職人が「飛んだ」とき|無断欠勤・音信不通の対応と就業規則の定め方
無断欠勤で連絡が取れない従業員は、安否確認と連絡の記録を先に行い、就業規則の要件や本人の事情を確認して退職・解雇を判断します。2週間以上の無断欠勤等は解雇予告除外認定の基準の一つであり、自動的な退職や解雇の有効性を意味しません。働いた分の賃金は支払い、工具の回収や寮の私物の扱いは分けて進めます。
→ 自社の場合はどうなる? Zoom30分・無料相談で個別に整理できます従業員6人の塗装会社。入って3か月の職人が、月曜の朝から来ません。電話は呼び出すだけで、送ったメッセージも既読にならない。現場は人が足りず、寮には作業着も荷物も残ったままです。応援を探しながら、社長の頭に「もう辞めたってことでいいやろ」が浮かびます。
困るのは、明日の人数だけではありません。いつ退職扱いにするのか、給料を払うのか、寮をどう片づけるのか。この記事では、こうした場面を想定し、安否確認から雇用の終了、給与・貸与品・保険の手続きまで、判断する順番を整理します。
無断欠勤で連絡が取れないとき、最初に何をしますか?
朝の集合場所に姿がない。別の現場へ直行したのか、通勤途中で何かあったのか、それも分からない段階です。まずは「辞めた」と決めず、安否と出勤先を確認します。現場の穴を埋める段取りと、本人を確認する担当を分けると、社長が応援探しと電話を交互に繰り返す負担を減らせます。
次の手順は、確認漏れを防ぐための運用例です。すべてを一律に行う法定手順という意味ではありません。
- 現場と集合場所の行き違いを確認する。 職長や同行予定の職人に、最後に会った時刻、当日の指示、直行の予定を聞きます。
- 本人へ複数の方法で連絡する。 電話だけで終わらせず、メッセージやメールなど、普段使う連絡手段で安否と欠勤理由の連絡を求めます。
- 家族・緊急連絡先・身元保証人へ確認する。 会社に届け出られた連絡先へ、本人の無事を知っているか、連絡を取り次げるかを尋ねます。責任を追及する話から入らないことが大切です。
- 必要に応じて自宅・寮での確認を検討する。 呼びかけても反応がなく事故や急病が疑われる場合は、警察・消防などへの相談も検討します。会社の判断だけで室内へ立ち入る手順にはしません。
最初の連絡は「本日、出勤が確認できず心配しています。無事かどうか、出勤できない事情があるかを連絡してください」と、返してほしい内容を明確にします。安否確認後も欠勤が続く場合には、出勤の督促(出勤するよう求めること)と、欠勤理由の説明を求めた記録を残します。
| 記録すること | 残し方の例 |
|---|---|
| 欠勤の状況 | 出勤予定日・現場・集合場所・出勤を確認した担当者 |
| 本人への連絡 | 日時・手段・伝えた内容・応答の有無 |
| 家族等への確認 | 相手・日時・実際に聞けた内容。推測と事実を分ける |
| 書面での連絡 | 文面の控え・発送日・配達状況・返送の有無 |
| 次の対応 | 担当者・次に連絡する日・確認したい点 |
「何度も電話した」だけでは、後から経過を再現できません。連絡表を共有しておけば、社長が現場に出ている間も、次の担当者が続きから動けます。
何日休んだら退職扱いにでき、自然退職はどう規定しますか?
数日たっても返事がない。給与計算の名簿から外したくなっても、無断欠勤が連続したという事実だけで、本人が退職を申し出たことにはできません。 「無断欠勤なら何日で自動的に辞めたことになる」という一律の法定日数はありません。
ここで確認するのが、就業規則の「自然退職」の定めです。これは、規則で定めた一定の事由に当てはまった場合に雇用が終了する仕組みです。ただし、条文に日数を書けば、その日が来たら必ず有効に退職処理できるわけではありません。
確認する点は、欠勤日数に加え、会社がどのように連絡したか、所在や安否が分かっているか、病気・事故などで本人が連絡できなかった事情はないかです。会社から雇用を終わらせる解雇との区別も含め、規定と実際の経過を照らし合わせる必要があります。
規定例(自然退職の条文イメージ)
従業員が無断欠勤を連続して○日以上継続し、会社が本人および届出の緊急連絡先等への連絡、安否・所在の確認ならびに出勤の督促を行っても所在が分からず、連絡が取れない場合は、当該期間が満了した日をもって退職とする。ただし、傷病・事故その他やむを得ない事情により連絡できなかったと認められる場合は、この限りでない。
これは自社の規則を検討するためのたたき台です。○日という日数は法定のものではなく、そのまま使える完成条文ではありません。 休日を含めた数え方、連絡・督促の方法、事情が判明した場合の扱いなどを、自社に合わせて調整してください。新しく作った条文を、すでに起きている欠勤に当然に使えると考えないことも大切です。
本人から退職の申し出があった場合と、本人の意思が確認できない今回のような場合は、入口が違います。「退職は2週間でできると聞いたから、欠勤の初日から2週間で終わり」とは扱いません。本人から退職の申し出があったときの民法の2週間と就業規則の関係は、「来週で辞めます」と言われたときの対応で整理しています。
規定と確認手順がそろうと、毎朝「今日こそ名簿から消していいか」と迷う代わりに、今は何の確認が残っているのかを判断できます。
懲戒解雇なら、解雇予告も手当も要りませんか?
