60代・70代の職人と定年|建設業の就業規則に書く定年・継続雇用規程と規定例
定年は60歳を下回ることができず、65歳未満の定年なら、定年の引上げ・定年の廃止・希望者全員の継続雇用のいずれかが義務です(対象者を労使協定で絞れた経過措置は2025年3月31日で終了)。70歳までの就業確保は努力義務です。再雇用後の賃金は、仕事の中身と責任の変化に合わせて手当ごとに決め、就業規則と労働条件通知書に書いておくことが要点です。
→ 自社の場合はどうなる? Zoom30分・無料相談で個別に整理できます従業員7人の左官の会社。夕方、事務所に戻ってきたいちばん腕のいい職人が、コテを洗いながら言います。「社長、俺も来年で60ですわ。まあ、まだまだやれますけどね」。社長は笑って「頼みますよ」と返しながら、頭の中では別のことを考えています。この人に辞められたら、壁の仕上げを任せられる人がいない。夜、棚から就業規則を出して開くと、定年の欄には「満60歳」とだけ。その先に何をすればいいのか、給料はいくらに決め直せばいいのか、どこにも書いていません。「辞めてほしくない。でも、何をどう決めればいいか分からない」。この記事では、60歳を迎える職人に気持ちよく残ってもらうために、定年と継続雇用のルールを就業規則にどう書くかを、法律の決まり、給料の決め方、現場での配置、そのまま下敷きにできる規定例の順にお伝えします。
就業規則に「定年60歳」とだけ書いてあるのは、問題ですか?
60歳定年そのものは、法律で認められています。高年齢者雇用安定法(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律)の第8条で、定年を決めるなら 60歳を下回ってはいけない とされているだけで、60歳ちょうどは適法です(ごく限られた例外業務を除きます)。
問題は、その次の条文です。同じ法律の第9条で、定年を65歳未満にしている会社は、次の3つのどれかを必ず講じなければならないとされています。
- 定年を引き上げる(たとえば65歳定年にする)
- 定年の定めを廃止する
- 継続雇用制度(定年後も本人が希望すれば引き続き雇う仕組み)を入れる
つまり「定年60歳」とだけ書いてある就業規則は、60歳の部分は合っていても、60歳から65歳までの行き先が書かれていない状態です。実際には「来年もよろしく」と口約束で働いてもらっている会社がほとんどでしょう。本人が元気なうちは誰も困りません。困るのは、体調を崩した時、給料の話がこじれた時、あるいは労基署の調査や助成金の申請で規則を見られた時です。そのとき「何にもとづいて働いているのか」に答える文書がありません。
逆に、定年後の行き先を規則に書いておけば、60歳の誕生日が近づくたびに社長が一人で悩む必要がなくなります。「うちは65歳までこういう形で残ってもらう会社です」と、本人にも家族にも最初から言える。それが規程を整える一番の効き目です。
65歳までは、希望した職人を全員雇わないといけないのですか?
原則として、希望者全員です。ここはここ数年で変わった点なので、昔の規則を持っている会社ほど注意が要ります。
以前は、継続雇用する人を労使協定(会社と従業員代表の取り決め)で定めた基準によって絞り込める経過措置がありました。「健康診断で問題がない者」「過去◯年の勤務態度が良好な者」といった基準を置いていた会社もあるはずです。この経過措置は 2025年3月31日で終了 し、2025年4月1日以降は、定年制の廃止・65歳までの定年の引上げ・希望者全員の65歳までの継続雇用制度のいずれかが必要です(厚生労働省)。
就業規則を開いて、次の文言が残っていないか確認してください。
- 「労使協定に定める基準に該当する者を再雇用する」
- 「会社が認めた者に限り、継続雇用する」
- 「技能・体力が業務に耐えうると会社が判断した者」
こうした書き方は、今の制度とずれている可能性が高い部分です。どうしても働き続けるのが難しい健康状態の場合などの扱いを書くときは、解雇や退職の事由との関係が問われるため、一般的な文例を貼るより条文を個別に詰めるほうが安全です。
では、3つの措置のうちどれを選ぶか。従業員5〜10人の建設会社で考えると、次のように整理できます。
| 措置 | 向いている会社 | 気をつける点 |
|---|---|---|
| 定年を65歳に引き上げる | 60代前半も今と同じ働き方・給料で残ってほしい会社 | 60歳での給料の見直しがしにくくなる |
| 定年を廃止する | 年齢より本人の体力と腕で判断したい会社 | 辞める時期の決め方を、退職・解雇のルールで補う必要がある |
| 60歳定年+65歳までの継続雇用 | 60歳を区切りに勤務日数や役割を話し合いたい会社 | 労働条件の決め直しを、規程と通知書で丁寧に行う |
従業員5〜10人の建設会社で扱いやすいのは3つ目です。60歳を「辞める日」ではなく「働き方を決め直す日」にできるからです。
70歳まで働いてもらうことも、義務になっていますか?
