下げられますか?
金額の話を中身の話に変えて答えます。見積が下がっても、規程で決めた職人の手当や出張日当は、決めたとおりに払います。
手当は会社と職人の決まりで、見積の結果で額が動くものではないからです。規程で「支給する」と決めた手当は、その内容どおりに払う義務が生じます。給料が下がる方向の変更は、本人の合意を得て進めるのが原則です。就業規則や賃金規程・旅費規程に、手当や出張日当の額が書いてある時は、本人が合意していても、それを下回る約束はその部分が無効になるので(労働契約法12条)、その規程も一緒に直します。合意がない人には、就業規則を変える形で、周知と変更の合理性が問われます(労働契約法10条)。
見積から削られた分は、そのまま会社の利益から出ます。上の泊まりの現場で、仮に出張日当を1,000円上げると、遠方費の行は64万8,000円です。これを60万円にと言われて受ければ、差の4万8,000円は粗利から出ます。
だから、電話で「遠方費、もう少し見てもらえませんか」と言われたら、金額の前に中身を聞きます。「宿の方ですか、車の方ですか」。どの分の話かが分かれば、段取りで答えられます。遠方費が下がる話は、段取りが変わる話です。
| 相手から出る話 | 減るお金 | 代わりに見ておくこと |
|---|---|---|
| 泊まりをやめて、通いにする | 宿泊費 | 毎日の移動の時間。働いた時間に当たる人の賃金と36協定の上限、遠方手当、帰りの運転 |
| 元請の宿舎を使う | 宿泊費 | 使用料を差し引かれる時の額の根拠と、合意の書面 |
| 車を1台にまとめる | 高速代・燃料代 | 1台で行くよう会社が指示すれば、運転する人も乗る人も、移動は働いた時間に当たるのが基本 |
| 人数や日数を減らす | 人数分・日数分の費用 | 工程の日数と、1人あたりの残業 |
宿代が消えても、時間は消えません。厚生労働省のQ&A(追補分)は、社用車への乗り合いや、移動前の積み込み・現場から戻った後の片付けを会社が指示している場合、社長や上司が同乗して車中で打合せをしている場合などは、移動時間は一般に労働時間に当たるとしています。当たる時と当たらない時の分かれ目は、乗り合わせの移動は残業になる?にまとめています。
計算例です。変形労働時間制を使わない会社で、法定休日(法律上の休日)ではない日に、休憩を除いて現場で8時間働き、片道3時間の現場へ月に8日通う人は、往復6時間の移動も労働時間に当たれば時間外が月48時間で、週40時間を超える分があればさらに増えます。36協定(残業をさせるために、会社と従業員の代表が結んで労働基準監督署へ出す取り決め)の原則の上限である月45時間を超える数字です(※2026年11月時点)。36協定には1日に延ばせる時間の欄もあり、特別条項(臨時に上限を超えて延ばす取り決め)でない方の1日の時間が、移動で出る1日の時間外(片道3時間なら6時間、片道2時間なら4時間)より短い会社は、月の合計が45時間以内でも、その日に協定を超えます。対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制なら、上限は月42時間・年320時間で、数え方も別です。
泊まりを減らして宿代が浮いても、その分は移動の賃金に変わり、上限までの残りの時間も減ります。上げたい手当の原資になるのは、差し引いて残った分だけです。だから泊まりを減らす話が出た時は、宿代の行と移動の賃金の行を並べて見せます。
時間が同じ人に積み上がる時は、関東の造園・土木会社の事例が近い話です。10名ほどの会社で、移動の時間まで残業代を払ってきたのに、36協定の上限が迫りました。動かしているのは、人数でも受注でもなく、1日の始まりと終わりの段取りと、手当の付け方です。遠い現場は直行直帰にして距離に応じた移動手当を付け、積込みの担当を交代制にして、一人ひとりの残業を月45時間以内に収める形を設計しています。積込みの番でない人が、直行も直帰も本当に自由な中で身ひとつで向かい、乗り合いや資材の運搬、同僚を乗せての運転を頼まれず、移動中に仕事の指示も受けない時に、その移動は通勤と同じ扱いになりやすい、という前提の形です。まだ途中の話です。
段取りはそのままで全体を下げてほしい、端数を切ってほしい、と言われる時もあります。答えは3つで、どれを選ぶかは現場ごとに決めます。
- 受ける。下げた分が、一般管理費まで引いた後に残る利益からいくら出るかを紙で見て、分かったうえで受けます。
- 受けない。その額では人を出せない現場は、足りない行を数字で話して見送ります。
- 段取りを変える。泊まりの回数や車の台数を変えられないかを聞き、上の表の話に持ち込みます。