「現場を放り出したのだから、懲戒解雇で終わりにしたい」。そう思う場面でも、懲戒解雇という名前を付ければ、予告や手当が不要になるわけではありません。
労働基準法第20条では、解雇は原則として少なくとも30日前に予告し、予告せず即時に解雇する場合は30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として支払うこととされています。平均賃金は法律上の計算方法で求める金額で、職人の日当をそのまま使うとは限りません(※2026年9月時点)。
労働者側の重大な事情を理由に、この予告・手当を省略するための手続きが、労働基準監督署長の解雇予告除外認定です。行政の通達で示された基準として、原則として2週間以上、正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促にも応じない場合が挙げられています(※2026年9月時点)。
注意したいのは、次の違いです。
| 確かめたいこと | 判断の対象 |
|---|---|
| 予告や解雇予告手当を省略できるか | 解雇予告除外認定。欠勤日数だけでなく、理由・督促・勤務状況等も踏まえる |
| そもそも解雇が有効か | 解雇する合理的な理由や、処分の重さが事情に見合うかなどを別に判断する |
認定は解雇の有効性を保証しません。また、予告や手当を省略するなら、原則として解雇日までに認定を受けておく必要があり、本人と連絡が取れない事案では審査が長引くこともあります(※2026年9月時点)。「2週間たった」「督促を書いて送った」のどちらかだけで結論を出さず、連絡表、欠勤の記録、就業規則をそろえて、実行前に社労士と監督署へ確認します。書面を発送した事実と、本人に届いたかどうかも分けて記録しましょう。
懲戒の種類や段階的な処分の設計は、就業規則に入れるべき懲戒規定で整理しています。紛争になっている場合の交渉・訴訟は弁護士へ相談してください。
確認を先に済ませておけば、翌月になって「払わなくてよいと思っていた手当はどうするのか」と、現場の合間に対応をやり直す事態を防ぎやすくなります。
「飛んだから最後の給料は払わない」でよいですか?
給与の締め日。本人はまだ電話に出ず、代わりに入れた応援の費用だけが増えています。それでも、すでに働いた分の賃金を、無断欠勤への腹立ちや損失の埋め合わせで払わないことはできません。
労働基準法第24条には、賃金を原則として全額、一定の期日に支払うルールがあります。欠勤した日の給与を契約や賃金規程に沿って計算することと、それまでに働いて発生した賃金を取り上げることは別です。まず出勤簿と賃金台帳を使い、働いた日・時間、手当などの支払額を整理します。
退職後、本人から未払い賃金の支払いを請求された場合は、同法第23条により7日以内の支払いが必要です。金額に争いがあっても、争いのない部分は同じ期間内に支払います。「請求が来ていないから、いつまでも払わない」でよいわけではなく、通常の賃金支払日も守る必要があります(※2026年9月時点)。
貸した工具が戻ってこない場合も、会社が見積もった工具代を最後の給料から一方的に差し引く、つまり相殺することは避けてください。「工具を返したら払う」と、返却を給与支払いの条件にもしません。給与を支払う処理と、会社の物を返してもらう処理を別々に進めます。
例えば、給与の明細には給与計算の根拠を残し、貸与品の一覧には未返却の工具と返却を求めた経過を残します。会社に損害があるとしても、給与から回収してよいという判断へ直結させず、請求の可否や進め方を弁護士へ確認します。給与から差し引けるもの・差し引けないものの線引きは、作業着代の天引き・壊した工具の弁償で詳しく説明しています。
事務担当へ「給料は通常の計算を進めて、工具はこちらの一覧で追う」と指示できれば、給与の締め日に会社全体の作業が止まりません。
貸した工具と、寮に残った私物はどう扱いますか?
