建設業の試用期間|見習い職人の本採用拒否・社会保険・最低賃金はどう扱う?
建設業で見習い職人を採用する場合も、試用期間は労働契約が成立したうえで適性を確かめる期間です。本採用拒否には客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要で、入社後14日以内でも自由に解雇できるわけではありません。加入要件を満たせば保険は入社時から適用され、最低賃金を下回る賃金には労働局長の減額特例許可が必要です。
→ 自社の場合はどうなる? Zoom30分・無料相談で個別に整理できます従業員5人のとびの会社。月曜の朝、社長が詰所で、採用したばかりの未経験の20代に新しいヘルメットを渡します。「最初の3か月は見習いで様子を見よう」。社長の頭の中では、合わなければ辞めてもらい、給料は見習い分として安く、社会保険は本採用が決まってからでよい、という段取りです。ところが新人から「保険はいつから入れますか」と聞かれ、手が止まる——。これは、採用時に起こり得る場面です。「見習いの間は、どこまで別扱いにできるのか」。この記事では、試用期間の決め方から本採用の判断、保険と給料まで、初日に説明できる形に整理します。
見習いの試用期間は、まだ正式に雇っていない期間ですか?
いいえ。試用期間でも、すでに労働契約は成立しています。 社長の指示で資材を運び、先輩について仕事を覚え、給料を受け取る。「本採用前だから雇用関係はまだない」とは扱えません。
ここで分けたいのが、現場でいう「見習い」と、契約上の「試用期間」です。
| 呼び方 | この記事で整理する意味 | 終了時に考えること |
|---|---|---|
| 見習い | 技能を身につけていく育成上の段階 | 何を任せられるようになったか |
| 試用期間 | 入社後の働きぶりから適性を確かめる契約上の期間 | 雇用を継続するうえで問題があるか |
試用期間が終わっても、技能面では見習いが続くことはあります。足場の仕事を一人で任せられるまでの育成期間と、本採用を判断する期間を、同じものとして引き延ばさないことが大切です。
法的には、試用期間付きの契約は一般に解約権留保付き労働契約と整理されます。入社後に適性を確かめ、一定の理由がある場合に契約を解除する権利を会社が残している、という意味です。
三菱樹脂事件(最高裁大法廷・昭和48年12月12日判決)は、その権利の行使にも、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要だと示しています。簡単にいえば、具体的な事情に照らし、雇用を終える判断として妥当である必要があります。厚生労働省の判例解説でも、この考え方が整理されています。
採用時に「これから技能を教えること」と「どの基準で適性を見るか」を分けて説明すれば、社長も新人も、試用期間の終わりに何を話し合うのかが分かります。
試用期間は何か月にして、延長はどう決めればよいですか?
「3か月たったけれど、雨続きで十分に仕事を見られなかった」。そんなとき、最終日に「もう少し見習いで」とだけ告げる運用は避けたいところです。
冒頭の会社で3か月を目安にするなら、まず「その間に何を確認できるか」を決めます。3か月なら安全、6か月までなら自由に延ばせる、という法定の基準はありません。 厚生労働省のモデル就業規則は、期間の長さについて労働基準法上の定めはないと説明しています。長く置くほど安心なのではなく、適性を判断するのに必要な長さにすることが基本です。必要以上に長期の試用期間は、公序良俗、つまり社会の基本的な秩序に反して無効と判断されることがあります。
未経験のとび職人なら、熟練者並みの速さではなく、まず集合・連絡、安全の指示の理解、教わった作業への取り組みなど、期間内に確かめる項目を決めます。そのうえで、延長する可能性があるなら、あらかじめ次を定めておきます。
- 延長が必要になる具体的な事情
- 延長できる期間の上限
- 本人への説明と通知の方法
- 延長中に何を教え、何を確認するか
規定例①(条文イメージ・期間と延長)
新たに採用した従業員の試用期間は、採用日から3か月とする。業務への適性を判断する資料が不足し、追加の確認を要する具体的な事情がある場合は、必要な範囲で1回に限り、最長3か月延長することがある。延長する場合は、当初の期間満了前に、その理由、延長後の終了日および確認事項を書面で本人に通知し、説明する。試用期間は勤続年数に通算する。
これは自社で検討するための作例です。3か月・延長1回という数字は法律の指定ではなく、延長条項も厚生労働省のモデル条文をそのまま引用したものではありません。仕事内容、指導体制、既存の契約に合わせて調整が必要です。規定があっても、理由のない延長まで認められるわけではありません。
入社後の教え方や面談の組み方は、入社後90日の受け入れ設計で詳しく扱っています。確認する仕事と面談日を先に決めれば、社長が終了間際に慌てて職長へ「結局どうなんや」と聞いて回る負担を減らせます。
本採用を見送れるのはどんな場合で、14日以内なら自由に辞めさせられますか?