受ける時に1つ気をつける所があります。建設業法の原価の決まりです。建設業法は、注文者が取引上の地位を不当に利用して、通常必要と認められる原価に満たない請負代金で契約することを禁じています。2025年12月12日からは、受注する建設業者も、国土交通省令で定める正当な理由がある場合を除き、その原価に満たない請負代金で契約することが禁じられています。材料費・労務費・法定福利費・安全衛生経費・建退共の掛金について、通常必要と認められる額を著しく下回る見積りや、その水準まで下げる変更要求が禁じられています。比較するのは、当初の見積額ではなく、通常必要と認められる額です。
国土交通省は運用方針で、職人を雇うために必要な賃金以外の経費を見積に計上しないことや、請負代金から値引くことは、建設業法上の不当行為となり得る、と注意を呼びかけています。遠方の宿泊費や交通費がこの経費や原価に当たるかは、個別の判断です。原価を割る額まで下げる時は、先に建設業に詳しい行政書士へ確かめます。交渉や争いになった時は、弁護士の領域です。
社長の手元でできるのは、次の見積の前に自社の数字をそろえておくことです。国土交通省は、この原価を、直接工事費・共通仮設費・現場管理費・一般管理費の合計(利潤は入らない)と説明し、下請の実行予算や同じ地域の同種の工事の実例などから判断するとしています。このうち労務費の部分は、国の「労務費に関する基準」が示す額も参考にして判断されます。比べるのは請負代金の総額で、遠方費の行ごとではありません。下げた後の総額がこの原価を割らないことが前提なので、「受ける」の紙で見るのは、粗利ではなく、一般管理費まで引いた後に残る利益です。
遠い現場の手当の原資は、どう作りますか?
原資は、見積に載せる、段取りで宿代や車代を下げて回す、通らない分は一般管理費も含めた原価を割らない範囲で分かったうえで受ける、の3つで作ります。
見積は、手当を払う月より前に出します。手当を上げてから見積に載せようとすると、その間の手当は粗利の中から出ます。上げる時は、順番を逆にして、次のように進めます。
- 1年分を並べる。遠い現場ごとに、払ったお金と、見積に載せた額を並べます。
- 上げる額の案を決める。手当を上げた時に増える額を先に出します。遠方手当のように決まった額で払う手当は、残業代の計算に入る側で考えておくのが安全なので、上げると残業1時間の単価が上がり、社会保険料の会社負担にも関わります。
- その額で見積を出し始める。上げる日より前の見積から、新しい額で積みます。
- 通り方を見る。遠い現場の見積を何本か出して、新しい額のうち通った分と通らなかった分を並べます。通らなかった分は、往復の回数や車の台数を見直して宿代や車代を下げ、差し引いて残る分を手当へ回します。それでも足りない分は、上げる額を小さくするか、一般管理費まで引いた後に残る利益からいくら出るかを分かったうえで受けるかを決めます。
- 規程を直して、上げる。賃金規程や旅費規程の額を改めて、職人に伝えます。常時10人以上の事業場(会社全体ではなく、本社・営業所などの単位で数えます)では、過半数で組織する労働組合(無ければ従業員の過半数代表者)の意見を聴き、意見書を付けて労働基準監督署へ届け出ます。変えた規程を職人へ周知することは、人数に関係なく要ります。特定技能1号の方がいる会社は、その方の手当の額や支給の条件を変える時に、国土交通省の建設特定技能受入計画の手続きも要ります。手当を増やす変更も変更の届出が要り、その方に不利な変更は、変える前の申請が要り、原則として認定されません。
- 年に1回、同じ紙で見直す。載せた額と払った額の差を見て、次の年の額を決めます。
現場ごとに動くのは見積の方で、手当は動かしません。通った見積の額で手当が変われば、同じ条件の現場なのに額が違う理由を、職人に言えなくなるからです。見積に載せても、全部が通るとは限りません。だから上げる額と時期は、通り方を見てから決めます。
現場1本の紙があると、遠い現場の話が来た日の動きが変わります。地図で現場を確かめ、紙に人数と泊数、往復の回数を入れれば、費用が出ます。受けるかどうかを、その日のうちに数字で考えられます。手当を上げたい時も、いつの見積から積めばいいかを先に決められるので、職人に「上げる時期と額は、見積の通り方を見て決める。来年の春には答えを出す」と言えます。
職人の側にも、見える物が増えます。同じ条件なら同じ額で、その現場の見積がどうなっても額は変わりません。会社に運転を頼まれた日や、同じ車で行くよう指示された日の移動は時間で払われ、明細の上で手当と分かれます。
次の遠い現場の見積は、何から手を付けますか?
