2026年10月カスハラ対策義務化|建設業のハラスメント規程の作り方
カスハラ防止措置は2026年10月1日から、規模を問わず事業主の義務になります。建設業でも、方針と対処内容の周知、相談体制、事実確認と被害者への配慮、再発防止、悪質な言動への対応、プライバシー保護等が必要です。就業規則への記載に加え、職人が一人で苦情を抱えない引継ぎ手順まで整えます(※2026年9月時点)。
→ 自社の場合はどうなる? Zoom30分・無料相談で個別に整理できます従業員8人のリフォーム会社。夜、若い職人の携帯がまた鳴ります。施主から「やり直せ」「値引きしろ」と怒鳴られ、電話を切っても翌晩また同じ話。朝の積み込みで、その職人が社長に「もう、あの現場へ行きたくないです」と言いました。一方、現場では職長の怒鳴り声が日常になっている。外からも中からも責められる職人に、社長は何をしてあげればよいのか——小さな建設会社を想定した場面です。
カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)防止の措置義務は、2026年10月1日から始まります。 従業員8人の会社も対象です(※2026年9月時点)。施行前に整えるのは、会社の方針、相談先、現場から会社へ引き継ぐ手順、悪質な言動への対処です。この記事では、苦情との境界から、現場のパワハラも含めた規定例まで、自社で動かせる形に落とし込みます。
カスハラ対策はいつから義務になり、小さな建設会社は何をすればよいですか?
「うちは人事部なんてない」。社長自身が現場に出る会社でも、今回の義務は関係します。業種や規模を問わず、労働者を雇う事業主が対象です。厚生労働省の法改正の案内で、2026年10月1日の施行が案内されています(※2026年9月時点)。
「措置義務」とは、被害を本人の我慢に任せず、会社が予防・相談・発生後の対応を整える義務です。厚労省の詳細版リーフレットの項目に沿うと、準備すべきことは次のように整理できます。右欄は小規模会社での実装例です。
| 求められる措置 | 自社で決めることの例 |
|---|---|
| 方針と対処内容を明らかにし、従業員へ伝える | 職人を守る方針と、施主対応を社長へ交代する場面を朝礼で説明する |
| 相談体制を整える | 相談担当者と連絡方法を決め、担当者にも聞き取り方を教える |
| 事実確認、被害者への配慮、再発防止を行う | 通話等の経緯を確認し、担当変更や連絡方法の見直しを行う |
| 特に悪質なカスハラを抑止する体制を整える | 脅しや暴力などの場合に、誰が警察・弁護士へつなぐか決める |
| プライバシーを守り、相談等を理由に不利益に扱わない | 情報を見る人を絞り、相談した職人を責めないことを伝える |
担当者の名前だけを掲示しても、その人が現場に出ていて連絡がつかなければ相談は止まります。不在時の引継ぎまで決めておくと、社長が帰社して初めて深刻な話を知る状態を減らせます。
施主・近隣住民・元請からの苦情は、どこからカスハラになりますか?
施主が「仕上がりが図面と違う」と指摘する。近隣の方が「ほこりが洗濯物についた」と説明を求める。こうした申入れを、面倒だからとカスハラ扱いすることはできません。
カスハラは、職場での顧客等の言動について、業務の性質などの事情に照らして社会的に許される範囲を超え、働く環境に看過できない支障を生じさせるものです。相手が顧客等であること、言動がその範囲を超えること、就業環境が害されることの3要素を合わせて判断します。電話やSNSでの言動も対象です。
建設業では、次のように「求めている内容」と「求め方」を分けると整理しやすくなります。以下は判断を考えるための例で、個別の行為を一律に認定するものではありません。
| 相手 | まず確認すべき申入れ | 会社が介入すべき言動の例 |
|---|---|---|
| 施主 | 契約・図面と違う施工の補修を求める | 職人個人に毎晩電話し、人格を否定しながら際限なく責める |
| 近隣住民 | 騒音・粉じん・車両の出入りについて改善を求める | 工事と無関係な金銭を要求し、職人を脅す |
| 元請や取引先の担当者 | 工程の遅れや施工不良について説明を求める | 土下座を迫る、工具を投げつける、執拗に侮辱する |
自社に施工上の不備があっても、暴言まで受け続けてよいことにはなりません。逆に、強い口調だったというだけで工事の確認を打ち切るのも早計です。経緯、内容、頻度、長さ、職人への影響を見ます。障害を理由とする差別をやめてほしいという申入れや、必要な配慮を求める意思表示自体も、カスハラには当たりません。判断の基本は厚労省のカスハラ防止指針に示されています。
社長が「施工の確認はこちらで進める。電話対応も会社で引き取る」と分けて動けば、職人に修繕の判断と苦情対応の両方を背負わせずに済みます。
職人を一人で対応させないために、どんな手順と記録を用意すればよいですか?