65歳から70歳までは 努力義務 です。高年齢者雇用安定法の第10条の2で、65歳以上70歳未満の定年の会社や、65歳までの継続雇用制度を入れている会社は、70歳までの就業の機会を確保するよう努めることとされています。施行は 2021年4月1日 です。
厚生労働省が示している方法は、70歳までの定年の引上げ、定年制の廃止、70歳までの継続雇用制度の導入、70歳まで業務委託契約を結ぶ制度、社会貢献事業に従事できる制度です。建設会社で現実的なのは、65歳以降も1年ごとの契約を更新していく継続雇用 でしょう。
義務ではないとはいえ、左官や大工、鉄筋の世界では70歳前後の職人が現場を支えている会社は珍しくありません。規程が65歳で止まっていると、65歳を過ぎた人は「規則の外」で働くことになります。65歳以降の扱いを書くときは、次の3点を決めておきます。
- 契約の期間と更新の判断の仕方(1年ごとに、健康状態と本人の希望を確認して更新する など)
- 上限の年齢(70歳までとするか、上限を置かないか)
- 対象者の決め方(努力義務の部分は、厚生労働省の指針とQ&Aで考え方が示されているので、基準を置く場合はそれを確認したうえで従業員と話し合って決めます)
もう一つ、見落としやすい点があります。有期契約を更新して通算5年を超えると、本人の申込みで無期契約に転換できるルール(労働契約法18条の無期転換)です。定年後に1年契約を更新し続けると、この対象になり得ます。専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法 では、定年後に引き続き雇う有期契約の人について、雇用管理の計画を作って国の認定を受けた会社なら、定年後の期間を通算期間に数えない特例が設けられています(第8条第2項)。65歳を超えて毎年更新する予定があるなら、規程づくりと同じタイミングで検討しておくと後で慌てずに済みます。
再雇用のとき、給料はどう決め直せばいいですか?