過去1年でいちばん遠かった現場を1本選び、高速代や燃料代、宿泊費、出張日当や手当を書いて、その下に見積に載せた額を足してください。遠方手当の記事で過去1年の現場の紙を作っていれば、その紙に足すだけで、1枚で済みます。初めて読まれた方は、ここからで大丈夫です。移動の賃金の行は、時間だけ書いておけば足ります。見積との差が見えてきて、手当の原資をどこから出していたかが分かります。
額を変える時は、職人への説明が次の仕事です。次に読むなら、決まりを変える時に、職人へどう説明するかです。
頼むとしても、顧問に入る形だけではありません。顧問の契約なしでの就業規則の作成は、スポット(1時間15,000円・15分単位・税別・2026年10月時点)でお受けしています。顧問の場合、就業規則の作成・改定は顧問の基本料金の中です。基本料金は月22,000〜28,000円(契約の年数が長いほど下がります・税別・2026年10月時点)。賃金規程や旅費規程も、この基本料金の中で作成・改定しています。手当を規程に落とし込む進め方は建設業の就業規則作成のページで、料金の全体は料金表で確かめられます。
この1行は、片道の時間と泊まる宿、帰りのハンドルをだれが握るかを聞いて、初めて埋まります。私が建設業に絞っているのは、そのためです。
次の見積の前の晩も、あの1行の前に座ります。今度は、行に数字が入っています。宿は何泊、車は何往復、手当はいくら。削られる日は、これからもあります。明日「ここ、もう少し見てもらえませんか」と言われたら、宿の方か車の方かを聞けます。職人に「泊まりの日当、もうちょっと何とかなりませんか」と聞かれたら、いつの見積から積むかを話せます。上げたい手当と、削られる見積が、同じ紙の上に並びました。
次の見積の話を、Zoom30分の無料相談で聞かせてください。片道の時間も人数も、決まっている所だけで大丈夫です。この1行のうち、手当の額と規程、だれの移動が働いた時間に当たるかは当事務所の仕事です。建設業法の判断が要る所は、建設業に詳しい行政書士に確かめていただきます。ご紹介もご相談ください。聞くだけで終わっても構いません。遠方の会社でも、オンラインでやり取りしながら進められます。
職人や社員の立場で読まれた方は、このページを社長に見せていただくのがいちばんの近道です。ご相談は会社からお受けしています。
最新の制度は、国土交通省や厚生労働省の公式サイトでご確認ください。
参考(一次情報)
- 建設業法(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000100
- 建設業法施行規則(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/324M50004000014
- 建設業法令遵守ガイドライン 第12版(国土交通省): https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001979927.pdf
- 労務費に関する基準(国土交通省): https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001971712.pdf
- 「労務費に関する基準」の運用方針(国土交通省): https://roumuhi.mlit.go.jp/mlit-files/20260325_02.pdf
- 建設工事の見積書様式例 徹底 書き方ガイド(運用編)(国土交通省): https://roumuhi.mlit.go.jp/mlit-files/20260326_01.pdf
- 改正建設業法「令和7年12月施行分」説明会資料(国土交通省): https://roumuhi.mlit.go.jp/mlit-files/20260127_01.pdf
- 令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について(国土交通省): https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001981942.pdf
- 建設業の時間外労働の上限規制に関するQ&A(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/content/001115877.pdf
- 建設業の時間外労働の上限規制に関するQ&A(追補分)(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/content/001505976.pdf
- 建設特定技能受入計画のオンライン申請について【変更申請・届出】(国土交通省): https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/content/001603432.pdf
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