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熱中症対策の義務化|建設業の就業規則・現場ルールに書くべきこと

テーマ: 建設業の就業規則作成
30秒で結論

建設業の熱中症対策では、WBGT28度以上または気温31度以上で、継続1時間以上または1日4時間超の作業が見込まれる場合、報告体制の整備と対応手順の作成・周知が必要です。元請任せにせず、下請も実施を確認します。作業中断時の待機・休憩・休業によって労働時間や賃金の扱いは異なるため、現場手順と勤務・賃金の規則をそろえます(※2026年9月時点)。

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従業員7人の解体会社。8月の午後、若い職人が「ちょっと気分悪い」と言いながら作業を続け、帰りの車で動けなくなった。社長は「水は置いてあった」と言う。でも、誰に報告し、どの段階で作業を止めるかは決まっていなかった――。これは実在の相談事例ではなく、建設現場で起こり得る場面です。「対策の道具はあるのに、いざというとき誰も動けない」。来年の夏へ持ち越したくないのは、この空白です。

今は9月。今年、暑さで手が止まった日や、職人が不調を訴えた場面を思い出せるうちに、現場の手順と会社の規則をそろえておきましょう。対象作業の見分け方から、止めた時間の賃金、就業規則への書き方までを整理します。なお、すでに施行されている義務なので、今も対象作業がある場合の整備を来夏まで待つことはできません。

熱中症対策の義務化で、うちの現場は何をしなければなりませんか?

朝、クーラーボックスへ飲料水を入れる。そこにもう一つ、「具合が悪くなったら誰へ知らせるか」の確認を加えます。

労働安全衛生規則第612条の2(安衛則612条の2)は、2025年6月1日に施行されました。 対象作業について、報告体制の整備と、悪化を防ぐ対応手順の作成、そして両方の周知を事業者に義務付けています。対象は、次の「暑さ」と「時間」の両方を満たすことが見込まれる作業です(※2026年9月時点)。

確認する条件対象となる目安
作業場所の暑さWBGT28度以上、または気温31度以上
作業時間継続して1時間以上、または1日当たり4時間を超える

WBGTは、気温だけでは捉えにくい暑さの危険を評価する「暑さ指数」です。暑さの条件の二つを両方満たす必要はなく、時間の条件もどちらかで該当します。「合計4時間以下だから対象外」と考えても、継続1時間以上なら対象になり得ます。屋外の解体だけでなく、空調のない屋内での作業も確認します。

報告できるのは本人だけではありません。「隣の職人の様子がおかしい」と気づいた人も、迷わず知らせられる体制にします。対応手順には、作業から離すこと、身体を冷やすこと、必要な診察・処置につなぐこと、緊急連絡先などを具体化します。厚労省の施行通達が、対象条件と整備内容を示しています。

違反した場合の罰則

この措置義務は労働安全衛生法第22条に基づきます。違反した場合、同法第119条第1号により、違反行為をした者に6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科され得ます。同法第122条の両罰規定により、会社(法人)にも罰金刑が科され得ます(※2026年9月時点)。根拠は労働安全衛生法の条文です。罰則の条番号は、安衛則の番号とは別です。

安全配慮義務全般は安全衛生管理と就業規則で解説しています。ここではまず「誰に知らせるか」「知らせた後に何をするか」を埋めてください。社長が別の現場にいても、電話がつながるまで職人が作業を続けてしまう状況を防ぎやすくなります。

元請のルールがあれば、下請の会社は任せてよいですか?

入場時に元請から手順書をもらい、車の中へ置いたまま。自社の職人は、その存在を知らない。これでは現場に掲示があっても、実際に使える体制になりません。

対象作業を行う混在現場では、元方事業者と関係請負人の双方に措置義務があります。 元方事業者は元請など、関係請負人は下請などを指します。元請が共通の体制を整えても、下請側の義務までなくなるわけではありません。

建設現場向けの国の要請では、元請が関係会社と調整し、現場全体で措置を実施することが望ましいとされています。下請は、元請が措置を講ずる予定や実施状況を確認し、未実施なら実施を求めるか、自ら措置を講ずる必要があります。これを現場で使う確認表にすると、次の形です。

立場入場前・作業前に確認すること
元請として現場をまとめる各社で報告先をそろえ、報告を受ける人、冷却場所、搬送手順を調整する
下請として職人を出す共通手順が実施されるか確認し、自社の職人へ具体的に伝える。自社の連絡担当も決める
両者で合わせる担当者不在時の代わり、途中入場者への説明、作業中断の判断を誰が伝えるか

ここで避けたいのは、元請と自社の社長の二重承認を待つ間に、体調不良の職人を放置する流れです。まず救護に動き、その場の担当と所属会社へ連絡が届くように組みます。社長も現場へ送り出す前に、職長へ「今日の報告先を教えて」と聞けば、準備の抜けを確認できます。

「気分が悪い」と言われたら、どんな対応手順で動きますか?