冒頭の社長がいちばん悩むのがここです。答えの軸は 「年齢で下げる」のではなく「仕事の中身と責任で決め直す」 です。
参考になるのが、最高裁判所第二小法廷の平成30年6月1日判決、いわゆる 長澤運輸事件 です。定年後に再雇用されたトラック運転手と正社員の賃金の差が争われました。この判決では、
- 定年退職後に再雇用された人であることは、待遇の差が不合理かどうかを判断する「その他の事情」として考慮され得る
- 賃金の差は、総額だけでなく、賃金の項目ごとに、その趣旨を個別に見て判断する
という考え方が示されています。定年後の再雇用だから一定の差は許されやすい一方で、「手当も基本給も、全部まとめて◯割カット」という決め方は、項目ごとに見られたときに説明がつかないおそれがある、ということです。同一労働同一賃金の考え方そのものは建設業の同一労働同一賃金にまとめていますので、ここでは再雇用の場面に絞ります。
実務では、次の順番で決めると説明のつく給料になります。
- 仕事の変化を書き出す:60歳前と後で、担当する作業、責任(職長をやるか・段取りを組むか)、勤務日数、残業の有無がどう変わるか。
- 基本給・日給を、変わった仕事に合わせて決める:職長や段取りを外れて手元に回るなら、その分を反映させる。仕事も責任もほぼ同じなのに大きく下げるほど、差の理由を説明しにくくなります。
- 手当は1つずつ趣旨を確認する:通勤手当や、現場に出た日に付く手当のように、年齢や役割に関係なく「その日の仕事」に付く手当は、再雇用後だけ外す理由を説明しにくい部分です。役職手当のように役割に付く手当は、役割を外れれば外すことができます。
- 労働条件通知書に書く:再雇用は新しい契約なので、決めた条件を書面で渡します(建設業の労働条件通知書の書き方)。
あわせて知っておきたいのが、雇用保険の 高年齢雇用継続給付 です。60歳以上65歳未満で、被保険者であった期間が5年以上あり、賃金が60歳時点の75%未満に下がった人が対象になり得ます。この給付率の仕組みは 2025年4月1日から見直され、同日以降に受給資格を満たした人は、賃金が64%未満に下がった場合の給付率10%が上限で、64%以上75%未満では10%から段階的に下がります。それより前に受給資格を満たした人には見直し前の率が使われます(雇用保険法第61条・※2026年9月時点)。以前の給付を前提に「給料を下げても給付で埋まるから」と組んだ設計は、今の率で計算し直す必要があります。要件の細部はハローワークと公式サイトで確認してください。
給料の決め方が「仕事の中身」とつながっていれば、本人に「なんで減るんですか」と聞かれても、書き出した表を見せながら話ができます。毎年の契約更新の席が、値切り合いではなく「来年はどの現場を任せるか」の相談になります。
高所作業や重い材料の運搬、60代の職人をどう配置すればいいですか?
建設会社の継続雇用で、一般の会社向けの解説では手薄になりやすいのがここです。再雇用の労働条件を決めることと、どの作業に就いてもらうかを決めることは、同じ作業です。
年齢を重ねると、本人の「まだやれる」と体の反応にずれが出てきます。足場の上でのとっさの踏ん張り、材料袋を担いでの階段の上り下り、真夏の外壁作業。事故が起きたとき、会社は危険を防ぐために必要な配慮をしていたか(安全配慮義務)を問われます。その一般論は安全配慮義務と就業規則で解説していますので、ここでは高齢の職人に絞って、配置の考え方を並べます。
| 作業 | 見直しの例 |
|---|---|
| 高所作業・足場の昇降 | 高い位置の作業は若手に回し、下地の確認や仕上がりの検査を担当してもらう |
| 重量物の運搬(材料袋・資材の荷揚げ) | 運搬は二人一組にする、機械や台車を使う前提で段取りを組む |
| 夏場の屋外作業 | 休憩の回数を増やす、午前中心の配置にする |
| 長時間・連日の現場 | 週4日勤務や、遠方の現場を外すなど勤務日数と場所で調整する |
| 経験が生きる仕事 | 段取り、仕上げの手本、若手への指導、材料の見極めに役割を移す |
規程に書くのは「作業の一覧」ではなく、配置を決める手順 です。たとえば、再雇用の前と毎年の更新時に、健康診断の結果と本人の希望を確認して担当作業を決める、と定めておきます。こうしておくと、「もう足場は無理やろ」と社長が感覚で言い出すのではなく、決まった手順の中で話ができます。本人のプライドを傷つけずに、危ない作業から少しずつ離れてもらえます。
若手への技能の渡し方や、高齢者の雇用で使える助成金は建設業の高齢者雇用と使える助成金で詳しく整理しています。
定年・継続雇用規程は、就業規則にどう書けばいいですか?(規定例)
60歳定年+65歳までの継続雇用+65歳以降の更新、という多くの建設会社が選ぶ形での規定例です。自社の定年年齢、契約期間、賃金の決め方に合わせて調整が必要です。