寮には、会社のヘルメットと本人の旅行かばんが一緒に置かれています。部屋を空けたいからと、まとめて倉庫へ運んだり捨てたりする前に、会社の貸与品と本人の私物を分けて考えます。
工具・作業着・鍵などの貸与品は、貸与台帳や受領記録を確認し、品名・数量・返却済みかどうかを整理します。本人へ連絡できたら、返却先、持参か発送か、受取りの担当者を具体的に伝えます。「全部返して」だけでは、本人が買った工具まで混ざり、別の争いになりかねません。
規定例(貸与品返却の条文イメージ)
従業員は、退職時に会社から貸与された工具、作業着、鍵その他の物品を返却するものとする。会社は返却対象を明示し、返却方法および期限を本人に通知する。貸与品の返却と賃金の支払いは別に取り扱う。
対象物や返却方法は、自社の貸与台帳と合わせて調整が必要です。この規定も、会社が本人の部屋へ自由に入ったり、物を持ち出したりする根拠にはしません。
寮の私物は、さらに慎重に扱います。音信不通だからといって、本人が所有権を放棄したとは限りません。勝手に処分すると損害賠償を求められるおそれがあります。会社が「この日まで」と期限を告げたことだけで、処分できるとは考えないでください。
部屋に立ち入れるか、荷物を移せるか、退寮・明渡しをどう進めるかは、寮の契約や使用状況も関わります。自分たちだけで権利を実現しようとする「自力救済」の問題があるため、ここでは一律の保管日数や処分方法は示せません。本人の意思確認と私物の保全を基本に、立入り・移動・処分が必要な段階では弁護士へ相談します。
確認できた範囲の物品と連絡経過を一覧にしておけば、「次の職人を入れるから、今日中に全部片づける」という判断をその場で迫られず、必要な手続きを相談しやすくなります。
社会保険・雇用保険は、いつ資格喪失の手続きをしますか?
「今月も保険の手続きが残っている。来ていない月曜付けで辞めたことにできないか」。ここでも、欠勤の初日と退職日を一緒にしないことが大切です。先に退職・解雇の根拠と日付を整理し、その日付に基づいて、保険の加入を終える資格喪失の手続きを進めます。
| 手続き | 提出期限・準備すること |
|---|---|
| 健康保険・厚生年金保険の資格喪失届 | 原則として退職日の翌日が資格喪失日。事実発生から5日以内に年金事務所等へ提出 |
| 雇用保険の資格喪失届 | 被保険者でなくなった事実があった日の翌日から起算して10日以内にハローワークへ提出 |
| 離職票のための離職証明書 | 必要な場合は雇用保険の資格喪失届と併せて提出。賃金・出勤状況・離職理由の資料を用意 |
※提出期限等は2026年9月時点。雇用保険の添付資料には、出勤簿、賃金台帳、離職理由を確認できる書類などが挙げられています。厚生労働省の手続き一覧表で確認できます。
本人と連絡が取れない場合は、離職票が必要か、離職理由の記載を確認してもらえるかが問題になります。返事がないことを「離職票はいらない」「自己都合退職に同意した」と置き換えず、ハローワークへ連絡経過を伝え、必要な書類と対応を相談してください。
相談用の一式は、就業規則の該当箇所、欠勤記録、連絡・督促の記録、退職日を判断した根拠、出勤簿と賃金台帳です。期限が迫っているのに判断がつかない場合も、書類を抱えたままにせず早めに相談します。
同じ資料を見て給与担当と手続き担当が動けば、後から退職日が食い違い、給与と保険を両方やり直す負担を減らせます。
次に職人が来なくなっても慌てないために、何を整えますか?
今日の現場を何とか終えたら、就業規則を開いて「欠勤」「退職」「貸与品」の箇所を確認してみてください。条文だけあっても、誰が電話し、どこに記録するかが決まっていなければ、次も社長の携帯電話の中だけに経過が残ります。
- 欠勤するとき、誰へどの手段で連絡するか
- 緊急連絡先が変わったとき、どこへ届け出るか
- 無断欠勤時に、誰が安否確認と出勤の督促を担当するか
- 自然退職の要件と、事情が判明した場合の確認手順
- 貸与品の一覧、寮の契約、給与と保険の担当者
この確認表を就業規則と一緒に置くと、社長が現場にいても事務担当が準備を進められます。あわせて入社時の受け入れを見直したい場合は、採用しても3か月で辞める建設会社が、入社後90日でやるべきことで、教える担当者や面談の設計を整理しています。
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参考(一次情報)
- 労働基準法・第20条、第23条、第24条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049
- 解雇予告除外認定の申請について(福井労働局): https://jsite.mhlw.go.jp/fukui-roudoukyoku/content/contents/001936126.pdf
- 労働基準法第23条の条文を掲載した資料(厚生労働省労働基準局): https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11202000-Roudoukijunkyoku-Kantokuka/0000126325.pdf
- 雇用保険の手続き一覧表(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/koyouhoken/tetsuduki_ichiran01.html
- 従業員が退職・死亡したときの健康保険・厚生年金保険の資格喪失手続き(日本年金機構): https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/hihokensha1/20150407-02.html
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