解体材の片付けがあと少しでも、不調の報告を「片付けてから聞く」にしないことです。手順書は、連絡網と一緒に、初めて来た職人にも見せられる形にします。

次は、厚労省の通達にある手順例を踏まえた現場用の組み立て例です。医療上の判断を職長だけで抱えず、救急隊や医療機関の指示につなぎます。

  1. 作業から離し、報告する。 本人の訴えや周囲の気づきがあれば、涼しい安全な場所へ移し、決めた担当へ知らせます。社長の返事を待って作業を続けさせる手順にはしません。
  2. 冷却を始め、そばで見守る。 涼しい休憩場所へ避難させ、衣服を緩め、水をかけるなど、備えた設備で身体を冷やします。経過を見る間や搬送中も一人にしません。
  3. 状態に応じて救急要請・医療機関への搬送を行う。 返事がおかしい、ぼんやりしているなど意識の異常があれば救急隊を要請します。自力で水分を取れない、冷却しても回復しない、悪化する場合も医療機関へつなぎます。判断に迷う場合は専門機関へ相談し、先送りにしません。
  4. 連絡先と搬送先を使い、帰宅後の対応まで伝える。 現場の所在地、搬送先の医療機関名・所在地・連絡先、所属会社の連絡担当を用意します。帰宅後に悪化することもあるため、回復の判断は慎重にし、体調急変時は直ちに受診することと連絡方法を伝えます。

「涼しい場所へ行け」だけでは、どの建物が使えるか分かりません。「休憩所はどこか」「冷却に使う物は誰が持っているか」「救急隊を現場入口で案内する人は誰か」まで現物に合わせます。本人が具合の悪いまま、自分で車を運転して帰ることを前提にもしません。

根拠となる通達の別添2・対応手順例には、判断の分岐も載っています。自社の手順で一度、報告から搬送までを口頭でたどってみてください。社長が電話を受けてから病院を探し始めるのではなく、現場で冷却と連絡が進む状態を作れます。

WBGTはどこで測り、作業を止める目安はどう決めますか?

事務所の天気予報では同じ気温でも、職人が立っているのは照り返しのある場所や、風の抜けない屋内かもしれません。測る場所を事務所だけにすると、現場の判断に使いにくくなります。

原則は、実際に作業する場所でWBGTまたは気温を測って判断することです。通風のよい屋外など、予報等で判断できる場合の扱いも通達にありますが、現場条件が違うときまで地域の予報だけで済ませないようにします。WBGTの測定器は、JIS(日本産業規格)に適合するものを用意し、点検して使うことが労働局の案内で示されています。

次のように、測定を「その日の作業変更」までつなげます。確認のタイミングは自社の運用例であり、一律の法定間隔を示すものではありません。

決めておく項目現場での運用例
測定する人・場所職長が担当。作業員がいる解体場所や資材置場など、暑さの条件が違う場所を確認
確認するタイミング作業開始前、休憩後の再開前、作業場所や日差し・風などの条件が変わったとき
数値と一緒に見ること重い物を運ぶ作業か、着衣はどうか、暑さに慣れているか、その日の体調はどうか
目安を超えたときの行動作業を軽くする、連続作業を短くする、冷却できる休憩を増やす、場所を変える、作業を中止する
再開の判断暑さと作業内容を再評価し、休憩・冷却場所と職人の状態を確認して担当者が伝える

WBGT28度は、この義務の対象条件であって、全国一律の作業中止温度ではありません。 作業の強さなどで基準値は変わるため、自社の作業に合う目安を選び、超えたときの行動とセットで決めます。この記事では、作業別の数値表を一律に当てはめません。現場条件を整理し、必要に応じて労働衛生の専門家の助言も得て設定します。

また、熱中症が疑われる人への対応は、数値が目安未満でも始めます。「今日は暑いから気をつけて」で終わらず、測定値・作業・変更内容を残すと、社長は次の工程や人員を具体的に組み直せます。

夏の早出・休憩を増やす場合や、暑さで休む日の給料はどう扱いますか?

「来年は朝を早めて、昼の暑い時間を休もう」。方針を決めたら、始業だけでなく、終業と休憩、日当の扱いまで同じ表にします。安衛則612条の2そのものが、勤務時間や休業手当を決めているわけではありません。

早出・時差出勤は、終業とセットで決める

例えば通常の始業を1時間早めるなら、終業もどう動かすかを先に決めます。終業を据え置けば、実際に働く時間が増えることがあります。休憩を長くして終業を後ろへ延ばす場合も、一日の拘束が長くなり過ぎないか確認します。元請の入場可能時間や近隣への配慮も含め、工程を受ける段階で相談しておくと現場で揉めにくくなります。

就業規則の勤務時刻・変更手続きと、実際の勤務表を合わせて職人へ伝えます。1年単位の変形労働時間制を使う会社は、事前に決めた勤務を任意に変えられる制度として扱わず、年間カレンダーと協定の作り方で確認してください。