現場から戻った職長が「どうも、うちには合わん」と言う。それだけでは、何が問題で、雇用を続けられないほどなのかが分かりません。
試用期間中の解雇や、終了時の**本採用拒否(雇用の継続を見送ること)**は、通常の解雇より広い範囲で認められる余地があります。ただし無制限ではなく、採用時には分からなかった事情や勤務状況を踏まえた合理的な理由が必要です。
たとえば、安全の指示に従わない、無断で遅刻を繰り返すという場合でも、「何を伝えていたか」「なぜ守れなかったか」「注意後にどう変わったか」を確認します。以下は、解雇できる条件の一覧ではなく、判断のために残す記録の例です。
| 確認項目 | 曖昧な評価 | 残したい具体的な記録 |
|---|---|---|
| 勤怠・連絡 | 時間にルーズ | 指定した集合時刻、実際の到着、連絡の有無と本人の説明 |
| 安全行動 | 危なっかしい | 教えた手順、守らなかった場面、指導後の行動 |
| 作業の習得 | 覚えが悪い | 教えた作業、練習の機会、できた部分と未習得の部分 |
| 報告・協力 | 協調性がない | 誰への何の報告が必要で、どんな支障が生じたか |
未経験として採用した人に、教えていない作業ができないことだけを理由に厳しい判断をすると、採用時の前提と食い違います。会社が教えた内容と、本人に改善を求めた内容を同じ紙に残しておきましょう。
規定例②(条文イメージ・本採用の判断)
本採用の判断に当たっては、勤怠および連絡、安全上の指示の遵守、担当業務の習得状況ならびに報告・協力の状況を、採用時に予定した職務と求める水準に照らして確認する。会社は必要な指導を行い、本人の説明および改善状況を踏まえて判断する。本採用を見送る場合は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる場合に限り、法令および就業規則に従って手続きを行う。
自社に合わせた調整が必要な作例です。項目に該当すれば自動的に解雇できる条文ではありません。また、本採用拒否と、違反行為に対する制裁である懲戒処分は別の枠組みです。処分の段階設計は建設業の懲戒規定で整理しています。
「14日以内」の例外は、予告の手続きについてです
労働基準法第21条では、試用中の人について、雇い入れから14日以内は解雇予告の適用除外とされています。14日以内なら理由なく解雇できる、という意味ではありません。 日数は現場に出た日だけでなく、休日・欠勤日も含む暦日で数えます。
14日を超えて引き続き雇っている場合は、原則として30日以上前の解雇予告、または予告しない日数に応じた解雇予告手当が必要です。予告なしで即日解雇するなら、原則として平均賃金の30日分以上となります(※2026年9月時点)。これは月給を単純に30で割るという説明ではなく、法令上の平均賃金を使う手続きです。
理由の妥当性と、予告の手続きは両方を確認します。迷う場合は通告前に社労士へ整理を依頼し、紛争の交渉や訴訟への対応は弁護士に相談してください。職長の印象だけで即断せず、記録を並べて判断できれば、社長も本人に具体的な説明ができます。
社会保険・雇用保険は、本採用が決まってから加入すればよいですか?
初日の書類をしまいながら「保険の手続きだけは3か月後」と付箋を貼る。その先送りは、加入要件を満たす職人にはできません。試用期間という呼び名ではなく、事業所の適用と本人の働き方・契約内容で判断します。
| 保険 | 試用期間中の扱い | 入社時に確認すること |
|---|---|---|
| 健康保険・厚生年金保険 | 適用事業所で加入要件を満たせば、採用時から加入する扱い | 労働時間、雇用の見込みなど |
| 雇用保険 | 加入要件を満たせば、試用期間の初日から資格を取得 | 原則、週の所定労働時間20時間以上・31日以上の雇用見込みなど |
※加入要件の数字は2026年9月時点。短時間勤務などの場合は、個別の適用条件を確認します。
日本年金機構の案内によれば、健康保険・厚生年金保険の資格取得届は、事実発生から5日以内に提出する手続きです(※2026年9月時点)。冒頭の会社で、通常の職人と同じ時間働く人を期間の定めなく採用し、加入要件を満たしているなら、本採用の判断を待たずに進めます。
雇用保険についても、京都労働局の事業主向けQ&Aは、要件に該当する場合、試用期間に入った最初の日に資格を取得すると説明しています。「31日以上」は、実際に31日働くまで待つという意味ではなく、採用時の雇用の見込みです。
社長が確認するのは、入社日、雇用期間、所定労働時間、加入手続きの担当者です。給与を決める段階で保険も一緒に整理すれば、本人に「本採用まで待って」と説明し続けたり、後から入社時の書類を探し直したりせずに済みます。
見習いの給料は安くできますか、最低賃金の減額特例とは何ですか?