翌晩も同じ施主から電話が来たとき、職人が使える言葉を先に用意します。たとえば「ご指摘は会社に引き継ぎます。工事の確認と今後のご連絡は担当者からお伝えします」。その後、本当に会社が引き取るところまでが手順です。
小さな会社なら、まず次の流れを1枚にまとめてみてください。これは現場で使うための運用例です。
- 安全を確保する。 暴力や脅しがある場面で、職人に説明を続けさせない。危険が迫る場合は退避し、警察への通報を優先する。
- 社長または代わりの担当者へ報告する。 「カスハラと断定できないと報告できない」という入口にしない。
- 会社へ対応を引き継ぐ。 訪問は可能な限り複数人にし、説明する人と記録する人を分ける。職人個人の携帯へ連絡が集中しているなら、会社の窓口へ変更を案内する。
- 工事と要求の内容を確認する。 見積書、契約内容、施工写真、これまでの回答をそろえ、できる対応とできない対応を整理する。
- その後の対応と職人への配慮を決める。 担当変更などを本人と話し合い、相談を理由に不利益に扱わない。後日、同じことが続いていないか確認する。
記録のひな形には「日時・場所/相手/実際に言われた言葉/要求内容/同席者/会社の回答/職人への影響/次の対応」を並べます。「ひどい客だった」という感想だけでは、次の担当者が状況をつかめません。録音等を使う場合も、保管先と閲覧できる人を決め、個人情報を適切に扱います。
十分に説明しても執拗な要求が続く場合の通話終了や、悪質な場合の専門家への相談も、事前に判断役を決めます。ただし、電話を切ることと工事契約を解除することは別です。契約解除や相手との紛争交渉が必要なら弁護士へ相談します。
これなら、翌朝の社長は職人から同じ話を最初から聞き直さず、記録を見て「今日は誰が、何を答えるか」を決められます。
現場の厳しい指導は、どこまでならパワハラになりませんか?
足場の危険な場所へ入ろうとした若手に、職長が「止まれ!」と声を張る。危険が去った後も、皆の前で「お前は使えない」と責め続ける。この二つを同じ「厳しい指導」で片づけないことが大切です。
パワハラ防止措置は、中小企業でも2022年4月1日から義務になっています(※2026年9月時点)。判断は、①相手が抵抗しにくい関係を背景に、②業務上必要で相当な範囲を超える言動があり、③就業環境が害される、という3要素で行います。適正な業務指示や指導はパワハラに該当しません(厚労省のパワハラ防止指針)。
「声を大きくしたら全部だめ」「安全のためと言えば何でもよい」という線引きではありません。次のように、行動を直す伝え方へそろえます。
| 現場の場面 | 指導の組み立て方の例 | 避けるべき言動の例 |
|---|---|---|
| 危険な作業を止める | まず停止させ、安全な場所で危険箇所と正しい手順を説明する | 危険が去っても怒鳴り続け、人格を否定する |
| 同じ施工ミスが続く | 間違った箇所を一緒に確認し、次の作業で確認する点を決める | 皆の前で長く侮辱し、本人を笑いものにする |
| 見習いに作業を任せる | 経験に合う作業から始め、確認役をつける | 教えていない作業を無理に任せ、失敗すると罵倒する |
この表も一律の適法・違法判定ではありません。社長は「何を直す必要があったか」「どんな言葉を、どのくらい続けたか」「次にできる手順を伝えたか」を本人と職長の双方から確認します。怒鳴り声だけでなく、仲間外しや仕事を与えない扱いにも目を向けてください。
安全な作業手順と就業規則をそろえる考え方は、安全配慮義務と就業規則で詳しく扱っています。指導の形が決まれば、職長も叱り方に迷いにくくなり、社長は毎回の仲裁に追われる状態を減らせます。
セクハラも含め、就業規則のハラスメント規程にはどう書けばよいですか?