休憩・待機・休業を区別する

「昼は止めた」という記録だけでは、給料計算ができません。厚労省の建設業向けQ&A・追16は、熱中症対策で中断した時間を次のように区別しています。

中断中の実態労働時間・賃金を考える入口
涼しくなったら直ちに再開できるよう待機させる手待時間(指示があればすぐ働くための待機)として労働時間に当たる
決めた休憩中は復帰指示をせず、自由利用を保障する労働から完全に離れていれば休憩時間。手当を設けることも可能
その日の仕事を取りやめて休ませる休業の理由を確認し、賃金規程と休業手当の適用を検討する

作業を止めて休ませた日が「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当たれば、労働基準法第26条の休業手当として平均賃金の60%以上が必要です(※2026年9月時点)。暑さを理由にしただけで、自動的に無給にも、一律6割にもなりません。 通常賃金の支払義務や自社の賃金規程も含めて確認します。平均賃金は、契約上の日当をそのまま指す言葉ではありません。

不可抗力かどうかを含む一般的な考え方は雨天休業と休業手当へ。暑さの実測、止めた作業、代替作業を検討した結果、待機や帰宅の指示を記録し、個別の賃金判断につなげます。安全のための中止を先に行えるよう、賃金の扱いは夏前に整理しておきましょう。職人も「止めたら日当がどうなるか」を分かったうえで、体調を伝えやすくなります。

就業規則にはどう書き、来年の夏までに何をそろえますか?

9月の工程表と出勤簿を机に並べ、今年の暑さで困った箇所に印を付けます。そこから、会社共通の約束は就業規則・安全衛生規程へ、現場ごとに変わる担当者や搬送先は別紙の手順書へ分けると、更新しやすくなります。

以下は**本記事で作成した規定例(条文イメージ)**です。公的なモデル条文ではありません。自社の勤務・賃金規程、現場体制に合わせた調整が必要です。

規定例(報告と対応) 会社は、熱中症のおそれのある作業について報告体制および対応手順をあらかじめ整え、対象となる作業者へ周知する。従業員は、自ら不調を感じた場合または他の作業者の異常に気づいた場合、直ちに所定の報告先へ知らせる。会社は、作業からの離脱、身体の冷却、必要な医療機関への搬送等を行える体制を確保し、現場ごとの手順に緊急連絡先および搬送先の所在地・連絡先を定める。

規定例(作業中断時の記録と賃金) 会社は、暑熱による作業中断について、開始・終了時刻、理由および待機・休憩・休業の実態を記録する。会社の指揮命令下での待機は労働時間として扱う。休憩中の手当および休業時の賃金の取扱いは、法令および賃金規程に従う。

この例を入れるだけでは、休憩中に手当を払うかどうかは決まりません。賃金規程側の内容も具体化し、従業員へ説明する必要があります。現場の別紙には、担当と代理、連絡方法、冷却場所、搬送先、報告から救護までの流れを記載します。

  • この秋:今年困った場面と、報告が遅れた理由を職長・職人から聞く。
  • 冬の間:夏の勤務パターン、休憩・待機・休業の賃金処理、元請へ確認する項目をそろえる。
  • 暑くなる前:測定器と冷却設備を点検し、担当者・搬送先を更新して、作業者に手順を伝える。
  • 新しい現場に入る前:共通手順が自社の職人にも届いているか、現場の設備で実行できるか確認する。

中峯社労士事務所では、建設業の就業規則作成と改定を顧問の基本料金内で行っています。Zoom30分の無料相談で、今の就業規則と今年の勤務の実態をもとに、自社の場合を一緒に整理できます。来夏の朝礼で、社長が「水はある。具合が悪ければここへ知らせて、まず作業を離れて」と具体的に伝えられる準備を進めましょう。最新の制度や金額は、必ず公式サイトでご確認ください。

参考(一次情報)

よくあるご質問

対象作業を行うなら、7人の会社でも報告体制の整備と対応手順の作成・周知が必要です。会社の人数ではなく、暑さと作業時間の条件で確認します(※2026年9月時点)。
それだけでは報告体制と対応手順の整備・周知を満たしません。本人や周囲が不調に気づいたときの連絡先と、作業離脱・冷却・医療機関への搬送などの流れも決めます。
いいえ。熱中症が疑われるときは、WBGT値や作業時間にかかわらず適切な対応が必要です。28度は義務の対象となる暑さの条件で、安全を保証する境界ではありません(※2026年9月時点)。
朝礼だけで伝わらない人には、入場時の説明、手順書の配布、見やすい場所への掲示などを組み合わせます。同じ場所で対象作業をする一人親方なども、周知の対象に含まれます。
労使で話し合い、休憩に対する手当を設けることは可能です。ただし、すぐに作業へ戻るよう待機させる時間は労働時間として扱い、名称だけで休憩にはできません(※2026年9月時点)。
社会保険労務士 中峯崇文

この記事の執筆・監修:中峯 崇文(社会保険労務士)

中峯社労士事務所 代表|社会保険労務士 登録番号 第27110112号採用定着士

建設業に特化した社会保険労務士として、残業対応や一人親方の移行など、現場の労務を毎月扱っています。外国人雇用では自ら監理団体を立ち上げて運営し、採用定着士として採用と定着の設計まで踏み込みます。

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