「教える先輩の手も止まる。最初から一人前と同じ給料は払えない」。その悩みは、技能・担当業務に応じた賃金を採用前に決めて伝えることと、最低賃金を下回ってよいかということに分けて考えます。
見習いであっても、原則として最低賃金以上の支払いが必要です。 本人が「勉強させてもらうので安くていい」と同意していても、それだけで最低賃金を下回ることはできません。「仕事が遅いから今日から下げる」と後で決めるのでなく、試用中の賃金と、その後にどう見直すかを採用条件にそろえます。日給の見習いが最低賃金を割っていないかは、日給の職人は最低賃金を割っていない?の計算方法で確かめられます。
最低賃金法第7条には、試用期間中の人などに対する減額の特例があります。ただし、会社の判断で使う割引ではなく、都道府県労働局長の許可を受ける制度です。
厚生労働省の事務マニュアルでは、試用中の人について、地域・業種・職種の本採用者の賃金水準や、最低賃金未満とする合理性などを審査するとされています。減額率の上限は20%、許可期間は必要と認められる期間で最長6か月です(※2026年9月時点)。申請すれば一律に20%下げられるわけでも、試用期間を6か月にすれば許可されるわけでもありません。
検討するなら、次の順番です。
- まず、適用される最低賃金以上で見習いの賃金を設計する。
- 減額特例が必要だと考える事情があれば、労働基準監督署へ相談する。
- 試用期間の定めや仕事内容などの資料を用意し、労働局長あてに申請する。
- 許可された場合に、その範囲・期間を確認して扱う。申請しただけでは下げない。
試用期間の長さと、減額を許可された期間は別々に管理します。技能に応じた昇給の見せ方は、若手採用に強い就業規則も参考になります。最初の賃金と見直しの基準がそろえば、給料日のたびに「いつまで見習い扱いですか」と聞かれて、その場で金額を考える必要がなくなります。
3か月の有期契約で「お試し」にすれば、期間満了で終えられますか?
「本採用を断るのが難しいなら、最初だけ3か月契約にしたらええか」。契約書の期間欄を埋めるだけで、問題が解決するわけではありません。
期間の定めのない契約に試用期間を付ける場合は、雇用が続くことを前提に、最初の一定期間で適性を確認します。有期契約は契約そのものに終期を設けるものですが、適性を見るためだけに期間を付けた場合、実質的には試用期間と判断されることがあります。
神戸弘陵学園事件(最高裁第三小法廷・平成2年6月5日判決)では、適性を評価する目的の期間について、満了により契約が当然に終了するという明確な合意などの特段の事情がなければ、試用期間と解する考え方が示されています。建設業だけの特別ルールではありません。
そのため、契約の名前だけでなく、募集時に「長く働いてほしい」と説明したのか、期間を設ける目的は何か、終了や更新について何を合意したのかをそろえる必要があります。「満了で終了」と一文書けば、どんな運用でも確実に雇用を終えられるという意味ではありません。
有期契約の途中で辞めてもらう場面や、更新を重ねた契約を終える場面は、別途その条件に応じた確認が必要です。有期契約を選ぶときも、社会保険・雇用保険の加入要件や最低賃金の扱いは確認します。
まず「長く育てる採用なのか、期間を限る仕事なのか」を言葉にしてください。契約書と社長の説明が一致すれば、期間の終わりに「正社員になる約束だった」という食い違いを減らせます。
次の見習い職人を採用する前に、何から整えればよいですか?
明日の集合場所を決める前に、求人票、労働条件通知書、就業規則を机に並べてみてください。「試用期間あり」の一行だけでは、社長が判断に使う材料も、新人が安心して働く条件も足りません。
- 試用期間の開始日と終了日、延長の事情・上限・通知方法
- 試用中の賃金と、終了後の見直し方
- 社会保険・雇用保険の加入要件と手続きの担当者
- 本採用の判断項目と、指導・本人の説明を残す用紙
- 終了間際になる前に状況を確認する面談日
難しい評価表を作るところから始めなくても構いません。日付、教えたこと、本人の反応、次に確認することを書ける紙を用意し、職長と社長で共有する。それだけでも、判断の根拠を思い出すために現場へ電話する手間を減らせます。
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参考(一次情報)
- 採用の自由・三菱樹脂事件の判例解説(厚生労働省): https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/hanrei/saiyo/jiyu.html
- 試用期間・神戸弘陵学園事件等の判例解説(厚生労働省): https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/hanrei/shogu/shiyou.html
- モデル就業規則・令和7年12月版、第6条および解説(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/content/001620507.pdf
- 事業主の方へ・雇用保険Q1・Q2(京都労働局): https://jsite.mhlw.go.jp/kyoto-roudoukyoku/yokuaru_goshitsumon/jigyounushi.html
- 就職したとき(健康保険・厚生年金保険の資格取得)の手続き(日本年金機構): https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/hihokensha1/20150422.html
- 最低賃金法第7条の減額の特例許可事務マニュアル(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc5745&dataType=1&pageNo=1
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