古い就業規則を開いたら、「職場の秩序を乱してはならない」としか書いていない。その場合は、禁止行為、相談後の対応、懲戒事由(処分の対象となる行為)のつながりを確認します。
次は**規定例(条文イメージ)**です。法令の引用や完成版ではありません。実際にはハラスメントの定義・具体例を定め、既存の懲戒規定、担当者、社内の手続きに合わせて調整してください。
規定例1:禁止行為と懲戒事由 従業員は、職場において、パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントを行ってはならない。また、取引先の労働者に対するカスタマーハラスメント、求職者等に対するセクシュアルハラスメントを行ってはならない。これらに違反した場合は、事実確認の上、行為の内容・程度等に応じ、就業規則の懲戒規定に基づき対処する。
セクハラは、現場の性的な冗談や望まない身体への接触なども点検対象です。休憩中だから、悪気がないからという理由で放置せず、社長と職長にも禁止行為を共有します。求職者等へのセクハラ防止措置も2026年10月1日から義務になるため、採用面接や見学を受け付ける会社は、採用担当者への周知と応募者が使える相談先も準備します(※2026年9月時点)。
取引先の労働者へのカスハラ禁止方針は、厚労省のリーフレットで望ましい取組として示されています。自社が元請側に立つ現場でも、協力会社の職人を同じ姿勢で扱うための規定です。
規定例2:相談と被害への対応 会社は、顧客等からのカスタマーハラスメントに対し、従業員を保護する方針のもとで対応する。ハラスメントの相談先と連絡方法は別途周知し、該当性が明らかでない段階も相談を受ける。会社は関係者のプライバシーに配慮して事実を確認し、必要な保護措置と再発防止措置を講じる。相談や事実確認への協力を理由に不利益な取扱いをしない。
施主や元請担当者を、自社の就業規則で懲戒処分することはできません。社内の禁止・処分の規定と、社外の相手から職人を守る対応手順を両方用意します。懲戒の種類や重さ、進め方の一般論は、建設業の懲戒規定の整え方をご覧ください。
規定と相談先をセットで渡すことで、社長が不在の日も「これは会社に話してよい」と職人が判断できるようになります。
社内に相談窓口を置けない会社は、どうすればよいですか?
相談担当が社長だけなのに、相談したい相手も社長。あるいは担当の事務員が職長の家族で、話がすぐ現場へ伝わりそう。この状態では、「何でも言って」と声をかけるだけでは相談しにくいままです。
カスハラの相談対応は、外部機関への委託も指針に示されています。社内に適任者がいなければ、ハラスメント相談に対応する外部窓口へ委託する方法があります。ほかのハラスメントも受けられるか、会社の調査・対応へどう引き継ぐかまで、契約前に確かめます。
小規模会社で用意したいのは、次の区別です。
- 現場で今すぐ助けが必要な連絡先:社長と、不在時に動ける代わりの担当者。
- 社長や職長に直接言いにくい相談先:本人が直接連絡できる外部窓口など。
- 解決に向けて判断する人:相談対象者だけに判断を任せず、関係のない担当者や専門家の関与を決めておく。
外部へ委託しても、職人の配置や相手への回答を会社が決める役割は残ります。受付時間、緊急時の連絡、誰にどこまで情報が伝わるかを説明し、「誰にも伝わらない」と安易に約束しないことも大切です。
顧問社労士がいる会社も、従業員からの直接相談の受付まで契約に含むか確認してください。社長も「自分が全部聞く」負担を分けながら、必要な対応を止めずに進められます。
10月1日までに、何から点検すればよいですか?
朝礼で「今日から苦情は会社へ引き継いでいい」と伝えるなら、その場で職人が連絡先を確認できる状態まで用意します。施行前の点検には、次のチェックリストを使ってください。
- 方針、カスハラの具体例、現場での対処を全員へ説明した
- 相談先と不在時の連絡先が決まり、担当者も対応方法を理解している
- 一人で対応を続けさせず、会社へ引き継ぐ手順がある
- 記録の様式、保管先、閲覧できる人を決めた
- 悪質な言動への対処と、警察・弁護士へつなぐ判断役を決めた
- 相談後の保護、プライバシー、不利益取扱いの禁止を周知した
- 社内の指導、セクハラ等の禁止、懲戒規定も確認した
作ったら、「社長が別の現場にいるとき、施主から職人へ怒鳴る電話が来た」という想定で、連絡がつながるか試してみます。紙の上では埋まっていても、代わりの担当者が知らなければ、そこで止まるからです。
職人が安心して相談できる土台と、休日や手当が分かる仕組みを一緒に整えたい場合は、職人の定着につながる就業規則も参考になります。
中峯社労士事務所では、建設業の就業規則作成・改定を顧問の基本料金内で行っています。Zoom30分の無料相談で、今ある規則と自社の現場を照らし合わせ、どこから整えるかを一緒に整理できます。若い職人が「行きたくない」と言ってから慌てる前に、会社が引き取る仕事を決めておきましょう。最新の制度や金額は、必ず公式サイトでご確認ください。
参考(一次情報)
- 令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00003.html
- カスハラ・求職者等セクハラ対策義務化リーフレット〈詳細版〉(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/content/001662630.pdf
- カスタマーハラスメント防止指針(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/content/001662625.pdf
- 職場におけるハラスメントの防止のために(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html
- パワーハラスメント防止指針(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605661.pdf
よくあるご質問
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