規定例(定年) 第◯条 従業員の定年は満60歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。 2 前項にかかわらず、定年に達した従業員が希望するときは、次条に定めるところにより、満65歳に達した日の属する月の末日まで継続雇用する。
規定例(継続雇用後の労働条件) 第◯条 継続雇用する従業員の契約期間は1年とし、満65歳に達した日の属する月の末日まで更新する。 2 継続雇用後の職務、勤務日数、勤務時間および賃金は、定年前の職務、健康状態、本人の希望等を踏まえて個別に定め、労働条件通知書により明示する。 3 会社は、継続雇用の開始時および契約の更新時に、健康診断の結果と本人の希望を確認し、担当する作業を決めるものとする。
65歳以降も働いてもらう場合は、上限年齢や更新の判断の仕方を加えます。
規定例(65歳以降) 第◯条 会社は、満65歳に達した従業員が引き続き勤務を希望するときは、健康状態、本人の希望、担当する作業等を踏まえて話し合い、満70歳に達した日の属する月の末日を上限として、1年ごとに契約を更新することがある。
規程を書き終えたら、次のチェックリストで漏れを確かめてください。
- 定年後の扱い(継続雇用・定年の引上げ・定年の廃止のどれか)が書かれている
- 「会社が認めた者に限り」など、希望者全員と矛盾する文言が残っていない
- 再雇用後の職務・勤務日数・賃金の決め方と、通知書で明示することが書かれている
- 契約期間と更新の仕方、上限年齢が書かれている
- 担当作業を健康状態と本人の希望で見直す手順がある
- 賃金規程の手当の定めと、再雇用後の手当の扱いが食い違っていない
- 改定した規則を従業員に周知している(常時10人以上の事業場は、意見書を付けて労基署へ届出)
規則の変更の手順は就業規則の届出方法にまとめています。
何から手を付ければいいですか?
順番は3つです。①就業規則の定年と継続雇用の条文を開き、2025年4月以降の制度とずれた文言が残っていないか確認する。②今いる職人を年齢順に並べ、5年以内に60歳・65歳を迎える人を洗い出す。③その人たちに、何歳まで、どんな働き方で続けたいかを聞く。ここまでできれば、どの措置を選び、給料と配置をどう決めるかは自然に形になります。
冒頭の左官の会社なら、60歳の誕生日の3か月前に、本人と「来年からの仕事表」を一緒に作るところから始まります。壁の仕上げは引き続き任せ、材料の荷揚げと足場の上の下地作業は若手へ。勤務は週5日のまま、職長の手当は若手に移し、代わりに仕上げの指導を担当してもらう。紙に書いて渡してあるので、65歳の更新の席でも、70歳が近づいた日でも、話はそこから始められます。
自社の職人に合わせて定年・継続雇用規程を作りたい方は、建設業の就業規則作成のページをご覧ください。当事務所では、就業規則の作成・改定を顧問の基本料金内で行っています。今お使いの規則を持ち込んでいただければ、定年の条文、再雇用後の給料の決め方、手当の扱い、配置の手順までをまとめて見直せます。「来年60になる職人がいる」というところからで構いません。Zoom30分の無料相談で、自社の場合を一緒に整理できます。賃金の決め方をめぐって本人と争いになっている場合の交渉や訴訟の対応は弁護士の領域になりますので、その際は専門家へご相談ください。最新の制度や金額は、必ず公式サイトでご確認ください。
参考(一次情報)
- 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/346AC0000000068
- 高年齢者雇用安定法の改正〜「継続雇用制度」の対象者を労使協定で限定できる仕組みの廃止〜(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koureisha/topics/tp120903-1.html
- 70歳までの高年齢者就業確保措置について(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koureisha/topics/tp120903-1_00001.html
- 専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/426AC0000000137
- 雇用保険法(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/349AC0000000116
- 高年齢雇用継続給付(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000158464.html
- 最高裁判所第二小法廷 平成30年6月1日判決(平成29(受)442)長澤運輸事件(裁判所): https://www.courts.go.jp/hanrei/87785/detail2/index.html
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